よわむしエレンの物語 水の魔剣士

その1

その１

まだ騎士が存在していた１９世紀の世界、とある王国から離れた大きな森に未来の騎士を
育てる学校があった。
ぱっと見は大きな屋敷のような建物で、知らない人は貴族の別荘かと思うくらいであるが
ここで生徒たちが勉学や修練を積んで王国に使える騎士となる場所だ。
この学校の真ん中に中庭があり、実践の授業はここで行う。
今日も実践授業を行うためにここの生徒たちは集められた。
円を囲むように中心に集まり、その中へ教師が木刀を持って入ってきた。
その真ん中にはそれぞれの生徒が向かい合わせで立っていた。
１人は他の生徒の数倍ある体格の顔に傷のある生徒で
もう１人は見た目は少女のような小柄な少年。
先生は彼らに木刀を持たせて間に立った。
小柄な少年、エレン・サミュエルはしっかり正しい姿勢で持ち
相手のドルッグス・トルシカは片手で斜に構えて持っていた。
「ドルッグス‼︎ちゃんと構えろ‼︎」と注意する先生。
太々しく「へーい」と返事するドルッグスは正しく構え直した。
それぞれがちゃんと構え始めたところで先生は時計を取り出し手を上げた
「初め‼︎」
その言葉に先に反応してすぐにドルッグスが振り上げた。
エレンは素早くガードをするが、バギン‼︎っと音をたてそのまま勢いよく
エレンは後ろへ飛ばされるが、足に力を入れて踏ん張り堪えた。
しかし間髪を入れずドルッグスは
「おりゃああああ‼︎」と掛け声をあげて、木刀を振り上げた、すぐにガードをしたが
しかし体格の大きい彼の一撃を防ぎきれず、木刀は宙に舞った。
エレンは腰を落としてその場に座り込んだ、その後ろから木刀がカラーンっと音をたて
地面に落ちた。
周りの生徒がおおーっと声を上げた。
誰の目から見ても勝敗はわかったので手元の時計を見て先生は手を上げ
「そこまで」と言った。
「ハッハー‼︎、実戦では俺は最強だあ‼︎、ましてはエレンでは話にならないぜ‼︎」
と勝ち誇るドルッグスにゆっくり立ち上がって
「う…うん、ドルッグスはやっぱり強いや…」
とエレンは少し困りながら笑って言う。
するとドルッグスはニヤリと笑って彼に指差して言った。
「エレン‼︎お前負けたんだから明日は倍に買ってこいよ‼︎」
「ドルッグス‼︎またエレンをパシってるのか‼︎」と
先生の怒った声がドルッグスに飛び、ドルッグスは
「ゲゲッ」とすぐに逃げ出した。
すぐに見つかるとわかり先生は彼を後回しにエレンに話しかけた。
「エレン」
「は…はい！」と立ち上がって返事をした。
「お前は授業は真面目だ、それは評価するが実戦では弱すぎる、
まるで相手に勝ちを譲る感じだ」
目線を逸らして
「それは…う…」とエレンは小さく返事した。
先生は少し黙ってエレンを見つめてこう言った。
「エレンちゃんと練習をするんだ」
「はい」とエレンは校舎へと戻った、彼を先生は困った表情で見つめていた
その後ろで他の生徒たちがヒソヒソと話していた。
「やっぱりね、今日もエレンが負けたね」
「気が弱くて、何かあればすぐ泣くから、みんなあの子を“よわむしエレン”て呼んでるだよね」
「でも悪いやつではないんだよな」
そう話している彼らも校舎へ戻った。
校舎の廊下でエレンはトボトボと歩いて自室へと戻って行った。
道中に向こうから歩いてきた生徒に「やあエレン調子はどう？」と
挨拶をしてきたので
「あ、いいよ」と笑顔で返した。
しかしその生徒が遠くへ行った時笑顔は消えた。
自室へ入りベットで寝転んだ「今日の実戦はダメだった」と
呟くエレン。
彼の頭の中には言葉が回っていた、彼らは聞こえないように言ってた
けどエレンはわかっていた、自分が何て言われているのが。
「よわむしエレン…よわむしエレン…」
「弱すぎる…弱すぎる…」
気がついた時には目から涙が溢れた…
「ダメだ泣いちゃ…」と顔を枕に埋めた。




それから目が覚めた時は外は真っ暗になっていた
「…寝てしまった…もう空が暗い」
窓を開けて校舎の外を眺めた時、玄関前に誰かが居た。
ぱっと見子供のようだがこんな時間になにかようかなとエレンは
部屋を出た。
「ここがダメなら今日は野宿…」その少女は騎士学校の玄関で一人自分に
言い聞かせて、一旦息を吸って吐き、覚悟を決めてドアをノックしようとした瞬間。
ガチャっと勢いよくドアが開いた
「キャ‼︎」と驚いて尻餅をつく少女。
「あっごめん‼︎」と手を引き起こすエレン、彼女はそれには気にせずエレンに言った。
「あの…私はルリラ・ルンと申します、訳あって旅をしておりまして泊まる場所を
探しているのですが…」
と少し物腰柔らかく言うが。
「ごめんなさい、この騎士学校は生徒以外は許可なく入れられないのです」
とエレンは言う。
「そうですか…ハァ…」
とガックリしてため息をつくルリラ、
そんな様子の彼女を見てエレンは
「ここからさらに南に町があるので、僕が案内します」と言った。
「ぜ…ぜひお願いします‼︎」彼女は頭を深く下げてエレンに頼んだ。
彼は部屋から小さな剣を腰に下げて、ルリラとともに森へ入った。
この森は昼間は、太陽の光が木々の隙間からほんのり溢れて
とても暖かな森なのだが、夜になれば正反対に、どこまでも闇が続く
今頼りなのはカンテラの明かりのみだが、それは自分たちを照らすだけで
奥を照らしてくれなかった。
自分たちの足音や草むらの微かな音以外は何もしない森を
２人は不安そうに歩いた。
エレンは彼女に何かないように彼女の前を歩いた、その時に草むらが激しく
ガサガサと音をたてて動いた。
ビクッとなり２人はその方へ向いたが、何も出てこなかった。
「…小動物かな…」
それから２人は歩いた、その時にルリラはエレンの体が震えているのに気づいた。
「大丈夫？なんだか震えているよ「
「あ…大丈夫だよ…もうすぐ町だし」
彼は強がって前へ進む、ルリラはそんな彼に気遣って。
「怖いの？、無理しちゃダメだよ、私が…」
「いや、いいよ、女の子を前に出すのは騎士として情けないから」
するとルリラはこう聞いてきた
「あなたは騎士なの？」それに対して
「正確には生徒なんだ」と返した
「言ったら悪いけどとても頼りになさそうね」
「“よわむしエレン”って呼ばれているから否定できないな」
彼は少しハハハっと笑った。
「それなのにどうして騎士になろうとしているの？」
とルリラが聞いた途端、彼は立ち止まって語り出した。
「昔父さんから聞いた話があるんだ、僕くらいの頃に遠くの国から兵を引き連れて
僕の故郷を襲ってきたんだ、町を焼かれて、親や友を失ったって、
王国の兵士はそこまでこられなかったんだ…」
少しだけどエレンの顔は悲しそうだった、しかし彼は剣を抜きこう言った。
「だからそんな事が起きないように僕は騎士になった！、
この国そして故郷を守るために！」
その時の頼りない感じだったエレンとは違いこの時だけは何か綺麗な水晶のような
光がルリラには見えた。しかしすぐにエレンは“いつものエレン”になり
彼女の手を引いて歩き始めた
「行こうか、町までもう少しだし」
しかしルリラが握ったエレンの手は、少し湿ってるように感じた。
やっぱり怖がってるんだとすぐにわかった。
しばらく歩いて時目の前に大きな影が現れた。
エレンはルリラを後ろへ回して、すぐに剣を抜いた。
「何者だ‼︎」と大きな声を出したが、反応どころか動きもしない
なんだろうとエレンはその影の方へ行ったら
「…なんだ、カカシか」
ほっとするエレン、するとそのカカシの後ろにポツポツと光が見えた。
それは町だった、あかりがついていることはまだ住民は起きてる事だ
すぐにその中の一軒のドアをノックして住民に頼み込んだ。
「いいですよ、１日だけなら」
その事にはぁっと２人は笑顔になった、２人は「ありがとうございます」と
頭を下げた。そしてルリラは次にエレンに言った。
「ありがとう、これで寝るとこに困らずに済む…」
ルリラはエレンの手を両手で握った。
「本当に…ありがとう…」彼女の手は柔らかくて暖かかった。
エレンは少し照れながら
「よ…よかったね…、じゃあまた」と別れた。
彼女は手を振って見送ってくれた。
再び暗い森の中を歩く彼はふとあの時握った手を見て思い出す。
「あの子にはまた会える気がする…それまでに強い騎士になって
あの子みたいな子を守れるようになろう」
とエレンは心に決め。校舎まで走って行った。
彼女を町まで迎えて、一人で帰るこの暗い森は不思議と
怖くなかった。