1 / 27
ヤッた後で何言ってんだおまえ。
しおりを挟む「ああッ……! だめ、イッちゃ、だめッ、だめッ……! あああっ!!」
「くッ、私もッ、このまま中に……ッ、うッ!」
誰もが憧れる相手、誰もが憧れる結婚式、誰もが憧れる初夜に、なるはずだった──。
互いの昂りが頂点まで登りつめ、ほぼ同時に弾けたあと、次期侯爵である旦那様は言った。
「はっ、っは……はぁ……エマ……初夜も終わったから話そう……申し訳ないが、君のことは愛せないんだ」
「え……?」
「私には恋人が居る」
「えっ、ど、どういうことですか? だって、私たち結婚して……」
「だけど君とは親同士が決めた結婚だろう? 婚約の期間なんてほぼ無いに等しい結婚だった。結婚の意味なんてどうせうちの領地に優先的に食材を回して欲しいからだろう。すまない、私は別の女性を愛しているんだよ。本当なら君と結婚なんてしたくなかった」
「は、」
「日々の生活も恋人と共に過ごすから君は自由にしていて。そう執事にも伝えてあるから。……この屋敷も、本来なら……。あ、そうは言ったって後継ぎはつくらなければならないからね、たまに帰ってくるよ」
「え? え? あの待って、意味が」
「じゃあ、用事も済んだし私は行くよ」
「そ! そんな! 待って、旦那様! 待って!」
「すまないエマ」
「待って下さい旦那様! ジョセフ様……っ!」
振り返りもせず、閉じられた寝室のドア。
去ってゆく足音が消え、暫くして馬車を走らす音が聞こえた。静寂に包まれた屋敷──。
呆気に取られた私のタマシイが身体に戻ってくると、はっと我に返る。
(おいおい待てっつってんだろうがよクソボケがぁ!! てめぇが汚したこの股どうしてくれんだよォ! オイィイイ!)
「ハッ! いけないけない私ったら!」
つい心の中に留めておくべきキャラクターが出て来てしまった。
辺境の漁師町で育った歴史だけは古い伯爵家の娘は捨てて、首都に住む侯爵家の妻が考える思考はもっと淑やかじゃないといけないのよ。
「ごほん」
(ッ酷いわジョセフ様……! 私の人生を捧げたっていうのに……っ! それなのになあに!? 恋人が居るですって!? はぁああぁあ!? こっちだっててめぇとの結婚話がなかったら村一番のイケメン漁師を婿に貰ってたわボケェええ!!)
「ハッ! やだ私ったらまたっ!」
こんなんじゃあいつまで経っても都会には馴染めないではないか。今後は出たくもない夜会や茶会だってあるのに。
とはいえ、首都から山を越え峠を越え湖を通り過ぎ川を渡り、岬の先っちょの大海原を望む港町の伯爵令嬢なんて、だいたいの性格ぐらい想像出来ると思う。漁師町ってだけで荒っぽいイメージだし。まぁその通りなんだけれど。
都会の紳士淑女に自慢するとすればこの太陽に輝く赤毛とお祖父様譲りのエメラルドグリーンの瞳かしら。
夫のジョセフ様は、ブラウングレーの柔らかそうな髪に、涼しげなダークブルーの瞳。すっと通った鼻筋にかたちの良い薄い唇。背も高くて、仕事もきちんとこなして、落ち着いた声でエスコートする様はまさに紳士。
とても不倫なんぞする人には見えない。見えないのに。
ま、そんな辺鄙な場所の令嬢だからこそ堂々と不倫宣言して放っといてもオーケーだと勝手な判断を下されるんだろうけど。失礼ね。私にも意見というものがありますが。
どうせあれこれ怒ったって旦那様は出て行ってしまわれたのだから開き直って今日はもう寝たほうが良いのでは。
(その前に汚された部分だけ拭いましょう……)
はあ、と深く溜息をついたわりには深く深く眠りに就いたのだった。
28
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
聖女じゃない私の奇跡
あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。
だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。
「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる