元天才少女で現サボり魔の美少女は真面目な僕の爪の垢を狙っている

ちゃんきぃ

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4.噂と頭痛と言えない不安

4.7

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 式見が僕のために授業を覚えるようになってしまってから二日後。
 できれば式見に頼らないようにしたかったけど、梅雨の天気と気圧は気まぐれで、僕はこの日の三時間目にまた頭痛で授業を休んでしまう。
 ただ、申し訳なく思っている僕に対して、式見の方は待ってましたと言わんばかりに教室を後にする僕へウインクするくらいにはやる気に満ち溢れていた。

 それから四時間目には何とか回復して、その後の授業も出席した放課後。
 先日の件があったから空き教室を貸してもらえないと思っていたが、今回も式見はネゴシエーション能力を発揮したようで、荒巻先生から鍵を借りることに成功する。
 そうして、今日も式見の再現授業が始まった。
「はい。えー、それでは三十二ページから。えー、細胞についてですね」
 休んだ授業は生物で、担当する前園先生は黒板に書く内容がざっくりとしているタイプの教師だ。
 なので、授業に出席している時は、話している内容と教科書を照らし合わせて少し書き足している。
 だがしかし、前園先生の授業には少々厄介な癖があった。
「えー、図は細胞膜を顕微鏡で拡大した絵ですが、えー、丸と棒状のものが描いてありますね。えー、このうち丸の方は、えー……」
「し、式見。ちょっとストップ」
「えー、何か問題がありましたか。えー、柊くん」
「その……息継ぎの癖まで正確に真似しないでもいいと思う」
 そう、前園先生は会話の間に必ず「えー」を挟んでしまうのだ。
 本人は無意識でやっているのだろうけど、初めて聞いた時はめちゃくちゃ気になったし、式見はそれを意図的に真似ているせいで、本人よりも誇張しているように聞こえてしまう。
 そんな僕の物申しに対して式見はやや不服そうな顔をする。
「えー せっかくソーイチにそのままの授業を伝えたかったのに」
「今の“えー”がどっちかわからないけど、普段のそのままの授業を知ってるから言ってるんだ。気になって授業に集中できない」
「むう……しょうがない。ソーイチの要望はなるべく受け入れるわ」
「聞き入れてくれてありがとう。ちなみに……本当に息継ぎ込みで覚えちゃったのか」
「いや、さすがに私がアドリブで入れてる部分も、えー、多いけど、聞いているうちに、えー、なんか移っちゃった感じはある」
「もう結構重症じゃないか!? また自分を見失わないうちに普通の話し方に戻すんだ!」
「大丈夫だって。えー、今は真似するスイッチが、えー、入ってるだけだから」
 そう言っている時にも「えー」が挟まれているので僕は不安になってしまう。
 式見の才能を無駄遣いさせているだけでなく、普段の口調まで影響を与えてしまうようであれば、早急に辞めさせなければならない。
 そして、四十分後……
「……それでは、えー、本日の授業は、えー、ここまで、えー、ですね」
「……式見。最後の方はわざと“えー”って増やしてただろう」
「えー? どうかなー? でも、ちょっと調子に乗っちゃったかも。わかりづらかったところがあるなら普通に解説するけど?」
「いや……なんだかんだ内容は伝わったからいい」
 口癖は別として、授業の進め方や板書の配置は普段の前園先生と同じだと感じたので、式見の記憶力の凄さにまたしても僕は驚かされる。
 ただ、同時に僕の中では様々な不安が過っていた。
「それよりも……式見は毎回授業や先生の言動を細かく覚えて大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
「その……一度にたくさん覚え過ぎて頭がパンクするとか、覚えるのに必死で熱が出るとか」
「うーん……今まで何かを覚えて頭がいっぱいになることはなかったし、知恵熱が出たり、それこそ頭痛になったりもしてないわ。人間が記憶できる容量については色んな考え方があるらしいけど、考え方の一つではテラバイト単位で記憶できるらしいから、ちょっと覚えたくらいでメモリをいっぱいにするのは難しいんじゃない? あっ、一テラバイトは千ギガバイトね?」
「そ、そうか」
 ふんわりとした僕の心配に対して、式見は具体的な例を示しながらさらりと返す。
 よく考えたら僕よりも式見の方が記憶や覚えることに詳しいだろうから、いらない杞憂だった。
「あっ。でも、最近は頭がいっぱいになることあったかも」
「さ、最近? なにで?」
「ソーイチのことを考えてたら頭がいっぱいに……ね?」
 そう言いながら式見は僕に微笑みかける。
 それが冗談なのかどうかわからないけど、僕も……最近は良くも悪くも式見のことで頭がいっぱいだ。現に今も式見の言動に悩まされているのだから。
「ソーイチ? ノーリアクションなのはさすがに私も恥ずかしいんだけど……」
「自分でやっといて何を言う」
「もう、授業受けた後だから真面目モードなの?」
「そういうわけではないが……まぁ、式見が覚え過ぎて何か起こることがないなら良かった」
「ふふっ。心配してくれてありがと」
 けれども、これで覚え過ぎを言い訳に式見を止めることはできなくなった。
 いや、式見が僕のために積極的に動いてくれるのは全く悪いことではないんだけど……このまま式見に助けてもらってばかりではいけない。
「なぁ、式見。何回もお世話になるのは悪いから、何かして欲しいことはないか?」
「なんでもしてくれるって!?」
「なんでもとは言ってないし、僕ができる範囲は限られているけど……努力はするから」
 せめて式見にも何かリターンがあった方がいいと思って、僕はそう言う。
 でも、式見はあまり考えることなく、「今はいいかな」と返した。
「な、なんで?」
「まだ私がソーイチにお世話になった分を返してる最中だし」
「お世話って……僕は見張っていただけだから、そこまでしてもらわなくても……」
「そう? でも、私が満足するまでは先送りってことで」
 式見はこういう時に遠慮するようなタイプではないと思っているので、今の発言は気を遣ったわけではないのだろう。
 僕が式見にしてあげられたことは……思い当たらないわけではないけど、式見にここまで頑張ってもらうほどのことはしていないと思っている。
 結局、それも言えないままでこの日の放課後は終わってしまった。
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