イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
36 / 87
いぬこいし編

伝説の……?

しおりを挟む

 知られたくなかったなと、落ち込んでいるアオイ。
 フローラの話によれば、彼女は『公国初代の姫』と言うことになる。
 何年生きているのかさえ分からない。
 そもそも気軽に会話してよい人物だったのかと、今までのおこないを思い返し、身震いした。
(傍に居てほしいなど、烏滸おこがましいにも程があったものだ)
 まさかここまで身分不相応だとは。
 ふたりの間に壁が出来た気がして、落ち込む彼女に触れるのを躊躇った。


「その、なんと言ったらいいか……」
「普通にして? 今まで通りに、ね? お願い」

 
 そう可愛く御願いされる怜だが、アオイの立場を考えれば命令出来る筈だ。
 そもそも何故命令しないのか。
 権力なら持っているのに。
 思い返してみても、己が知る『姫』とはだいぶ違う。
 それこそ本物の男爵令嬢でさえもっと気品があるだろう。

 だが、目の前に居る初代公国の姫はまるで一般人。
 素直さと度胸はあるが、気品も無ければ威厳も無い。
 接しやすいと言えば多少聞こえは良いだろう。
(いや。これ以上は不敬になるから止めておこう……)と思った怜だが、アオイはそんな気遣いも要らないし、して欲しくない。


「ねぇ……普通にして? また仲良くなった人と距離が出来てしまうなんて、嫌なの」
「……また?」


 『また』と、言うぐらいだから、それなりに理由はある。
 ──アオイは16歳で呪いが発動される前、両親にこう言われた。
「ラモーナ出身なのも母親がシルフィードってことも言っちゃ駄目よ!?」と。

「そんなの知られたら大変! 私の可愛い可愛い子供達が悪いように利用されちゃう……!」
「そうだぞ! 外の大人はお前達が思うよりずっと小賢しく不誠実だからな!」
「なーーにが不誠実よっ! 元はと言えば貴方がさっさとハッキリ言わないからこの子達に会えないのよ!?」
「す、すまん……」
「兎に角! 余計なことは言っては駄目! 困ったときは周りの妖精達に頼りなさい!」

 あの頃は外の世界を殆ど知らなくて、「分かった分かった。外だとたった4年程なんだから大丈夫だって」なんて軽く笑い飛ばしていたアオイ。
 勿論両親との約束は忠実に守っていたし、ラモーナを出て初めての街でスラムを見たものだから、言われたことを理解し同時にゾッとした。
 少し裏手に入れば痩せ細った老人、子供。
 その場所に居た人はつらければ歌って踊る陽気な人達ばかりだったから何事もなく過ごせた。
(と言うかその時は今よりもまだまだ妖精さん達に頼ってたしね……)
 それで、改めて理解した。
 自分がどれだけ幸せか。

 そして何週間、何ヵ月なのか分からないけれど、アオイはある街で同年代の女の子と仲良くなった。
 綺麗で、可愛くて、お人形みたいで、育ちも良かった。
 その子は国でも大きな商会の娘だった。
 すごく気があって、仲良くなって、楽しかった。
 でも、アオイは、どうしても、嘘がつけなくて。
 遂にその子だけに言ってしまった。

 ──「実は私ラモーナ出身なの!」

 最初は「えーー? ほんとーー??」なんて信じてくれなかったけれど、その子は他愛ない話としてディナーにそれを溢したと言う。
 その子が居た国は古くから、妖精が住み着く家は安泰で、妖精に好かれる人間は富をもたらすのだと言われ、国では妖精が見える妖精鑑定士なんて職業もあった。

 その子の両親はこっそりアオイを鑑定させた。
 勿論、悪気は無かったのだろう。
 むしろ大事な娘を守る為、変な友達が出来ぬよう確かめたのだと思う。
 しかし、それが大変な事態を招いた。
 当時のアオイは一般常識があまり無かったものだから、数多くの妖精を引き連れていた。
(と言うか勝手に付いて来たんだけど……)
 どうやらアオイの引き連れていた数が尋常じゃなかったらしく、そこから、周りの態度が一変した。

 昨日まで仲良く話してた子は頭を上げることが出来ず、「数々の失礼を」と謝るばかり。
 両親は自分の商会で扱っている商品をアオイに献上しようとしたり、アオイの何かにあやかろうと、泊まっていた宿には客が押し寄せ、同じ部屋を予約したいと、座った椅子は何処だと、異常な程に。

 その国では妖精は信仰の対象だから、仕方が無いのかもしれない。
 けれど、アオイは怖かった。
 それから「もう行かなきゃ。楽しかったよ、ありがとう」とその子に置き手紙だけ残し、一旦迷いの森に逃げようと身を潜めた。
 妖精国の国境を囲む迷いの森は、心が美しいものしか入れない結界、もし誰か追い掛けてきたとしても善良な人だから大丈夫。
 結界の中で、多少時間の流れが変わるかもしれないけれど、落ち着くには、一番だろうと。


「──それから、何故自分の事を言っては駄目なのか、悪いように利用されるって具体的にはどんな事なのかよく考えて、今度こそ両親に言われたことを忠実に守ろうと、あと、妖精さん達には私が呼ぶまで出て来ないでねってお願いした。で、そんな事を考えてるとき、立派な角を持ったヘラジカに出会って、折角ならもふもふを探して旅をしようって目標決めて、また外の世界に出たの……」
「なるほど……、そうだったのか」


 もふもふに行き着く経緯には少し疑問が残る怜だったが、自分が想像していたよりも高いくらいに、誰とも目線が合わずさぞかしもどかしかっただろう。


「だから、その、姫だとか聖霊とのハーフとか、そんなので、私と距離を取らないでほしい……。私は、私だもの」


 アオイの知らなかった世界を教えてくれた、あの可愛い女の子、初めて外の世界で出来た友達。
(けど、ひどい話よね、私だって分かってる)


「あはは……、これじゃあ人間に戻ったときの怜と一緒だよね……。説得力ないか……」
「いや、いいんだよ。私だって人間であることを黙っていたんだ。アオイは元々犬好きだし、仕方ないさ。お互い様、と言うことにしよう」
「ありがとう……優しいね。犬だったらよしよしするのになぁ」
「犬でもするな!」
「んふふ!」


 怜は止められた100年で大人になり、アオイは故郷の100年を犠牲にし、外の世界で大人になった。
 この不思議な縁は、誰が決めた縁なのだろう。


「しかし、そのなんだ……。私も、受け入れるのには時間が掛かるぞ……?」
「し、仕方ない、ね……? 私も黙っていたからね……お互い様……」



 うむ、とお互いに納得したところで、アオイについて気になる事がひとつある。


「アオイは……、何歳なんだ……?」
「え? 前にも言わなかったっけ? 人間年だと十九……」
「じゃなくてだな……、そのー……結界の外だと、年数は、何れくらいになるんだ?」
「あーー……、えーー、聞いちゃうの……? 400年は経ってないと思うんだけど……正確な年数は……」
「よ、よ!?」
「ちょっと待って! 時間の流れが違うだけだから! 私自身は十九歳だから……! 決っして巷で聞くようなロリババァとかじゃないからね!?」
「流石にロリと呼ぶには……。どちらかと言うと伝説の生き物的な何かだな……」
「ちょっと!? 勝手に伝説にしないで……!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...