産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生冬休み

12月29日(水)曇り 岸本路子との冬通話

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 冬休み5日目。この日、僕はようやく岸本さんからプレゼントして貰った『望遠鏡の中の君へ』を読み終える。貰ったのが約2週間前だから結構時間がかかってしまったけど、その半分くらいは集中して読めなかった期間もあるので、実際がっつり読み進めたのは冬休みに入ってからだったりする。
 
 そんな読後の達成感や充実感に浸る前に僕にはやるべきことがあった。この作品に対する感想を岸本さんへ届けることである。ただ、単に「面白かった」の一文だけでは良くない気がするから読書感想文のようなものを書こうと読み終える前から考えていた。

 僕はスマホのメモ書きに打ち込みながら文章をまとめ始める。LINEに送信するからそんなに長い文章だとかえって読みづらいし、岸本さん的にはそこまで求めてないかもしれない。その加減を考えながらまとめていったので、自分で想像していたよりも時間がかかってしまった。

 そして、自分で納得した文章ができた15時頃。読み終えた報告をすると共に数行の感想文を送信する。すると、すぐに既読が付いたけど、暫く返信は来なかった。冬休み中だからどこか出かけている可能性もあるし、僕としては送れたことに満足していたので、そのまま別のことをやり始めた。

 それから時間が過ぎて時刻は22時頃。岸本さんから意外なメッセージが送られてくる。

――産賀くん、感想ありがとう。読ませて頂いたわ
――それで、この感想に対する感想を書きたいと思ったのだけれど
――自分で書いていて何だかおかしなことをしていると思って
――もしも良かったらなのだけど……今から電話かけてもいい?
――本当に良ければだけれど!

 それを読んだ僕は「いいよ」と返信を用意をしたところで送信を押す前に指を止める。友達と通話することは大倉くんとは習慣のようにやっているけど、岸本さんと初めてのことだった。
 最近になってようやくこんな風にLINEを送るハードルが下がってきたから成長したと思っていたけど、電話となるとまた違ってくる。大倉くんの時にはまるで気にしていなかったのに、電話越しの僕の声はどう聞こえるのかとか、話題をちゃんと振れるだろうかと妙に緊張してきてしまった。

 2・3回ほど喉を鳴らした後、送信を押すとすぐに既読が付いて通話が開始される。

『もしもし、岸本です。今日は突然ごめんなさい。本当はすぐに返信しようと思ったのだけれど、さっき書いたことを考えてどうしようかと考えてたらこんな時間に……』

「ううん。全然暇だったから大丈夫。僕もすぐに感想を送らなきゃと思ったけど、もう少し遅めに送った方が良かったかな」

『わたしもメッセージを見た時は家にいたから大丈夫。でも、こんな風にしっかり感想を書いてくれると思ってなかったからびっくりしたわ』

「年明けに直接言っても良かったけど、忘れないうちに感想を出した方がいいと思ったんだ。無理やり読ませてみたいで悪いけど……」

『それで言ったらわたしも強制的に読ませるようにプレゼントしちゃったから悪いことを……』

 そう言いかけた岸本さんと聞いていた僕は通話でも謙遜しているやり取りをしていることに気付いて笑う。

『ふふっ。ごめんなさい、話がそれちゃったわ。産賀くんの感想、わたしと違う視点があって面白かった。この作品は読む人によって最後の展開に思うところが変わものだとわたしは思っているのだけど、産賀くんもそれを読み取ってくれた感じかな?』

「そこまで深読みはしてないけど、僕は――」

 いつも通りのやり取りの後は、スムーズに話が進んでいく。結局、通話で話してしまうなら書き起こす意味はあんまりなかったし、僕が通話をするという発想をしていれば良かったんだろうけど、岸本さんと通話で話すこと自体は新鮮な体験だった。

『産賀くんの声……通話越しだとちょっと低く聞こえるかも』

「えっ? そうなの? 僕は普段通りのつもりなんだけど……いや、家にいるからちょっと小さめの声になってるせいかもしれない」

『なるほど……あっ!? も、もしかして、わたしの声も変に聞こえてたりする……?』

「……ううん。全然そんなことないよ」

『い、今絶対何か言いたげな含みがあったのだけれど!?』

「それはその……僕とは逆にちょっとだけ高く聞こえる気がする。ほら、よくある電話だと声が……」

『うぅ……そんな風に聞こえるなんて考えてなかった……』

 一方、岸本さんも通話だと違う空気感を感じているようで、感想の話が終わった後はそのことを含めて暫く雑談することになった。

『産賀くん、今日はありがとう。部活でも言った気がするけれど、よいお年を』

 思わぬことになりながらも楽しい時間を過ごしたので、今日も少しだけ寝るのが遅くなりそうなのは仕方ないことだ。
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