黒口さんは薄口がお好き

ちゃんきぃ

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黒口さんは薄口がお好き

003 真・碓井景虎の動揺

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 黒口実憐。俺が彼女とどういう関係かと言われれば、ぶっちゃけ同じクラスだったこと以外には何もない。だって、その頃の俺は……違う、今の俺は真・碓井景虎。俺の過去の話はどうでもいい。それよりも重要なのは黒口の話だ。

 そう、黒口と俺は何の関係もないが、俺は一方的に黒口を知っている。これはクラスの会話でたまたま耳に入ったことだが、黒口は学年一とまでは言われないけど、一定の男子から人気のある子だった。髪型はいつもボブで、どちらかといえばゆるふわな雰囲気が漂い、口調はおっとりと優しい。これだけの要素があれば、そりゃあ誰かしら男子に刺さって……うん、また話が逸れそうだ。

 つまるところ、俺は黒口を知っているが、黒口の方が俺を知っているかは全くわからない状況だった。もしも黒口が俺のことなんてアウトオブ眼中で、真・碓井景虎となった俺を見て初めましてとなるならそれでいい。しかし、もしも黒口が俺のことをほんのちょっぴりでも覚えていて、今の俺を見ているのだとすると……めっっっっっちゃ恥ずかしい。

 だって今の俺、完全に高校デビューでイキってるやつじゃん! のこのこと地元から逃げて急にいろいろ変えて俺は元からこんな感じでーす、うぇーい!ってやってると思われるじゃん! それが嫌だからここへ入学したのに……

 いや、冷静になれ景虎。中学までの俺が最強のステルス兵だったことは覚えているだろう。仮にも男子人気ありありなあちら側だったはずの女子が俺のことを認識しているはずがない。

「景虎くん、だったよな?」
「うわっ!? びっくりしたな、もう!」
「ごめんごめーん。そんな驚かすつもりじゃなかったんだけど~」

 いつの間にか俺の席の周りには何人か集まり始めていた。もう今日はこのまま下校していいけど、教室内はまだまだ生徒が留まっている。

「景虎くんさぁ、自己紹介ちょー面白かったよね~」
「長尾景虎って上杉謙信でしょ? 景虎ってかっこいい名前だよね~」
「景虎ってどこ中?」

 そして、集まってきたこいつら……全員いきなり名前で呼んでくるんだが!? なんだこの距離間の近さ!? 最初は苗字呼びのジャブから入るだろう!? しかもしれっと女子も混ざってるし!?

「まーまー みんな落ち着いて! 碓井くんが困っちゃってるじゃない」

 そんな奴らを一旦静止したのは俺と同じくちょっと明るめの髪色の男子だ。

「碓井くん。オレは佐藤さとう奏多かなた、よろしく」
「佐藤くん……うん、さっきの自己紹介で聞いた。某芸能人と同じ名前って」
「あはは~ でも、碓井くんのインパクトには負けちゃったなー もしかして、毎回ああいう掴みしてる?」
「ま、まぁ、定番だね!」

 嘘だ。春休み中必死に考えた。一瞬、影が薄いネタも入れようとしたけど、自虐したら思ったよりも心が痛くなったから止めた。

 すると、佐藤はまたも場を仕切り始める。

「そうだ! みんなこれからファミレスでもいかない? せっかくだから親睦会ってことで!」
「おっ、いいね~!」
「この辺近いとこある?」
「やべぇ、今日カネ持ってないわー」

 な、なんだと……? まだ出会って2時間ちょっとしか経ってないのに、もうみんなでファミレスだと……? こいつらどういう思考してやがるんだ……?

「碓井くんもどう? この後、予定ある感じ?」

 佐藤の天使のようで悪魔な誘いは容赦なく俺にも向けられた。これが今までの俺なら……スルーされていたのだろう。そもそも誘われてもこういう集団に混ざって行けるか怪しかった。だが……今の俺は真・碓井景虎なのだ。このテンションに乗っかっていけば、きっとこのグループへ仲間入りする。佐藤、お前のアシスト使わせて貰――

「碓井くん、少しいいでしょうか?」

 騒がしい集団の中、透き通るようね声が俺に届けられる。みんながその声の方向へ注目すると、そこには黒口がいた。でも、注目が集まっても黒口は怯むことはない。

「お話したいことがあるの……二人きりでしたいお話」

 俺は開いた口が塞がらなかった。
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