SUN×SUN!

楠こずえ

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第2話:魔法相談所開設(その2)

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キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、放課後がやってきた。

ひまわりと玄関で待ち合わせした太陽だったが、
ひまわりの姿は無い。

「あいつ、何やってんだよ」

チッと思いながら、クツ箱を開くと手紙が1枚入っていた。
差出人は、ひまわりのようだ。

「ん?ひまわりからじゃん」

太陽は手紙を取り出し、中を読んでみる。

 『桐島君 
 放課後の用事は付き合いますが、
 先に桐島くんの家に行っています 夏野より』

 太陽は首をかしげた。

「なんだ、これ?」

ひまわりは考えた。
 太陽と堂々と放課後待ち合わせて一緒に帰ろうものなら、
ファンクラブの女の子達に何を言われるか分かったものではない。

本当に付き合っているのであれば話は別だが、
太陽が自分に話しかけてくるのは
単に相談所の「手伝い要員」のためであって、
決して恋愛対象として見られているわけではない。

その点を女子の皆さんにこれ以上勘違いされては困るのだ。

そういうことを踏まえて、
学校ではなるべく太陽に近づかないようにするのが得策だ、
とひまわりは考えたわけである。

「ったく、なんで先に帰ってんだよ。寄るところがあったのに」

「す・・すいません・・・」

雨夜家の和室の一室で、
2人はテーブルをはさんで向き合って座っている。

今日も床の間にはきれいな花が活けられ、
お香の高貴な香りが部屋に漂う。
その香りは不思議とひまわりの心を落ち着かせてくれた。
が、太陽が話し出すと心は一気にざわめき出したが。

「ということで、
 今日は相談所を開設するにあたって
 おれもおまえも魔法を使えるように特訓が必要だと思うんだ」

 「・・・・・・・・」

ひまわりは、
「魔法」があることをまだ完全に信じていないため、
そのことを真顔で語る太陽に対して
どう反応してよいか分からない状態である。

「その・・・魔法ってどうやったら使えるんですか?」

「それが分かったら、何の苦労もしねーよ」

確かに・・・。

魔法の使い方が簡単に分かれば、
この世の中、魔法使いだらけになってしまうであろう。

太陽はひまわりの顔をじっと見つめ、
「でもひまわり、おまえこの前、
 占いをしている時、魔方陣出してたじゃん」
と言った。

また聞きなれない言葉が出てきて、ひまわりは首をかしげる。

「ま・・魔方陣?」

 太陽は紙に円を描きながら、
「魔法を使う時に儀式の一環として地上に描く円のことだ。
 魔方陣には魔力がこめられ魔法の場を作り出し、
 大きな魔法の力を呼び起こすことができるんだ」
と説明した。

その話を聞いて、さらにひまわりは首をかしげる。

「え・・・?
なんでそんなもの私が出していたんです?」

 魔法を使った記憶もなければ、
 魔方陣を出した記憶もないひまわりゆえ、
 頭の中が少々混乱している。

 太陽も「うーん」と首をひねって、
「ま・・・たぶん、魔力を高めて占おうと気持ちを集中した結果、
 無意識的に出していたかもしれないけどな」
と推測した。

 無意識に出して・・・とはいえ、そんな技を繰り出していた自分に
 ちょっと驚くひまわり。

でも、無意識でそんなことができていたなら、
 訓練すればもっとすごい技を使えるのではないだろうか。

 少し自信を持ちかけていたひまわりだったが、
 「ま、おれが見たのが見間違いでなければ、の話だけど」
という太陽の言葉で、
 一気に気持ちは不安の方へ傾いていった。

 魔力がほぼ0の太陽ゆえ、見間違いの可能性は高いかもしれない・・・

その時だ。

がらっと襖が開き、
「太陽、
おや、ひまわりちゃんも来てたのかい?」
と太陽のおばあさんが現れた。

今日もビシッと着物を着こなし、年の割にはシャンとしている。

「あ、お邪魔しています!」

ひまわりがあわててあいさつした。

太陽は、
「なんだよ、ばーちゃん、忙しいんだけど」
と急に入ってきた祖母を邪魔に思っていたが、
「仕事じゃ」
と言われた瞬間、驚きあわてて姿勢を正して座った。

『仕事って・・魔法相談所の?』

何の準備もしてないのに
突然舞い込んできた仕事にひまわりはびっくりする。

それとは逆に太陽は目をキラキラ輝かし、
「え!?なんだ!?何の仕事だ!?」
と、やる気十分のようだ。

おばあさんは座布団の上に座ると、
二人の前に一枚の写真を差し出した。

「相談者は、数日前から大切なペンダントをなくしたそうで、
それを探し出してほしいと依頼しに来たんじゃ」

仕事内容をを聞いた瞬間、あんなに目を輝かしていた太陽が
急にムスッとしたような顔に変わった。

「なんだよ!
そのしょーもない相談は!!警察にでも頼め!!」

太陽としては
もっと大きなスケールの相談だと想像していたのだろうか。
意外と小さな用件で、やる気が一気に失せたようだ。
そんな太陽の態度に、おばあちゃんが一喝する。

「ほう、よく言ったな。
そんなしょーもない相談でも、
太陽は即解決できる力を持っているのかい?」

そう言われた太陽は、「うっ」と言葉をつまらせた。

おばあちゃんの攻撃は続く。

「ま、大地なら即解決することができると思うけど、
 太陽の力ではなあ~」

 大地の名前を出され「ムカッ」とした太陽は、
「ダン!」と机を両手で叩いて身を乗り出す。

「分かった!おれだってやってやろうじゃん!!」

 再びやる気を出した太陽を見て、祖母はクスリと笑った。

 孫の操り方はよく分かっているようで、
 負けず嫌いの太陽ゆえに、
 大地の名前を出してやると、
「やる」と言い出すのを分かっているのだ。

そんな太陽とは対照的に、
ひまわりは非常に大きな不安感を抱いていた。

『だ・・・大丈夫かな・・・
私も桐島くんも、ろくに魔法なんて使えないのに、
 仕事なんか引き受けて、ちゃんと解決できるのかどうか・・』

「お金をもらわない」魔法相談所だからといっても、
頼って来るお客さんというのは、
問題をどうにか解決してほしいはずである。

それなのに「出来ませんでした」では、
依頼者も怒るのではないだろうか・・・。

不安だらけのひまわりをよそに、
話はもうすでに進んでいた。

「じゃあ、詳しいことを説明するよ」

おばあちゃんは、
ペンダントの依頼写真を差し出しながら話し始める。

「相談者は50代の女性で、
失くしたペンダントはこれじゃ。
先祖代々、その家の娘が受け継いでいるものだが、
どこで失くしたのか分からなくて困っているそうだ」

ひまわりは写真を見ながら、首をかしげる。

『どこで失くしたか分からないペンダントなんて・・・
どうやって探したらいいんだろう?』

おばあちゃんは続ける。

「とても大切なものゆえ、
どんなささいな情報でも欲しいと、
うちを頼って来られたわけじゃ。
しかし、
紛失物を追跡する術を使える大地が
今は不在であることを一応伝えたのだが、
『それでも』と言うのでとりあえず受けたのじゃよ」

「追跡する術?」

また聞きなれない言葉が出てきたので、
ひまわりは首をかしげる。

おばあちゃんはお茶を飲みながら、
「魔術を使って、人や物を探す方法なのだが、
 強い魔力を持ってないと上手くいかなくてね。
 難なくできるのが、
 今のところうちの一族では大地だけなのじゃよ」
と説明した。

雨夜家で今一番、魔力が強い大地が不在のため、
おばあちゃんもいろいろと困っているようだ。

ひまわりはチラッと太陽を見た。

太陽は写真を握り締めて、ああでもない、こうでもないと
ブツブツひとり言をつぶやいている。

大地にしか使えない術ということは、
たぶん太陽では、
全く使うことができない術なのであろう。
それでも太陽はやる気のようである。

「じゃ、よろしく頼むよ」

そう言うと、おばあちゃんは部屋から出て行った。

ひまわりは太陽の顔を伺いながら、
「どうします?」
と聞いた。

 太陽は頭をポリポリかきながら、
「どうしますって言われても、何の手がかりもないんだから、
 追跡術をやってみるしかないだろ?」
と言ったので、ひまわりはギョッとする。

「えっ、あっ、でもっ、
 大地さん以外は誰も出来ないんじゃ・・」

アワアワしているひまわりに、
太陽はムッとする。

「あのなぁ、おれだって何回かに1回ぐらいは
魔法が使えるんだよ!
最初から上手く行かないって決めつけるな!」

太陽にそう言われて、ひまわりは反省した。

確かに、
最初から太陽が「何もできない」と決めつけて疑うのは
よくないことだからだ。

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