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ジーマの暴走2

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「どうして、こんな数の罠が仕掛けられているんですか? いくら命にか関わらないとは言っても、怪我人が出たりしたら…!」


少し怯えたリコーリアの視界に、また1人釣り上げられていく女生徒が1人。


「いやあ!どうなってるの!!降ろしてー!!」
「怖い!わたくし、高いの苦手なのよー!」 
「うわあああ!」


また別の所でバチバチ!!という音がして、悲鳴が聞こえた。




「…小型の発電器を作っていたのは、ジーマだ。何故あいつがこんな事を…!」

「ジーマちゃんが…っ⁈」



そこで何故なんて言うなよ?リコーリア。 これは、これを引き起こしたのはリコーリアだ。私だ。


私達がジーマを壊した。


ダメだ、もうダメだ。
終わりを悠長に待ってなんていられない。





このままでは、ジーマが一人で罰を受けることになる。ともかく今は、犠牲になっている生徒達を助けないと!せめて、助けないと!


なのに、なのに。


「ともかくここは危険だな。安全な場所に移動しよう。」
「は、はい」



おいコラふざけんな。



1番の元凶はリコーリアだ。
彼女が罠にかかれば、多分これ以上の犠牲者は出ないだろう。 だが、一人だけ守られて逃げるなんてそんなの、いくらゲームの中でもそんなの嫌だ!!


それに、逃げている分。


多分罠が収まることがないだろう。何処へ逃げても淑女科のリコーリアよりは、暗殺科にいる分、多少のドジっ子要素があるとはいえ、ジーマの方がフットワークは軽いだろうし。


リコーリアはリュウに守られながら罠にかかる事なく移動出来るが、他の生徒たちの犠牲は増えていく。






馬鹿か。

そんなの私が嫌だよ。

お願いだよリコーリア。私が作った貴女は、天真爛漫ではあるけれど、他人を思いやるキャラクターに作ったんだよ。自分が大切にしたいと思った人には、優しくできるようにって、私が願いを込めて作ったキャラクターなんだ。他人を踏みつけて、そして知らない他人であったとしても、困ってる人に知らんぷりできる子には作ってないんだ。それは、愛の女神様が多少の手を加えたからって、本質は変わらないはずなんだ。  


私は動けない。動けないけど。お願い、おねがいだよリコーリア。私が作ったリコーリア。



私の大切なリコーリア。

自分の為だけに、他人を踏みつけても平気だなんて、貴女はそんな子ではないんだよ。だって、私の、私が作ったキャラクターなんだ。愛の女神が作ったんじゃない、私の愛を詰め込んだキャラクター!それがリコーリアだ!




「ま、待って…待って下さい!リュウ先輩!でもあの、他の皆さんの事は…?」

「…?なんだ、どうしたんだリコーリア。このままでは、リコーリアが危険な目に遭う。俺はそんな目に合わせたくない。…わかるだろう?…さ、今はここから離れよう。」


優しく手を伸ばして微笑むリュウ先輩。その為には他の人達がどうなろうと関係ない。そんな風にすら取れてしまう言葉。
だけど。だけど、コレは違う。

これは、間違って作られたリュウ先輩だ。



このゲームに入る前に、もう少し、もっとちゃんと話し合えていたら。もっともっと、作り込まれていたのなら。

ジーマが納得するリュウが居たのではなかっただろうか。

恋愛関係にある女生徒がリュウにいたとしても、ここまでする相手は多分いなかったと思う。



歯痒い、動けない。リュウが優しく手を伸ばせば、リコーリアは手を取って一緒に逃げてしまう。これなら、私がゲームの世界での本当のヒロインで生きる転生の方がどんなに良かったか。ゲームとして主導権を握られている今のなんてもどかしくて、辛くて、苦しいことか。

愛の女神が自分のキャラクターである攻略対象達をどう作ろうが関係ないが、私のキャラクターを勝手に嫌な奴にされるのだけは我慢がならない。


ー ううううう~っ… ー


リコーリアとは関係なく、魂だけの私は、悔し涙すら出てくるのに。リコーリア、自分で考えて動いて!動いて!動いてよう!

無駄だとわかっていながら、もがいてみせる。





「あ、あの、もしもこれがジーマちゃんのしていることなら…!」



「…ああ。ジーマがしている事なら、許されない。」


ま、待って、待ってくれ。ゲームの世界だとは彼らには認識がないけど、私は違うんだ。


ああああ、ジーマちゃんは悪くないんだよ。元はと言えば…!


「ジーマ、出て来い。近くにいるんだろう?今ここで何故こんなことをしたのか、弁明しろ!」


怒りを含んだリュウ先輩の声が響く。



「……るさい…」


カサリと小さな音を立てて、数十メートル離れた場所から、ジーマは姿を現した。


「うるさい。お前はその魔女によって狂わされた存在だ。私達の知るリュウ先輩ではない。お前が語るな。喋るな。むしろ消えて無くなれ。お前はリュウ先輩なんかじゃない!!」




パンッ!!



乾いた音が。



…響いた。










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