産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

文字の大きさ
37 / 942
1年生1学期

5月10日(月)晴れのち曇り 清水夢愛との時間

しおりを挟む
 5月2週目。GWという大イベントが終わったのでこれからは通常通り……と思いきや再来週にはもう中間テストが始まってしまう。受験以来のテストに少し不安があるので、そろそろノートを見返しながら、来週の僕に本気を出して貰う準備をしておこう。

 そんなことを考えながら次々とテストの範囲を言われる授業をこなした放課後。部活がないのでそのまま帰宅しようと思った時だった。

「良助ー!」

 自転車に乗って校門にいた僕を後ろから呼び止める声がした。いや、「りょうすけ」という名前だけなら僕じゃない可能性もあるけど、その声は耳馴染みがある人の声なので、恐らく僕であるという確信がある。

 振り向くと、いつの間にか自転車の後部に乗ろうとしている清水先輩がいた。

「何やってるんですか」

「え? この感じだと乗せてくれるんじゃないのか?」

「二人乗りは駄目です」

 つまらなそうな顔をして降りる清水先輩をよそに、僕は周りを見渡す。一応、清水先輩は三大美人とやらにカウントされているから、一緒にいるところを見られると何か都合が悪いかもしれない。

「何を探しているんだ? 良助はキミしかいないだろう」

「いえ、何でもないです。それで僕に用事ですか?」

「ああ。これから暇か?」

「はい、暇です……はっ!?」

 周りを見るのに夢中で素直に答えてしまった。

「そうかそうか! では、付き合ってもらうぞ」

「つ、付き合うとは……?」

「なに、ちょっと行くところがあるんだ。さぁ、出発しよう」

「……だから二人乗りは駄目ですって」

 また後ろに乗ろうとする清水先輩を止めて僕は自転車を降りた。断るタイミングは完全に逃したからもうついて行くしかない。



 歩き始めた清水先輩が向かうのは僕の自宅の方向に近いけど、どこに行くかは全く見当がつかなかった。でも、それ以上に見当がつかないのは、なぜ僕が付き合わされているかだ。

「あの、清水先輩」

「んー? 目的地はまだだぞ?」

「そうじゃなくて……どうして僕に声をかけたんですか?」

「どうしてって、私と良助は知り合いじゃないか」


 さも当然のように言われるので僕は言葉を返せない。確かに知り合いかそうじゃないかで言われたら知り合いだ。だから今日は声をかけてくれたのかもしれないけど、僕からすればそんな声をかけて貰えるほどの知り合いではないと思ってしまう。
 
 しかし、ついて来てしまった以上、僕も知る努力をする必要がありそうだ。

「清水先輩は部活は何か入ってないんですか?」

「茶道部に入っているよ。でも、毎日あるわけじゃない」

「文芸部と同じですね。だから今日は暇だったと」

「そうだな。ただ、私は小織に入っておけと言われたから入っているだけで、小織に呼ばれない限りはあまりいかない場所ではある」

 その言いようからして、桜庭先輩も茶道部なんだろう。お目付け役と言ったら失礼だけど、桜庭先輩が清水先輩を部活に入らせたのは見張る意味もあるのかもしれない。

「よし、着いたぞ」

 そんな話をしているうちに、意外に早く目的地に着いた。その場所は住宅地の中の小さな公園で、ざっと見たところ、何の変哲もない公園に見える。

「この公園で何かあるんですか?」

「何って、公園は遊ぶために来るんだろう」

「それはそうですけど……」

「おおっ! あった、これだ!」

 公園内に入って清水先輩が指したのはこれまた何の変哲もないシーソーだ。

「清水先輩はシーソーが目的だったんですね」

「うむ。今日、久しぶりに思い出したんだ」

「……じゃあ、僕を見つける前はどうやってシーソーで遊ぶつもりだったんですか?」

「見つける前? 遊ぶならその辺の子どもと遊んで貰えばいいだろう」

 そんなことを今の世の中でしたら絶対怪しまれるか、怒られるに違いない。今は僕たち以外に人が来ていないから僕がいなくても事案にならずに済んでいたのだろうけど。

「良助、早く反対に行ってくれ」

 既に座って準備万端な清水先輩に急かされて、僕は反対側に行く。シーソーで遊ぶなんて小学校……もしかしたらそれより下の時以来な気がする。この年齢になって子どもの遊具で遊ぶのは少し恥ずかしいから、そっちの意味でも他の人がいなくて良かった。

 そして、僕が座って地面を蹴ると、僕の側が上になる。次に清水先輩が地面を蹴れば、今度は清水先輩の側が上になって、以降は繰り返しに……ならなかった。清水先輩はきょとんした顔のまま地面で待機している。

「清水先輩? 次は先輩の番ですけど」

「えっ? これ自動で上がるんじゃないのか?」

「いえ、僕の方が(たぶん)重いので少しずつは戻りますけど、基本は地面を蹴る力がないと……」

「ほー そういう遊び方だったのか」

 ようやく清水先輩が地面を蹴ったので上下の繰り返しが始まる。でも、僕はその感覚が楽しいとか久しぶりだとか思う前にまた清水先輩へ質問した。

「清水先輩、さっきシーソーは久しぶりって言ってましたよね」

「ああ。久しぶりだよ」

「その時はどうやって遊んでたんですか?」

「いや、遊んではない。見たことがあっただけだ。こうやって左右に乗っているを見た覚えがある」

「そう……なんですね」

「ああ。でも、遊んでみてわかった。なんとなく面白い感じはするな」

 それを聞いた僕は……ますます清水先輩がわからなくなってしまった。シーソーは必ず遊ぶ遊具ではないと思うけど、遊び方の知らない遊具をどうして今遊びたいと思っただろう。
 
 小さな頃は何かの理由で遊べなかった? それとも見たというのは実際の話じゃなく映像の話? どちらにしても、清水先輩は懐かしさを感じているわけじゃなく、かといって楽しそうというわけでもない。

「よし。こんなものかな。今日はありがとう、良助」

「えっ? もういいんですか?」

 唐突にシーソーから降りた清水先輩はそう言う。ここに来てからまだ10分も経っていないのに清水先輩はもうやり切った顔になっていた。

「私はこのまま帰るよ。良助の家はどっちなんだ?」

「ここからだと結構近い方ですけど……」

「じゃあ、ちょうど良かった。また会おう」

「ええ、また……」

 結局、終始振り回されたまま、清水先輩との時間は終わった。それでもまたと言われたのだから、清水先輩を知る機会はまだあるのだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...