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王子様を探そう。

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授業に遅れた分、もちろんリコーリアは先生から淑女タルモノーなお説教を受けた。そこはゲームなんだから、早送りでもいいと思うのよ。
ぐったりして教室に戻ると、キリーちゃんがお疲れ様、と労ってくれる。ホントにええ子や。さすが私の作った癒し系元気キャラ。


「ごめんね、今日、私も日直だったから…。」

日直あるのか。さすが、元は私の記憶から取り出して作り上げたゲームだね。
キリーちゃんは別に悪くはないのに、いつも通り声を掛けなかったからと謝ってくれちゃう。もうヒロインはキリーちゃんでええがなとも思うわ~、なんてホンワカ考えちゃうね。


それはさておき。

私がこの世界から解放される為には、どうしてもサクラ王子とのイベントを終わらせねばなりません。


と言っても、ゲームではともかく、ちゃんと恋愛してこなかった私からしたら難易度が高すぎるわけでありましてですね。もう何度目かの同じセリフなんだけどさ。



ぶっちゃけ、攻略の策なんかまるで無いわけなんですよね。ゲームではあるんだけど、初めの2人に比べて人間性が増してるから、私としては余計にキャラクターではなく、ちゃんとした対人間として接して行かなくてはと思ってる。だがしかし。

コミュ障では無かったとは思うけど、さほど他人に興味を持てない自分からしたら本当にこれは厄介だ。
仕方ないから、ここは定番の



まずはお友達から…



で行くしかないよね。何とかして一刻も早く三途の川を渡りたいんだよ、私は。死ぬ気で頑張るか。もう死んでるんだけどさ。


とりあえず、選択肢があるとはいえ私が私として以前よりかなり自由に動けるのは本当に楽だ。


さてと?


あの王子が行きそうなところを攻めてみる?それともあえて外していく?あくまでもゲームなのだから、王子と出会える場所を攻略していくのがベタだとは思うんだけど、どうにもあの王子ってゲーム通りには動かなそうだなと思うんだよね。なんて言うのか、ワザと変な王子像作ってるみたいな。

もしかしたら、王子様自体も何かしらの思う所があるのかもしれない。

そこを探っていくか。

気分はまるで浮気相手の素行調査をする興信所の調査員だね。




…って、違う違う。するのは素行調査じゃなくて恋愛だ。おかしな楽しみ方したら迷子になる。ヤバい、少し湯沸かし女神様が私の精神に侵食して来ているようだ。



でもとりあえずはこれまでのゲームと同じ様に、そのキャラに合わせたパラメーターを伸ばさないとならんので、淑女としてのパラメーターを上げる授業を受けていく事にした。サクラ王子の場合は、変に偏りがいらないから満遍なく授業受けてれば問題はない。あとは趣味とか、王子が興味を持ってるものをそれとなく探っていくか。


よし、明日からは王子を軽くストーカーしていくか。

まずは授業を真面目に受ける私なのであった。



ーーーーー




「居ないな。」



まあとりあえずは、ゲームの内容を尊重する形で王子がいきそうな場所だけを絞ってうろつく事にした。

出逢えなければただの時間の浪費だ。まあ出逢ってから知り合って行くまでは根気よくやるのが恋愛ゲームだ。やっててもつまらんかったな、と思うゲームの序盤の時間を味わいつつ、ならば王子が行かなそうな場所に行けばいいか。と、乙女ゲームではまず出てこないだろうゴミ捨て場に来てみることにした。

ココは学園内の運動場の裏手にある。

女神様が作ったゲームなのに一度も来た事がない場所だ。運動場までは来られたけれど、選択肢の中にここまで細かく設定されてはいなかったんだよね。自由に動けるからこそだ。



「あれま。」



居たし。


しかも割とベタなシチュエーションだ。



王子はゴミ捨て場にいる子猫に餌をやっているようだ。…んんー、こういうのって、割とヒロインが迷子の子猫に出会ってとか、子猫が木の上に登って降りられなくなってとかいうのが、ありがちネタだよね。

女神様、変なとこで忠実だな。やりやすくていいけどさ。

めっちゃいい顔で子猫に餌やってるし、はいコレ絶対スチル確定ですね。おめでとうございます、女神様。個人的には、王子様よりも猫好きな自分からしたら、子猫たんに目が行くんだけどね。王子なんかどうでもいいよ、ぬこたん可愛いよ、ぬこたん。…と、私も少しだけ遠くから子猫を愛で、本来ならば王子なんか突き飛ばして子猫たんを愛でたいのをぐっと堪えつつ。

ひとつ息を吐いて、子猫を諦めて。………っくそ、子猫愛でたいよ。だがしかし、…進めるか。

……王子とのイベント終わっても、残ってくれないかな、子猫たん…。王子消えたら愛でるからさ。……はぁ。





さて、行くか。

一歩踏み出すと、選択画面が現れた。



・「…え?王子様?こんな所で何を…?」←
・「わあ!子猫!可愛いですね。」
・見なかったフリをして立ち去る。



うーむ。

やはりここは。



・「…え?王子様?こんな所で何を…?」
・「可愛いですね。」
・見なかったフリをして立ち去る。←ピ


だよね。まだ序盤だし。グイグイ行くべきではないと思うんだよね。


「見なかったフリをして立ち去る。選択、決定。」



選択画面が消えて、私の体が勝手にそろりとそこから去ろうと動く。しかしやはりイベントだ。王子はちゃんと気付いとる。まあ当たり前か。そこら辺はちゃんとゲームだからね。


「…またお前か。」
「…ご機嫌よう、サクラ王子様。何も見なかったので、失礼致しますね?」

ヲホホ…と愛想笑いをしてその場を去ろうとする私。


「何も見なかったとか、間抜けな返答だ。そこから見えなかった訳ではあるまい。…誰にも話さないと約束するなら、ココにいてもいい。」
「えっ⁈ いいんですかッ!!」


私の体は、自分の意思もだけど。
フツーにリコーリアも猫が可愛くて愛でたかったようだ。まあ、私の作ったキャラだから、私寄りに作るわな。キリーちゃんも猫好きでリコーリアと知り合った設定がちょこんとあるしな。自分設定の物語って、変なとこで別に作ったはずのキャラ達が繋がってたりするし。でもこれは、あの黒歴史ノートに本当に最後の方のページに書いてあったけど、無いような設定みたいなもんだから、とりあえず置いとくか。


「可愛いーーーーーっ!!♡」


王子そっちのけで子猫を愛でてしまうのは、仕方なかろう。王子の魅力など、子猫に勝てる訳がないのだ。当たり前の世界だ。むしろお前、いつまで私の隣にいる気だ。どっか行けよ、子猫と私の時間を邪魔するな状態です。


「お前、私よりも子猫が大切か?」


何を至極当たり前な事を聞くのか、この王子は。

そんな気持ちをゴックンして。



「私、猫が大好きなんです。でも、王子様もお好きなんですよね?だって先程、あんなに優しい笑顔で子猫に接していたではありませんか。」


私の言葉だけど、見た目はとびきり美少女のリコーリアのとびきりの笑顔で言うのだ。コレで少しでもリコーリアに靡かないなら、テメェうちの娘になんか不満でも⁈ と言いたくなるわ。




「…まあ、な。」


ふい、と照れた様に顔を背けるサクラ王子。



『うぎゃああああああっ⁈』

ー ほぎゃあああああっ⁈ ー


頭の中に響く湯沸かしの萌える叫びが喧しくて、ゲームの私はビクともしなくても、魂が叫び声をあげる。あー、今の照れた表情がスチルだったんだろな。意外だな、子猫に笑いかけるあの笑顔の方かと思いきや、まさかの照れ表情でしたか。湯沸かしよ、割とアンタ腐女子でもいけるかもよ?私がこのゲームを終える時に乙女ゲームもいいけど、と、腐女子向けのゲームも布教してみようかな、なんて思う私がいるのであった。



「もしかして、たまにココにきて…子猫達にごはん、あげてるんですか?」


ゲーム内のセリフがそのまま続いていく。


「…ああ。」
「あの、…あの。私も。たまにこの子達にごはん、あげに来てもいいですか?」


おおおお!素晴らしいですよリコーリア!また子猫に会えるというイベントに持って行くとか!猫好き設定にしといて良かったぁ!私も子猫に会えるじゃないか!素晴らしいぜ私の設定!ビバリコーリア!


「…好きにすればいい。…その代わり…」

その時、サクラ王子が人差し指をそっと口元に持っていく。


ー 二人だけの、秘密だぞ? ー


まるでそんなふうに。

リコーリアも、少し頬を赤らめつつにっこり笑って。


「はいっ!!」



と、元気よく返した。
少しだけだけど、リコーリアの中の私も。
ドキッとしたんだぜ。


これで王子様との秘密が出来た。


うわぁ、何だかコレ乙女ゲームみたい!!
(誰かツッコんでね?バチコーン☆byリコ)





私がそんな風に思ってる時、別次元の湯沸かし様は新しいスチルに萌え悶えていたのでした(笑)


ー スチル「照れる王子様」ー
ー イベント「二人だけの秘密」ー



終了しました。




天からの声は、ギャーギャーな声の湯沸かし女神様のせいで、聞き取りづらかったけども。


まあ、たまにはいいか。



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