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黒口さんは薄口がお好き
005 そして、振り出しに戻って1マス進む
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改めて中学の僕を振り返ると、碓井景虎という名前の影響を差し引いても目が隠れるほど前髪を伸ばして、いつも下を向いて、いきなり喋ろうとしたら大きな声が出ない……自分から影を薄めようとする奴だった。どうせ気付かれず、返事をされず、認識されないのであれば、前を見る必要もないし、大声を出す必要もない。そう思っていた3年間だった。
「僕のこと……からかってるの? 前の僕は……」
「からかっているなんてとんでもありません! 碓井くんのことが好きなのは本当です! だから……教室で声をかける時も、こうやって面と向かって喋っている今もとても緊張しています。お恥ずかしいことに……」
そう言いながらもまっすぐと僕を見る黒口の言葉は噓偽りなんてないんだろう。
「今から凄く空気読めないこと言うんだけど、黒口さんはそれを伝えたってことは……その、僕と付き合いたいとか、そういうことなの?」
「それは……碓井くんが良ければ……そうしたいです。あと、付き合ったら元に戻って欲しいです」
「そ、そこは譲らないんだね。じゃあ、僕が前の姿に戻れば、黒口さんと確実に付き合えるってわけだ」
「それじゃあ……!」
僕が望んだこと。その中には自分の存在感を出してモテることも含まれていた。すなわちそれは誰かと付き合って彼女を作るってことでもある。それが達成できればもう高校デビューとかイメチェンとかはどうでもいいかもしれない。
「……ごめん、黒口さん。俺は黒口さんと付き合えない」
「えっ……? ど、どうしてですか!? まさか、私が碓井くん好みの女じゃないから……」
「そ、そういう表現は止めて! 黒口さんは普通に可愛いと思うけど……」
「そんな! とても可愛くて美人だなんて……」
「そこまで言って……ああ、話が逸れそうだ。その、付き合えない理由は……もしかしたら黒口さんは僕のこといろいろ知ってくれているのかもしれないけど、俺が黒口さんのこと全然知らないからだ」
「知らないなんて……それは付き合ってからでも十分間に合います!」
「そうかもしれないね。だけど、そうだとして俺が黒口さんの見た目と自分を好きって言ってくれたことだけで付き合ったら……失礼な気がするんだ」
見た目を変えて、中身を無理やり変えようとした俺が言っても仕方ないが、たぶん俺が本当に見て欲しいのは……何も変わらない俺自身だ。それを黒口が肯定してくれたのは正直、嬉しかった。でも、それは3年見続けてくれた結果であって、俺が黒口を人から聞いたことや今目の前にしたことで可愛いと思った瞬間的な感情とはわけが違う。
「まずは友達から……なんてベタなことは言わない。だって、やっぱり俺はこの高校だと茶髪で着崩して、香水……とチャラい口調は治していいかもだけど、最初に作った新しい俺はもう変えられない。それは黒口さんの好きな碓井景虎にそぐわないやつだ」
何よりこんな真っ直ぐに来てくれる黒口は……俺には勿体ない。これ以上黒口の時間を無駄にさせないためにもここで終わらせるんだ。
「だから……本当にごめん」
「碓井くん……」
顔を伏せてしまった黒口を見て……後悔してきた! これでいいんだよな!? 俺は間違ったことしてないよな!? 告白断るなんて初めてで……そもそも告白されるのが初めてだよ! 経験ないよ! でも、黒口のためを思うならここはこうするしか――
「……ふふっ、そうなっても碓井くんは碓井くんなんですね」
「えっ……?」
かっこよく言い終えたつもりで内心あたふたしていた俺を見て、黒口は笑う。でも、今の葛藤は表に出してないはずだから、なんで笑われたかはよくわからない。
「わかりました。今日のところはここまでにします。でも、私は諦めません♪」
「あ、諦めないって……」
「碓井くんと碓井くんの元の姿を!」
「やっぱり譲れないんだそこ……」
よくわからないけど、ひとまずこの場は凌げたようだ。そもそも凌ぐ話だっけ? 俺は黒口に告白されて、断って、それでも諦めないと言われて……ダメだ。これ以上考えるとキャパオーバーになってしまう。
「そろそろ教室に戻りましょうか」
「ま、待って! 最後に一つだけ!」
「なんですか?」
「俺の茶髪……そんなに似合ってない?」
そう、これだけは確認しておきたかった。イメチェンの中では結構気に入っている部分だったのに、ここが一番似合ってないとなると、方向性を変える必要がある。
だが、黒口から返ってきたのは……
「私は好きではないですけど……変は言い過ぎでした。たぶん素敵です。だって、どんな髪色でも碓井くんには変わりませんから♪」
またも満面の笑顔でそう言い残して、先に教室へ向かって行った。
ファミレスには合流できなかったが、それ以上に濃い時間を過ごした日だった……って締められないよ!? 結局アリかナシのどっちなんだ!? たぶん素敵? 俺としては変わってないと困るんだけど!?
「僕のこと……からかってるの? 前の僕は……」
「からかっているなんてとんでもありません! 碓井くんのことが好きなのは本当です! だから……教室で声をかける時も、こうやって面と向かって喋っている今もとても緊張しています。お恥ずかしいことに……」
そう言いながらもまっすぐと僕を見る黒口の言葉は噓偽りなんてないんだろう。
「今から凄く空気読めないこと言うんだけど、黒口さんはそれを伝えたってことは……その、僕と付き合いたいとか、そういうことなの?」
「それは……碓井くんが良ければ……そうしたいです。あと、付き合ったら元に戻って欲しいです」
「そ、そこは譲らないんだね。じゃあ、僕が前の姿に戻れば、黒口さんと確実に付き合えるってわけだ」
「それじゃあ……!」
僕が望んだこと。その中には自分の存在感を出してモテることも含まれていた。すなわちそれは誰かと付き合って彼女を作るってことでもある。それが達成できればもう高校デビューとかイメチェンとかはどうでもいいかもしれない。
「……ごめん、黒口さん。俺は黒口さんと付き合えない」
「えっ……? ど、どうしてですか!? まさか、私が碓井くん好みの女じゃないから……」
「そ、そういう表現は止めて! 黒口さんは普通に可愛いと思うけど……」
「そんな! とても可愛くて美人だなんて……」
「そこまで言って……ああ、話が逸れそうだ。その、付き合えない理由は……もしかしたら黒口さんは僕のこといろいろ知ってくれているのかもしれないけど、俺が黒口さんのこと全然知らないからだ」
「知らないなんて……それは付き合ってからでも十分間に合います!」
「そうかもしれないね。だけど、そうだとして俺が黒口さんの見た目と自分を好きって言ってくれたことだけで付き合ったら……失礼な気がするんだ」
見た目を変えて、中身を無理やり変えようとした俺が言っても仕方ないが、たぶん俺が本当に見て欲しいのは……何も変わらない俺自身だ。それを黒口が肯定してくれたのは正直、嬉しかった。でも、それは3年見続けてくれた結果であって、俺が黒口を人から聞いたことや今目の前にしたことで可愛いと思った瞬間的な感情とはわけが違う。
「まずは友達から……なんてベタなことは言わない。だって、やっぱり俺はこの高校だと茶髪で着崩して、香水……とチャラい口調は治していいかもだけど、最初に作った新しい俺はもう変えられない。それは黒口さんの好きな碓井景虎にそぐわないやつだ」
何よりこんな真っ直ぐに来てくれる黒口は……俺には勿体ない。これ以上黒口の時間を無駄にさせないためにもここで終わらせるんだ。
「だから……本当にごめん」
「碓井くん……」
顔を伏せてしまった黒口を見て……後悔してきた! これでいいんだよな!? 俺は間違ったことしてないよな!? 告白断るなんて初めてで……そもそも告白されるのが初めてだよ! 経験ないよ! でも、黒口のためを思うならここはこうするしか――
「……ふふっ、そうなっても碓井くんは碓井くんなんですね」
「えっ……?」
かっこよく言い終えたつもりで内心あたふたしていた俺を見て、黒口は笑う。でも、今の葛藤は表に出してないはずだから、なんで笑われたかはよくわからない。
「わかりました。今日のところはここまでにします。でも、私は諦めません♪」
「あ、諦めないって……」
「碓井くんと碓井くんの元の姿を!」
「やっぱり譲れないんだそこ……」
よくわからないけど、ひとまずこの場は凌げたようだ。そもそも凌ぐ話だっけ? 俺は黒口に告白されて、断って、それでも諦めないと言われて……ダメだ。これ以上考えるとキャパオーバーになってしまう。
「そろそろ教室に戻りましょうか」
「ま、待って! 最後に一つだけ!」
「なんですか?」
「俺の茶髪……そんなに似合ってない?」
そう、これだけは確認しておきたかった。イメチェンの中では結構気に入っている部分だったのに、ここが一番似合ってないとなると、方向性を変える必要がある。
だが、黒口から返ってきたのは……
「私は好きではないですけど……変は言い過ぎでした。たぶん素敵です。だって、どんな髪色でも碓井くんには変わりませんから♪」
またも満面の笑顔でそう言い残して、先に教室へ向かって行った。
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