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ヤッた後で何言ってんだおまえ。

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「ああッ……! だめ、イッちゃ、だめッ、だめッ……! あああっ!!」
「くッ、私もッ、このまま中に……ッ、うッ!」


 誰もが憧れる相手、誰もが憧れる結婚式、誰もが憧れる初夜に、なるはずだった──。
 互いの昂りが頂点まで登りつめ、ほぼ同時に弾けたあと、次期侯爵である旦那様は言った。

「はっ、っは……はぁ……エマ……初夜も終わったから話そう……申し訳ないが、君のことは愛せないんだ」
「え……?」
「私には恋人が居る」
「えっ、ど、どういうことですか? だって、私たち結婚して……」
「だけど君とは親同士が決めた結婚だろう? 婚約の期間なんてほぼ無いに等しい結婚だった。結婚の意味なんてどうせうちの領地に優先的に食材を回して欲しいからだろう。すまない、私は別の女性を愛しているんだよ。本当なら君と結婚なんてしたくなかった」
「は、」
「日々の生活も恋人と共に過ごすから君は自由にしていて。そう執事にも伝えてあるから。……この屋敷も、本来なら……。あ、そうは言ったって後継ぎはつくらなければならないからね、たまに帰ってくるよ」
「え? え? あの待って、意味が」
「じゃあ、用事も済んだし私は行くよ」
「そ! そんな! 待って、旦那様! 待って!」
「すまないエマ」
「待って下さい旦那様! ジョセフ様……っ!」

 振り返りもせず、閉じられた寝室のドア。
 去ってゆく足音が消え、暫くして馬車を走らす音が聞こえた。静寂に包まれた屋敷──。
 呆気に取られた私のタマシイが身体に戻ってくると、はっと我に返る。
(おいおい待てっつってんだろうがよクソボケがぁ!! てめぇが汚したこの股どうしてくれんだよォ! オイィイイ!)

「ハッ! いけないけない私ったら!」

 つい心の中に留めておくべきキャラクターが出て来てしまった。
 辺境の漁師町で育った歴史だけは古い伯爵家の娘は捨てて、首都に住む侯爵家の妻が考える思考はもっと淑やかじゃないといけないのよ。

「ごほん」

(ッ酷いわジョセフ様……! 私の人生を捧げたっていうのに……っ! それなのになあに!? 恋人が居るですって!? はぁああぁあ!? こっちだっててめぇとの結婚話がなかったら村一番のイケメン漁師を婿に貰ってたわボケェええ!!)

「ハッ! やだ私ったらまたっ!」

 こんなんじゃあいつまで経っても都会には馴染めないではないか。今後は出たくもない夜会や茶会だってあるのに。
 とはいえ、首都から山を越え峠を越え湖を通り過ぎ川を渡り、岬の先っちょの大海原を望む港町の伯爵令嬢なんて、だいたいの性格ぐらい想像出来ると思う。漁師町ってだけで荒っぽいイメージだし。まぁその通りなんだけれど。
 都会の紳士淑女に自慢するとすればこの太陽に輝く赤毛とお祖父様譲りのエメラルドグリーンの瞳かしら。

 夫のジョセフ様は、ブラウングレーの柔らかそうな髪に、涼しげなダークブルーの瞳。すっと通った鼻筋にかたちの良い薄い唇。背も高くて、仕事もきちんとこなして、落ち着いた声でエスコートする様はまさに紳士。
 とても不倫なんぞする人には見えない。見えないのに。

 ま、そんな辺鄙な場所の令嬢だからこそ堂々と不倫宣言して放っといてもオーケーだと勝手な判断を下されるんだろうけど。失礼ね。私にも意見というものがありますが。
 どうせあれこれ怒ったって旦那様は出て行ってしまわれたのだから開き直って今日はもう寝たほうが良いのでは。
(その前に汚された部分だけ拭いましょう……)

 はあ、と深く溜息をついたわりには深く深く眠りに就いたのだった。
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