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私がゲームプレイヤーで。

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『…自分で作ったゲームを、他の人に楽しんでもらう、楽しみ…ですか?』


「そうですよ。…もちろん、これまで通りに私はリコーリアの中に居ますが、プレイするのは私です。選択肢を選ぶのも、私。女神様は自分で作ったゲームを、私にプレイされるのを見るだけにしてもらっていいですか?」


『で、でもでも!そうしたら私が楽しめないのでは…⁈』


「どうしてですか?ご自身で楽しめるように作った作品でしょう?なら、他の人がプレイしても楽しめるはずなんでは?」


『そ、それはそうですけれど、そもそもこのゲームを作ったのは、リコさんに恋愛の素晴らしさを知ってもらう為で…!』

「うん、だから。強引に決められた選択肢で、無理矢理恋愛した気にさせられるより、自分でプレイした方が断然、ドキドキ感が違うんですよ。生前の私がプレイしたゲームから、女神様はこのゲームを作り上げたんですよね?他にも、人間界でのアプリ系の恋愛ゲームをそれなりにやってきたってお話でしたよね?

その時に女神様もドキドキワクワクしたから、(おせっかいにも)恋愛経験のない私を選んで、同じ様にドキドキワクワクしてもらいたいが為に、私がヒロインになれるゲームを作ったのでしょう?

ならば女神様が一番、私に、この佐藤リコにこのゲームをプレイしてほしいのではないのですか?」




女神様は、その言葉にまだ釈然としていない顔をしている。でもまあ、とりあえずはだ。



「一度、選択肢を選ぶ権利を私に預けてもらえませんか?女神様が選ぶものとは違うので、違うスチルも見られるかもですよ?」


恋愛ゲームでの楽しみは、キャラクターの攻略もだけど、やはりスチルでしか見られない表情とかシチュエーションとかの楽しみがあるもんね。少なくともこれまでのような、唐揚げでの間接チューだの、変態野郎とのエロ路線だののモノよりはマシなのを見てみたい。

ただ、キリーちゃんからの情報では、なかなかにクセのあるタイプの王子様のようだから、そういう恋愛としての要素を引き出すのは少々難しいかもしれないね。


私も恋愛ゲームをしていたのは若い頃で、女神様に握られてるコントローラーを思い出してもらえればわかると思うが、死ぬまでにプレイしていたのは主にアクションゲームだったので、恋愛ゲームはさほど得意というわけでも無い。何にしても、このままでは終わりそうに無いし、一度はこういうカタチでゲームプレイをしてみるのも楽しそうだと思ったのは、正直な感想だ。



『そ、れも…そうかもしれませんね。わかりました、一度リコさんに任せてみて、どうなるのかを見てみましょう。わたくしとは違うセリフとかも出てくるかもしれませんものね?』



女神様が作ったのに、女神様の思い通りにならないゲームでのスチル回収、というコトバに、女神様はやる気になってくれたようだ。しめしめ…じゃなくて、良かった良かった。



『では、リコさんにコントローラーをお返しします。ゲームの中でコレを出すわけにはまいりませんので、リコさんの中に同化させます。選択肢が現れた時は、リコさんの意志で決定できますので、頭の中で、選択肢を決めた時は選択肢名の後に『決定』と付けて下さい。それで選択肢の決定となります。』

「了解です。」


そうして私のレウス仕様のコントローラーが、光となって私の中に同化したのがわかった。おかえり、私のコントローラー♡



それから、いつものように。

ピンク色の光に包まれて、私はいつものゲーム内の自室に戻った。



そして女神様がプレイしてきた、これまでのようにお決まりのすんげぇ時間。もう遅刻確定なので、今回は叱られるのを前提に行ってみる事にしよう。大体において、遅刻しそうな時間に王子がいる事がおかしいのだ。リコーリアが遅刻しそうなら、王子だって遅刻だろうに、なんであんな中庭でのんびりしとるのだ。むしろ王子ならよくわからんけどSPみたいなのが付くもんじゃないのかね?

んで、のそりと。
ゆっくり着替えて、もうのんびりと淑女科へと向かう。せっかくなのでドーナツはもぐもぐしてくことにするよ。腹が減っては戦はできぬだからね。あ、恋愛か。

いやもうね。
何よりも今全身で感じているのは。




自由に動ける。
自由って、スバラシイ!!




ビバ自由!!



って事ですかね。誰にも行動を制限されないって、ホントに最高だよ。


淑女としては、歩きながらのドーナツもぐもぐはあるまじき行為ではあると思うけれども、コレでさえどう動く形になるかわからないもんね。最後の一口をごっくんして、鼻歌混じりにいい加減歩き慣れた淑女科への道をのんびり歩いた。





いつもの中庭にたどり着くと、真ん中の噴水前に設置されたベンチに、これまた遅刻確定の王子様が座ってる。なんとものんびりしてる事だ。まあ王子様なんだから遅刻したとしても誰かに糾弾されたりとかはないんだろな。平民のリコーリアとは違うもんな。とりあえずは挨拶しとかないとね。一応は王子様だからさ。



「ごきげんよう、サクラ王子様」


私はこれまでのゲームの中で培わされた優雅なご挨拶で、サクラ王子に挨拶をした。




そこで目の前にゲーム画面が現れ、一度時が止まる。
自分以外の時が止まったのをわかりやすくする為なのか、それまでの世界の色が全てモノクロに変わった。

薄ピンク色の縁取りをされた、光る画面には、次の行動の選択肢が並んでいた。


・ 「急がないと遅刻ですよ?」←
・ 「迷子ですか?王子様。」
・  そのままそこから去る。


なるほど、こういう形で選択肢が出てくるんだね。女神様ならきっと2番目辺りを選びそうだなと思いながら、私は迷わず。



・ 「急がないと遅刻ですよ?」
・ 「迷子ですか?王子様。」
・  そのままそこから去る。←  ピ。


「そのままそこから去る、選択。決定。」



私がそう言うと、選択画面はスウッと消えて、同時に世界に色が戻る。すると、選択肢の通りに体は王子様に失礼しますとだけ伝えてくるりと踵を返した。そしてそこからはゲームの強制力?ってのかな?選んだ選択肢が体を動かした。選択してからイベントが終わるまでは、これまで通りにリコーリアの動きはゲームに制限されるらしい。





「待て。」
「はい、何でしょう?」


呼び止められて、顔だけで軽く振り向く。ゲームだけど、それ以外の言葉は私のもので大丈夫なようだ。自由に発言できる。それだけでもだいぶ楽チンだ。選択だけでなく、自分の考えで相手と話ができるのは助かる。




「何も言わないのか?」
「…遅刻ですよ、王子様。」
「お前もだろう。」
「そうですね、ですからもう諦めて急がない事にしたのです。」
「そうではなく。」
「何でしょうか?まだ何か?」


「…咎めないのか?」
「王子様がしたくてしている遅刻かもしれませんので。…ええと、ならば急がれた方がよろしいのでは?王子様。」


咎めて欲しいのかと、一応咎めておいた。サクラ王子は少しだけポカンとした後、ふはっと吹き出した。



「変わった女だな。」
「…まあ…(見た目はともかく、中身はもうすぐアラフィフのオバハンだからな)そうかもしれませんね。」



「面白い。気に入った。」
「へ?」



こんな事で⁈

え、王子様の攻略のとっかかりが楽すぎない?



ああ、でも女神様がプレイしていた時は、とにかく気に入られようと好感度が上がりそうなセリフばかり選んでたもんな。王子様に塩対応は今回が初めてって事になるのか。…なら、とっかかりとしてはこの位でいいのかもな。


「お前、名前は?」


そういえば、お前、なんてサクラ王子が言うのは初めてかもしれない。リュウの時は 其方 って王子様っぽい言い方してたもんな。いきなりフランクになってて、ちょっと驚いた。でもまあ、相手は王子様。好きにお呼びなされ。



「リコーリアと申します。」
「リコーリアか。覚えておく。」


ベンチから立ち上がり、サクラ王子は一度だけ振り向いて微笑み、そしてじゃあなと去って行った。


《っきゃああああああっ!!》
「うおっ⁈ な、何ですかいきなりっ⁈」



サクラ王子が去った後、女神様のつんざくような黄色い声が頭に大反響した。


《これ、これですよ!!新しいスチル来ましたよっ!!》


私より先に大騒ぎするもんだから、天からの声が聞こえない。


ー スチル「王子様の笑顔」ー
ー イベント「王子様との始まりの予感…?」ー

終了しました。


あ、アレでイベント終わったのか。じゃあ選択としては王子様ととっかかれたから良かったって事なんだな。


女神様は暫く自分では獲得できなかったスチルを手に入れて大喜びだし、良かった良かったって事で。


授業に向かいますか。



…手遅れだけどね。





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