イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
79 / 87
いぬぐるい編

似た者同士

しおりを挟む

「そろそろ……、ホールに戻ろうか…」
「そうですね……」

 時刻は午後十時より少し手前──。
 無理して「犬っころも心配でソワソワしているんじゃないかな?」と、意地悪く笑うハモンド侯爵。
 アオイが気を遣わないようにと振る舞っている彼の優しさが身に沁みた。

「さぁ、お手をどうぞ」

 柔らかに手を取り、腰に手を回され、自然に腕を組む二人。相変わらず壊れ物でも扱うかのようなエスコートは、やはりアオイにはなんだか少し、物足りなかった。


 ******

「あ、アリス様! 皆様もお揃いですね!」
「皆さん、こんばんは」

 ホールへと戻ったアオイとルイは、音楽に誘われるまま中へ入るとよく知った顔ぶれが見えたので声を掛けた。
 狼森親子と、アリスの友二人だ。

「ずっと音楽が聞こえてましたけどアリス様もダンスを?」
「はい。お父様と! ね?」
「ああ、まさか娘と踊れる日が来るなんてね……。アオイさんには感謝しかないよ」
「ええ? 私は何もしてないですよ!? アリス様自身の治癒力ですから」
「アオイは本当に皆から好かれているんだね?」

 もう大袈裟なんだから、とアオイが返している横で女子二人はハモンド侯爵にうっとり。ルイがにこりと微笑んであげると、今にも天に召されそうだ。

 今にも天に召されそうなのに、桜子は「あぁ、二人同時なんて無理……」と呟いて固まり、もう一人の友クレアは本当に昇天してしまったのかフラリと倒れてしまった。
 残念ながらその身体を支えたのはハモンド侯爵ではなく、アリスの父、クリスだった。「あ、おじ様すみません……」と直ぐ様正気に戻り苦笑いするクレア。

 アオイも皆の視線の方へ振り返ると、自身の肩が男性の胸に収まる。
 視線を上げれば、眩い黄金の髪にエメラルドの瞳。
 彼も同じく、アオイの鶯色の瞳を見つめていた。

「ああ、出たな、狼森 怜」
「侯爵様。出たとは何ですか、出たとは」
「君の出番はいつもタイミングが良いねぇ」
「そうですか? 別に図ってなんていませんよ?」
「はっ、どうだか」

 黒い笑顔で言い合う二人を、「あはは、まぁまぁ……」となだめるアオイ。
 ほんの少しの間に不思議な関係となった二人を見て、「君達はいつの間に仲良くなったんだね」とクリス。
 笑うと狐のように細くなる目を、まんまるにして驚いている。

「「別に仲良くはない」ですよ」

 その言葉と態度が綺麗にハモるものだから、アリスは思わずクスリ。アオイもつられて笑った。

「全く、100年前の時代で大人しくしてさえいれば……」
「やっと本性が現れてきましたか? 侯爵様ともなればやはり腹黒ですね」
「おや? おかしいな。腹黒のわりには君みたいに呪いにかけられたことなんて無いけどな」
「はっ。お陰様で侯爵様よりは人生経験豊富です。少しは年上・・を敬ってほしいですね」
「ああ言えばこう言うだな」

 言い合う二人があまりに生き生きしているので、アオイは「あらら、本当に仲が良いのね」と感心した。
 勿論、「だから仲良くはない」と息ぴったりで否定されたのは言うまでも無い。

「さぁお嬢さん。私とも一曲踊りましょう」
「え、」

 金の髪はさらりと流れ、あざとく傾げる頭に、美しい弧を描く形の良い唇。ルイに見せつけるように、怜はアオイの前に掌を差し出した。
 アオイはその言葉に驚くも、心臓がふわふわ浮くような嬉しさが、じわりじわりと湧いてくる。
 はい、と綻びそうな口元をキュッと締め、彼の手を取った。

「違う男の香りが染み付いてるからな。マーキングし直さないと」

 グイ、とアオイの腰を引き寄せ、まるで自分のものだと言わんばかりにハモンド侯爵に向けて意地悪くニヤリと笑う。

「ふん、犬め」

 どうにも勝てない相手である事は、ハモンド侯爵も既に分かっている。嫌味ったらしくボソリと呟くと、その呟きが聞こえたアリスは父親と同じように、目をまんまるくした。
 御存知なのですかと問う視線に、『あれ、聞こえちゃった?』と、女性を虜にする爽やかな笑みをアリスに向けた。その他大勢の女子と同じく、まんまとアリスも顔を赤らめる。
 熱る頬を見られたくなくてダンスホールに視線を移すと、瞳に映る怜とアオイの二人は、やはり完璧にお似合いなドレスコードだった──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...