贖罪の救世主

水野アヤト

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第十四話 贖罪

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「母様・・・・・・・・?」

 王妃の寝室。扉の隙間から中を覗き込む、一人の少女がいる。
 この黒髪の少女は、自分の母親の後を、見つからないようにつけていた。昼間、この時間に寝室に来るよう、王妃に呼び出された母親の事が気になり、後を追う事にしたのである。
 今は見張りの兵士などを除けば、ほとんどの者が寝静まった深夜。王妃の寝室は暗く、中には三人の人影がある。王妃エアリーゼと国王キメルネス、そして少女の母である侍従長ミリアの姿が、この部屋にはあった。
 しかし、侍従長ミリアは部屋の中で倒れている。暗いせいでよく見えないが、三人の内ミリアだけは、部屋の中で倒れたまま動かない。
 
「母様・・・・・・、どうしたの・・・・・・?」

 少女の名はアンジェリカ。彼女は倒れて動かない、自分の母親のもとに歩み寄る。
 アンジェリカに気付き、驚いて後退るエアリーゼとキメルネス。そんな二人を気にも留めず、倒れた母親の傍に辿り着く。
 仰向けに倒れ、胸元に突き刺さる一本の剣。真っ赤な鮮血が流れ出て、部屋を染めていく。
 何が起こり、ミリアがどうしてしまったのか、アンジェリカにはわからない。
 だが彼女は見ていた。激しい口論の末、エアリーゼがミリアに剣を突き刺す瞬間を。

「母様、起きて母様・・・・・・」

 アンジェリカが呼びかけても、ミリアは動かない。
 心臓の鼓動は止まっている。エアリーゼの剣は、彼女の心臓を刺し貫いていた。
 流れ出た彼女の血に触れる。まだ暖かい、綺麗な鮮血だ。

「どうしたの母様、血がこんなに・・・・・・・」

 永遠に起き上がる事のないミリア。
 彼女の死を理解したキメルネスが、生まれて初めて人に殺意を抱き、ミリアの胸に刺さる剣を抜き、怒りに身を任せてエアリーゼを斬りつける。
 エアリーゼの悲鳴と、キメルネスの怒号。何度も何度も、彼は握りしめた剣の切っ先を、彼女の胸に突き刺した。悲鳴も失せ、大量の血を流し、彼女が倒れて動かなくなるまで、剣を突き刺し続けたのである。
 やがて、妻であるエアリーゼが死んだ事に気が付き、キメルネスは力の限り握りしめていた剣を落とす。無我夢中で、取り返しのつかない事をしてしまったと、ようやく気が付いたのである。
 ミリアを殺され、妻であるエアリーゼを自らの手で殺めてしまう。この時、キメルネスの精神は崩壊した。彼は錯乱し、声にならない悲鳴を上げ続け、王妃の寝室の窓を乱暴に開いた。
 異変に気付き、偶然近くにいて駆け付けたのは、宰相のマストールであった。マストールは寝室の惨状を見て、錯乱する王が何をしようとしているのかを悟る。
 マストールは止めようとしたが、間に合わなかった。キメルネスは窓から身を乗り出し、頭から真下目掛けて飛び降りてしまう。
 少女は見ていることしかできなかった。この部屋で起こってしまった全てを、一生目覚める事のない母親の傍で。

「母様・・・・・母様・・・・・・」

 何度も、自分の母親に呼びかけ続けるアンジェリカ。
 まだ幼くとも、理解できている。愛する母親は、永遠の眠りについたのだと。そうとわかっていて呼びかけ続けるのは、母の死を認めたくないから・・・・・・。
 この夜アンジェリカは、かつては優しかった王妃と、自分の両親を、目の前で失ってしまったのである。
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