イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

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いぬまみれ編

意外と見つかるものでした。

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「と言うわけなのですよ……って、聞いてる?」


 本邸からの帰り道、大きな犬の背中に揺られ、事の経緯いきさつを早速怜に話しているアオイ。
 だが、怜は見るからに面倒な顔をしている。


「あぁ、聞いているよ……しかし何故、あの男の、娘の犬を、私が探さなくてはならんのだ」
「ふたりの出逢いに罪は無いわ。私達だってそうでしょう?」
「……ったく。で? どうやって探す気だ?」
「えーーっと、まぁ……妖精たちの力を借りて……ちょちょいっと、ね」


 本当は別の探し方があるのだが、彼らはまだ知らぬ事実なので適当に誤魔化した。
 ただ嘘が下手なアオイである為、疑いの目を向けられる。


「な、なによ。そりゃ妖精たちは気分屋だけど、私のお願いなら聞いてくれるよ……? 気分によるけど……」
「……ふん、まぁ良い。そんな訳の分からない力使わずとも私がやる」
「え? どう言うこと?」
「少し黙っておけ」


 跨っていた背中から下ろされると、怜は大きく息を吸った。
 そして、「アオーーーーーーーーーン」と遠吠えを辺り一面に響かせるではないか。
 近くで聞くには大き過ぎる声に地面まで揺れている。
 ひと吠え終わるともうひと吠え。
 遠吠えする口元が愛しくて、アオイはよだれが出そうになる。
 ぐっと堪え、アオイも大きく息を吸った。


「あおーーーーーーーん」
「……何故アオイまでする」
「え? した方が良いかと思って」
「………………」


 ジト目が身震いするほど可愛いくて、ついに涎が出た。
 そんなアオイを見て、ステラとスバルもジト目。


「……好きにしろ。だが発音が違うぞ」
「えっ。発音……!?」
「アオーンの、の部分が全然違う。の発音は人間にしては中々だな」
「意外と厳しい……」


 なんとか発音を気にしながら遠吠えをしていると、ちらほら集まってくる野良のわんこ達。
 次第に数は多くなり、気付けば周りには二十頭程の犬が居る。
 何故こんな数の野良犬が居るのか。
 どうせ始まりは人間の身勝手な行為だろう。


「うおっふん。わん、わん、わんわん」


(わぁ、なんか犬語喋ってる!)
 集められた犬達に事情を話しているのだろう。
 流石にアオイには何と喋っているのかは解らないが、黙って聞いてみる。
 すると、怜が喋っている途中で犬達はザワザワとし始め、一頭の犬に注目が集まった。


「わん、わん……」


 何か答えたようだが解らないので、ステラやスバル、怜の顔を見る。
 教えてくれたのはステラだ。


「 "私です、栗鼠リスはかつての私" ……と仰っています」
「……あなたが栗鼠! 見つかった! こんなにも早く! でも……」


 聞いてた話とは随分と違う。
(だって、どう見ても……セントバーナード……)


「小さくて栗鼠みたいと言ってたから、てっきり……いや、そうね、あの時は小さかったのよね。でも、かつての私とは? どういう……」


 栗鼠はアオイの言葉をしっかり聞いて、また何か答えたようだ。
 やはり人間の言葉は理解しているらしい。
 次に教えてくれたのはスバルだった。


「 "もう捨てられるのは嫌だ。だから忘れる" だとよ。無理もねーぜ。可哀想に……」


 俯き悲しい顔をする栗鼠。
 決してアオイのせいではないけれど、この子に悲しい思いをさせたのは自分ではではないけれど、とても心が痛かった。


「アリス様は……ずっと栗鼠のことを探していたの。貴方に謝ってた。辛くて、痛い思いをさせてしまったねって。それと、すごく会いたがってる……」


 その言葉を聞き、栗鼠は俯いたまま何か言った。
 すると他の野良犬達も唸り声や悲しい声で吠え出す。


「 "私はこんなにも成長してしまった。人間は身勝手。今の私が欲しいわけ無い" 」
「 "可愛くなければ捨てるんだ" "役に立たなくても捨てる"  "世話が面倒でも捨てる" "飽きても捨てる" 」
「 "人間なんか嫌いだ" "俺達はモノじゃない" "私達だって生きている" 」
「そう……よね……、人間は身勝手。人間は醜い生き物……私だって……そんな人間、嫌いよ……」


 彼等の『言葉』を聞いて、アオイはどうすれば良いか分からなくなった。
 己自身は彼等をどうしたいのだろう。
 アリスに会わせてあげたいが、この子達はまた辛い思いをせねばならぬのか。
 人間が行う身勝手な支配、醜い虚栄心、思い通りに従わなければ叩く蹴る、言葉での暴力。 
 どれだけ外を着飾ろうが、中身は醜いままだ。


「でも、栗鼠を思うアリス様の気持ちは……本物だった。本物だったのよ……」
「……どうやら、来たようだぞ」
「え……? 誰が……?」



 ────ま!」


(ひとのこえ?)


 ──────ス様……!」



「アリス様! お待ち下さいッ……!」
「はぁっ、はぁっ……」

「アリス様!?」


 草木が踏まれる音と共に現れたのは、先程別れたばかりのアリスだった。
 結っていた髪を振乱し枯れ葉を飾り、ドレスには土が付着しており転んだことが分かる。


「アリス様ッ……! そんなお身体で走られては……!」
「やっぱり……遠吠えが、聴こえたからっ……はぁっ、はっ、何だか居るような、気がしてっ……」
「はぁっ、アリス様、全く…………まぁ、これは……? どういう、状況でしょうか……」


 取り囲む野良犬達を見てアリス御付きのメイドは呟くが、今のアリスには、その子達の存在が目に入らない。
 瞳に捉えるは唯一つ。


「あ、あぁ……、栗鼠ッ……!!」


 土汚れなんてどうだっていい。
 アリスは倒れかかるように、栗鼠を抱き締めた。


「もう、何処に、居たのよ……」
「わん……?」

「 "何で私だって分かったの?" と仰っております」


 ステラが通訳すると、アリスは少々驚いた顔で「言葉が……?」と栗鼠の顔を見るも、すぐにふわりと優しい笑みを浮かべてこう言った。


「何でって……、家族だからに決まってるじゃない……こんなにも大きくなって……」


(栗鼠も、泣いてる……?)
 見間違いかもしれないが、その瞳が、濡れているようだった。
 けれど、とても心地良さそうな表情をしている。


「さぁ、帰りましょう? 一緒に」


 立ち上がり、共に歩み出そうとするアリスとは反対に、付いて行くまいと動かぬ栗鼠。
 その意思表示に、言葉は無くともアリスは理解した。


「大丈夫。私ももうこんなに大きくなったわ。私、あなたを守るためなら何だってする。お父様は私が大事だもの。脅してやるわ! だから、ね? 一緒に、帰ろう?」


 ふわりと笑う彼女は最初の印象とは全く違う。
 パートナーの存在とは本当に心の支えなのだ。
 種族は違えど、友達であり、恋人であり、家族でもある。
 心が元気になれば、病気も少しは楽になるだろうか。


「ねぇ、メリー」
「はい。何でしょう」


 メリーとはアリスお付きのメイドの名前だ。
 アリスは他の野良犬達を指差して、「あの子達も、一緒には、無理かしら?」と問う。
 人の言葉を理解している彼等、野良犬達は、諦めた表情を浮かべていた。
 期待したってどうせまた捨てられるのだから。


「そうですね……、流石に全頭邸に入れるのは無理かと……、旦那様もそこまで許すとは、思いませんし……」
「そう……。じゃあどうすれば……、幸せにしてあげられるかしら」
「ううん……庭や、もしくは領地内に、小屋を作ったり……等でしょうか……?」
「それだわ! そうよ、せめて安心して帰れる温かなお家だけでも私に作らせて? あなた達もきっと幸せにしてみせる。大丈夫、信じて待っててね。わたし、戦ってくるから」


 強く笑ったその顔に、「わんわん!」とはしゃぐ野良犬たち。
 荒くれ者の軍隊を統率した聖女のように見えるのは、アオイだけだろうか。


「アリス様、お父様のところまで私も一緒に行きましょうか……?」


 アオイは、また同じことが繰り返されるのではないかと心配でそう聞くと、にこりと笑い首を横に振った。


「いいえ、大丈夫。これは私とお父様の戦いですから。仲間も居ますし」


 栗鼠とメリーもにこりと笑う。


「もう弱い自分じゃない。誰かを守れるぐらい私も、私もお父様みたいに強くなりたいの。これでも辺境伯の娘ですもの。だから大丈夫。心配して下さって有難うございます」
「そっか! じゃあ、また、落ち着いたら遊びに行かせて下さいね?」
「はいっ!」


 森へ消えて行く野良犬達と本邸へ戻るアリス達の背中を見送って、アオイ達も己の住処へと帰るのだった。
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