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最上αの悩み
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ーー至高のαの悩み
「城山さーん、出番ですよ」
「うん、ありがとう」
今回はラブシーンだ。相手はαの女優、三浦綾子。
シーンは二回撮り直しでOKが出た。
「今日も美形ねぇ、城山さん」
「ありがとう三浦さん」
「αの私でも、女だし結婚してくれれば良いのに」
何度も言われる言葉。
「気持ちは嬉しいけどね」
三浦綾子は三十代前半だが、美しいα女性だ。
相手としては問題ない。
「城山さーん! お疲れさまですぅっ!」
びたっとくっつくのは競演のアイドルα男性の羽川。
「お疲れ様です、羽川くん。それじゃ、取材があるから」
その場の全員が城山要を見送る。
「はーっ、格好いい……。
あれこそまさしく至高のαって感じよね」
「抱いてほしーなぁ」
「βの男に興味ねぇかなぁ……」
「Ωとか、近寄らせないほど、αからのガードもきついですしね……」
αすら魅了するフェロモンが出ている男、それが城山要だった。医者からは、αでも数度抱いたら孕める身体にしてしまうかもと、注意を受けるほど。
城山は手当り次第にとって食うほど、節操が無い男ではない。
男女共に魅了する美形だが、中性的ではなく男としてαとして相応しいと言える。自信家にも見える支配者の姿をした男なのだ。
そんな城山だが、生まれた性がαだけにΩには興味があって近づこうとしたが、そんなときに芸能界入りをしてしまった。
周りはαとβばかり。Ωもたまに居たが、話しかける前に、男女問わずαやβが邪魔をする。
お陰で、Ωの匂いも知人もおらず、好みの女性が出来ても他の者達からの嫉妬に耐えれず彼女には逃げられて、四十二まで独身である。ついでに童貞という秘密がある。
ただΩとはどんななのか知りたいだけだったのに、匂いもよくわからずしかもαなのに性欲も薄い。
そんな城山のことを知る事務所内からも結婚のOKは出ている。むしろ推奨されている。法律ではαは二人まで嫁にできるとされていることもある。優秀な子供を増やすためとはいえ、嫌で仕方ない法律だ。
事実、城山は良い成績で大学を卒業している。勿論努力もしたが、覚えが良い。研究職につけば、と惜しまれたくらいには頭がいい。
そして研究材料として城山自身も望まれている。
αでも特殊なのは、小学生時分から定期的に検査され、実験体に近い扱いもあった。
その待遇が許せなかった両親が、芸能界へと押し入れたのだ。芸能界で知名度が少しでもあれば、無碍な事は出来ないだろうというのが芸能界に入った理由である。
そして事務所が子供を望むのは、生まれる子供が間違いなく美形であろうと言っているので、俳優として城山の跡継ぎにするつもりではないかと疑っているが。
相手はそんなに簡単に出来るわけもなく、一人寂しい日々を重ねるばかりだ。
「今日の取材は、今度映画で神父役をやるので、本物の神父さんに実情を聞こうという事です。
城山さんは役作りも本格派だから」
「神父役などやるのか? 初耳なんだが……」
「殺人事件の神父役を、城山さんが演るなど犯人以外考えられないでしょう? そこがミソだそうですよ。途中から刑事とバディを組んで犯人を突き止めて、死ぬ役だそうです」
「刑事役は?」
「黒田さんです。苦手でしょう黒田さん。だから今回一度だけでいいからと、プロデューサーからも言われまして」
「そうしてくれ」
黒田は城山を嫌うαの一人だ。
αとして負けたくない、そう思う心がさせるのだろう。
そんなやつと現場を一緒にやりたくない。ギスギスした空気が苦手なのだが、黒田がいるとどうしても空気が悪くなる。
ましてや主役は黒田なのだから余計にだ。
同時にドラマの話があるので、それも聞きつつ、城山はぼんやりと考える。
このままで恋人など出来るのか、と。
大きめの教会に入ると、出迎えてくれたのは二人の神父だった。
一人は位の高い司祭だという。年齢は城山と同じくらいだ。
だが、目が離せないほどの美形だった。
ふんわりとした感じの優しい声目元。艷やかな黒髪に鍛錬を怠らないという引き締まった身体。
初めての感覚だった。身体の奥から痺れ、頭の芯がじんじんとする。
「……城山さん!」
話す場所として選んだのは応接室。
「あ、ああ。え、えっと道原神父は、どうしてこの道に?」
「神に縋りたくなることがありまして。今は、共に歩めておりますよ」
にこりと笑う。
彼はΩの匂いとやらはしないのに、Ωであると頭が訴えていた。初対面でバース性を聞くのは失礼にあたるので聞かない。ましてや城山は聞きたいと思った事がない。
普通ならばわかるらしいが、城山にとってはαもΩもβもあまり変らない。
「取材、長引きそうなんで外観の写真とか撮ってきます。案内してもらって良いですか?」
と、見習いと共にマネージャーの片町くんが行ってしまった。
「そ、それでは続きを……」
目があった。優しく、城山を見てとろりとした目。
何度も向けられた事があったが、今回は違った。
自然と顔が近づき、机の上でキスをしていた。残念ながら、役でファーストキスはとっくの昔に済ませてしまっていたが。
自分での意志でしたキスは初めてだった。
信じられないほど、甘い香り。
「道原神父……」
彼が手を引き、ソファーから離れた。キスを繰り返しながら、道原の手でズボンを弄られる。ズルンと出てしまった息子はもうギチギチに勃っていた。
「城山さん……」
甘い声で囁かれた。
ズボンを下ろして、後ろを向くと膝をつく道原神父。
そこはもう濡れて蜜を垂らしていた。
「すみません……!」
欲に耐えきれない事に謝りながら、同じく膝を付き腰を抑えるとゆっくりとそこへ挿入していく。
(嘘だろ、こんなに気持ちいいのか……)
とろけてしまいそうなのに、気持ちだけは逸る。
濡れて狭いのに襞で擦れて気持ちがいい。
ゆっくりと濡れている中をこじ開ける。びくりと反応する場所を突上げ、声を上げる道原にもっと気持ちよくなって欲しいと熱に浮かされたような頭でも考えてしまう。
じゅぼじゅぼと音を立て道原を犯して中に吐精し、そして今度は抱き抱えてより深く貫く。彼の奥に届くように。
「ぁんっ、あんっあぁ!」
恥ずかしそうに、それでも気持ちよさそうな声。しがみつき、腰を動かして奥へとねだる道原神父。
その項に噛み付いて、所有の証を刻みたい。それを我慢する。そんなことは許されない。無防備な項が憎い。
二度吐精して、少し冷静になったところで窓から外を歩く二人の姿が見えた。幸い声は聞こえてなかったらしい。
もう戻ってきてしまう。
ずっと引き抜くと、それも気持ち良かったのだろう。こぷと精液が道原神父のペニスから出てくる。ハンカチで前を慌てて拭うが足りない。
後ろはタオルでないと駄目だろう。抜いた途端にドロリと大量に城山の精液が出てくる。道原神父がすでに近くの棚からタオルを取り出していた。
「私のは、んっ、服で隠せますっ……。はあ、それよりも、しまって」
真っ赤な顔で城山のペニスを指す理原神父。慌てて濡れたままペニスを仕舞うと気持ち悪いが、仕方ない。ハンカチもズボンに突っ込む。
「はっ、はっ……、す、すみません、道原神父。本当にすみません。ああ、私はこんなことをするつもりなんて無かったのに!」
完全に強姦だ。しかも神父を。
αとして、最高峰のフェロモンで、きっと誘惑してしまったのだ。こんなこと初めてで混乱する。
ヒート事故など無いようにと見せられた教本のままだ。
しかし、道原神父はどう見てもヒートではないし、自分もヒートに当てられたわけではないので、さらに混乱する。
「訴えてくださって結構です! 本当にすみませんでした!」
「お、お互い大人ですし、私も……その、気持ちが良かったです。無かったことにしましょう。ね?」
「………後で訴えてくださっても構いません。
慰謝料も払います。これ、個人的な名刺です」
今までのキャリアを全て無にしてしまうような事。
でも何故か後悔がなかった。
「……貴方に憧れていたので、光栄ですよ」
タオルを当ててズボンを履いて、ソファーに座る。少し気持ち悪いのか、もぞもぞしているのが、城山には悶ているように見えて、昂りかける。
「は、初めてなので……こ、恐いです。直ぐに病院に行ってください。……生……でしたし」
「は?」
「え?」
なんでそんな顔をされるのだろうか。
「待ってください、天下の城山要がっ!?
あんなに私も初めてなのに気持ちよくさせてくれたのに初めて!?」
「……え? いや、その……道原神父も初めてなのに、あんなに善がって……」
此処から先はお互いに触れてはいけない一線だと口を閉ざす。丁度、マネージャーと、見習いが帰ってきたところであった。
「お、お帰りなさい。良い写真は撮れましたか?」
道原が声をかける。少し焦った感じでの問いだった。
「歴史ある教会で凄いですね! ありがとうございます。撮影もここをお借りするかもですね~。
城山さんも演技のコツはわかりましたか?」
「ええ、道原さんのお陰です」
清らかな神父の身体を犯して、童貞を卒業していたとは言えない。わかったのは、セックスは気持ちいい事です、など使えないにも程がある。
「お役に立てたなら何よりです」
ニコニコと優しい顔で笑うが、目元が少し赤い。喘いだ時に涙が出ていたのだろうか。
「また、お話を聞ける場があれば嬉しいですね」
今度こそ、普通に取材をしたい。出来ればちゃんと謝罪もしたい。
「役作りに拘るの、城山さんの悪癖ですよ!
もー、スケジュール見てみますね」
その間も、城山はドキドキとする胸を抑えそうになる。
初めての事だった。童貞を失ったばかりということもあるだろう。
(本当に気持ちよかった。やはりΩだろうか?)
匂いも甘い香りがした。嗅いだことのない、いい匂い。
そして、あんなふうに人を抱けるのだと自分でも知らないくらいだった。演技ではあっても、実際は違った。
(挿れただけで射精しちゃうかと思った……)
この男前の神父に、すっかりと魅了されてしまっていた。
「暫くは昼間の時間は難しいですね……。三ヶ月先まで色々入ってます」
「そうか……」
「では、またの機会に」
にこりと道原に笑われて、こちらも笑みを返す。
本当に綺麗な人だと思う。
別れ際に握手をしたが、その手を車の中でずっと握りしめて、今日の自慰に使おうと心に決めるほどだった。
「うっわぁ、なんか最近一段とαのフェロモン凄くないですか? βの僕でも分かりますよ?」
撮影現場で言われ、城山は首を傾げる。
「そうなのかな?」
童貞を卒業したからなのだろう。
前よりもフェロモンが濃くなったらしい。
「雰囲気も、前よりも変わりましたね」
「そ、そうかな?」
男として、αとして少し自信がついたのは間違いない。
彼を知って、自分は成長したのだ。
「……相変わらずフェロモン垂れ流しオヤジが……」
けっと、黒田が悪態をつく。
まだ三十代前半だが、演技は上手く、次代の城山と言われているのが気に食わないらしい。
「私は君ほど演技は上手くないから、頑張るよ」
「てめぇが下手なら世の中の人間だめなのばかりだぜ。嫌味かよ?」
「コラコラ黒田くん、チンピラみたいに絡まないの!
君は真面目な刑事役!」
「へいへい」
監督に言われて、背筋を伸ばす。役に入り込んで顔つきも変わる。
(うん、黒田くんはいい男だ)
αらしく格好いい。
(私は神父、そう、貞淑で……)
思い出すのはあの道原神父。毎日あの道原神父の精子や蜜液を吸ったハンカチを自慰のオカズにするくらいに思い出深い人。変態行為なのは自覚している。
そのままの姿を思い出しながらシーンが始まり、神父の演技をする。
「ええ、彼はよく知っていますよ。
ふふっ、懐かしい写真だ。彼が若い時のですね」
そっと写真を指先で撫でる。
「カッーートッ!!」
台詞を間違えたろうか?
「黒田くん! 台詞忘れたのか!?」
「すみません!」
真っ赤な顔の黒田にぎっと睨まれて、おろおろする城山。なにかしてしまったのかと焦る。
「次は黒田くんの台詞からね。
今の城山さんの演技、めちゃくちゃ良かったから、絶対に残す!」
滅多に人を褒めない監督の言葉に、皆が頷く。
「今までの城山さんにない色気感じました!」
「新しい魅力ですよ!!」
「イケナイ気持ちになりそうです」
「そ、そうかな? 褒めてくれてありがとう」
何を演じても褒められてしまうことが多いが、こんな風に言われて嬉しくないわけかない。
「……城山さんの演技に飲まれて、台詞を忘れました……、すんません。気をつけますっ!」
ヤケになったように言う黒田。
しかし、二人のシーンとなると、どうしても黒田の演技が乱れる。
結局その日は早く終わりにすることになった。
メインの一人が、不調では話にならない。理由はわからないが、そういうことが現場で度々ある城山は、気にしなかった。
(そういえば……訴えないのかな……)
道原神父を思い出す。毎日思い出してはシテいるのだが。
あれは同意のない強姦だ。マスコミに売られても良かった。
些細なことや有りもしないことで騒がれているのに疲れてきている。
それに何よりも、『無かったこと』にしたくなかった。
その日スマホに知らない番号からのメールが届いた。
「…………」
考えた末に、翌日のオフだと返信をする。明日は撮影が難しいだろうと言われている。出演者が軒並みおかしいらしい。流行病かも知れないと休みになった。城山は元気なのだが。
すると相手から了承があった。
マネージャーにもこのことは言えなかった。
待ち合わせたのは、口の硬いコンシェルジュのいる高級ホテル。
夕方のチェックインに合わせて入る。
人と合わないようにしてくれるのがありがたいところだった。
「……こんにちは、道原さん」
緊張しながら待つこと二十分。彼は流石に私服だったが、質のいいスーツを着ていた。
「こんにちは城山さん。まさか会って欲しいという願いを聞いてもらえるとは思わなかった」
穏やかな笑み。道原からはふわりと甘い香りがする。
ソファーに向かい合わせで座りながら、お互いに視線は合わせない。
「……流石、至高のαなどと言われるだけありますね」
「?」
しかし、不思議なことを言われて城山は首を傾げた。
「その、道原さんは……」
「あの時はしてませんでしたが……Ωです」
やっぱり、と思う。今は首に保護のチョーカーをつけている。
「いつも抑制剤も飲んでおりますし、ああいう場所ですからね。αの方も距離がある。あの時は取材だと言うので油断していました。
これほど近くにαの方が居られるのは、久々です」
緊張はお互い様らしい。
「それで、提案……とは?」
「……不公平だとは思いませんか?」
「んん?」
道原が赤い顔で言う。
「その、私が神父なのはΩだからなのですが、もう一つ理由がありまして」
「はい……」
「ゲイなんです。それで、父が心配をして神学校へ進ませたのです。
言っておきますけど、本当にあの時まで童貞処女です」
「あ、あの時は、本当にすみません!」
土下座をして、城山は謝るしかない。
「もう終わった事ですから……。それに貴方にも言いましたが、私は貴方に憧れていました。
バース性なんて関係なく、その…、大人としてはしたない行為でしたが……。
憧れの貴方に抱かれて……嬉しかった」
「本当にすみません。その、道原さんが魅力的過ぎて、自制心が効きませんでした。
だからといって、まさかあんなふうに自分がなってしまうとは」
今も抑制剤を余分に飲んでいる。
それでも道原を前にすると動悸と欲が湧き上がる。
絶えず甘い香りがするのだ。
「だから、逆をお願いします」
「はぇ?」
「言ったでしょう? 私はゲイなんです」
「つ、つまり……私が、貴方に抱かれる?」
「あの時と逆。それでチャラにしませんか?」
それで気が済むのなら。
「…………分かりました」
至高のαと呼ばれている身がまさか、男に抱かれる日が来るとは。それでも良いと思ったのは、少しでも道原に触れたかったからだ。
「ベッドに行きましょうか」
「……はい」
初めてのことで、どうすればよいのかわからない。
オロオロとベッドの前で靴を脱ぐべきだとかどうするか迷う城山。
「……本当に童貞だったんですね……」
「恥ずかしながら……」
「私も経験がないので……。取り敢えず服を脱いでベッドに上がりましょうか」
「は、はい……」
「チョーカーだけはつけさせておいてくださいね」
「も、勿論です!」
ベッドに上がり、仰向けになるように言われる。
「すみません、私も知識だけしかないので」
ローションで濡らした手でくにくにと城山のペニスを刺激する。
既に立ち上がりかけていたものは、あっさりと勃ってしまう。
(ああああ! 恥ずかしい恥ずかしいっ! こんなの現場でだってならないぞ!)
裸の道原が魅力的すぎるのだ。同じものがついているし、鍛えていて、しっかりとした体格なのに、物凄く色っぽく、興奮する。
「んぐっ?」
「こっちも弄らせてくださいね。
Ωとは違ってすぐ入りませんし」
「あ、ああ……」
覚悟は決めたのだ。尻に指が入っていても気にしない。そこを使うのだから。
しかし他人の手淫が気持ち良すぎる。
道原の匂いも良くて、あっさりと射精してしまった。
「……疲れてて、ろくにしてないんですね……」
そんなことはない。このところは、道原との行為をオカズにして頻繁にしていたのだが。
同情されて口には出来なかった。
くちゅくちゅと尻の方も段々と奥に、そして指が三本になっている。
「……ぁん? へ、変な感じが……んぁっ!」
「気にせずに……感じるところがあるんですよ。その、キスをしても?」
「も、勿論!」
むしろ望むところだ。
ハリウッドのキス専門の講習会でも、何人もの講師の相手の腰を砕けさせた笑い話がある。
「……ん」
キスだけで気持ちいいほど、道原からは濃い匂いがした。あの時には匂わなかった、とてもいい匂い。
「Ωというのは、みんなそんなにいい匂いがするのかな……?」
ぼんやりとしながら、呟く。
「それはわかりませんね。私には城山さんの匂いのほうが気になります。凄く……いい匂いだ」
スリスリと顔を胸元に寄せられて、抱きしめたくなる。
だが、今は我慢だと自分に言い聞かせる。
無体なことをした、その仕返しに来ているのだから。
「そろそろ入りそうです。Ωのはαの方より小さいですし」
(いや、十分な大きさだけど!?)
道原が城山の足を広げて、そこに陣取る。
城山の腰にはクッションが置かれ、高さを上げられていた。
「……城山さん……」
「道原さん、いつでも」
ゴクリとつばを飲む。
ぬるっとしたものが尻に入ってくる。
圧迫感と、質量に痛みもあるが、それ以上に、道原の表情に心が騒ぐ。
ぐっと根本まで飲み込み、城山は息を吐く。
(これで俺は童貞も処女も失ったのか……)
それは複雑な心境であった。αは常に上の立場でいたいと思う支配欲の強い性質だ。
それが今犯されている。
「動きますからね。痛かったら言ってください」
ゆっくりと抜き挿しをしていく道原。
「んぁっ、ぁあっ」
その気持ち良さに、声が出てしまった。ばっと口を押さえたが、にこりと道原が笑うと、動きが激しくなる。
気持ちがいい。
犯されていく身体が快楽を拾って、声が抑えられなくなった。
動きに合わせて腰を振る。気持ちのいいところに当たるように。
「んぁっ!」
射精してしまうと、中でも熱い感触があった。ゴム越しとはいえ、射精されたのだろう。
「……ありがとうございます」
ズルっと引き抜くと、ゴムをどうやって取るのか悩みながら道原が言う。なんとかゴムは取れて、ゴミ箱に捨てるために結んでいる。
なるほどそうするのか、と怠くなった身体で思う。
「これで満足です。憧れの貴方を抱けた、それだけでもう……」
真っ赤な顔で、道原は言う。
「私は馬鹿な男です。
憧れの貴方が……αだと知っているのに、こんな思いをさせてしまった。きっと嫌だろうと思っているのに、一度だけでもと」
「………正直」
城山は道原を抱きしめる。
その身体に顔を寄せて、すうっと匂いを嗅ぐ。
「とても驚く提案だったし、戸惑った。
僕に近づく人は大体抱いてほしいしか言わないから」
何度襲われたか。
トイレすらも気を使う始末だった。
なのに。
「貴方のはとても気持ちよかった。とても気を使ってもらったでしょう?
それに受け身も嫌いじゃないとわかった。
……ありがとう道原さん」
もう一度キスをすると、道原がもじもじとうつむく。四十前後に見える道原だが、可愛いと思ってしまった。
「その、疲れているとは思うのですが、もう一度……私を抱いてくれませんか」
「……良いのですか?」
「はい。その、この前のでちゃんと避妊薬は飲んでますし……その……ゆっくりと貴方に抱かれたい。
あんな短い嵐のように抱かれるのではなくて、ゆっくりと貴方を感じたい」
願ってもない提案だった。
「たった三十分だったのに、貴方が忘れられなかった。
道原さん」
キスをすると、そのまま押し倒す。
「お願いします、城山さん」
こんなふうに誰かを抱きたいなどと思ったことはなかった。
ゴムを慌ててつけていると笑われてしまった。焦らなくてよいと。
落ち着いてゴムを初めて付けると、一応ローションも使って濡らしてから道原の中へと挿入する。
生でとは違うが、やはり気持ちいい。中も濡れていた。
あの時よりも熱く、狭く、進むだけで気持ちがいい。
挿出をゆっくりと始めたが、いつしか夢中になっていた。
喘ぐ道原にピッタリとしがみつかれて、それも嬉しい。
あの時と同じく、城山は道原に我を失いつつも、腰を振っていた。
「今日は泊まりで、明日の朝に出ましょう」
二人でジャクジーに入り、キスをしながら話す。
「本当に二回目か疑いたくなりますよ、要さん。
凄く気持ちよかった……何回出したのか覚えてませんよ?」
「最初に僕を犯してた祐希さんこそ、初めてか怪しいですよ」
クスクスと笑いながら、城山は道原の秘部を撫で、少し指先を入れたり、道原の手は城山のペニスをつっと触る。そんな触れ合いも当たり前になっていた。
城山は胸の道原の飾りを揉みながらだ。前戯も無しだったので、少しでもと憶えている記憶を頼りに気持ちの良い場所を探していた。
まだ二回目の出会いで、お互いに二回目なのに。
「頑張りましたから。貴方のフェロモンに負けて、ここを入れて欲しくなりましたよ、何度も」
「……僕も後ろに入れてもらうの、とても気持ちよかった。その、またしてくれないですか?」
「え……?」
ちゅっとキスの跡を道原の胸元に残す。
道原の太腿や陰部の周りはキスマークだらけだ。どうやら城山はキス魔らしい。
「貴方を襲ってしまう、意志の弱い男ですが……貴方が……好きです。
ゲイでも構わない。むしろ、気持ちよくさせてもらって嬉しかった」
まだよく知らないのに。
「……わ、私で良いのですか……?
いや、私も抱きたいし、抱かれたいのですけど」
「勿論です。その、初恋で恋愛経験がゼロなんですけれど……」
「は?」
道原が呆然とする。
「貴方と会って、してしまってから……僕はずっと貴方のことしか考えてなくて。
こんなこと初めてだったんです」
訴えられるかもという不安もあったが、それ以上にもっと会いたい、抱きたいと願っていた。
「い、いいの……ですか? 私のような一般人が!?」
「会えるのが稀になってしまいますが、それでも貴方とまた繋がりたい。抱かれたいし……抱きたい」
城山は真剣に言う。
「勿論、ヒートの時も、その、スケジュールを」
「いえいえ、そこまでしなくても! そもそもヒートは抑えてますし。……本来なら匂いもしないくらいΩとしてはバース性がおかしいのに」
「祐希さん、貴方が好きだ。身体からの関係になってしまったけれど」
ぎゅっと背後から抱きしめると、その腕を包んでくれる道原。
「私も好きです、要さん」
告白の後でもう一度盛り上がって、城山が道原を気絶するまで、抱いたのは仕方のなかったことだろう。
「あれ、城山さん。今日も一段となんか……めちゃくちゃ色っぽい……」
ぼーっとまわりがなるほどのαフェロモン。
同じαでもβでも、魅了してしまうほど出ている。
「おはよう。今日もいい天気だね」
本人はのんきにスマホをいじっていた。そんな姿は珍しい。
「スマホなんて嫌いって言ってたジジイがよっ」
「使って見るものだね」
恋人と小さなやり取りすら、楽しくて仕方ない。
その為にフェロモンが撒き散らされ、それに黒田も当てられているなど知りもしなかった。
(社長の許可も取れたし)
恋人が出来たので、仕事を控えたいと申し出た。もちろん反論があったが、それなら事務所も仕事もやめると言うと、黙ってしまった。そして、マスコミには言ってもいいが相手に迷惑をかけるなよと、念押しされた。
マスコミにバレると追っかけ回されかねない。ましてや神父なのだから。秘密のつもりだ。
(あー、祐希さん、可愛い……)
照れながら、仕事中だよ、と掃除をしている写真を送ってくれている。
こちらも何度も写真とメールを送る。こんなふうにやり取りができるのが嬉しい。
「それじゃ、シーン42、始めます!」
カチンと音がする。
神父役の城山が、再び聞き込みに来た刑事にのらりくらりと返答をする場面。
「なんで、そんな大事な事を黙っていたんだ!?」
黒田が胸倉を掴むと、その手をそっと城山が包む。
「大事なこと? 貴方はもっと大事なことを見落としているのですよ、刑事さん」
途端、くたりと黒田が座り込んでしまった。
(あれー? こんな展開だったかなぁ?)
見下ろすと、勃起していた。城山の視線に気づいて慌ててスーツで隠す黒田。
「へ?」
「あー……カットカット! 黒田くん、休んで。
城山さん、ちょっと……」
「はい?」
真っ赤な顔で、荒い息の黒田が心配ではあったが、流石にあの状態を自分がどうにかしてやれるわけがない。
監督に呼ばれて、城山は首を傾げる。
「何でしょう?」
「もうちょいフェロモン抑えてもらえますかね……?
黒田くん、貴方の色気で腰砕けちゃったんですよ」
「え、まさか! 黒田くんはαでしょう?」
「この前から、余計に色気が増してるだよね。
……その、何人ものβも演技でイっちゃっててね……ここ、普通のサスペンスドラマなのに、なんかAV現場かってくらいの雰囲気出ちゃってるんですってば。
演技としては文句なしなんだけどね」
「そ、そうなの?」
全然気づかなかった。マネージャーも何も言わなかったので、気にしてなかったのだが。確かに人が少ない。
「気をつけます」
「急にそんなになるなんて……恋人でも出来たとか?」
「そんなことないですよ」
と、にこりと演技で笑う。
本当は出来た。それはもう大切で仕方ない人だ。
「ともかく、もう少し抑え気味でね。
黒田くん、あれじゃまともに演技できないし」
城山以外は知っている事だが、黒田は本気で城山のことが好きらしい。というか、城山と共演した者は大体が惚れてしまうのだ。男であれ女であれ、αでもβでも。
だから、Ωとの共演はNGとされている。スタッフもΩはいない。
Ωがどうなってしまうかわからないからだ。
本人は知らぬところで物凄い影響がある。
恋人がいる、などと言ったら大騒ぎだろう。
今までも恋人疑惑は山程あったが、城山は童貞だった。
つまりみんな相手の勘違いや嘘なのだ。
「気をつけますね」
ニコリと笑った城山に、監督すらもきゅうんと胸が苦しくなる。
「……ああ、気をつけて」
これは無意識で無理だ……と、監督は思った。
クランクアップまでの時間が伸びたが、映画は凄まじい動員数を稼ぎ、全世界公開へとなった。
そして、城山はダブル主演での賞を山程もらうことになる。
今までにない城山要の魅力。
その演技に皆が圧倒されたのだ。彼に引きずられるように、演者達も質が高かった。
「映画凄いね。何回か観てきたよ」
道原が城山に抱きつき、キスを受けながら言う。
「観てくれたの? 嬉しいなぁ」
キスをして、またゆっくりと正面から挿入していく。
「んぅっ……ぁ……」
「気持ちいいかな、祐希さん?」
「入ってるのが、気持ちいいです……んっ。
……最近は普段は無いと不自然なくらい」
びゅくっと、小さく射精している。
城山は軽く腰を動かして、道原の感じるところを擦る。
「ぁぁ……」
「祐希さんを参考に演じさせてもらったんだよ」
「そ、そんなっ……んぁ!」
世界での今回の映画で城山の演技は総じて『蠱惑的』だったのだ。参考にしたと言われた道原が嘆くのも当然だろう。
「だって、僕の知る知的で貞淑な神父像は貴方だけだったから」
少し動きを早めて、奥を突く。もっと気持ちよくさせてあげたいと思ってしまう。
「や、ぁ、イくっ……!」
城山の腹で擦れたのもあるだろう。白濁がどぷっと出てくる。
「僕はまだなんだ……ごめんね、祐希さん」
片足を肩に掛けるようにして、さらに激しく動く。
「ぁぁっ、んぁっ、ぁあ!」
「好きだよ、祐希さんっ!」
ぐっと奥で達する。ゴムはつけているので、熱だけでも伝わったろうかと思う。この愛しているという気持ちは。
「……ん」
まだ中に入ったまま、その身体を背後から抱きしめる。
びくんびくんとまだ感じているらしい。
「貴方とこうして付き合ってから、僕は本当に幸せを感じてる。
知らなかったんだ、人肌がこんなに気持ちよくて、セックスが良いなんて」
「さっきも、泣いて喜んでましたからね」
「意地悪を言わないで。……貫かれると、気持ちいいんだから、泣いても良いでしょう?
君だって泣いてよがるもの」
ちゅっと、城山は肩にキスをする。
この頃は、最初に城山が抱かれて、その後に道原が抱かれる、そんな事が三回に一度。だが、道原が城山を抱くのは大体一回だけ。そこで道原も城山に抱かれたくなってしまう。
ただ少し日を置くと、城山が興奮してしまい会うなり夢中で、道原を抱くときもある。
お互いに若くないというので翌日に予定があるときなどは控える事もある、節度あるお付き合いだ。
と言っても、体力のある二人なので他を知れば自分たちがヤリ過ぎなのは知らない。
「私ので要さんが泣くほど喜んでくれて嬉しいですよ」
「演技ではあんなに泣けないよ。
祐希さんのは本当にクるものがあるから」
「要さんに……んっ、い、挿れられる度に、気持ちよくて……ぁぁ……ん……何度も強請って、し、しまってすみません」
またゆっくりと動いてるからか、快楽を感じながらも話してくれようとするのが嬉しい。
身体を重ねるたびに、どんどんと好きになって行く。
マスコミに常に狙われている身でも、会いたくて変装するくらいに。
「一度、イくね?」
こくんと頷かれて、腰をぐっと引き、挿れる。
動き出すと、さらに可愛い声で喘いでくれる。女優の喘ぎなど、道原に比べれば可愛くなどない。
演技だと丸わかりだ。
「はぁっ……んっ……」
吐精して、ゆっくりと引き出すと、ゴムがパンパンになっていた。それを手早く捨てると、次のを着ける。何もする気がしなくても……万が一、自分の理性が飛んだ時のためにだ。かなり手慣れてきたのが誇らしい。
「水、持ってこようか。それとも紅茶?」
「あ、あれば温くて良いので紅茶をお願いします……」
ぐったりとした道原。その声がまだ気持ちよさの余韻を引きずっている。
「落ち着いたら、食事を頼もうよ。ここのは美味しいからね」
「ありがとうございます要さん」
エグいスケジュールを調整して半日空けられたのは、幸運だったと思う城山だった。
ーー至高のαの虜
ガンガンと壁に頭を打ち付けて、黒田は自分が情けなくて堪らなかった。
(せっかく、今回だけって共演してくれたのに!)
思春期に観たドラマに、出ていた『彼』を見た瞬間、恋に落ちていた。
至高のαなどと言われている彼は、画面越しでも美しく、格好良く、男前で色っぽかった。
同じαでも惚れてしまうくらいに。
だが、同じ世界に入って、わかったのは彼が『特別』だということ。αであるだけではやっていけない、自分の色を出さなければいけない世界だった。
城山に追いつけない。それでガラが悪くなった。
城山本人を前にするとαとしてコンプレックスが出て、憎まれ口を叩いてしまう。
こんなことが言いたいわけではない。
憧れています、大ファンです、好きです、付き合ってください、抱いてください……
医者には強いαのフェロモンに当たられすぎて、バース変わっちゃいますからね?と忠告されたくらい。城山程のフェロモンだとαすらもΩに出来るだろうと言われている。
黒田としては望むところだ。
なのに、苦手とされているのがわかってしまい、さらには勃起しているところも見られた。
(いつも雄って、感じをさせてるのに、今回の神父役、なんだよあれ! 色気あり過ぎだろ!!)
抱かせてください、と言いかけて台詞を止めてしまったことも何度もある。
あの誘うような目つきに、指先。
しかし、締めるところではいつものαの城山なのだ。
『君が間違っているわけじゃない! 皆が掛け違えたんだ!』
そんな台詞を言うときは、人を魅了するαの顔。
死ぬはずの城山の役どころを生死不明にしてくれてありがとうと、監督とプロデューサーに言いたい。
そして、世界でのプロモーションも一緒なのが嬉しかった……なのに、しくじって城山に悪態をついてしまった。
『このあとインタビューだろ。いつまでスマホ弄ってんだよジジイ』
しょんぼりしてしまった城山。そんな顔はさせたくなかったのに。
しかし、黒田が頭を冷やして戻ってみればさすが俳優。
けろりとした笑顔で迎えてくれる。
「今回の役作り、城山さんとしては異色でしたね」
「そうですか? 嬉しいですね、そう言ってくれるのは。脚本と監督、演出に……主演の黒田くんのお陰で成り立ったのだと思いますよ」
そんなことはないっ!と黒田は絶叫したい。
殆んど自分などエゴサしても引っかからないのだから。売れ行き抜群の歳のはずなのに。
ずいっとインタビュアーが身を乗り出す。
「でも、とても素敵でーーえ?」
黒田が手でそれ以上近づくな、とインタビュアーを押さえる。
「あんたΩだろう。匂い隠してもわかるぜ?
インタビュー、NGのはずだろ」
「誰か警備っ!」
すぐさま彼女とカメラマンと責任者は連行されていった。
「あのままじゃあそこでヒート起こされるところでしたよ。匂いで気づいて良かった。ジジイも気づいてたろ? なんか言えよ。あんたが狙われてたんだぞ」
「あれがΩの匂い?」
「へ?」
ネクタイを緩め胸元を開けて、自分もヒートになりかけのフェロモンを浴びたので興奮しかけているのを収めようとする黒田は、隣で平然としている城山に驚く。
「いや、なんか変な匂いはしたけれど、全然フェロモンなんて思わなかった」
「ジジイは鼻が悪いんじゃねぇの?」
それでこそ至高のαです!と歓喜するのは周りだけ。
「……Ωって、あの匂いなのか」
「そんなに気になるなら、もう一度会ってこいよ。
で、ヒート事故でも起こして来れば?」
「黒田くん!!」
「ひ、ヒート事故は嫌かな……」
城山が少し顔を赤くするのが、可愛い、と何人もの胸をときめかせる。
(そういうギャップはやめてくれ、俺に効く……!)
「ならやめとけよ、色ボケジジイ」
(俺が相手しますから! 遠慮なく俺を抱いてください!)
隣にいるだけで頭の中が性欲で埋まりそうなのを我慢する黒田。
「インタビュー無効だろ? 次の行こうぜ、柊木マネ」
「次もそのままここでインタビューです、お二人と監督で。二時間後の予定なんですけど」
「んじゃ、俺は軽くなんか食ってくる。黒田も来い」
「へーい。ジジイはそこでゆっくり寝とけよ」
あくびを噛み殺していたのを見過ごさなかった黒田である。
「あんまり喧嘩を売るな。城山くんは味方が多い。いくら天邪鬼だってわかってても、許してくれないスポンサーも多いぞ」
少し離れたところで、監督がぽそりと言う。よく見ているだけあって黒田の気持ちなどお見通しだ。
「……うっす」
「しかし、天下の城山くんだからねぇ。嫉妬も憧れもわかるんだよねぇ。
スキャンダルも出ちゃったし」
「え!?」
「まだ耳に入ってないか?」
「城山さん、スキャンダル疑惑滅茶苦茶ありますから。今回のは?」
「共演の真木サーヤちゃん、戸村ヒカルちゃん、それに君のマネージャーの柊木ちゃん。しょっちゅう、向こうの事務所に行ってたからなぁ……」
「今回は三人出たんですか?」
「六股とか、あったからそれに比べたらマシだけどな。
ちなみに今回はどれも話題作りに若手が仕組んだ嘘だってのがわかりやすいな。お前も真木サーヤちゃんとはデキてるってスキャンダル出てたぞ」
「そっち早くに言ってくださいよ!?
速攻否定しますから」
「事実のときあるじゃん?」
「……まぁ」
αなので、どうしても女の子やΩが寄ってくる。
つまみ食いしてしまうのも仕方ないだろう。
自分でこうなのだ。城山要なら、桁が違うだろう。
望む女やΩは食い放題。どれほど食べ散らかしたのか知りたくもない。
(……そこに混ぜてもらいてぇ……)
たまに出る城山の乱交パーティースキャンダル疑惑に混ぜてほしくてたまらない黒田である。
「事務所からも恋人結婚OKとか言われてるらしいからなぁ。このあと、そういうニュースも増えるかもな」
「マジですか……」
「脂の乗ってる歳だからこそ、旦那としての顔もあればさらに売れるだろ。
あれで四十二だぞ? お前も若く見えるけど、城山くんは三十代前半でも通用しそうだ」
「……行きつけのバーとか知りませんか?」
「やめとけ。あいつは酒は飲まないんだ」
「え?」
「前に襲われかけた事があってから、一人でも飲まないんだとさ」
(あー、そいつの事ぶっ殺してぇ)
「城山くんの、好みなんて言っとくけど知らないからな。
αもΩもβもスタッフ合わせても『皆さん美形ですから』って、平気で言える男だぞあいつは」
「……強敵ですね」
「まぁ……無理すんな。応援はしないけどな」
城山を狙う人間を山程知っている。
だからの出来事だった。
「本日のゲスト、城山要さんと黒田誠一郎さんです!」
バラエティーなど、滅多に出ない城山に、現場は大盛りあがりだ。シークレットゲストとして、隠されていた。
「城山さんっ! 大大ファンです!」
そう言って、握手を求めてきたのは若手男性アイドルグループの赤坂。
「ああ、ありがとうございます」
にこりと笑って握手に応じた途端、周囲に甘い香りがする。黒田がやばいと、思うのは一番近かったからだ。
「俺ぇ、本当にぃ……大ファンでぇ……」
とろんとした目つきになり、抱きつこうとする赤坂。それを華麗に抑え込み、城山は困ったな、という顔をする。
「これってヒート、かな? 抑制剤を持ってる人、誰かいますか?」
匂いで、ふらふらとαの人間が近づいてくるが、城山の「しっかりしなさい」と言う声と一睨みで退散していく。誰がαとして、上なのかフェロモンでわかるのだろう。そして、そんな城山にも他のΩやβ、αも引き寄せられていく。集団で襲われるのは時間の問題かも知れない。大乱交など、録画であれどテレビでの大事件だ。誤魔化せない事件になる。
「すみませんっ!」
それを救ったのは走り込んできたのは、βのマネージャーだった。薬を飲ませて、赤坂を引き取る。
「すぐに医者に見せたほうがいいかも知れないね。本来の周期が狂ってしまっていたら怖いだろうし」
「は、はいっ」
実は城山を落すつもりで、その場でヒートになってとして抱かれようと抑制剤を飲まなかったが故の事故。
「大丈夫かい、黒田くん?」
「はぁっ、はぁっ……」
バラエティーで人が多いので、Ωも多数いた。
αは赤坂のヒートのフェロモンに負けて……または負けかけて苦しんでいるし、Ωもヒートが伝染してしまったのと、城山のαのフェロモンにヒートになりかけている。抑制剤を飲んでいても。βもとろんとした顔で城山を見ているものばかりだ。
「申し訳ないけど、現場が落ち着くまで控室にいるから!」
状況を察し、プロデューサーの、肩をガタガタと揺らして正気に戻してから走り去る城山。
「……至高のα、ヤバいわ……」
大型企画だけに、ポシャらせるわけにはいかない。仕切り直しとなったが、皆が体調が戻るには時間がかかりそうだった。
(怖い怖い怖い!!)
控室に戻り、鍵を掛けた城山は、余裕などなかった。
怖い。
あんな目で見られるのが怖かった。
襲われそうになったが、犯すのは城山の方のはずなのだが。
(祐希さん、祐希さんっ!)
触られるのも祐希でなくては嫌だった。
気持ち悪くて仕方なかった。ヒートのフェロモンも初めて嗅いだが、全くその気にならなかった。
それどころか、どうしたらいいかわからず、とりあえず襲いかかってきた赤坂を抑え込み、赤坂を狙っているのか自分に近づこうとしているのかわからない者を威嚇した。
最悪、赤坂を連れて現場を出てとも思ったが、それはそれで若い人に醜聞を作ってしまう。こんなおじさんが攫った、しかもαとΩだ。片方はヒート。何が起こるのか、想像に難くない。ギリギリで助かったと思いながら、怖くて仕方がなかった。
ヒートに当てられて道原以外を抱くかも知れない。そんなのが怖い。
いや、襲われる方がありそうだと泣きたくなった。
「……祐希さん……」
一言で良いから声が聞きたかった。
メールを打つと、電話が掛かってきた。
『どうしたんです!? 大丈夫ですか!!』
その声にうん、とちいさく頷く。
「声、聞きたかった」
『泣いてるんですか!? 今どこです!』
「テレビ局。……大丈夫、貴方の声が聞けたから。
ありがとう。……いつ本番始まるかわからないから、切るね」
『要さん!』
呼びかける声がキツイ。
『今夜いつものところにいますから。待ってますから。何時でもいい、来てください』
「……うん」
電話を切ると、鏡を見て流れてしまったファンデーションを直し始める。
(祐希さんの声を聞けた。大丈夫。僕は大丈夫)
そう念じて、いつもの『城山要』へと戻る。
涙の跡も綺麗に消せた。
「城山さん! 城山さん、大丈夫ですか!?」
マネージャーもαだ。ヒートに当てられていて、動けるようになったのだろう。
「……僕は平気だよ。でも現場混乱させちゃったみたいだから。どのくらい待ちそう?」
「一、二時間は掛かりそうです。ヒートになりかけてショックの女の子とかいますし」
「だよねぇ……。寝てるから、電話で起こして。鍵はかけておくからね」
疲れた、と横になる城山はそのままスマホを抱きしめて眠ってしまった。
その後再開されたバラエティーには、若手アイドルグループの姿は綺麗に消され、何事もなかったかのように、楽しく終わりを迎えた。そのままアイドルグループは芸能界から消えることになる。
大物俳優過ぎる、とはこの現場でも言われた事だった。下世話な芸人が、ヒートに当てられて流石の至高のαも若手アイドルで抜いたんじゃ?とゴミ箱を見てもそれらしき痕跡がなかったのだ。
凄すぎる、と感動すらされた。
完璧すぎる振る舞いだったのだ、テレビ局では。
マネージャーに頼み、いつものホテルへと向かい、部屋に入ると心配顔の道原に抱きしめられた。
「あんな電話掛けてくるんですから、心配しました」
「祐希さんの声のお陰で頑張れたよ」
ヒート事故の話をすると、烈火の如く道原は怒り出していた。初めて見る姿に、怯える城山。
「絶対に狙ってやってますよ、そんなの。
芸能人なのですから、抑制剤は欠かさず飲むでしょう!
ましてや相手に城山さんがいるのですから」
「し、シークレットゲストだったらしいから……」
「調べればそれくらい分かりますよ!」
ぎゅうぎゅう抱きしめて、キスをする。
「怖かったでしょう。貴方ほどの人なら、確かに追い払えるかもしれないけれど、それだって嫌な……」
「……嫌だったんだ」
城山は、道原を見つめる。
「貴方以外としたくない。
怖くて、私がまたあの時みたいになってしまったらと、一瞬思ったら気持ち悪くて仕方なかった。
祐希さんの時だって、私は……」
「私が誘ったのですよ、要さん。手を引いて、ね。
だから貴方とは合意だ」
「……祐希さん……」
「私も貴方と出会えたのは光栄ですから、少し気持ちは分かりますよ。
ヒートでもなって、自分を抱いて欲しいと思うでしょうね。魅力的過ぎますから」
「……君まで……」
「でも、貴方の気持ちは奪えませんからね。
あの時、私を魅力的だと思ってくれたからこそ抱いてくれたのでしょう?」
「勿論!」
「私はあの時、抑制剤もしっかり飲んでいましたし、ヒートでもなかったのに、貴方を見て……欲情してしまった。だからね、他の人の気持ちも少しはわかるのですよ」
服を脱がせながら、キスをする。
「憧れの人に抱かれたいのは、夢、ですから。
でも、私にだけ……貴方は欲情してくれるのでしょう?」
抑制剤を飲んでいても、城山は道原を前にすると、タガが外れる時がある。
「抱いてください。不安だったでしょう?
私も他の誰かを誘惑するΩじゃないかと思ったのでは?
他の人を抱いてしまうかも知れないと。でも、私で満足して……他など見ないで」
「本当に……僕で良いのか?」
「私が愛しているのは、貴方だけだ要」
するりとチョーカーを外す。
「噛んでください。貴方のものにしてください要」
だが、さらされた項を噛むことなく、城山は自分の手を噛む。
「っ……」
嫌なのだろうか。こんな浅ましい思いでは。そう道原が思った時、ごぞごそと鞄から小さな箱を出す。
「……?」
「……全部、順番が、違うから。一つくらい、格好良く……したかったのだけど」
箱を開けて、道原に付き出す。
「僕と結婚してください」
「は…………?」
道原の理解が及ばない。
「いや、その。私は一般人で、貴方とは身体だけの……」
「好きなんだ、心から。
君だけを愛したいんだ、これからもずっと。
結婚してください」
会って半年。短い付き合いではある。
「……仕方ない人ですね。指輪、付けてくれますか?」
裸で渡すつもりはなかった。
しかし、今しかないと思ったのだ。
左手の薬指に指輪をつける。
「……結婚届けを出したら、君に……僕の所有の印をつけさせて」
「分かりました。……ふふ、意地っ張りなところも貴方らしくていい」
お互いに微笑むと、優しいキスをした。
「結婚!?」
「届けは先程出して来ました」
事務所社長はあんぐりと口を開けたままになる。
「相手は一般人です。薬剤師ですね」
やはり肉欲の罪ということで城山には負担をかけさせないように黙って神父は辞めていた。
そして薬剤師をやっているらしい。勉強していたというが、頭が良いのだろう。
「……そ、そうか。前に言っていたΩだな。
マスコミには出すか」
「結婚とだけ、お願いします。派手なのは好まない人なので」
相当世間が騒ぐだろう事を城山は知らない。気づいてないのだ、自分の、影響力を。
「荒れるなぁ……」
芸能界もこれで結婚ラッシュだろう。それと二番目を狙う猛者達が、城山には集るだろう。
「ヒート騒動がすっぱ抜かれそうなのが落ち着いたら、これか……」
そして、前作映画の第二弾も予定されている。
連続ドラマの主演もある。CMも六本。
どれも大手だ。
キャンセルをされたら困るが、城山自らが説得に行くらしい。ならばスポンサーは問題ない。
問題はマスコミと過激なファンだろう。
「それで? 家は?」
「買います。都内の一軒家の予定です」
「………もう予定があるのか、早いな」
「二人で選ぶので、問題ないです」
「結婚式は?」
「親と兄弟だけ呼んで、ひっそり挙げるつもりです」
顔面凶器の親兄弟がいる城山家。
さぞ相手は萎縮するだろうな……と社長は思う。
芸能一家の城山家、全員集合は見てみたかったとこっそりと思うのだった。何しろ美女のαの母親(離婚している)と、ロマンスグレーにはまだ早いが、イケオジと呼ばれる二代目至高のα(初代は祖父)の父親、弟の爽やか系、美人モデルの姉、映画監督の兄(元俳優)が揃うのだろう。
至高のαなどと売り出したが、これ程の虜を作ってしまうのは想定外だった。
ーー運命の番
結婚式は密かに行われた。
顔面凶器の城山一家が、その教会で遭遇したのはやはり違う方向性で顔面凶器の道原一家だった。
ほっそりとした痩せ型だが、儚系美人のΩ父親と肉感溢れる美女のβ母親。そして気むずかしげだが、優しいαの兄二人と妹のΩだった。Ωが参加するということで、緊張した城山α一家だったが、番もおり安定しているそうだ。
(αじゃないけど、美人な人だな……)
「もしかして、モデルやってた弓谷さん!?」
「覚えててくれたんですか、先輩っ!」
キャッキャと母親同士は顔見知りだったらしく、仲良くなっていたが、要の父親と祐希の父親の反応は違った。
「……てめぇ、うちの息子に手を出しやがってよぉ?
それでも賢いα様かよ?」
儚系、どこへ行った?という、ヤンキー口調のΩ。
「知ったことか。息子同士の問題だ。
今は、祝いの席だろう」
「ぐ……う……確かに。……宜しく」
「こちらこそ宜しく」
あれは父が機嫌が悪い時の笑顔だと演技を見破る城山一家。どうやら父親同士は険悪そうだ。
「それにしても、本当に祐希くんは美形ねー。わたしの嫁に欲しかったわ」
「母さん」
冷たい要の一言に、黙る母親。こんな要は見たことがない。要は白いタキシードで、まさしく王様にふさわしい風体。
そして見るものを魅了するαの風格と色気がある。
母親ですらどきりとさせられる。
「それにしても、まだ番じゃないんだな」
「結婚式を挙げてからって決めてたんです。
僕のわがままですけど……祐希さんにも納得してもらって」
にこりと笑って、すすっと兄を遠ざける。
「きみ、一度映画出てみない……って、何するんだ」
「予定では三日後からヒートなんです。意味、わかりますよね?」
つまり下手にαに近づいて、ヒートを起こさせたくないという事らしい。
「うわ……要ちゃん、そこまで計算して今日にしたの?
そんな子じゃなかったのに。恋は人を変えるわね」
姉がドン引きするが無視だ。
「独占欲ってやつてすねー。祐希兄さん、愛されてるなぁ」
妹に言われて、照れる祐希も白いタキシードだ。こちらも王様と言われてもおかしくないほど風格があり、色気がある。
美男二人に、家族もほうっとため息をつく。
結婚の誓いをして、身内での軽い食事(皆忙しいのでゆっくりと出来る時間が取れなかった)。
また家族会しましょうねと、約束をして、新婚二人はこれから新居で巣篭もりに入る。
「は、始めてのヒートだから、怖いんですよ要さん……」
「大丈夫。一緒にいますから」
抱きしめて不安そうな祐希にキスをする。
「ヒートに入る前に私を抱いておく?」
「……私は一応嫁だから。……でも嬉しいよ、そう言ってくれて」
ヒートの最中に項を噛む。それは番の印となるらしい。
ついでにヒートの時に、抑制剤やピルなしだと100%の確率で、孕むという。
「少しでも長く二人の時間を取りたいけど……子供が欲しいから」
それが二人での同意。祐希には高齢出産になるが、それが出産を早めた理由だ。
「……丁度結婚報告会見流しているようだよ?」
「世間が煩いのも今のうちだけだよ。僕なんて数ある役者の一人だからね」
去年の映画の賞を総なめして、海外でも賞を貰った男は平然と言う。
「ふふ、そんなところも大好きだよ」
「数いる役者の中で、僕を選んでくれて嬉しいよ」
「役者じゃなくても貴方を選んだよ」
ふわりと祐希の匂いが濃くなる。
「ん……なんか、身体が……熱いかも知れません?」
「これが祐希のヒートの匂いか……。凄く、クるね」
水を飲ませて、服を脱がせていく。
匂いに我を忘れないうちに。祐希の匂いにだけはおかしくなってしまうのだ。
「祐希、愛してる」
「……私もです、要。貴方と出会えて幸せです」
最初は実は城山要には不運であり、道原祐希には幸運だった。
それはお互いの心に秘めて。
ーーIF 黒田くんへのご褒美
憧れの城山は今回は連続ドラマの主演だという。
そこで映画でも話題だった黒田が、ゲストに決まった。
「え? 寝てる?」
「このところお疲れなんですよ。
演技とかは好きだけれど、バラエティーとかは苦手なんですよ。他の関係者が事故渋滞でスタジオに殆んど来れてないですし」
ほんの二時間。
「僕は、少し出てきますから。また後で」
と、そのまま出ていってしまう。
それはしてはいけないことだ。
αでしかも話題抜群の城山は一人にしては駄目だろう。
襲われる可能性がある。
だから黒田は番犬のごとく控え室に詰めることにした。決して城山の寝顔を眺めたかったわけではない。
(うわ、睫毛長い…)
手入れされている顔や髪。
寝ていてもフェロモンは消えることがない。
(も、もう少し近くで…)
それが悲劇だった。
(へ?)
ぼんやりと目を開けた城山が、黒田をぼんやり見つめた。
「……嫌だとか、言わないで……」
「え?」
深いキスをされている。
しかも上手くて、腰が抜けかけた。
その腕を身体を容易く持ち上げると、のし掛かる。ふんわりとアルコールの匂いがした。
「『俺』は、こんなになってるのに」
ズボンから出された剛直。
「し、城山さんっ?!」
だが、刃向かえない。αでも、自分は城山と差があると思い知らされる。
「……舐めて」
これはご褒美ですか。
そう思いながら黒田は剛直を口にする。やり方はそれはもうよく知っている。想像相手は城山。
だが本物は違う。
(この匂い、味、大きさ……ホンモノは違う)
いい匂いがするし、大きい。カリも高くて口に咥えるのは先だけだ。
「……んっ」
出された精子を飲み干す。まさしくご褒美だった。そのくらいには念入りのファンだ。
「脱いでよ、『俺』が欲しいなら」
「脱ぎますっ!」
良かったと心から思う。後ろを開発していて。普通なら入らない剛直も、行けそうな気がする。
覆いかぶさられ、足を開かされた。ドキドキして、顔が見れない。
ズンッと貫かれ、それにくらくらすら。衝撃が強すぎる。
そして、赤いうっとりした顔で自分を犯す城山の熱を全身で感じていた。自分よりも遥かに強い雄、α、憧れの人物に抱かれて、夢中だった。
どくりと吐精され『俺で気持ちよくなってくれた!』という歪に思いながら、城山を見ると……寝ていた。
「え?」
完全に寝ぼけて、自分は犯されたのだと察した。
しかし、それでも『寝ぼけて俺を選んでくれて嬉しい!』というポジティブな男だった。
(最高過ぎた……。滅茶苦茶気持ち良かったし、ああもうっ!)
筆舌にしがたい。
幸いまだ抜けていない勃ったままの剛直をお借りして、今度は間違いなく上に乗り逆に黒田が動き、中を擦ってもらう。
(いいっ……! めちゃくちゃ気持ちいいっ!)
漏れてしまう喘ぎ声を抑えながら、黒田は三度程の果てた。ここはもう完全に犯罪である。
そして、他人が来る可能性を思い出して素早く動こうとして、ダラダラと自分の中に残されている精液に感動すらしていた。
ぎゅっと尻に力を入れ、城山のペニスを拭いて、香水で臭いを誤魔化す。
憧れの人の醜聞にならないように。
(ああ……抱いてもらえたぁぁ……)
幸せで、頭が一杯だが顔はいつもの無表情。
α男でも抱いてもらえたのは嬉しすぎる誤算だった。これは、起きているときでもアプローチすれば行けるのでは無いかと思わせた。
しかし、起きない。
もう一度くらい出来るだろうか……と考えたところで、マネージャーが帰ってきた。
「ああ! 開けっ放しっ!? すみません黒田さん!」
「この人になんかあったらドラマポシャるしな」
「すみませんすみません! ちゃんと閉めるなんて言ってたのに、駄目でしたか……」
「薬局?」
「二日酔いの薬です。その、内緒にしてほしいのですけど、城山さんアルコールが駄目なんです。
少し飲んだだけで酔っちゃって、二日酔いにもなるし」
「そ、そうなのか……」
「脚本を読みながら、摘んだお菓子が酒入りで、眠くて仕方なかったみたいで。
起きたら二日酔いだろうから、薬を買って来たんです」
あれは酔ったからなのか。
しかし、いつもと違い紳士でもなく、本当に自分は雌だと思わされた。
「城山さーん、出番ですよ」
「うん、ありがとう」
今回はラブシーンだ。相手はαの女優、三浦綾子。
シーンは二回撮り直しでOKが出た。
「今日も美形ねぇ、城山さん」
「ありがとう三浦さん」
「αの私でも、女だし結婚してくれれば良いのに」
何度も言われる言葉。
「気持ちは嬉しいけどね」
三浦綾子は三十代前半だが、美しいα女性だ。
相手としては問題ない。
「城山さーん! お疲れさまですぅっ!」
びたっとくっつくのは競演のアイドルα男性の羽川。
「お疲れ様です、羽川くん。それじゃ、取材があるから」
その場の全員が城山要を見送る。
「はーっ、格好いい……。
あれこそまさしく至高のαって感じよね」
「抱いてほしーなぁ」
「βの男に興味ねぇかなぁ……」
「Ωとか、近寄らせないほど、αからのガードもきついですしね……」
αすら魅了するフェロモンが出ている男、それが城山要だった。医者からは、αでも数度抱いたら孕める身体にしてしまうかもと、注意を受けるほど。
城山は手当り次第にとって食うほど、節操が無い男ではない。
男女共に魅了する美形だが、中性的ではなく男としてαとして相応しいと言える。自信家にも見える支配者の姿をした男なのだ。
そんな城山だが、生まれた性がαだけにΩには興味があって近づこうとしたが、そんなときに芸能界入りをしてしまった。
周りはαとβばかり。Ωもたまに居たが、話しかける前に、男女問わずαやβが邪魔をする。
お陰で、Ωの匂いも知人もおらず、好みの女性が出来ても他の者達からの嫉妬に耐えれず彼女には逃げられて、四十二まで独身である。ついでに童貞という秘密がある。
ただΩとはどんななのか知りたいだけだったのに、匂いもよくわからずしかもαなのに性欲も薄い。
そんな城山のことを知る事務所内からも結婚のOKは出ている。むしろ推奨されている。法律ではαは二人まで嫁にできるとされていることもある。優秀な子供を増やすためとはいえ、嫌で仕方ない法律だ。
事実、城山は良い成績で大学を卒業している。勿論努力もしたが、覚えが良い。研究職につけば、と惜しまれたくらいには頭がいい。
そして研究材料として城山自身も望まれている。
αでも特殊なのは、小学生時分から定期的に検査され、実験体に近い扱いもあった。
その待遇が許せなかった両親が、芸能界へと押し入れたのだ。芸能界で知名度が少しでもあれば、無碍な事は出来ないだろうというのが芸能界に入った理由である。
そして事務所が子供を望むのは、生まれる子供が間違いなく美形であろうと言っているので、俳優として城山の跡継ぎにするつもりではないかと疑っているが。
相手はそんなに簡単に出来るわけもなく、一人寂しい日々を重ねるばかりだ。
「今日の取材は、今度映画で神父役をやるので、本物の神父さんに実情を聞こうという事です。
城山さんは役作りも本格派だから」
「神父役などやるのか? 初耳なんだが……」
「殺人事件の神父役を、城山さんが演るなど犯人以外考えられないでしょう? そこがミソだそうですよ。途中から刑事とバディを組んで犯人を突き止めて、死ぬ役だそうです」
「刑事役は?」
「黒田さんです。苦手でしょう黒田さん。だから今回一度だけでいいからと、プロデューサーからも言われまして」
「そうしてくれ」
黒田は城山を嫌うαの一人だ。
αとして負けたくない、そう思う心がさせるのだろう。
そんなやつと現場を一緒にやりたくない。ギスギスした空気が苦手なのだが、黒田がいるとどうしても空気が悪くなる。
ましてや主役は黒田なのだから余計にだ。
同時にドラマの話があるので、それも聞きつつ、城山はぼんやりと考える。
このままで恋人など出来るのか、と。
大きめの教会に入ると、出迎えてくれたのは二人の神父だった。
一人は位の高い司祭だという。年齢は城山と同じくらいだ。
だが、目が離せないほどの美形だった。
ふんわりとした感じの優しい声目元。艷やかな黒髪に鍛錬を怠らないという引き締まった身体。
初めての感覚だった。身体の奥から痺れ、頭の芯がじんじんとする。
「……城山さん!」
話す場所として選んだのは応接室。
「あ、ああ。え、えっと道原神父は、どうしてこの道に?」
「神に縋りたくなることがありまして。今は、共に歩めておりますよ」
にこりと笑う。
彼はΩの匂いとやらはしないのに、Ωであると頭が訴えていた。初対面でバース性を聞くのは失礼にあたるので聞かない。ましてや城山は聞きたいと思った事がない。
普通ならばわかるらしいが、城山にとってはαもΩもβもあまり変らない。
「取材、長引きそうなんで外観の写真とか撮ってきます。案内してもらって良いですか?」
と、見習いと共にマネージャーの片町くんが行ってしまった。
「そ、それでは続きを……」
目があった。優しく、城山を見てとろりとした目。
何度も向けられた事があったが、今回は違った。
自然と顔が近づき、机の上でキスをしていた。残念ながら、役でファーストキスはとっくの昔に済ませてしまっていたが。
自分での意志でしたキスは初めてだった。
信じられないほど、甘い香り。
「道原神父……」
彼が手を引き、ソファーから離れた。キスを繰り返しながら、道原の手でズボンを弄られる。ズルンと出てしまった息子はもうギチギチに勃っていた。
「城山さん……」
甘い声で囁かれた。
ズボンを下ろして、後ろを向くと膝をつく道原神父。
そこはもう濡れて蜜を垂らしていた。
「すみません……!」
欲に耐えきれない事に謝りながら、同じく膝を付き腰を抑えるとゆっくりとそこへ挿入していく。
(嘘だろ、こんなに気持ちいいのか……)
とろけてしまいそうなのに、気持ちだけは逸る。
濡れて狭いのに襞で擦れて気持ちがいい。
ゆっくりと濡れている中をこじ開ける。びくりと反応する場所を突上げ、声を上げる道原にもっと気持ちよくなって欲しいと熱に浮かされたような頭でも考えてしまう。
じゅぼじゅぼと音を立て道原を犯して中に吐精し、そして今度は抱き抱えてより深く貫く。彼の奥に届くように。
「ぁんっ、あんっあぁ!」
恥ずかしそうに、それでも気持ちよさそうな声。しがみつき、腰を動かして奥へとねだる道原神父。
その項に噛み付いて、所有の証を刻みたい。それを我慢する。そんなことは許されない。無防備な項が憎い。
二度吐精して、少し冷静になったところで窓から外を歩く二人の姿が見えた。幸い声は聞こえてなかったらしい。
もう戻ってきてしまう。
ずっと引き抜くと、それも気持ち良かったのだろう。こぷと精液が道原神父のペニスから出てくる。ハンカチで前を慌てて拭うが足りない。
後ろはタオルでないと駄目だろう。抜いた途端にドロリと大量に城山の精液が出てくる。道原神父がすでに近くの棚からタオルを取り出していた。
「私のは、んっ、服で隠せますっ……。はあ、それよりも、しまって」
真っ赤な顔で城山のペニスを指す理原神父。慌てて濡れたままペニスを仕舞うと気持ち悪いが、仕方ない。ハンカチもズボンに突っ込む。
「はっ、はっ……、す、すみません、道原神父。本当にすみません。ああ、私はこんなことをするつもりなんて無かったのに!」
完全に強姦だ。しかも神父を。
αとして、最高峰のフェロモンで、きっと誘惑してしまったのだ。こんなこと初めてで混乱する。
ヒート事故など無いようにと見せられた教本のままだ。
しかし、道原神父はどう見てもヒートではないし、自分もヒートに当てられたわけではないので、さらに混乱する。
「訴えてくださって結構です! 本当にすみませんでした!」
「お、お互い大人ですし、私も……その、気持ちが良かったです。無かったことにしましょう。ね?」
「………後で訴えてくださっても構いません。
慰謝料も払います。これ、個人的な名刺です」
今までのキャリアを全て無にしてしまうような事。
でも何故か後悔がなかった。
「……貴方に憧れていたので、光栄ですよ」
タオルを当ててズボンを履いて、ソファーに座る。少し気持ち悪いのか、もぞもぞしているのが、城山には悶ているように見えて、昂りかける。
「は、初めてなので……こ、恐いです。直ぐに病院に行ってください。……生……でしたし」
「は?」
「え?」
なんでそんな顔をされるのだろうか。
「待ってください、天下の城山要がっ!?
あんなに私も初めてなのに気持ちよくさせてくれたのに初めて!?」
「……え? いや、その……道原神父も初めてなのに、あんなに善がって……」
此処から先はお互いに触れてはいけない一線だと口を閉ざす。丁度、マネージャーと、見習いが帰ってきたところであった。
「お、お帰りなさい。良い写真は撮れましたか?」
道原が声をかける。少し焦った感じでの問いだった。
「歴史ある教会で凄いですね! ありがとうございます。撮影もここをお借りするかもですね~。
城山さんも演技のコツはわかりましたか?」
「ええ、道原さんのお陰です」
清らかな神父の身体を犯して、童貞を卒業していたとは言えない。わかったのは、セックスは気持ちいい事です、など使えないにも程がある。
「お役に立てたなら何よりです」
ニコニコと優しい顔で笑うが、目元が少し赤い。喘いだ時に涙が出ていたのだろうか。
「また、お話を聞ける場があれば嬉しいですね」
今度こそ、普通に取材をしたい。出来ればちゃんと謝罪もしたい。
「役作りに拘るの、城山さんの悪癖ですよ!
もー、スケジュール見てみますね」
その間も、城山はドキドキとする胸を抑えそうになる。
初めての事だった。童貞を失ったばかりということもあるだろう。
(本当に気持ちよかった。やはりΩだろうか?)
匂いも甘い香りがした。嗅いだことのない、いい匂い。
そして、あんなふうに人を抱けるのだと自分でも知らないくらいだった。演技ではあっても、実際は違った。
(挿れただけで射精しちゃうかと思った……)
この男前の神父に、すっかりと魅了されてしまっていた。
「暫くは昼間の時間は難しいですね……。三ヶ月先まで色々入ってます」
「そうか……」
「では、またの機会に」
にこりと道原に笑われて、こちらも笑みを返す。
本当に綺麗な人だと思う。
別れ際に握手をしたが、その手を車の中でずっと握りしめて、今日の自慰に使おうと心に決めるほどだった。
「うっわぁ、なんか最近一段とαのフェロモン凄くないですか? βの僕でも分かりますよ?」
撮影現場で言われ、城山は首を傾げる。
「そうなのかな?」
童貞を卒業したからなのだろう。
前よりもフェロモンが濃くなったらしい。
「雰囲気も、前よりも変わりましたね」
「そ、そうかな?」
男として、αとして少し自信がついたのは間違いない。
彼を知って、自分は成長したのだ。
「……相変わらずフェロモン垂れ流しオヤジが……」
けっと、黒田が悪態をつく。
まだ三十代前半だが、演技は上手く、次代の城山と言われているのが気に食わないらしい。
「私は君ほど演技は上手くないから、頑張るよ」
「てめぇが下手なら世の中の人間だめなのばかりだぜ。嫌味かよ?」
「コラコラ黒田くん、チンピラみたいに絡まないの!
君は真面目な刑事役!」
「へいへい」
監督に言われて、背筋を伸ばす。役に入り込んで顔つきも変わる。
(うん、黒田くんはいい男だ)
αらしく格好いい。
(私は神父、そう、貞淑で……)
思い出すのはあの道原神父。毎日あの道原神父の精子や蜜液を吸ったハンカチを自慰のオカズにするくらいに思い出深い人。変態行為なのは自覚している。
そのままの姿を思い出しながらシーンが始まり、神父の演技をする。
「ええ、彼はよく知っていますよ。
ふふっ、懐かしい写真だ。彼が若い時のですね」
そっと写真を指先で撫でる。
「カッーートッ!!」
台詞を間違えたろうか?
「黒田くん! 台詞忘れたのか!?」
「すみません!」
真っ赤な顔の黒田にぎっと睨まれて、おろおろする城山。なにかしてしまったのかと焦る。
「次は黒田くんの台詞からね。
今の城山さんの演技、めちゃくちゃ良かったから、絶対に残す!」
滅多に人を褒めない監督の言葉に、皆が頷く。
「今までの城山さんにない色気感じました!」
「新しい魅力ですよ!!」
「イケナイ気持ちになりそうです」
「そ、そうかな? 褒めてくれてありがとう」
何を演じても褒められてしまうことが多いが、こんな風に言われて嬉しくないわけかない。
「……城山さんの演技に飲まれて、台詞を忘れました……、すんません。気をつけますっ!」
ヤケになったように言う黒田。
しかし、二人のシーンとなると、どうしても黒田の演技が乱れる。
結局その日は早く終わりにすることになった。
メインの一人が、不調では話にならない。理由はわからないが、そういうことが現場で度々ある城山は、気にしなかった。
(そういえば……訴えないのかな……)
道原神父を思い出す。毎日思い出してはシテいるのだが。
あれは同意のない強姦だ。マスコミに売られても良かった。
些細なことや有りもしないことで騒がれているのに疲れてきている。
それに何よりも、『無かったこと』にしたくなかった。
その日スマホに知らない番号からのメールが届いた。
「…………」
考えた末に、翌日のオフだと返信をする。明日は撮影が難しいだろうと言われている。出演者が軒並みおかしいらしい。流行病かも知れないと休みになった。城山は元気なのだが。
すると相手から了承があった。
マネージャーにもこのことは言えなかった。
待ち合わせたのは、口の硬いコンシェルジュのいる高級ホテル。
夕方のチェックインに合わせて入る。
人と合わないようにしてくれるのがありがたいところだった。
「……こんにちは、道原さん」
緊張しながら待つこと二十分。彼は流石に私服だったが、質のいいスーツを着ていた。
「こんにちは城山さん。まさか会って欲しいという願いを聞いてもらえるとは思わなかった」
穏やかな笑み。道原からはふわりと甘い香りがする。
ソファーに向かい合わせで座りながら、お互いに視線は合わせない。
「……流石、至高のαなどと言われるだけありますね」
「?」
しかし、不思議なことを言われて城山は首を傾げた。
「その、道原さんは……」
「あの時はしてませんでしたが……Ωです」
やっぱり、と思う。今は首に保護のチョーカーをつけている。
「いつも抑制剤も飲んでおりますし、ああいう場所ですからね。αの方も距離がある。あの時は取材だと言うので油断していました。
これほど近くにαの方が居られるのは、久々です」
緊張はお互い様らしい。
「それで、提案……とは?」
「……不公平だとは思いませんか?」
「んん?」
道原が赤い顔で言う。
「その、私が神父なのはΩだからなのですが、もう一つ理由がありまして」
「はい……」
「ゲイなんです。それで、父が心配をして神学校へ進ませたのです。
言っておきますけど、本当にあの時まで童貞処女です」
「あ、あの時は、本当にすみません!」
土下座をして、城山は謝るしかない。
「もう終わった事ですから……。それに貴方にも言いましたが、私は貴方に憧れていました。
バース性なんて関係なく、その…、大人としてはしたない行為でしたが……。
憧れの貴方に抱かれて……嬉しかった」
「本当にすみません。その、道原さんが魅力的過ぎて、自制心が効きませんでした。
だからといって、まさかあんなふうに自分がなってしまうとは」
今も抑制剤を余分に飲んでいる。
それでも道原を前にすると動悸と欲が湧き上がる。
絶えず甘い香りがするのだ。
「だから、逆をお願いします」
「はぇ?」
「言ったでしょう? 私はゲイなんです」
「つ、つまり……私が、貴方に抱かれる?」
「あの時と逆。それでチャラにしませんか?」
それで気が済むのなら。
「…………分かりました」
至高のαと呼ばれている身がまさか、男に抱かれる日が来るとは。それでも良いと思ったのは、少しでも道原に触れたかったからだ。
「ベッドに行きましょうか」
「……はい」
初めてのことで、どうすればよいのかわからない。
オロオロとベッドの前で靴を脱ぐべきだとかどうするか迷う城山。
「……本当に童貞だったんですね……」
「恥ずかしながら……」
「私も経験がないので……。取り敢えず服を脱いでベッドに上がりましょうか」
「は、はい……」
「チョーカーだけはつけさせておいてくださいね」
「も、勿論です!」
ベッドに上がり、仰向けになるように言われる。
「すみません、私も知識だけしかないので」
ローションで濡らした手でくにくにと城山のペニスを刺激する。
既に立ち上がりかけていたものは、あっさりと勃ってしまう。
(ああああ! 恥ずかしい恥ずかしいっ! こんなの現場でだってならないぞ!)
裸の道原が魅力的すぎるのだ。同じものがついているし、鍛えていて、しっかりとした体格なのに、物凄く色っぽく、興奮する。
「んぐっ?」
「こっちも弄らせてくださいね。
Ωとは違ってすぐ入りませんし」
「あ、ああ……」
覚悟は決めたのだ。尻に指が入っていても気にしない。そこを使うのだから。
しかし他人の手淫が気持ち良すぎる。
道原の匂いも良くて、あっさりと射精してしまった。
「……疲れてて、ろくにしてないんですね……」
そんなことはない。このところは、道原との行為をオカズにして頻繁にしていたのだが。
同情されて口には出来なかった。
くちゅくちゅと尻の方も段々と奥に、そして指が三本になっている。
「……ぁん? へ、変な感じが……んぁっ!」
「気にせずに……感じるところがあるんですよ。その、キスをしても?」
「も、勿論!」
むしろ望むところだ。
ハリウッドのキス専門の講習会でも、何人もの講師の相手の腰を砕けさせた笑い話がある。
「……ん」
キスだけで気持ちいいほど、道原からは濃い匂いがした。あの時には匂わなかった、とてもいい匂い。
「Ωというのは、みんなそんなにいい匂いがするのかな……?」
ぼんやりとしながら、呟く。
「それはわかりませんね。私には城山さんの匂いのほうが気になります。凄く……いい匂いだ」
スリスリと顔を胸元に寄せられて、抱きしめたくなる。
だが、今は我慢だと自分に言い聞かせる。
無体なことをした、その仕返しに来ているのだから。
「そろそろ入りそうです。Ωのはαの方より小さいですし」
(いや、十分な大きさだけど!?)
道原が城山の足を広げて、そこに陣取る。
城山の腰にはクッションが置かれ、高さを上げられていた。
「……城山さん……」
「道原さん、いつでも」
ゴクリとつばを飲む。
ぬるっとしたものが尻に入ってくる。
圧迫感と、質量に痛みもあるが、それ以上に、道原の表情に心が騒ぐ。
ぐっと根本まで飲み込み、城山は息を吐く。
(これで俺は童貞も処女も失ったのか……)
それは複雑な心境であった。αは常に上の立場でいたいと思う支配欲の強い性質だ。
それが今犯されている。
「動きますからね。痛かったら言ってください」
ゆっくりと抜き挿しをしていく道原。
「んぁっ、ぁあっ」
その気持ち良さに、声が出てしまった。ばっと口を押さえたが、にこりと道原が笑うと、動きが激しくなる。
気持ちがいい。
犯されていく身体が快楽を拾って、声が抑えられなくなった。
動きに合わせて腰を振る。気持ちのいいところに当たるように。
「んぁっ!」
射精してしまうと、中でも熱い感触があった。ゴム越しとはいえ、射精されたのだろう。
「……ありがとうございます」
ズルっと引き抜くと、ゴムをどうやって取るのか悩みながら道原が言う。なんとかゴムは取れて、ゴミ箱に捨てるために結んでいる。
なるほどそうするのか、と怠くなった身体で思う。
「これで満足です。憧れの貴方を抱けた、それだけでもう……」
真っ赤な顔で、道原は言う。
「私は馬鹿な男です。
憧れの貴方が……αだと知っているのに、こんな思いをさせてしまった。きっと嫌だろうと思っているのに、一度だけでもと」
「………正直」
城山は道原を抱きしめる。
その身体に顔を寄せて、すうっと匂いを嗅ぐ。
「とても驚く提案だったし、戸惑った。
僕に近づく人は大体抱いてほしいしか言わないから」
何度襲われたか。
トイレすらも気を使う始末だった。
なのに。
「貴方のはとても気持ちよかった。とても気を使ってもらったでしょう?
それに受け身も嫌いじゃないとわかった。
……ありがとう道原さん」
もう一度キスをすると、道原がもじもじとうつむく。四十前後に見える道原だが、可愛いと思ってしまった。
「その、疲れているとは思うのですが、もう一度……私を抱いてくれませんか」
「……良いのですか?」
「はい。その、この前のでちゃんと避妊薬は飲んでますし……その……ゆっくりと貴方に抱かれたい。
あんな短い嵐のように抱かれるのではなくて、ゆっくりと貴方を感じたい」
願ってもない提案だった。
「たった三十分だったのに、貴方が忘れられなかった。
道原さん」
キスをすると、そのまま押し倒す。
「お願いします、城山さん」
こんなふうに誰かを抱きたいなどと思ったことはなかった。
ゴムを慌ててつけていると笑われてしまった。焦らなくてよいと。
落ち着いてゴムを初めて付けると、一応ローションも使って濡らしてから道原の中へと挿入する。
生でとは違うが、やはり気持ちいい。中も濡れていた。
あの時よりも熱く、狭く、進むだけで気持ちがいい。
挿出をゆっくりと始めたが、いつしか夢中になっていた。
喘ぐ道原にピッタリとしがみつかれて、それも嬉しい。
あの時と同じく、城山は道原に我を失いつつも、腰を振っていた。
「今日は泊まりで、明日の朝に出ましょう」
二人でジャクジーに入り、キスをしながら話す。
「本当に二回目か疑いたくなりますよ、要さん。
凄く気持ちよかった……何回出したのか覚えてませんよ?」
「最初に僕を犯してた祐希さんこそ、初めてか怪しいですよ」
クスクスと笑いながら、城山は道原の秘部を撫で、少し指先を入れたり、道原の手は城山のペニスをつっと触る。そんな触れ合いも当たり前になっていた。
城山は胸の道原の飾りを揉みながらだ。前戯も無しだったので、少しでもと憶えている記憶を頼りに気持ちの良い場所を探していた。
まだ二回目の出会いで、お互いに二回目なのに。
「頑張りましたから。貴方のフェロモンに負けて、ここを入れて欲しくなりましたよ、何度も」
「……僕も後ろに入れてもらうの、とても気持ちよかった。その、またしてくれないですか?」
「え……?」
ちゅっとキスの跡を道原の胸元に残す。
道原の太腿や陰部の周りはキスマークだらけだ。どうやら城山はキス魔らしい。
「貴方を襲ってしまう、意志の弱い男ですが……貴方が……好きです。
ゲイでも構わない。むしろ、気持ちよくさせてもらって嬉しかった」
まだよく知らないのに。
「……わ、私で良いのですか……?
いや、私も抱きたいし、抱かれたいのですけど」
「勿論です。その、初恋で恋愛経験がゼロなんですけれど……」
「は?」
道原が呆然とする。
「貴方と会って、してしまってから……僕はずっと貴方のことしか考えてなくて。
こんなこと初めてだったんです」
訴えられるかもという不安もあったが、それ以上にもっと会いたい、抱きたいと願っていた。
「い、いいの……ですか? 私のような一般人が!?」
「会えるのが稀になってしまいますが、それでも貴方とまた繋がりたい。抱かれたいし……抱きたい」
城山は真剣に言う。
「勿論、ヒートの時も、その、スケジュールを」
「いえいえ、そこまでしなくても! そもそもヒートは抑えてますし。……本来なら匂いもしないくらいΩとしてはバース性がおかしいのに」
「祐希さん、貴方が好きだ。身体からの関係になってしまったけれど」
ぎゅっと背後から抱きしめると、その腕を包んでくれる道原。
「私も好きです、要さん」
告白の後でもう一度盛り上がって、城山が道原を気絶するまで、抱いたのは仕方のなかったことだろう。
「あれ、城山さん。今日も一段となんか……めちゃくちゃ色っぽい……」
ぼーっとまわりがなるほどのαフェロモン。
同じαでもβでも、魅了してしまうほど出ている。
「おはよう。今日もいい天気だね」
本人はのんきにスマホをいじっていた。そんな姿は珍しい。
「スマホなんて嫌いって言ってたジジイがよっ」
「使って見るものだね」
恋人と小さなやり取りすら、楽しくて仕方ない。
その為にフェロモンが撒き散らされ、それに黒田も当てられているなど知りもしなかった。
(社長の許可も取れたし)
恋人が出来たので、仕事を控えたいと申し出た。もちろん反論があったが、それなら事務所も仕事もやめると言うと、黙ってしまった。そして、マスコミには言ってもいいが相手に迷惑をかけるなよと、念押しされた。
マスコミにバレると追っかけ回されかねない。ましてや神父なのだから。秘密のつもりだ。
(あー、祐希さん、可愛い……)
照れながら、仕事中だよ、と掃除をしている写真を送ってくれている。
こちらも何度も写真とメールを送る。こんなふうにやり取りができるのが嬉しい。
「それじゃ、シーン42、始めます!」
カチンと音がする。
神父役の城山が、再び聞き込みに来た刑事にのらりくらりと返答をする場面。
「なんで、そんな大事な事を黙っていたんだ!?」
黒田が胸倉を掴むと、その手をそっと城山が包む。
「大事なこと? 貴方はもっと大事なことを見落としているのですよ、刑事さん」
途端、くたりと黒田が座り込んでしまった。
(あれー? こんな展開だったかなぁ?)
見下ろすと、勃起していた。城山の視線に気づいて慌ててスーツで隠す黒田。
「へ?」
「あー……カットカット! 黒田くん、休んで。
城山さん、ちょっと……」
「はい?」
真っ赤な顔で、荒い息の黒田が心配ではあったが、流石にあの状態を自分がどうにかしてやれるわけがない。
監督に呼ばれて、城山は首を傾げる。
「何でしょう?」
「もうちょいフェロモン抑えてもらえますかね……?
黒田くん、貴方の色気で腰砕けちゃったんですよ」
「え、まさか! 黒田くんはαでしょう?」
「この前から、余計に色気が増してるだよね。
……その、何人ものβも演技でイっちゃっててね……ここ、普通のサスペンスドラマなのに、なんかAV現場かってくらいの雰囲気出ちゃってるんですってば。
演技としては文句なしなんだけどね」
「そ、そうなの?」
全然気づかなかった。マネージャーも何も言わなかったので、気にしてなかったのだが。確かに人が少ない。
「気をつけます」
「急にそんなになるなんて……恋人でも出来たとか?」
「そんなことないですよ」
と、にこりと演技で笑う。
本当は出来た。それはもう大切で仕方ない人だ。
「ともかく、もう少し抑え気味でね。
黒田くん、あれじゃまともに演技できないし」
城山以外は知っている事だが、黒田は本気で城山のことが好きらしい。というか、城山と共演した者は大体が惚れてしまうのだ。男であれ女であれ、αでもβでも。
だから、Ωとの共演はNGとされている。スタッフもΩはいない。
Ωがどうなってしまうかわからないからだ。
本人は知らぬところで物凄い影響がある。
恋人がいる、などと言ったら大騒ぎだろう。
今までも恋人疑惑は山程あったが、城山は童貞だった。
つまりみんな相手の勘違いや嘘なのだ。
「気をつけますね」
ニコリと笑った城山に、監督すらもきゅうんと胸が苦しくなる。
「……ああ、気をつけて」
これは無意識で無理だ……と、監督は思った。
クランクアップまでの時間が伸びたが、映画は凄まじい動員数を稼ぎ、全世界公開へとなった。
そして、城山はダブル主演での賞を山程もらうことになる。
今までにない城山要の魅力。
その演技に皆が圧倒されたのだ。彼に引きずられるように、演者達も質が高かった。
「映画凄いね。何回か観てきたよ」
道原が城山に抱きつき、キスを受けながら言う。
「観てくれたの? 嬉しいなぁ」
キスをして、またゆっくりと正面から挿入していく。
「んぅっ……ぁ……」
「気持ちいいかな、祐希さん?」
「入ってるのが、気持ちいいです……んっ。
……最近は普段は無いと不自然なくらい」
びゅくっと、小さく射精している。
城山は軽く腰を動かして、道原の感じるところを擦る。
「ぁぁ……」
「祐希さんを参考に演じさせてもらったんだよ」
「そ、そんなっ……んぁ!」
世界での今回の映画で城山の演技は総じて『蠱惑的』だったのだ。参考にしたと言われた道原が嘆くのも当然だろう。
「だって、僕の知る知的で貞淑な神父像は貴方だけだったから」
少し動きを早めて、奥を突く。もっと気持ちよくさせてあげたいと思ってしまう。
「や、ぁ、イくっ……!」
城山の腹で擦れたのもあるだろう。白濁がどぷっと出てくる。
「僕はまだなんだ……ごめんね、祐希さん」
片足を肩に掛けるようにして、さらに激しく動く。
「ぁぁっ、んぁっ、ぁあ!」
「好きだよ、祐希さんっ!」
ぐっと奥で達する。ゴムはつけているので、熱だけでも伝わったろうかと思う。この愛しているという気持ちは。
「……ん」
まだ中に入ったまま、その身体を背後から抱きしめる。
びくんびくんとまだ感じているらしい。
「貴方とこうして付き合ってから、僕は本当に幸せを感じてる。
知らなかったんだ、人肌がこんなに気持ちよくて、セックスが良いなんて」
「さっきも、泣いて喜んでましたからね」
「意地悪を言わないで。……貫かれると、気持ちいいんだから、泣いても良いでしょう?
君だって泣いてよがるもの」
ちゅっと、城山は肩にキスをする。
この頃は、最初に城山が抱かれて、その後に道原が抱かれる、そんな事が三回に一度。だが、道原が城山を抱くのは大体一回だけ。そこで道原も城山に抱かれたくなってしまう。
ただ少し日を置くと、城山が興奮してしまい会うなり夢中で、道原を抱くときもある。
お互いに若くないというので翌日に予定があるときなどは控える事もある、節度あるお付き合いだ。
と言っても、体力のある二人なので他を知れば自分たちがヤリ過ぎなのは知らない。
「私ので要さんが泣くほど喜んでくれて嬉しいですよ」
「演技ではあんなに泣けないよ。
祐希さんのは本当にクるものがあるから」
「要さんに……んっ、い、挿れられる度に、気持ちよくて……ぁぁ……ん……何度も強請って、し、しまってすみません」
またゆっくりと動いてるからか、快楽を感じながらも話してくれようとするのが嬉しい。
身体を重ねるたびに、どんどんと好きになって行く。
マスコミに常に狙われている身でも、会いたくて変装するくらいに。
「一度、イくね?」
こくんと頷かれて、腰をぐっと引き、挿れる。
動き出すと、さらに可愛い声で喘いでくれる。女優の喘ぎなど、道原に比べれば可愛くなどない。
演技だと丸わかりだ。
「はぁっ……んっ……」
吐精して、ゆっくりと引き出すと、ゴムがパンパンになっていた。それを手早く捨てると、次のを着ける。何もする気がしなくても……万が一、自分の理性が飛んだ時のためにだ。かなり手慣れてきたのが誇らしい。
「水、持ってこようか。それとも紅茶?」
「あ、あれば温くて良いので紅茶をお願いします……」
ぐったりとした道原。その声がまだ気持ちよさの余韻を引きずっている。
「落ち着いたら、食事を頼もうよ。ここのは美味しいからね」
「ありがとうございます要さん」
エグいスケジュールを調整して半日空けられたのは、幸運だったと思う城山だった。
ーー至高のαの虜
ガンガンと壁に頭を打ち付けて、黒田は自分が情けなくて堪らなかった。
(せっかく、今回だけって共演してくれたのに!)
思春期に観たドラマに、出ていた『彼』を見た瞬間、恋に落ちていた。
至高のαなどと言われている彼は、画面越しでも美しく、格好良く、男前で色っぽかった。
同じαでも惚れてしまうくらいに。
だが、同じ世界に入って、わかったのは彼が『特別』だということ。αであるだけではやっていけない、自分の色を出さなければいけない世界だった。
城山に追いつけない。それでガラが悪くなった。
城山本人を前にするとαとしてコンプレックスが出て、憎まれ口を叩いてしまう。
こんなことが言いたいわけではない。
憧れています、大ファンです、好きです、付き合ってください、抱いてください……
医者には強いαのフェロモンに当たられすぎて、バース変わっちゃいますからね?と忠告されたくらい。城山程のフェロモンだとαすらもΩに出来るだろうと言われている。
黒田としては望むところだ。
なのに、苦手とされているのがわかってしまい、さらには勃起しているところも見られた。
(いつも雄って、感じをさせてるのに、今回の神父役、なんだよあれ! 色気あり過ぎだろ!!)
抱かせてください、と言いかけて台詞を止めてしまったことも何度もある。
あの誘うような目つきに、指先。
しかし、締めるところではいつものαの城山なのだ。
『君が間違っているわけじゃない! 皆が掛け違えたんだ!』
そんな台詞を言うときは、人を魅了するαの顔。
死ぬはずの城山の役どころを生死不明にしてくれてありがとうと、監督とプロデューサーに言いたい。
そして、世界でのプロモーションも一緒なのが嬉しかった……なのに、しくじって城山に悪態をついてしまった。
『このあとインタビューだろ。いつまでスマホ弄ってんだよジジイ』
しょんぼりしてしまった城山。そんな顔はさせたくなかったのに。
しかし、黒田が頭を冷やして戻ってみればさすが俳優。
けろりとした笑顔で迎えてくれる。
「今回の役作り、城山さんとしては異色でしたね」
「そうですか? 嬉しいですね、そう言ってくれるのは。脚本と監督、演出に……主演の黒田くんのお陰で成り立ったのだと思いますよ」
そんなことはないっ!と黒田は絶叫したい。
殆んど自分などエゴサしても引っかからないのだから。売れ行き抜群の歳のはずなのに。
ずいっとインタビュアーが身を乗り出す。
「でも、とても素敵でーーえ?」
黒田が手でそれ以上近づくな、とインタビュアーを押さえる。
「あんたΩだろう。匂い隠してもわかるぜ?
インタビュー、NGのはずだろ」
「誰か警備っ!」
すぐさま彼女とカメラマンと責任者は連行されていった。
「あのままじゃあそこでヒート起こされるところでしたよ。匂いで気づいて良かった。ジジイも気づいてたろ? なんか言えよ。あんたが狙われてたんだぞ」
「あれがΩの匂い?」
「へ?」
ネクタイを緩め胸元を開けて、自分もヒートになりかけのフェロモンを浴びたので興奮しかけているのを収めようとする黒田は、隣で平然としている城山に驚く。
「いや、なんか変な匂いはしたけれど、全然フェロモンなんて思わなかった」
「ジジイは鼻が悪いんじゃねぇの?」
それでこそ至高のαです!と歓喜するのは周りだけ。
「……Ωって、あの匂いなのか」
「そんなに気になるなら、もう一度会ってこいよ。
で、ヒート事故でも起こして来れば?」
「黒田くん!!」
「ひ、ヒート事故は嫌かな……」
城山が少し顔を赤くするのが、可愛い、と何人もの胸をときめかせる。
(そういうギャップはやめてくれ、俺に効く……!)
「ならやめとけよ、色ボケジジイ」
(俺が相手しますから! 遠慮なく俺を抱いてください!)
隣にいるだけで頭の中が性欲で埋まりそうなのを我慢する黒田。
「インタビュー無効だろ? 次の行こうぜ、柊木マネ」
「次もそのままここでインタビューです、お二人と監督で。二時間後の予定なんですけど」
「んじゃ、俺は軽くなんか食ってくる。黒田も来い」
「へーい。ジジイはそこでゆっくり寝とけよ」
あくびを噛み殺していたのを見過ごさなかった黒田である。
「あんまり喧嘩を売るな。城山くんは味方が多い。いくら天邪鬼だってわかってても、許してくれないスポンサーも多いぞ」
少し離れたところで、監督がぽそりと言う。よく見ているだけあって黒田の気持ちなどお見通しだ。
「……うっす」
「しかし、天下の城山くんだからねぇ。嫉妬も憧れもわかるんだよねぇ。
スキャンダルも出ちゃったし」
「え!?」
「まだ耳に入ってないか?」
「城山さん、スキャンダル疑惑滅茶苦茶ありますから。今回のは?」
「共演の真木サーヤちゃん、戸村ヒカルちゃん、それに君のマネージャーの柊木ちゃん。しょっちゅう、向こうの事務所に行ってたからなぁ……」
「今回は三人出たんですか?」
「六股とか、あったからそれに比べたらマシだけどな。
ちなみに今回はどれも話題作りに若手が仕組んだ嘘だってのがわかりやすいな。お前も真木サーヤちゃんとはデキてるってスキャンダル出てたぞ」
「そっち早くに言ってくださいよ!?
速攻否定しますから」
「事実のときあるじゃん?」
「……まぁ」
αなので、どうしても女の子やΩが寄ってくる。
つまみ食いしてしまうのも仕方ないだろう。
自分でこうなのだ。城山要なら、桁が違うだろう。
望む女やΩは食い放題。どれほど食べ散らかしたのか知りたくもない。
(……そこに混ぜてもらいてぇ……)
たまに出る城山の乱交パーティースキャンダル疑惑に混ぜてほしくてたまらない黒田である。
「事務所からも恋人結婚OKとか言われてるらしいからなぁ。このあと、そういうニュースも増えるかもな」
「マジですか……」
「脂の乗ってる歳だからこそ、旦那としての顔もあればさらに売れるだろ。
あれで四十二だぞ? お前も若く見えるけど、城山くんは三十代前半でも通用しそうだ」
「……行きつけのバーとか知りませんか?」
「やめとけ。あいつは酒は飲まないんだ」
「え?」
「前に襲われかけた事があってから、一人でも飲まないんだとさ」
(あー、そいつの事ぶっ殺してぇ)
「城山くんの、好みなんて言っとくけど知らないからな。
αもΩもβもスタッフ合わせても『皆さん美形ですから』って、平気で言える男だぞあいつは」
「……強敵ですね」
「まぁ……無理すんな。応援はしないけどな」
城山を狙う人間を山程知っている。
だからの出来事だった。
「本日のゲスト、城山要さんと黒田誠一郎さんです!」
バラエティーなど、滅多に出ない城山に、現場は大盛りあがりだ。シークレットゲストとして、隠されていた。
「城山さんっ! 大大ファンです!」
そう言って、握手を求めてきたのは若手男性アイドルグループの赤坂。
「ああ、ありがとうございます」
にこりと笑って握手に応じた途端、周囲に甘い香りがする。黒田がやばいと、思うのは一番近かったからだ。
「俺ぇ、本当にぃ……大ファンでぇ……」
とろんとした目つきになり、抱きつこうとする赤坂。それを華麗に抑え込み、城山は困ったな、という顔をする。
「これってヒート、かな? 抑制剤を持ってる人、誰かいますか?」
匂いで、ふらふらとαの人間が近づいてくるが、城山の「しっかりしなさい」と言う声と一睨みで退散していく。誰がαとして、上なのかフェロモンでわかるのだろう。そして、そんな城山にも他のΩやβ、αも引き寄せられていく。集団で襲われるのは時間の問題かも知れない。大乱交など、録画であれどテレビでの大事件だ。誤魔化せない事件になる。
「すみませんっ!」
それを救ったのは走り込んできたのは、βのマネージャーだった。薬を飲ませて、赤坂を引き取る。
「すぐに医者に見せたほうがいいかも知れないね。本来の周期が狂ってしまっていたら怖いだろうし」
「は、はいっ」
実は城山を落すつもりで、その場でヒートになってとして抱かれようと抑制剤を飲まなかったが故の事故。
「大丈夫かい、黒田くん?」
「はぁっ、はぁっ……」
バラエティーで人が多いので、Ωも多数いた。
αは赤坂のヒートのフェロモンに負けて……または負けかけて苦しんでいるし、Ωもヒートが伝染してしまったのと、城山のαのフェロモンにヒートになりかけている。抑制剤を飲んでいても。βもとろんとした顔で城山を見ているものばかりだ。
「申し訳ないけど、現場が落ち着くまで控室にいるから!」
状況を察し、プロデューサーの、肩をガタガタと揺らして正気に戻してから走り去る城山。
「……至高のα、ヤバいわ……」
大型企画だけに、ポシャらせるわけにはいかない。仕切り直しとなったが、皆が体調が戻るには時間がかかりそうだった。
(怖い怖い怖い!!)
控室に戻り、鍵を掛けた城山は、余裕などなかった。
怖い。
あんな目で見られるのが怖かった。
襲われそうになったが、犯すのは城山の方のはずなのだが。
(祐希さん、祐希さんっ!)
触られるのも祐希でなくては嫌だった。
気持ち悪くて仕方なかった。ヒートのフェロモンも初めて嗅いだが、全くその気にならなかった。
それどころか、どうしたらいいかわからず、とりあえず襲いかかってきた赤坂を抑え込み、赤坂を狙っているのか自分に近づこうとしているのかわからない者を威嚇した。
最悪、赤坂を連れて現場を出てとも思ったが、それはそれで若い人に醜聞を作ってしまう。こんなおじさんが攫った、しかもαとΩだ。片方はヒート。何が起こるのか、想像に難くない。ギリギリで助かったと思いながら、怖くて仕方がなかった。
ヒートに当てられて道原以外を抱くかも知れない。そんなのが怖い。
いや、襲われる方がありそうだと泣きたくなった。
「……祐希さん……」
一言で良いから声が聞きたかった。
メールを打つと、電話が掛かってきた。
『どうしたんです!? 大丈夫ですか!!』
その声にうん、とちいさく頷く。
「声、聞きたかった」
『泣いてるんですか!? 今どこです!』
「テレビ局。……大丈夫、貴方の声が聞けたから。
ありがとう。……いつ本番始まるかわからないから、切るね」
『要さん!』
呼びかける声がキツイ。
『今夜いつものところにいますから。待ってますから。何時でもいい、来てください』
「……うん」
電話を切ると、鏡を見て流れてしまったファンデーションを直し始める。
(祐希さんの声を聞けた。大丈夫。僕は大丈夫)
そう念じて、いつもの『城山要』へと戻る。
涙の跡も綺麗に消せた。
「城山さん! 城山さん、大丈夫ですか!?」
マネージャーもαだ。ヒートに当てられていて、動けるようになったのだろう。
「……僕は平気だよ。でも現場混乱させちゃったみたいだから。どのくらい待ちそう?」
「一、二時間は掛かりそうです。ヒートになりかけてショックの女の子とかいますし」
「だよねぇ……。寝てるから、電話で起こして。鍵はかけておくからね」
疲れた、と横になる城山はそのままスマホを抱きしめて眠ってしまった。
その後再開されたバラエティーには、若手アイドルグループの姿は綺麗に消され、何事もなかったかのように、楽しく終わりを迎えた。そのままアイドルグループは芸能界から消えることになる。
大物俳優過ぎる、とはこの現場でも言われた事だった。下世話な芸人が、ヒートに当てられて流石の至高のαも若手アイドルで抜いたんじゃ?とゴミ箱を見てもそれらしき痕跡がなかったのだ。
凄すぎる、と感動すらされた。
完璧すぎる振る舞いだったのだ、テレビ局では。
マネージャーに頼み、いつものホテルへと向かい、部屋に入ると心配顔の道原に抱きしめられた。
「あんな電話掛けてくるんですから、心配しました」
「祐希さんの声のお陰で頑張れたよ」
ヒート事故の話をすると、烈火の如く道原は怒り出していた。初めて見る姿に、怯える城山。
「絶対に狙ってやってますよ、そんなの。
芸能人なのですから、抑制剤は欠かさず飲むでしょう!
ましてや相手に城山さんがいるのですから」
「し、シークレットゲストだったらしいから……」
「調べればそれくらい分かりますよ!」
ぎゅうぎゅう抱きしめて、キスをする。
「怖かったでしょう。貴方ほどの人なら、確かに追い払えるかもしれないけれど、それだって嫌な……」
「……嫌だったんだ」
城山は、道原を見つめる。
「貴方以外としたくない。
怖くて、私がまたあの時みたいになってしまったらと、一瞬思ったら気持ち悪くて仕方なかった。
祐希さんの時だって、私は……」
「私が誘ったのですよ、要さん。手を引いて、ね。
だから貴方とは合意だ」
「……祐希さん……」
「私も貴方と出会えたのは光栄ですから、少し気持ちは分かりますよ。
ヒートでもなって、自分を抱いて欲しいと思うでしょうね。魅力的過ぎますから」
「……君まで……」
「でも、貴方の気持ちは奪えませんからね。
あの時、私を魅力的だと思ってくれたからこそ抱いてくれたのでしょう?」
「勿論!」
「私はあの時、抑制剤もしっかり飲んでいましたし、ヒートでもなかったのに、貴方を見て……欲情してしまった。だからね、他の人の気持ちも少しはわかるのですよ」
服を脱がせながら、キスをする。
「憧れの人に抱かれたいのは、夢、ですから。
でも、私にだけ……貴方は欲情してくれるのでしょう?」
抑制剤を飲んでいても、城山は道原を前にすると、タガが外れる時がある。
「抱いてください。不安だったでしょう?
私も他の誰かを誘惑するΩじゃないかと思ったのでは?
他の人を抱いてしまうかも知れないと。でも、私で満足して……他など見ないで」
「本当に……僕で良いのか?」
「私が愛しているのは、貴方だけだ要」
するりとチョーカーを外す。
「噛んでください。貴方のものにしてください要」
だが、さらされた項を噛むことなく、城山は自分の手を噛む。
「っ……」
嫌なのだろうか。こんな浅ましい思いでは。そう道原が思った時、ごぞごそと鞄から小さな箱を出す。
「……?」
「……全部、順番が、違うから。一つくらい、格好良く……したかったのだけど」
箱を開けて、道原に付き出す。
「僕と結婚してください」
「は…………?」
道原の理解が及ばない。
「いや、その。私は一般人で、貴方とは身体だけの……」
「好きなんだ、心から。
君だけを愛したいんだ、これからもずっと。
結婚してください」
会って半年。短い付き合いではある。
「……仕方ない人ですね。指輪、付けてくれますか?」
裸で渡すつもりはなかった。
しかし、今しかないと思ったのだ。
左手の薬指に指輪をつける。
「……結婚届けを出したら、君に……僕の所有の印をつけさせて」
「分かりました。……ふふ、意地っ張りなところも貴方らしくていい」
お互いに微笑むと、優しいキスをした。
「結婚!?」
「届けは先程出して来ました」
事務所社長はあんぐりと口を開けたままになる。
「相手は一般人です。薬剤師ですね」
やはり肉欲の罪ということで城山には負担をかけさせないように黙って神父は辞めていた。
そして薬剤師をやっているらしい。勉強していたというが、頭が良いのだろう。
「……そ、そうか。前に言っていたΩだな。
マスコミには出すか」
「結婚とだけ、お願いします。派手なのは好まない人なので」
相当世間が騒ぐだろう事を城山は知らない。気づいてないのだ、自分の、影響力を。
「荒れるなぁ……」
芸能界もこれで結婚ラッシュだろう。それと二番目を狙う猛者達が、城山には集るだろう。
「ヒート騒動がすっぱ抜かれそうなのが落ち着いたら、これか……」
そして、前作映画の第二弾も予定されている。
連続ドラマの主演もある。CMも六本。
どれも大手だ。
キャンセルをされたら困るが、城山自らが説得に行くらしい。ならばスポンサーは問題ない。
問題はマスコミと過激なファンだろう。
「それで? 家は?」
「買います。都内の一軒家の予定です」
「………もう予定があるのか、早いな」
「二人で選ぶので、問題ないです」
「結婚式は?」
「親と兄弟だけ呼んで、ひっそり挙げるつもりです」
顔面凶器の親兄弟がいる城山家。
さぞ相手は萎縮するだろうな……と社長は思う。
芸能一家の城山家、全員集合は見てみたかったとこっそりと思うのだった。何しろ美女のαの母親(離婚している)と、ロマンスグレーにはまだ早いが、イケオジと呼ばれる二代目至高のα(初代は祖父)の父親、弟の爽やか系、美人モデルの姉、映画監督の兄(元俳優)が揃うのだろう。
至高のαなどと売り出したが、これ程の虜を作ってしまうのは想定外だった。
ーー運命の番
結婚式は密かに行われた。
顔面凶器の城山一家が、その教会で遭遇したのはやはり違う方向性で顔面凶器の道原一家だった。
ほっそりとした痩せ型だが、儚系美人のΩ父親と肉感溢れる美女のβ母親。そして気むずかしげだが、優しいαの兄二人と妹のΩだった。Ωが参加するということで、緊張した城山α一家だったが、番もおり安定しているそうだ。
(αじゃないけど、美人な人だな……)
「もしかして、モデルやってた弓谷さん!?」
「覚えててくれたんですか、先輩っ!」
キャッキャと母親同士は顔見知りだったらしく、仲良くなっていたが、要の父親と祐希の父親の反応は違った。
「……てめぇ、うちの息子に手を出しやがってよぉ?
それでも賢いα様かよ?」
儚系、どこへ行った?という、ヤンキー口調のΩ。
「知ったことか。息子同士の問題だ。
今は、祝いの席だろう」
「ぐ……う……確かに。……宜しく」
「こちらこそ宜しく」
あれは父が機嫌が悪い時の笑顔だと演技を見破る城山一家。どうやら父親同士は険悪そうだ。
「それにしても、本当に祐希くんは美形ねー。わたしの嫁に欲しかったわ」
「母さん」
冷たい要の一言に、黙る母親。こんな要は見たことがない。要は白いタキシードで、まさしく王様にふさわしい風体。
そして見るものを魅了するαの風格と色気がある。
母親ですらどきりとさせられる。
「それにしても、まだ番じゃないんだな」
「結婚式を挙げてからって決めてたんです。
僕のわがままですけど……祐希さんにも納得してもらって」
にこりと笑って、すすっと兄を遠ざける。
「きみ、一度映画出てみない……って、何するんだ」
「予定では三日後からヒートなんです。意味、わかりますよね?」
つまり下手にαに近づいて、ヒートを起こさせたくないという事らしい。
「うわ……要ちゃん、そこまで計算して今日にしたの?
そんな子じゃなかったのに。恋は人を変えるわね」
姉がドン引きするが無視だ。
「独占欲ってやつてすねー。祐希兄さん、愛されてるなぁ」
妹に言われて、照れる祐希も白いタキシードだ。こちらも王様と言われてもおかしくないほど風格があり、色気がある。
美男二人に、家族もほうっとため息をつく。
結婚の誓いをして、身内での軽い食事(皆忙しいのでゆっくりと出来る時間が取れなかった)。
また家族会しましょうねと、約束をして、新婚二人はこれから新居で巣篭もりに入る。
「は、始めてのヒートだから、怖いんですよ要さん……」
「大丈夫。一緒にいますから」
抱きしめて不安そうな祐希にキスをする。
「ヒートに入る前に私を抱いておく?」
「……私は一応嫁だから。……でも嬉しいよ、そう言ってくれて」
ヒートの最中に項を噛む。それは番の印となるらしい。
ついでにヒートの時に、抑制剤やピルなしだと100%の確率で、孕むという。
「少しでも長く二人の時間を取りたいけど……子供が欲しいから」
それが二人での同意。祐希には高齢出産になるが、それが出産を早めた理由だ。
「……丁度結婚報告会見流しているようだよ?」
「世間が煩いのも今のうちだけだよ。僕なんて数ある役者の一人だからね」
去年の映画の賞を総なめして、海外でも賞を貰った男は平然と言う。
「ふふ、そんなところも大好きだよ」
「数いる役者の中で、僕を選んでくれて嬉しいよ」
「役者じゃなくても貴方を選んだよ」
ふわりと祐希の匂いが濃くなる。
「ん……なんか、身体が……熱いかも知れません?」
「これが祐希のヒートの匂いか……。凄く、クるね」
水を飲ませて、服を脱がせていく。
匂いに我を忘れないうちに。祐希の匂いにだけはおかしくなってしまうのだ。
「祐希、愛してる」
「……私もです、要。貴方と出会えて幸せです」
最初は実は城山要には不運であり、道原祐希には幸運だった。
それはお互いの心に秘めて。
ーーIF 黒田くんへのご褒美
憧れの城山は今回は連続ドラマの主演だという。
そこで映画でも話題だった黒田が、ゲストに決まった。
「え? 寝てる?」
「このところお疲れなんですよ。
演技とかは好きだけれど、バラエティーとかは苦手なんですよ。他の関係者が事故渋滞でスタジオに殆んど来れてないですし」
ほんの二時間。
「僕は、少し出てきますから。また後で」
と、そのまま出ていってしまう。
それはしてはいけないことだ。
αでしかも話題抜群の城山は一人にしては駄目だろう。
襲われる可能性がある。
だから黒田は番犬のごとく控え室に詰めることにした。決して城山の寝顔を眺めたかったわけではない。
(うわ、睫毛長い…)
手入れされている顔や髪。
寝ていてもフェロモンは消えることがない。
(も、もう少し近くで…)
それが悲劇だった。
(へ?)
ぼんやりと目を開けた城山が、黒田をぼんやり見つめた。
「……嫌だとか、言わないで……」
「え?」
深いキスをされている。
しかも上手くて、腰が抜けかけた。
その腕を身体を容易く持ち上げると、のし掛かる。ふんわりとアルコールの匂いがした。
「『俺』は、こんなになってるのに」
ズボンから出された剛直。
「し、城山さんっ?!」
だが、刃向かえない。αでも、自分は城山と差があると思い知らされる。
「……舐めて」
これはご褒美ですか。
そう思いながら黒田は剛直を口にする。やり方はそれはもうよく知っている。想像相手は城山。
だが本物は違う。
(この匂い、味、大きさ……ホンモノは違う)
いい匂いがするし、大きい。カリも高くて口に咥えるのは先だけだ。
「……んっ」
出された精子を飲み干す。まさしくご褒美だった。そのくらいには念入りのファンだ。
「脱いでよ、『俺』が欲しいなら」
「脱ぎますっ!」
良かったと心から思う。後ろを開発していて。普通なら入らない剛直も、行けそうな気がする。
覆いかぶさられ、足を開かされた。ドキドキして、顔が見れない。
ズンッと貫かれ、それにくらくらすら。衝撃が強すぎる。
そして、赤いうっとりした顔で自分を犯す城山の熱を全身で感じていた。自分よりも遥かに強い雄、α、憧れの人物に抱かれて、夢中だった。
どくりと吐精され『俺で気持ちよくなってくれた!』という歪に思いながら、城山を見ると……寝ていた。
「え?」
完全に寝ぼけて、自分は犯されたのだと察した。
しかし、それでも『寝ぼけて俺を選んでくれて嬉しい!』というポジティブな男だった。
(最高過ぎた……。滅茶苦茶気持ち良かったし、ああもうっ!)
筆舌にしがたい。
幸いまだ抜けていない勃ったままの剛直をお借りして、今度は間違いなく上に乗り逆に黒田が動き、中を擦ってもらう。
(いいっ……! めちゃくちゃ気持ちいいっ!)
漏れてしまう喘ぎ声を抑えながら、黒田は三度程の果てた。ここはもう完全に犯罪である。
そして、他人が来る可能性を思い出して素早く動こうとして、ダラダラと自分の中に残されている精液に感動すらしていた。
ぎゅっと尻に力を入れ、城山のペニスを拭いて、香水で臭いを誤魔化す。
憧れの人の醜聞にならないように。
(ああ……抱いてもらえたぁぁ……)
幸せで、頭が一杯だが顔はいつもの無表情。
α男でも抱いてもらえたのは嬉しすぎる誤算だった。これは、起きているときでもアプローチすれば行けるのでは無いかと思わせた。
しかし、起きない。
もう一度くらい出来るだろうか……と考えたところで、マネージャーが帰ってきた。
「ああ! 開けっ放しっ!? すみません黒田さん!」
「この人になんかあったらドラマポシャるしな」
「すみませんすみません! ちゃんと閉めるなんて言ってたのに、駄目でしたか……」
「薬局?」
「二日酔いの薬です。その、内緒にしてほしいのですけど、城山さんアルコールが駄目なんです。
少し飲んだだけで酔っちゃって、二日酔いにもなるし」
「そ、そうなのか……」
「脚本を読みながら、摘んだお菓子が酒入りで、眠くて仕方なかったみたいで。
起きたら二日酔いだろうから、薬を買って来たんです」
あれは酔ったからなのか。
しかし、いつもと違い紳士でもなく、本当に自分は雌だと思わされた。
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