産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生2学期

10月23日(土)曇り 岸本路子との親交その7

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 この日の午後1時。予定通り岸本さんと花園さんと共に勉強会を開くことになった。喋りやすい場所がいいということで、先週と同じ個室にできるカフェに3人は集まる。

 この前は午前中だったからお客さんはそこそこだったけど、お休みのこの時間帯になつと昼食後のティータイム的なこともあってからお客さんは多くいた。何とか席は確保できたけど、僕はこの場の空気に少しそわそわしてしまう。

「産賀くん、どうしたの?」

「いや……やっぱり女性のお客さんが多いんだなって」

「……はっ!? ご、ごめん。わたし、全然気が付かなくて……」

「別に大丈夫。ちょっと思っただけだから」

「普段も女子が多い文芸部へ行くのに何か問題があるのですか?」

 花園さんにそう指摘されて、僕のそわそわは吹き飛ぶ。それとこれとは話が違うと言いたいところだけど、たぶん花園さんの言っていることの方が正しい。

 そんな空気から始まった勉強会は岸本さんが苦手な数Ⅰを中心にやっていった。花園さんも同じく得意ではないと言うので、三人で同じ問題を解いてから答え合わせで間違った箇所について確認していく。

「結局こっちもこれお使えばいいから結局は公式を覚えて問題をいっぱい解く感じ」

「なるほど……わかったわ」

 数学は理科や歴史系に比べると覚えることは少ないはずだけど、岸本さん的にはそうもいかないらしい。だからこそ同じ式を使う問題を解いて身に付けるしかないと思う。

「リョウスケ、ここの間違いなのですが……」

 一方の花園さんは本人が苦手と言っていた通り、岸本さんよりも厄介な状況で……あれ? 何か違和感があったぞ?

「かりんちゃん!? 今、産賀くんのこと……!」

 代わりに岸本さんが全力で驚いてくれる。ということは、今のは聞き間違いではなかった。

「はて? 産賀良助だから名前はリョウスケで合っていたと思っていたのですが……」

「そうなのだけれど、そうじゃなくて……産賀くん!」

 岸本さんが助けを求めるように言うので僕も会話に参戦する。

「いや、昨日までさん付けで呼んでたの急にどうして……」

「急にと言われてもこれまでの件は昨日で一区切りついたので、今日からはもっと親しい呼び方にしようと思ったまでです。それとも他に呼ばれたい希望があるのですか?」

「それは特にないけど……」

 昨日も同じように突発的な行動をしていたけど、どうやらこういうやり方は花園さんにとって普通のことらしい。でも、僕や岸本さんからすれば距離の詰め方が突然過ぎて驚いてしまう。

「それとも華凛のことは名前を呼ばれるような仲でもないと……」

「違う違う! 急だったから驚いただけで呼んでくれる分には何の問題もないよ」

「そうですか。それならリョウスケも華凛のことは自由に呼んでも構いません。花園様でも華凛様でも」

「何故様付け推奨……僕はこれまで通り花園さんで」

「わかりました。改めてリョウスケ、ここの間違いを――」

 花園さんは何事もなかったように再び質問するので、僕はそれに対応し始めるけど、僕よりも驚いていた岸本さんの手は完全に止まっていた。岸本さんが花園さんから「ミチちゃん」と呼ばれるまでどれだけの時間を費やしたのかわからないけど、恐らく「リョウスケ」呼びはそれを遥かにしのぐ早さだったのだろう。

「ミチちゃん、どうしたのですか?」

 そんな岸本さんに対して花園さんは純粋に話しかける。

「どうもしない……けれど」

「……そういえば二人はお互いの呼び方は特に変わってないのですね。ミチちゃんはミチと呼ばれたいと言っていたのに」

「ええっ!? それはそうなんだけど……」

「リョウスケはどうしてミチちゃんと呼ばないのですか?」

「どうしてと言われても、僕が聞いた話では無理に呼ばないでもいいって言われたから……」

「そ、そうなの! わたしが言ったことだから……」

「そうなのですか? そもそもリョウスケはなぜさん付けにこだわるのですか?」

 そう聞かれてしまうと……特にこだわっているつもりはない。何となく女子を呼ぶ時はさん付けにした方がいい気がするのと僕が一番呼びやすいと思っているのが理由だった。僕はそれを花園さんに伝える。

「呼びやすい、ですか。別にミチちゃんも呼びづらくはないと思いますが」

「それは……まぁ、そうだけど」

 僕は岸本さんの様子を窺うけど、どうも自分のことで手一杯みたいだ。これは……呼び方を変えるべき流れなのか? 確かにこだわりはないから変えるのは問題ない……と言いたいところだけど、直前の僕の言い分は本音を隠していた。実際は女子を名前呼びすることは何だか恥ずかしいという何とも子供っぽい理由だ。

「……すみません。勉強を中断させるつもりはありませんでした。戻りましょうか」

「「ええっ!?」」

 少し考えていた僕と完全に油断していた岸本さんは声を揃えて驚いてしまった。

「はて? やっぱり続けた方が良いでしょうか、呼び方の話」

「「いや……」」

「でしたら、勉強に戻りましょう。他の教科もやっておきたいですし」

 そう言った花園さんは何事もなかったように勉強を再開してしまう。僕はコップを持って立ちあがると、同じく岸本さんも立ち上がった。水のおかわりは自分で入れるシステムだから……というのは二人とも建前だ。

 そして、僕と岸本さんは水を置いてある場所に着く。

「産賀くん。かりんちゃんはその……悪気があるわけじゃないの。かりんちゃんの独特の思考や世界を持ってるから緩急がある感じで……」

「わかってる。驚いちゃったけど、別に悪い感じはしないよ」

「良かった。あと……呼び方のことはわたし、全然今のままでも大丈夫だから」

「そ、そう?」

「う、うん」

 この微妙な空気をリセットするつもりだったけど、結局戻ってからもちょっと引きずってしまった。

 岸本さんの言った通り花園さんに悪気はないのはわかるし、たぶん岸本さんと二人きりの時はここまで振り回すこともなかったと思う。今回は普段いない三人目がいたから色々といつも通りではなかったのだろう。
 ただ、花園さん的には僕も親しくするべき友人にカウントされたようなのでそこは素直に喜んでおこうと思った。

 ちなみに勉強会自体はきちんと役割を果たせたので後は各々の努力次第だ。もちろん、僕も含めて。
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