イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
45 / 87
いぬこいし編

駆け引き

しおりを挟む

 ──「ねぇ、ねぇ、今度はわたくしとぉ」
   「いいや、もう十分だろう?」

 ──「あぁ、わたくし酔っちゃったみたいなのぉ。歩けないわぁ」
   「それは大変だ。もう帰った方が良いんじゃないのかい?」


 ジリジリ詰め寄る女性達に、怜とルイはいい加減ウンザリ。
 何とかして撒けないだろうかと後ろに下がりながらタイミングを図っていたその時──、ドスンと両者誰かにぶつかった。
 振り返ればまるで鏡合わせのような二人。


「これはこれは、」
「やぁ、君もかい?」


 互いにひとりの女性を取り合っているのは分かっている。


「おや? そう言えばエスコートしていた女性は? 放ったらかしですか?」
「君こそ、アオイとまるでドレスを合わせてきたみたいじゃないかい?」
 ──「怜さまぁ?」「ルイ様ぁ!」

「合わせてきただなんて……、たまたまお似合いだっただけですよ」
「たまたま? それにしては随分と親しげにダンスを踊っていたけれど?」
 ── 「飲みましょうよぉ!」「お部屋でお話でもぉ」


 互いににこにこと牽制し合って、胸をぐいぐい押し付けてくる女性達を息良く、するりと抜けた。
 「ふん、」と、これまた互いに息良く鼻を鳴らして、我先にと何処かに居るアオイの元へと急ぐ。


 その頃のアオイはというと、「そろそろ帰ります」とルイに言いたくて、ドレスの塊を何個も探し回っていた。
(これは……、違う……じゃああの一際輝いてるドレスの塊?)
 ちらりと覗くと中心には銀の美しい髪の女性、王女だ。

 アオイの姿に気付いたらしく「あらぁ?」と見た目通りの美しい声。
 コツコツとヒールを鳴らして近付いてくるので、礼をした。


「あなたオーランドの子でしょう? 遠いところからよく来てくれたわね、楽しんでるかしら?」
「はい、私には勿体無いぐらい贅沢過ぎる舞踏会です」

「まぁ、正直なこと」
「本当ですわねレイチェル様」
「だってそんなドレスなんですものね」
「嫌だわ明子あきこさん。よくお似合いじゃないの」
「うふふ! えぇそうですわね! よくお似合いだわ!」

「有難うございます、このドレス素敵ですよね」
「……ふんっ、馬鹿な子って嫌いだわ」
「全くですわね」
「あぁ嫌だ、うつってしまいますわ」


 一体何がうつるのか。
 今のたった二言で何か馬鹿なことを言ったのか。
 会話はもう終わっているのだろうか。
 終わっているのなら、もう行っても良いのか?

 そう考えていたとき、話を振られた。


「あら? そう言えばルイ様とはもうお別れになったのかしら? 姿が見えないけれど」
「あ、今探している最中でして、」
「まぁ! ルイ様ったら連れてきて放ったらかしだなんて! うふふふ!」

「あ、いや、そうでは、」
「きゃははは! いやだ、目立たないからだわぁ!」
「えぇ、レイチェル様とは輝きが大違いですものねぇ! きゃはは……!」
「ほんとうに……! だって怜様とダンスしてらしたときだって! ねぇ?」
「あぁ、そうだわぁ、生意気にもあの方と踊って……!」


 きゃはは、と扇子で口を覆っても響く笑い声。
 何がそんなに面白いのかと思いつつも「はは、は……」と取り敢えず笑ってみたが、それにピクリと反応したレイチェル王女は合図の如くパチンと扇子を閉じた。
 合図を受けた取り巻き達は、ニタニタと笑う口元を扇子で覆い隠す。


「貴女、ハモンド侯爵にエスコートされて怜様と踊ってヒロイン気分かも知れないけれど、唯のくすみ・・・じゃない?」
「くふっ……!」
「うふっ、ふふふ……!」


(くすみ……?)
 確かに怜とダンスしている時はまるでヒロインのようだった。
 しかし、それとくすみには何の関係があるのだろうか?


「きゃはっ! いやだわぁ、レイチェル様ったら……!」
「くすみだなんて!」
「あら、だって本当の事じゃない? 怜様のく・す・み」
「きゃははは! 金色の髪も、エメラルドの瞳も、横に並ぶのはレイチェル様みたいな輝きじゃないとねぇ!?」
「えぇそうよぉ! 銀の髪に、サファイアの瞳! それに引き換えアオイ様は……、ねぇ?」
「えぇ、ほんとう」
「うふふふ!」


(あ……、そう、そういう意味……いま私、侮辱されてるんだ)
 確かに、怜に比べたらアオイの髪は濃い蜂蜜色、瞳は鶯色だし、くすんでいる。
(くすみ、かぁ……)


「それにしては、宝石は上等なものを付けているのね?」
「えぇ、そうですわよね。私も思っておりましたわ」
「くすみが宝石にまでうつってしまいますわよぉ?」
「そうよぉ。レイチェル様の方がずっとお似合いだわ」
「ねぇ、ちょっと。貴女。それ、わたくしに渡してみなさいな」


 扇子でイヤリングとネックレスを指して、「ほら」と急かす。
 しかしこれは怜の母の大事な物だ。
 渡すわけにはいかない。


「や、これは、」
「なあに? 聞こえないわ」
「まさか拒否なさるおつもり?」
「まさかぁ。だってレイチェル王女様だもの。ねぇ?」
「それに似合う人に付けてもらった方が宝石も喜ぶわよ」

「いや、でもこれは、」
「はぁ? でも・・?? 聞き間違いかしら??」

「ほら早くぅ」「何なさってるの?」「男爵家如きが」「美形揃いの国って言ってもレイチェル様には敵わないくせに」「生意気だわ」「言うこと聞きなさいよ」「本当に頭が悪いわねぇ」「早く渡しなさいよ」「ほら早く」
「ほら──!」


「全く探したぞ」
「あぁ、ここに居たのかい」

「また貴方ですか?」
「それは此方の台詞だな」

「っ……、あら怜様にルイ様まで、何か用かしら?」


 捲し立てていた女達は何も無かったかのようにスンと振る舞うも、王女の取り巻きは色香の激しい男性二人に、「あぁすてき」「はぁ一晩でいいから」「どんな風かしら」と抑えきれぬ甘い吐息を溢しながら想像している。

 王女はそんな取り巻きに呆れた溜息を付いて、顔の良い二人の男の視線がアオイに向けられていることに更に苛立った。
 アオイのほっと安心した顔と、揃いも揃って「「この方に用が……」」と言うものだから、もう我慢ならない。
(えぇい、このクソ女。何故わたくしより目立っているのかしら……! 地味で男爵家のクセして、この二人も何でクソ女に構うのかしら!?)


「怜様?? もうお帰りに?」
「え、えぇ、そろそろ、」


 ルイなんかあんたにあげるわと、横目でアオイを睨み付け、怜にすり寄って胸を押し付けながら、甘えた声で言う。


「ねぇ? 最後にわたくしと踊って下さらない?」
「え、しかし王女様とはもう……、」
「いいじゃない、ねぇ、良いでしょう?」
「しかし二度目は、」
「私からのお願いよ? 聞いて下さらないの? ただ怜様とダンスがしたいだけなのよ……、最後に、ね?」
「まぁ、ただ、踊るだけでしたら……」
「うふふ、ありがとう」

「アオイ、私達も、もう行こう」
「え、えぇ……」


 にんまりとアオイに視線を残すレイチェル。

 ルイは慣れたようにアオイの腰に手を回し、怜に誇ったように笑って、ふたり歩き出す。

 それぞれ同性同士で牽制しあい、舞踏会は終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...