産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生3学期

1月29日(土)曇り時々晴れ 岸本路子の成長その6

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 緊張の土曜日。なぜそうなっているかと言えば今日は岸本さんと二人きりで会うことになっているからだ。
 いや、二人だけになるのは校内だと部活帰りとかであるし、花園さんとしっかり知り合うまでは休日にそういう機会もあったから珍しいことではない。
 それでも妙に緊張してしまうのは校外で二人きりになるのは久しぶりで、その内容が単に遊ぶわけじゃなく何か話すことがあるからだった。

「こんにちは、産賀くん」

 待ち合わせは昼を過ぎた14時頃、岸本さんと会う時によく利用する喫茶店の前だ。だから、ここへ来るまでは慣れたものだけど、店の前で岸本さんを見ると更に緊張してくる。

「こ、こんにちは。今日はいい……天気でもないか。ちょっと曇りだね」

「うん。雨だったら延期にしようと思っていたからちょうど良かったわ。それじゃあ、入りましょう」

 岸本さんに促されて店内に入り、簡易的な個室に着いてから飲み物を注文する。その流れも特に変わらないものだけど、僕は初めて来たかのようにきょろきょろとしていた。

「産賀くん。早速なのだけれど……」

「えっ!? 注文届いてからじゃなくて!?」

「あっ……そうだよね。途中で話が途切れるのはよくなかったわ」

 話す内容をわかってないくせに思わず止めてしまった。
 そう、こうやって当日に向かい合っても岸本さんの言うところの少し話したい内容を僕は全く予想できていなかった。
 文芸部の創作に関わる話ならこれまでも普通に話してきたし、昨日部室で話してしまった方が早い。それに今回の内容は恋愛ものらしいから僕は戦力外だ。
 それなら勉強の件で何かある……かと言われると、それもわざわざここで話す必要はない。今日は特に勉強道具を持ってきていないし、それも学校で話せばいいと思ってしまう。

 それから少しばかり雑談をしていると飲み物が来たので、二人とも一口つけると、岸本さんは姿勢を正す。

「産賀くん。今日は本当にありがとう。別に学校で話しても良かったとは思うのだけれど……これはわたしと産賀くんの話になるから、まずは二人きりで話しておきたいとも思って、わざわざ来て貰ったの」

「いやいや。暇だったから全然」

 僕はそう答えながら岸本さんの言ったことを頭で繰り返す。僕と岸本さんの話と言われてもやっぱりピンと来ない。来ないけど……先ほどの二つ以外で、わざわざ呼び出してまで話すようなこと。しかも二人きりでとなれば……

「わたしが話したかったことは……」

「う、うん」

「……部長と副部長の話についてなの」

 ……そうか。その件があったか。確かに僕と岸本さんがやることになる話だ。それを聞いた時点で僕の緊張は一気に無くなった。岸本さんが思わせぶりなことを言う時は大抵想像している話とは違う話になることを忘れていた。

 いや、別に何か起こるとか、期待していたとかではない。でも、言い訳をさせて貰うなら、冬休みでそういう感覚が抜けていて――

「産賀くん? ボーっとしているけれど、大丈夫?」

「だ、大丈夫! それで……部長と副部長の話っていうのはどういうこと?」

「その……どちらが部長をやるかについて。そろそろ決める時期が近づいてるから」

「なるほどね。それなら……」

「ま、待って! わたしが言いたいのは……わたしが部長をやってみたいってことなの」

 岸本さんの発言に僕は失礼ながら驚いてしまった。今の流れでそれなら僕が部長をやると言うつもりだったし、岸本さんもそうして欲しいものだと勝手に思っていたからだ。

「き、岸本さんが……?」

「や、やっぱり、わたしはそういう柄じゃないよね……」

「ご、ごめん! 別に悪いと言いたいわけじゃなくて……」

「ううん。わたし自身もそうだと思ってるから。何なら副部長だって荷が重いと思うし。だけど……わたし、文芸部にはとてもお世話になっていて、毎週の活動が楽しいと思っているから部長や副部長を引き継ぐのは嫌じゃないし、むしろ先輩方への恩返しとしてしっかりやりたいの」

 岸本さんは少しだけ照れながらそう言う。

「それで、どうせやるのであればわたしがやりそうにないことに挑戦してみようと考えて、敢えて部長をやってみようと思ったの。わたしは人前で話すのはそんなに得意じゃないし、まとめ上げる力もないかもしれない。だけど、わたし自身をもう少し成長させるには色んなことに挑戦してみた方がいいと思ってて……」

 岸本さんの話を聞きながら僕は気付いた。冬休み明けから感じていた岸本さんの雰囲気が変わって見えたのはこれが原因だったことに。それは部長をやろうという決意だけではなく、成長しようと前のめりになる思いが雰囲気として出ていたのだ。

「それに、産賀くんなら自分が部長をやるって言ってくれそうだったから、わたしが副部長に甘えるわけにはいかなくて。あっ。もちろん、副部長の水原さんが甘えてるとは全く思ってなくて、大変なのは知っているのだけれど……」

「大丈夫、わかってるから。でも、それなら副部長でも挑戦にはなりそうだと思うけど」

「……さっきは先輩方への恩返しと言ったけれど、これは文芸部みんなって意味で、その中には……産賀くんも含まれてるの。だから、楽をして欲しいというわけではないのだけど、産賀くんも選択できるようにしたくて……」

 岸本さんにそう言われて、僕は心がじんわりしてくる。岸本さんがそこまで考えてくれたことやそれを僕へ伝えてくれたことが素直にうれしかった。

「……わかった。現状だと僕が部長をやろうって考えよりも岸本さんが部長をやりたいって思いの方が強いと思うから岸本さんに部長を任せることにするよ。もちろん、僕も副部長になるんだから二人で協力してやっていくのは前提で」

「……! ありがとう、産賀くん」

「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。正直、部長と副部長の話なんてもう少し先だと思って何も考えてなかったから具体的に考えてくれていて凄いと思う」

「そ、そんなことは……でも、部室で急にわたしが部長をやると言ったらみんなに驚かれると思ってたからまずは産賀くんに相談してからって考えてたの」

 そう言われると、僕もその場で聞いていたら今日と同じ反応をしていたので岸本さんの考えは合っていると思う。もちろん、驚いた後には先輩方も後押ししてくれるとは思うけど。

「わたしの話はこれで終わりだけど……このままもう少し話してもいい? 部室ものんびりだけれど、本当に話すだけの時間はあんまりなかったから」

 そう言った岸本さんは先ほどよりもリラックスしているように見えた。僕とは別の意味で岸本さんも緊張していたのだろう。その後は岸本さんと色々な話題を話すことになった。

 少々浮かれた心があった自分が恥ずかしいけど、岸本さんが自分で成長しようとする姿を最初に見られたのは本当に嬉しい気持ちがあった。僕もそういう積極性は見習っていかなければ。
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