裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

ちゃんきぃ

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裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

慣れとスマイルと仁王立ち

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 慣れってヤツはある程度必要ものだけど、必要以上に慣れてしまうと怖いものになる。
 新しい環境や初めての出来事に遭遇した時、最初から全てに対応するのは難しいが、回数や時間が重なれば何事も慣れていく経験は誰しもあると思う。
 しかし、最初のうちなら早く慣れたいと思うものだが、完全に慣れ切ってしまうと、今度は見慣れた景色や行動にやる気を失ってしまったり、油断して大きなミスを招いたりと悪い面も出てくる。
 だから、日常の様々なことについて、慣れ過ぎないような小さな刺激が必要だと俺は思うのだ。

「輝邦、今日も美術部へ行くのか?」
「うん? そうだけど?」

 当然のように答える俺に秀吾は驚いた顔になる。それを見た俺も自分でそう答えしまったことに驚いた。

 美術部……いや、正確に言うと美術準備室へ行くようになってから土日休みを挟んだ一週間後。俺はその日常を受け入れ始めていたのだ。本当に慣れって怖いぜ。

「まぁ、進んで行っているなら何も問題はないと思うが……」
「もちろん、自主的に行ってるから心配しなくていいよ。いじめとかそういうのじゃないから」
「そうか。だったら、何やってるのか話してくれてもいいんじゃないか?」
「う、うーん……何やってるのかと言われると、大したことはしてないっていうか、マジで説明するのが難しいから困るというか……」

 俺の歯切れの悪い言葉に秀吾は眉をひそめる。だって、この前にも言った見知らぬ女の子から全裸になれと迫られている状況はあまり変わっていない。
 敢えて初めて出会った時と変わった風にするなら、ちょっと顔を知った裸夫が描きたい自称清楚系の女の子があらゆる手段を使って俺を脱がせようとしてくる……と、もっとわけのわからない説明になってしまう。

「オレの予想では文化祭が近いから捻木さんに頼まれて準備にいる力仕事をしていると思っていたんだが……うちの美術部は女子しかいないようだし」
「おお、それいいな! それで役に立てば涼花ちゃんからの好感度もアップしそうだ!」
「ということは、別に文化祭の手伝いをしてるわけじゃないんだな」
「まぁまぁ、この件が片付いたらちゃんと種明かしするさ。じゃ、行ってくるとしますかぁ。捻木さん~!」
「……よくわからん」

 でも、この件に慣れて良かったと言えることがある。涼花ちゃんへ自然と話しかけるきっかけができたことだ。涼花ちゃんからすれば別に緊張することはないのかもしれないけど、この件が始まるまでの俺は同じクラスである程度の関係性だったから話しかけるのにも毎回緊張していた。それが今ではちょっと浮足立つテンションで話しかけられる。

「あっ、三雲クン。今日もお疲れ様っ!」
「捻木さんもお疲れ。俺、さっきの数学の授業は寝そうになっちゃったよ」
「もー ちゃんと受けないと駄目だよ? なんて、そう言いつつ私もちょっとウトウトしちゃったけど……えへへっ」

 はー!? 可愛いんですけど!? なんすかその照れ笑い。ここ最近はこういう反応も見せてくれるようになったし、やっぱ日常にはこれくらいの刺激が必要っすわ! いや、むしろ強過ぎる刺激か? こんな笑顔を一対一で浴びていいもんなのか!?

「そういえば、今週末は文化祭だけど、美術部の準備は進んでるの? 良かったら俺も運搬作業とか手伝うけど?」
「気持ちは嬉しいけど、大丈夫だよ。三雲クンは美術部員じゃないし、三雲クンの方もやることがあると思うから」
「そう? 大変そうだったら全然頼ってくれていいからね? すぐに中断して手伝うから」
「ふふっ、ありがとっ! 三雲クンって優しいんだね」

 そう言うと、今度は元気な涼花スマイルを浴びせてくる。今のはだいぶポイント高いんじゃないか? いやー、まいっちゃうなぁ。これで涼花ちゃんが俺の魅力に気付いてしまったら、本当にこの笑顔を独占できてしまうかもしれない。

「三雲クン?」
「は、はい!?」
「今日も頑張ってね。行ってらっしゃいっ!」

 俺が独白パートに浸っているうちに美術室に着いてしまったようだ。でも、こうやって涼花ちゃんに「行ってらっしゃい」と言われると、何だか気分も上がってくる。
 そう、この美術室から美術準備室へ入ると、そこはもう別の空間だ。この一週間はその異空間でヤツと闘う時間だったと言える。

「待っていたZE☆ テルクニ!」

 ……今のはたとえ話だったはずだ。扉を開けて待っていたのは何故か往年のライバルキャラのような口調で堂々と仁王立ちしていた中楚だった。俺はバトル漫画のキャラではないというのに。

「いったいなんだんだ今日は」
「テルクニ、アタシは気付いたの。ここ数日でテルクニを何とか脱がせようとがんばってきたけど、それには致命的に足りないものがあった」
「あり過ぎてどれかわからん」
「昨日は激辛カップラーメンを食べさせることで身体を熱くさせて脱がそうとした……」
「何故か中楚の分も用意してて先に食べてダウンしてたけど」
「一昨日は燃え盛る炎を見せることで身体を熱くさせて脱がそうとした……」
「意外と焚火って動画見ると心が落ち着くから中楚含めてリラックスしてたけど」

 説明を付け加えつつも我ながら中楚と一緒に何してるんだと思う。これじゃあ、秀吾にも説明できないわけだ。

「それで? 身体を熱くさせる作戦は間違ってたとでも言いたいのか? サウナもどきの部屋作ったのも含めて」
「いいえ。そこは決して間違いじゃない。でも、これまでのアタシは単純に熱くなれば何でもいいと思っていた。だからこそ、安直に炎や辛いモノに頼ってしまった。本当に必要な熱さっていうのは血湧き肉躍るようなものだったの」
「うーん……?」
「ところで血沸き肉躍るってちょっとエッチな感じしない? どの辺の肉が踊ってるのって」
「いや、全然」
「ちぇー」

 中楚は心底つまらなさそうな顔をする。こいつは話の途中でこういう逸れ方することが多過ぎるから本題までなかなか辿り着いてくれない。

「つまり、何が言いたいかって身体じゃなくて心を熱くしなければいけなかったってこと!」
「なるほど。それじゃあ、今日はここまでということで……」
「なんでぇ!? ここからが本題なのに!?」
「だったら早く本題に入ってくれ、聞いた上で帰るかどうか判断するから」
「そう言っていられるのも今のうちよ。今からすることを聞いたらテルクニも絶対興奮するに違いなんだから!」

 なんか言い方がちょっと引っかかるけど、今日用意したものはかなりの自信作らしい。いや、中楚が自信作にしていいのは芸術品だけだと思うが、俺はここ数日で中楚が絵を描いている姿を見ていない。本当にこいつは美術部兼画家のなのかと疑ってしまうくらいには。

 そんな俺の思いなど知らず、まだ仁王立ちのままの中楚は高らかにそれを宣言する。

「テルクニ、野球拳で勝負よ!!!」
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