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第3話:ドキドキ初デート(4)

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友人からの誘いで、
来週の日曜日にプラネタリウムに行くことになったわけだが、
西森を誘うかどうしようかで、おれは悩んでいた。

今の時期、特に何かの試験期間というわけでもないのだが、
西森は365日毎日勉強しているわけなので、
勉強の邪魔になるかもしれないと思うと、なんとなく誘いづらい。

『おれが恋愛の勉強を教えてやる』と、あの日大口叩いたくせに、
西森をデートに誘う勇気も無いなんて、ほんとかっこ悪いよな・・・。

そんなことをウジウジ考えながら、放課後職員室に戻ってくると、
教頭先生が、「高山先生、ちょっと」と声をかけてきた。

「はい?」

冷静に返事をしたものの、内心ビビりまくっていた。

だって、教頭先生がおれを呼び出すのは、
ほとんどお説教等の悪いことばかりだからだ。

まさか、もしや、西森との関係がバレた、ということだったら・・・

そう思うと、自然と額に汗が流れてきた。

ドキドキしながら、教頭先生の机の前に行く。

「ええと、何でしょうか?」

おれが問いかけると、
教頭先生は机の下から大量の紙を取り出して『バン!』と置いた。

え!?
何、この紙!?

もしや、
おれと西森が二人で会っていたことの証拠を集めたレポート!?

そう思って一瞬ドキッとしたが、よく見てみると・・・

『手を洗って、食中毒に気をつけよう!』と、
書かれたポスターだった。

教頭先生はポンポンとポスターを軽く叩きながら、
「高山先生、忙しいところ悪いけど、
このポスターを校舎に貼って来てくれないか?
君は背が高いからポスター貼りに向いているしね」
と言う。

おれは『西森との交際』のことがバレたのかと焦っていたため、
なんだか肩透かしをくらったような感じだ。

しばらくポカーンとしていたが、すぐにハッと我に返り、
「了解です!ポスター貼り、得意ですから、
すぐバーッと貼ってきます!」
と言って、机からポスターの束を奪うようにして
教頭先生の前から走り去った。

長居は無用。

あのまま教頭先生の長話に捕まったら、
しばらくは解放されないだろうし、
またお説教をくらうのもゴメンだからな。

こうしておれは大量の『ポスター貼り』という雑用を押し付けられ、
校内をウロウロすることになった。

『食中毒のポスター』ということで、
洗面所やトイレをメインに画びょうやセロテープでポスターを貼っていく。

ポスターを貼っていると、
廊下の向こうの方から「キャッ!キャッ!」と騒ぐ声がする。

振り向いてみると、
男子生徒と女子生徒が腕を組んで楽しそうに話しながら歩いていた。

「ねえ、今度の日曜日、遊園地に行こうよ」
と彼女が言うと、彼氏もうなずき、
「あ、おれもちょうど行きたかったんだよな~」
とうれしそうに答えている。

そんな幸せな会話を聞いていると、
おれはものすごく悲しい気持ちになってきた。

なんで、おれと西森は同級生じゃないんだろ・・・

同級生同士だったら、
もっと気軽にデートの誘いだってできたかもしれない。

でも、先生と生徒という立場だから、
いろいろと制約があって、おれは身動きできずに悩んでいる。

そんなことは分かり切っていたことなのに、
現実を思い知らされると不満ばっかり出てきて、愚痴って最低だ。

そんなおれに天罰が落ちたのか、
持っていた画びょうのケースを床に落としてしまい、
大量の画びょうが「ザーッ」と廊下に散乱してしまった。

「やべ!急いで拾わないと、誰かが踏んだりしたら大変だぞ!」

ポスターとセロテープをとりあえず床に置き、
あわてて画びょうの回収を始める。

もーっ、
なんでこんな小さくて危険なモノを大量に廊下にばらまくんだよ!

心の中で文句を言いながら、必死に画びょうを拾っていると、
「先生、何やってるんですか?」
と聞き慣れた声が頭上からした。

おれはビックリして顔を上げると、
そこには西森が立って、おれを見下ろしている。

「画びょう、こんなに廊下にばらまいて、
ほんと、何やってるんですか」

半ばあきれ顔の西森。

でも、スッとしゃがむと画びょうを拾い集め始めた。

まさかの西森登場で、おれの心臓は一気に高鳴り出す。

時間は放課後。
人通りの少ない廊下に西森と二人きり。

今なら、西森にプラネタリウムの話を切り出せるかもしれない、
とおれは思った。
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