イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
6 / 87
いぬまみれ編

妖精の贈り物

しおりを挟む

 さて、本日からアオイが正式にお邪魔することとなった、狼森おいのもり邸。
 昨日とはうって変わり、御邸おやしき全体に明かりが灯されている。
 どうやら二階が危ないと言うのは本気の危ないだったらしく、手すりと階段の一部が修繕中で取り払われていた。
 確かに暗がりで上がると足を踏み外してしまうなと、階段を壁伝いに登りながら考える。
 今はが通れるようにしっかりと囲いがしてあり落ちる心配はない。

 そして、アオイが案内された二階の南側の部屋。
 此処が淑女レディに相応しい部屋のようだ。
 まだ完全には準備出来ていないので申し訳ないですがと、アンは心配そうにその扉を開いた。

 お邸全体を造る深い木の色は変わりないが、清潔な白と、アオイの瞳の色に合わせてくれたのか、鶯色に部屋全体は纏められている。
 それからアクセントになっている鮮やかな黄色。
 これはアオイの名前からだろう。
 森の中に居るような落ち着きのあるナチュラルなイメージと、イエローのアクセントが効いて若々しさもある。
(なんとも私好み。出来る使用犬っ……!)

 時間とは早いもので、もう一日の終わり。
 良い子は寝静まる時間帯。
 アオイは艶のあるチークのドレッサーで手紙を書いていた。
 相手は愛する家族。
 アオイの家族について語るにはまだ早いだろう。

 人とは恐ろしい生き物で、自分のことをペラペラと喋り他人に知らない間に利用されていたりする。
 アオイが狼森家に来るまでも、短いながら色んな人がいた。
 余計なことを喋ってしまうと面倒な事に巻き込まれるのだと学んだのだ。
(ううん……まぁ……そもそも両親に言うことを止められていたんだけど……。約束破った私が悪いんです。はい。自業自得です)

 色々と言えない事も思い出しながら、ここ何日かの出来事を手紙にしたためていると、いつの間にか夜も更けってしまっていた。
 仕方無い、だって色々ありすぎたのだから。
 しばしばする目を擦って、ようやく纏まった五頁程の手紙を最後にチェックして、「ふう」と一息。
 家族の顔を思い出し、「ではお届けお願い致します」と、アオイは持っているポシェットに手紙を入れた。
 そうすれば家族の所まで瞬時に届けられるのだ。
 仕組みはアオイ自身もよく分かっていない。
 何故ならばアオイが家を出る際に貰った、妖精達からの贈り物だからだ。
 何処かの国では〈レアアイテム〉と言うらしい。
 なので仕組みは分からない、と言うか妖精達自身も分からないだろう。
 そもそもそんな事気にしてない。

 「なんでも入るよ~」と言われて貰ったこのポシェット。
 驚く事に、本当に何でも入る。
 ベッドやキッチン何でも。
 「違う世界の青狸ももってるの~」と言っていたけど、アオイには全く意味が分からなかった。
 まぁ、妖精達の言う事だから大体意味は無い。
 幸いアオイは妖精達に気に入られていたので戴いたのだ。
 ポシェットに入っている生活必需品も、妖精達が何処からか持ってきてくれたもの。
 勿論盗んだりなどしていない。
 
 手紙も送ったしさぁ寝るかと思った矢先、また遠吠えが聞こえた。
 やはり夢でなかった。


「はっはーん」


 昨晩の遠吠えの正体は邸の主、怜らしい。
 邸に轟いた声と一緒だ。
 二、三度遠吠えして満足したのか、また夜の静寂が辺りを包む。
 一体誰に訴えた遠吠えなのだろう。
 真意は分からないが、遠吠えする姿を想像すると涎が出てしまう。
 機会があれば一緒に遠吠えてみたいな、なんて考えながら、アオイはうとうと。
 それからぐっすりと、深い深い眠りに就いた。




 ──「んーーーっ、よく寝た」


 空は晴天、突き抜ける青、真夏の太陽。
 気持ちの良い朝、しかし部屋は凍える寒さなのだから不思議だ。
 こんな日は存分にもふもふしてやろうと思ったのだが、怜は仕事らしい。
 獣人ではなくどこからどう見ても犬が仕事だなんて、世界広しと言えど初めて聞く話だ。
 そもそもこんな立派な御邸に住み、食事や身の回りの世話を、まるで人のように・・・・・やってのけるなんて。


「よほど長生きしているわんこなのね……」

「何か仰いましたか?」
「いえっ! 何でもないです!」
「そうですか? 何か御座いましたら遠慮なく仰ってくださいませね?」
「はいっ!」


 朝食中のアオイがボソッと呟くもんだから、ステラが心配そうに顔を覗きこむ。
 様子を伺うオーストラリアンシェパードもなんて可愛いのだろう。
 朝食を食べ終えたアオイは自室に戻る最中、仕事は何をしているのかそれとなくコニーに聞いてみたが、「申し訳ありません。私からお教えすることは出来ません」と言われてしまった。
 まぁ主の事を先日出会ったばかりの部外者になど教える訳がない。
 部屋に戻るとメイド達はどこから運んでくるのか、クローゼットにドレスやシューズ、ジュエリーなどを、綺麗に並べている。
 背中に乗せていたり、口に咥えたり 、はたまた台車を押したり、サーカスでも観に来た気分だ。


「え、あの、私、洋服なら十分足りてますよ、こんな高価そうなジュエリー……私には勿体ないんじゃ……」
「いえいえ。若いお嬢様が来られたのは久しぶりですからね、ずっと眠ってあった洋服達も誰かに着られたいでしょうからアオイ様はお気になさらず!」
「そうですよ! それに私達だってたまには犬の毛づくろいより人を着飾らせたいですから」
「アンとステラの言う通りですよ本当に! 毛皮にはうんざりです!」
「そ、そう……? まぁ、それなら構わないけれど……」


 犬に囲まれるアオイにメイド長のコニーは微笑ましく見つめ、切り替えるようにワンワンと鳴いた。


「さぁさ! お仕事ですよ! ステラは洋服を仕舞って、シェーンはジュエリーを磨いて頂戴、アンはアオイ様に邸の案内を!」
「「「畏まりました!」」」


 こんな不思議な邸の案内なんてまるで冒険だとアオイは心躍らせ、アンの後を付いていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...