10 / 87
いぬまみれ編
冬の庭の美声なロットワイラー
しおりを挟む「はーーっ。息が白い! 流石冬の庭ね。とっても寒い!」
ひみつのポシェットから出した、コートと冬用ブーツが役に立っている。
それ程までに寒いのだ。
正に真冬。
明らかにポシェットには入らない物を取り出したので、アンには「何ですかソレ!?」と驚かれたが、そこは素直に旅の途中で妖精から貰ったと言ったら信じてくれたようだ。
妖精自体は国によって身近な存在なので、たとえ理解出来なくても信じざるを得ない。
例えばこの御邸のように。
「さて、ローラは何処に居るかしら?」
──「なぁに? 呼んだ?」
美しい透き通るような声。
鬼塚の声を聞いた後だから余計だろうか。
垣根の奥から出てきたロットワイラーのローラは、また見た目に似合わず。
筋肉質なボディーと大きさは、それだけで人を威嚇できるだろう。
しかし優しい瞳だ。
寒いのか毛糸の洋服と、足には靴下を履いている。
「今アオイ様に御邸を案内してて、最後がこの庭なのよ。一緒に御案内お願いしてもいい?」
「えぇ勿論。よろしくね、アオイ様。と言っても冬の庭には椿と節分草しか咲いてないのだけれど」
「こちらこそお願いします。二種類なんですか? なんだか意外だったわ」
「冬の花は限られてますからね。でもローラが丹精込めて作り上げた椿の垣根は本当に美しいんですのよ!」
「へぇ、それは楽しみね!」
「鬼塚はうるさかったでしょう?」
「んもう、その通りよ! 鬼塚ったら調子に乗っちゃって」
なんて女子らしい会話をしながら見えてきたのは、向日葵畑とはまた違う美しさ。
大きな円を描き、紅い椿の垣根が美しく何重にも重なっている。
その中心には雪が積もっているが、どうやら東屋のようだ。
アオイ達はその東屋へ向かう。
「この垣根、カーブを描いてるのね、しかもそれぞれ高さまで綺麗に変えてある……」
「これはですね! 上から見ると大きな椿になっているんですの!」
「ちょっと、アンったら……」
「あぁ! なるほど! この視点からでは真の姿は見えないのね!」
「そうなんですの! 階段の踊り場の窓から見えるので、今度ご覧になってくださいな、まるで絵画が飾っているかの様な美しさなんですのよ!」
「何であなたが自慢するのよ」
すらすらと先程の鬼塚のように説明するアン。
そして隣には困った顔で笑うローラ。
「だってローラは全然自慢しないじゃない! 言いたくて仕方ないんだもの!」
「あらあら。気付くまでの時間と気付いたときの瞬間も美しさのひとつよ」
「そ、そうなの……?」
「面白い。同じ庭師でも鬼塚とは全く別のタイプなのね?」
「そうで御座いましょう? ローラってとても凛としていて尊敬できる女性ですの!」
「全く、アンったらもう……恥ずかしいから」
「本当なんだからね!?」
東屋に到着した一人と二頭は、仲良く一緒に茶を啜る。
しんしんと降る雪と温かい緑茶、隣にはもふもふの犬ともこもこの犬。
非常に和む絵だ。
東屋の周りには節分草が椿を引き立てるようにひっそりと植えられている。
そう言えば椿と節分草の花言葉はなんだろう。
先程まで散々語られていたので気になってしまい聞いてみるが、うーんと考えたあとに「何だったかしら」と、ローラ。
「私は特に意味なんて気にしないので。美しいものはどんな意味でも美しいですもの」
「さっすがローラね! 小うるさい鬼塚とは違うわ!」
「そんな事。ちゃんと想いが込められているものはなんだって美しいと思うわ。だって鬼塚の庭ってとっても美しかったでしょう?」
アンが褒める意味がよく分かる。
ローラは格好良い犬だ。
勿論見た目もそうだが、ハッキリと自分の意見を述べ、自分と違う考えを悪だとは言わない、その心が格好良い。
「アオイ様。因みに花言葉は、椿が謙虚な美徳、節分草が 微笑み・人間嫌い・拒絶です」
「あらよく知ってるわね」
「鬼塚が五月蝿いから覚えちゃったわ」
「全く仲が良いんだから」
「良くないってば!」
ふんすと鼻を鳴らすアンだが、何だか満更でもないような。
思わずにやつくアオイは、いけないいけないと手の甲をつねった。
きっとまだ、アオイや周りの犬達がとやかく言う事ではないのだろう。
(だってこんなにも分かりやすい態度なのに、ローラは黙って見つめているだけなんだもの)
単純に見守っているのか、はたまた楽しんでいるのか。
暫く話にも花を咲かせていると、どうやら怜が仕事から帰ってきたようで、垣根越しにピンと立った耳が見えた。
「あっ!」
アオイは話してた内容の続きなんて何処かに吹っ飛ばして、勢いよく立ち上がり怜の元へと駆け出した。
愛しき我がもふもふ。
嗚呼、素晴らしき哉、もふもふよ。
「あら? もうそんな感じなの?」
「えぇ、そうなの! 恐がりもせず私達にも好意的でそれに素直で可愛らしい御方だし、でも、その……」
「その?」
「まぁ、その~……犬が……大変お好きなようで……」
「あぁそういう事……。理解したわ」
「旦那様の事もただの大きなわんこだと……。あ、喋れる大きなわんこね」
「有り難いといえばそうよね。第一印象はバッチリじゃない?」
「ううん……、そうね。言い方次第よね。さすがローラだわ」
「……正直言うと、元に戻れるなら、多くは望まないわ」
「そう、ね……」と、オーストラリアンシェパードはローラの言葉に同意したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる