19 / 34
第一章 高等学院編 第一編 魔法化学の夜明け(一年次・秋)
EP.XVII レースの決着
しおりを挟む
先師が武城に行かれた時、町の家々から弦歌の声がきこえていた。先師はにこにこしながら言われた。
「鶏を料理するのに、牛刀を使う必要もないだろうにな」
武城は門人子游がその代官をつとめ、礼楽を盛んにして人民を善導し、治績をあげていた小さな町であった。
子游は先師にそういわれると、けげんそうな顔をして言った。
「以前私は、先生に、上に立つ者が道を学ぶとよく人を愛し、民衆が道を学ぶとよく治まる、とうけたまわりましたが……」
すると、先師は、お伴をしていたほかの門人たちをかえりみて、言われた。
「今、子游が言ったことは本当だ。私がさっき言ったのは冗談だ」
(原文)
子之武城。聞弦歌之聲。夫子莞爾而笑曰。割雞焉用牛刀。子游對曰。昔者偃也。聞諸夫子。曰。君子學道則愛人。小人學道則易使也。子曰。二三子。偃之言是也。前言戲之耳。
無限回廊書架 DDC. 142
――『論語』陽貨第十七 B.C. 400
マルガレータは僕に勝利宣言をしていたが、それでも手を抜くようなことはしないし、油断するようなこともしない。彼女は品位も身分も教養もありながら、決してそれを驕ること無く、努力を怠りもしなかったのだろう。
僕の車体の帆柱が折れたのを尻目にマルガレータが三度目の詠唱を行う。もう少し行けば岩や樹などの障害物が多い地帯になってくる。彼女も今度の詠唱では速度よりも回避を優先するはずだ。そう思って彼女がどんな魔法を使うのか見ていた。
『愛女神の司りし空気の元素よ――
我が理を此処に示せ』
透き通るように綺麗で、それでいてしっかりと力の通った声で、彼女は三度詠唱を繰り返す。
『クシフォス!』
今度は普通に風の剣を発現させたようだ。彼女の前方にある樹が根元から切られ、進行方向と平行に倒れる。続くクシフォスの第二波でその枝を切り落とす。本当に彼女は魔法の扱いがうまい。僕自身、オークスベルガにいた頃はほとんど一人で練習していたから、他の人が使う元素魔法を見る機会は無かった。彼女の扱う魔法は多彩で、見てて非常に勉強になるし、その発想や戦略も興味深い。
例えば、いま樹が進行方向と平行に倒れたのも偶然ではない。仮に筏の経路を塞ぐような向きに倒れてしまうと、結局通行の邪魔になる。だから彼女は根元に風の剣を切り込むと同時に、帆柱に使っていた時と同じ棒状の風を樹の頭にぶつけて倒れる方向を制御した。マルガレータは通常威力のクシフォスと、弱体化クシフォスを同時に使ったということだ。
さらに邪魔になる枝を切り落とすのに、倒れた幹の左右と上側の三箇所に風の剣を打ち込んだ。大胆かつ繊細なコントロールには本当に脱帽する。達人の技は見ていて引き込まれる魅力があるというが、彼女も既にその域に達しているとさえ思える。
車輪の分だけ荷台部分は車高があるので、倒れた幹の上を難なく通過できる。だがその先には大きな石がある。そのまま行ってしまうと車輪を破損するか、転倒するかといった危険性が高い。しかも風の剣では石には太刀打ちできない。それなら帆に斜めから風を当てて、方向を修正するしか無い。魔力視で彼女の方を見ると既に彼女はその石を回避するための用意をしていたようだ。彼女の後方に濃密な空気の魔力で作られた風の棒が浮かんでいるのが見える。その数――十五本。
だが、その風の棒を彼女は帆に使わず、自分の車体の下に潜り込ませた。次の瞬間、彼女の筏が車輪ごとふわっと跳ねるように浮き上がった。数十センチ浮き上がった車体はそのまま石の上を軽やかに越えていく。そして着地とともに再び何事もなかったかのように走り出す。
(まじかよ……回避するどころか越えていくなんて…)
木や石を避けるために方向転換していては、その分走行距離も長くなり、結果的に遅くなる。マルガレータは最短経路を、しかも速度を緩めることもなく、突き進むつもりのようだ。その胆力にも驚いた。もし、一撃で樹が倒れなかったり、車体が思ったよりも浮き上がらなかったりしたら、樹や石にぶつかる危険性がある。そうすると結構な速度で走っているため、彼女自身も大きな怪我を負うなど、ただでは済まなかったはずだ。
それを事も無げにやってのける彼女の胆力は、本当に開拓者に向いていると言わざるをえない。自分よりも強力な魔獣を前にしてもきっと怯まないであろうその自信と確信は、それだけの練習量の裏付けがあるからだろう。
(やってくれるじゃないか……)
本当にマルガレータの技量も発想も、そして度胸も一級品だ。身分も品格も高く、容姿も端麗で、魔法の扱いが一流であるなど、完璧超人もいいところだった。それが、彼女が人を惹き付ける理由であり、カリスマ性を生み出しているんだろう。
僕は彼女ほど戦略というものをしっかりと考えられていなかった。木や石があれば避け、速度が落ちてきたら加速する、本当にそんなことしか考えていなかった。――それが彼女はどうだ。毎回魔法を放つたびに光る才気と創意工夫、その戦略性。そこに雲泥の差を感じてしまった。
いまや既にマルガレータの方が先行している。僕はこのままだと帆柱もなく、加速することができない。いや、正確に言うと帆がないのであって、荷台から突き出た帆柱自体は麻縄の辺りまで数十センチ分残っている。
だから――僕は柱を背にして後ろ向きに座った。
「あら、もう勝負を諦めたのですの? もうちょっと骨のある方だと思ってましたのに、さすがに帆が折れては何もできないですわね! 私の雄姿にさえ目を背けて座り込むなんて、コーダ・リンドグレンもたかが知れていますわね!」
数メートル離れた先からマルガレータがそんなことを言ってくる。彼女には好きなだけ言わせておけばいい。どうせこの後には――何も言えなくなるだろうから。
僕は背にした柱と自分の体を麻縄で一緒に縛って固定した。
――そう、僕はまだ何一つ諦めていない。
彼女も僕が何かをしようとしていることに気付いて、黙り込んで様子を窺っているようだ。後ろを気にしながらも前もちゃんと見ていて、障害物はきちんと回避しているあたり、流石としか言い様がない。
ああ――認めよう。彼女の才は素晴らしい。
自分を磨き、高める努力を怠らない姿は、なんて美しいんだろうか。ただ単に彼女の容姿が端麗なだけでなく、光る才気は彼女を一層魅力的に輝かせる。彼女の側にいて、その姿を見続けたい、守りたいと思う、騎士たちの気持ちも少し分かる気がする。
僕は素直に賞賛し、賛辞を送るとともに、その姿に敬意を表して、僕は僕の全力を総動員して、彼女に立ち向かおう。
――なんだろうか、この胸の高鳴りは。
最初は面倒事など厄介だと彼女を避けていたが、
僕の魔法を見せつけてやりたいと感じた。
僕の魔法を見てほしいと思った。
僕の全力で――彼女を打ち負かしたいと思った。
自分の体を座った状態で後ろ向きに固定しているから、もう前方の障害物を確認することはできない。首だけ振り向いても柱があって前が見えないからだ。だがもはや僕にはそんなことは関係ない。
腰袋から虹孔雀の卵を取り出し殻を剥く。あらかじめ熱湯で温めてコークテッグにしてある。昨日、水と火の二重魔法を実験してみた時に、爆発するかとひやひやしていたが、結果的にはお湯ができたので、せっかくだからとそのお湯を使って作ったのだ。
帆も無い筏の上で――いま気付いたが、もう普通のただのトロリーだよな、これ――もうすぐ障害物の多い地帯に入るというのに、後ろ向きに座って縄で柱に自分をくくりつけ、呑気にコークテッグを食べようとしている姿を見て、マルガレータはさぞかし混乱していることだろう。自分でやっててもシュールに感じるくらいだ。
いいさ――そのまま見ててくれ、僕の雄姿を。
『Setjið――
Vindur fyrir þætti――』
僕は虹孔雀の卵を食べずに詠唱を始める。そして、空気の魔力を右手に集めながら、左手を使ってコークテッグを食べる。それによって体の空気属性の魔力が活性化し始める。だが――思った通り、右手に集めて固定している魔力は通常の魔力のままだ。
昨日、火山牛の燻製ファルーコルヴを食べた時に放った魔法は、火球の形を詠唱で指定したにも関わらず、放たれた火炎は牛を象っていた。もしどんな形を指定しても、牛の形になってしまうのだとしたら、詠唱の内容が反映されていないというよりは、おそらく魔力の性質自体が変化してしまっているのだろうと考えた。言うなれば<火・火山牛属性>とでも表現すべき魔力だ。
『Byrjaþu útdrátt――』
だから、先に通常状態での空気の魔力を右手に集めて固定してしまう。その後に<空気・虹孔雀属性>の魔力を左手に集めるという算段だ。どうせ形状を指定しても虹孔雀の形になるのだろう。ならば尚のこと好都合だ。
僕が彼女に勝ることができるとするならば、魔法の規模と威力だろう。魔法の元素の種類も四元素とも使えるが、今回は空気魔法勝負と言われているので、他の元素魔法について使用禁止を明言されてはいないが、空気魔法のみで戦うのが暗黙の諒解だろう。
それからもう一つ、僕には二重魔法が使えるアドバンテージがある。
『Gerðu straum――』
そう、これは空気属性と空気属性の二重魔法だ。正確に言うと、空気属性と<空気・虹孔雀属性>になるのだろうが。
魔獣の力を借りて魔法を行使するなんて少しずるい気もするが、向こうだって明らかな不正をしてきたんだ。帆が無い以上四の五の言ってられない。それに精霊の力を借りた精霊魔法なんてのもある訳だから、僕のやっていることもまるっきり不正というわけでもあるまい。
『Framkvæma forritiþ』
――そして詠唱が完成する。
僕の設定した理に従って、元素が形を変えていく。
今度は帆を壊す心配もないから全力で放つ。
右手からは、鉄槌のごとき暴風が放たれる。
左手からは、虹孔雀を象った風の鳥が飛び出した。
右手からトロリーの後方に放った暴風は、それを推進力に変えて、体ごとくくりつけた車体を、ものすごい速度で前進させる。その速度たるや、先程までのトップスピードなど比にもならない。一秒にも満たない時間でマルガレータの地点まで追いつくだろう。だがこのままでは樹や石に突っ込むだけだ。
左手から放った虹孔雀の風が、すぐさま車体の下に潜り込んで、マルガレータがやってのけたように、車体を浮かせた。いや、浮かせたなんてものではない。もはや――飛行していた。前進の速度もさることながら、そのままぐんぐんと高度を上げていく。さながら投石機で飛ばされた石のように、ものすごい速度で空へ向かった。
「ええっー!!? 何をしたんですの!?」
ℵ
「コーダさん、大丈夫でしょうか」
「うーん、大丈夫じゃねぇか? 元素魔法のことはよく分かんないが、諦めの悪さにかけてはコーダは一級品だからな。はっはっは」
「どうやら帆が折れているよう」
「えぇっ! まじかよ! っていうか、リズっちこっからで見えるの!?」
スタートしてから一分半ほど経過している。もう既にコーダとマルガレータはよく見えない。見晴らしがいいのでどこにいるかは辛うじて点のように見えるが、それももう視界のはるか先で、よほど視力が良くないと細かくは見えない。おそらくここからは五百メートルほど離れているだろう。
それにしても帆が折れているとは一体どういうことだろう。威力も考えずに帆に魔法を撃ち込んだのだろうか。コーダがそんなミスをするだろうか。
――まぁ、ありえなくもないか。
「リズ、それは本当ですか!?」
「なんだよ、コーダのやつ。勝負に熱くなりすぎて帆を壊しちまったのか?」
「そこまでは分からない」
その時、コーダの乗っている車体が空に打ち上がった。
「えっ? おい、リズっち、あれは一体どうなってんだ?」
「……飛んでる」
「ええっ! コーダさん一体何をしたんですか!?」
「あっはっは! やっぱりコーダはコーダだな! やることがおもしれぇ!」
他の生徒たちもそれに気付いて騒然とし始めた。――魔法で空を飛ぶ?――そんな魔法は無かったはずだ――空気魔法対決でそんな飛行魔法を使うなんて卑怯だ!――なんて色んな声が上がり始めた。
その時、一陣の風が丘を駆け抜けた。強い風に思わず目を瞑り、もう一度空を見上げた時には、コーダはもう見えなかった。
「今の風……」
「うん? どうしたんだ、マリっち」
「今の風はコーダさんの魔法ですわ」
「……おいおい、嘘だろ。いくらコーダでもここまで魔法が届くなんて…」
これだけ離れているにも関わらずあれだけの強風だなんて、間近では一体どんな暴風になるのか、想像もつかない。
大勢のギャラリーがいる中で、今の風をコーダの魔法だと分かったのはマリっちしか居ないようだ。むしろ言っても誰も信じないのではないかとすら思えてしまう。それに、同郷のマリっちだからこそ、コーダの魔力の残滓か何かを感じ取れたのだろう。
「筏で陸を走るなんて馬鹿げた話だと思ったもんだが、空を飛ぶなんてもっと馬鹿げてるじゃねぇか…」
「あぁ心配ですわ…コーダさんの無事をお祈りしたいところですが…」
「あっはっは、やめときなって。本職のマリっちがお祈りするとエンチャントかかるからさ」
「コーダなら大丈夫」
「えぇっ!? リズっちここからでもまだ見えるの!?」
「ううん、見えない。見えないけどそう思う」
なんだかリズっちが妙にコーダを信頼しているように見える。こういうタイプの子の信頼を得るのはもっと時間がかかるもんだと思ってたが、コーダのやつリズっちとなんかあったのかな。王都に出かけた時に、コーダもリズっちと同じものを買っていたし、そのあたりからリズっちのコーダを見る目も少し変わったように思う。大方、その道具の使い方を教えてくれとか言ってリズっちに聞きに行ったりしたんだろう。
同郷のマリーも、コーダに運気の指環をプレゼントされて喜んでいたし、ある程度気があるんだろうとは思うが…。パーティ内で変にややこしくならなきゃいいんだけど…。
それにあのお嬢さんも絡んできたりすると余計に事情がややこしくなりそうだな…。
――人知れず、頭を痛めるイェスペルだった。
ℵ
空に打ち上がってから十数秒で最高地点に達する。ウップランドの丘よりも随分と高くまで上がったが、さすがに山の高さには届かない。学院や王都がよく見えるが、今はあまりゆっくり見ている余裕はなかった。
推進力に使った右手の暴風はもう消えてしまったが、虹孔雀の風はまだ残っている。……頼むからこの高さでいきなり消えたりしないでくれよ。虹孔雀の風のおかげで落下速度はゆっくりとしている。いまはちょうどムササビが滑空するかのような状態だ。――まぁ飛んでるのはトロリーだが。やっぱりシュールだった。
今のうちに縄を解いてトロリーの前方に向かう。樹の乱立している地帯を一息に飛び越えて、目標の三角岩がぐんぐんと近づいてくる。そう言えば、ゴールの判定は誰がするんだろう?
滞空することおよそ三十秒、ゴール地点の二百メートルほど手前にふんわりと着地する。役目を終えた虹孔雀の風もふわりと消滅した。滞空していたおかげで前進する速度はそれほど減速していない。着地した衝撃で多少減速したが、もう追加で魔法を撃たなくても、このままゴールまで辿り着くだろう。
そのゴール地点となる双子の三角岩の上に、それぞれ人が立っているのが見えた。一人は学生服で、一人は白い将校服のようだ。――白い方はきっとスティーグさんだろうな。
着地してから実に五秒で目標の三角岩に辿り着いた。岩の上に立っていたのは、やはりスティーグさんと、学生服の方は眼鏡をかけたエルフの男子生徒のようだ。
「ゴール!!」
スティーグさんが掛け声とともに笑顔で親指を立ててくれるがそのまま行き過ぎてしまう。
――あ、止まらなきゃ。
止まることを考えていなかった。
今から麻縄でもう一度柱にくくりつけて、今度は前方に向かって魔法を撃とうかと考えていたところ、車体が急にガクガクと揺れだして、急激に減速して止まった。
(車輪に……矢が刺さっている?)
停止したトロリーの車輪を見てみると矢が刺さっていて、どうやらそれがブレーキの役割になって減速できたようだ。見たところ先程の男子生徒が放ったようだけれど…、この速度で動いているトロリーの、それも車輪の厚みなんて五センチぐらいしかないのに、正確に刺さっている。――しかも四輪ともだ。
三角岩から百メートルほど離れてしまったが、トロリーから降りて二人のところに向かう。
「いやぁ傑作だったな! まさか空を飛ぶとは思わなんだぞ! あれだけ二重魔法について釘を刺したのに、もう普通に使っていやがるとは大した野郎だよ、まったく!」
「えぇ!? ここから見えていたんですか?」
スティーグさんのいる方の岩の上まで上がったところで、スティーグさんがそんなふうに話しかけてくる。僕が二重魔法を使った時はゴールまでまだ 2,500 メートルぐらいあったはずだ。そんな距離でどんな魔法を使ったかなど、いくら視力が良かろうが、到底見えるはずが無い。
「いやいや、さすがに俺には見えんよ。そこのニコライに見てもらったんだ」
そう言って三メートルほど離れたもう一つの岩に乗っているニコライと呼ばれた男子生徒を見ると、まだ走っているはずのマルガレータの様子をじっと見ているようだった。そのまま視線を動かさずに彼は言った。
「まったく手を煩わせるな。止まることぐらい考えておけ」
「あ、はい…」
いきなり怒られてしまったが、彼の言っていることは正論だったので何も言い返せない。
「貴様が不正をしないか見てただけだ。妹からもそういう報告があったからな」
……もしかして、虹孔雀の卵を食べたことを何か言われるのだろうか。――ん? 妹? 話が見えない。
「なぁコーダ、エルフ族に眼鏡が必要だと思うか?」
「え? えっと…」
急に何の話だろうか。そりゃ視力が悪ければ眼鏡は必要なんじゃ…。まさか似合ってるかどうかの話を聞かれている訳でもないと思うし…。何を答えればいいんだろうか。
「知らないのか? エルフ族は普通視力なんて落ちないぞ」
「だったらどうして…」
「そうだな、お前は学院に来たばかりだから仕方ないが、これからは魔法以外のこともしっかりと知っておけよ」
「は、はい…」
視力の落ちないエルフが眼鏡をかけている理由。彼が背中に付けているのは弓だ。そして 2,500 メートルもの距離でも見通せるほどの視力。――いや、どんな魔法を使ったかまで看破されていたわけだから、魔力も視えているということだろうか。
「エルフ族は空気属性の魔力なら視ることができるんだ。中でもニコライは感知能力がもとから高い方だが、あの眼鏡は視力強化のためだな。あれを掛けていると五キロメートルぐらいは空気の魔力が見えるそうだ」
「ご、五キロメートル…」
五キロメートルといったら、ちょうど海の水平線ぐらいまでの距離だ。……そんなの、ほとんど視界に入る範囲全てじゃないか。空気属性に限った話とは言え、とんでもない能力だ。
ということは、視えていたのは空気の魔力に関してだけで、虹孔雀の卵を食べたことはバレていないようだ。そもそもゴールに対して背中を向けていたし、見えるはずもないか。よかったよかった。
「そうだ、コーダはニコライに会うのは初めてだったか。紹介が遅れたな。こいつは生徒会長のニコライ・ギルノール・ハルストレームだ」
「は、はじめまして、コーダ・リンドグレンです」
「ふん、そんなことは知っている」
「そ、そうですか…」
――ハルストレーム…妹…。そういえば白組にはエルフ族が三人いる。エルフ族の中でもさらに種族はいくつか区分される。大きくは肌の白い光エルフ族と、肌の黒い闇エルフ族に分けられる。一人は男子生徒だし、肌の黒い闇エルフ族だ。残りは二人とも肌の白い光エルフ族の女子生徒だ。二人のうち片方は魔法科のクラスでも一緒だったミルヴァ・キエロ・ペタヤだ。彼女は薬士を専攻しているとのことだった。
もう一人の光エルフ族は確か、魔法弓士を目指している……そう、マーヤ・アグラエル・ハルストレームだ。そうか、ハルストレームで魔法弓士か。
魔力を視たり、車輪への正確な射的を考えると、ニコライは恐らく魔法弓士だろう。妹もそれに憧れて同じ道を志した、というところだろうか。
しかし、その妹から不正の報告があったとは一体どういうことだろう…。特に心あたりがないのだけれど…。
「どうだ、ニコライ。面白いやつだろう?」
「そうですね、実力は分かりました。魔法の腕は多少覚えがあるようですが、圧倒的に経験が足りませんね。戦略性も無い力任せが得意なようで」
「うっ……」
非常に痛いところをついてくる。何も言い返せないのが悔しいので、妹のことに話を変えてみよう。
「妹って、マーヤですよね? 不正の報告というのは一体…」
「気にするな。いつものことだ」
「は、はぁ……」
結局何一つ分からなかった。この人と会話するの難しいなぁ…。
「ああ、入科試験のことを、ニコライの妹さんが疑ってたんだとよ。魔道具を壊したり、二重魔法を使ったりして明らかに異様だったから、何か不正してるんじゃないか――ってことらしいぞ」
「そ、そうだったんですか……。でもあれは普通に魔法を使っただけで――」
「ああ、分かってるよ。これでも開拓者ギルドの幹部をやってんだ。二重魔法を実際に見たことこそ無かったが、知識としては知っていたから、別に変とは思わんよ。試験を担当していたのはフォーゲルストレームだろ? 彼女が不正を見抜けないはずはないしな」
「フォーゲルストレーム先生はどういった方なんですか?」
「俺と同じようなもんさ。彼女は魔法教会の幹部で、学院には臨時教員として来ている。魔法教会の貴重な魔道具が壊れたと言って嘆いていたぞ。あっはっは」
そ、そういえば試験の時に水晶を壊してしまっている。虫眼鏡も調子悪くさせてしまったようだし。いま思い出した。一体それらはどんな魔道具で、
どれほど高価なものだったのだろうかと、今更ながら思い出して青ざめる。
「まぁ魔道具については心配するな。道具なんていつか壊れるもんだ。魔法教会ならどうせ予備もいくつかあるだろ」
よかった…。忘れていたとは言え、少し肩の荷が降りた気分だ。フォーゲルストレーム先生には今度会ったら謝っておこう。
「来たぞ」
ニコライがそう言うと、マルガレータが木々の間から出てきたところだった。あとゴールまで三百メートルというところだ。最初のときとあまり変わらない速度で進んでいる。ゴールまではあと一分というところだろうか。
その後、一度再加速させて、遂に彼女はゴールに到着した。
三角岩の上から覗いてみれば、僕と違って岩の間でちゃんと停止している。上から見下ろしていては悪いと思って、岩から降りて彼女のもとに向かう。
肩で息をして、息を切らしている。停車した筏の上で柱に凭れて座り込んでいる。せっかくの綺麗な女の子なのに髪やスカートなどが少々大変なことになっている。――さて、なんて声を掛けたものか。
「お、お疲れ様…」
「はぁっ、はぁっ……貴方…一体、何者なのよ…」
「そう言われても…」
天使の使いです、なんて言っても信じないだろうし、その件はオークスベルガではともかく、王都ではあまり広まっては困る。変な噂が立って処刑対象になったらシャレにならない。
「もういいわ…。今回は私の負けで」
「そ、そう。えっと…それじゃ僕はこれで――」
「待ちなさい。…まだ話は……終わっていないわ」
ようやく息も整ってきたようだ。彼女の藤色のツインロールが車体の振動を受け続けて汗を帯びたことで乱れている。品格も高く、いつも毅然としている彼女も、こうして見ると中身は普通の少女なのだと感じてしまう。
「あの食べていたのは…何なの?」
「あぁ、あれは虹孔雀の卵をコークテッグにしたものだよ」
「ふぅん…、それなら今度私にも振る舞いなさい」
「え? コークテッグなんかでいいの?」
「いいわ。貴方と同じで。――それより貴方の筏はどこに行ったのよ?」
なんだか彼女の話し方が普段より少しだけ気安くなってきているような気がする。疲れているからだろうか。
「あぁ、筏ならあっちに」
「………。ちゃんと止まりなさいよ」
「め、面目ない…」
「いいわ、あとでダニエルたちに回収させておくわ。途中で落ちた帆柱もそのまま放置できないしね」
――ダニエルか。どうしようあの件を言うべきか。
「そのことなんだけど…」
「え? どうしたの?」
「いや、それより先にスカートを直したほうが…」
「………!」
極力見ないようにしていたが、めくれて太ももまで見えているスカートが気になって仕方がなかった。だから早く切り上げて帰ろうと思ったのだが、話がまだ続きそうだから先に指摘しておかなきゃならなかった。
そもそも荷台部分の高さは地面から八十センチメートルほどある。その高さでスカートで座り込まれると、見ないようにしてても目線の高さに近くなっている分、色々見えてしまう。
荷台から降りた彼女は最初に会った時さながらに僕を睨む。ただ今のほうがちょっと顔が赤い。
「……早く言いなさいよね」
「ご、ごめん…」
そう思っても言いにくいこともあるのだ。仕方あるまい。
「それで、何の話だったかしら?」
「えっと帆柱のことなんだけど」
「あぁ、さすがに作りが甘かったかしらね? 最初はあなたの魔法のせいかと思ったけれど、そもそも帆柱なんて風を受けるためのものでしょう? それに風の強さも私より少し速いぐらいだったし、折れるなんておかしいわよね」
――さすがに頭がいいと話が早くて助かる。
「ははぁん、こりゃ刃物か何かで斬られた跡だな」
後ろを振り向くとスティーグが僕の車体を持ってきていた。――え? これを担いで持ってきたの?
荷台の上に飛び出している柱の残りは、もう麻縄も解けていて切り口が露わになっている。
「ちょっと待ちなさい。どういうことよ」
「コーダ、ここには麻縄が巻かれていたのか?」
スティーグ同様、岩から降りてきていたニコライが僕に尋ねてくる。まだ帆柱が付いているマルガレータの車体と見比べてそう思ったのだろう。僕の不正を監視する目的ではあったようだが、彼女の方の不正についても目を光らせていたようだ。
「はい…そうです」
「…貴方が麻縄を解いたのは帆柱が折れた後だったわね」
そう言えばその辺りの一部始終はマルガレータ自身が見ていた。
「こんな状態でも貴方は私に勝ったのね…。いえ、それより――ということは、切り傷が付いたのはスタートよりも前になるわね」
「職人が制作の段階で傷付けたか、その後誰かに意図的に斬られたかのどちらかだろう」
「んなもん誰かが故意にやったに決まってんだろ」
ニコライの分析に対してスティーグがすかさず指摘する。
「どうしてそう思うのですか?」
「この太さの柱が簡単に半分も斬れる訳ねぇよ。しかもこの切り口は剣だ。斧なら垂直に柱に切り込むが、剣なら振り抜くだろ。切り口の木くずを見ればそれが一目瞭然だ」
帆柱の太さは、マルガレータがレース中に倒していた樹よりもかなり太い。マルガレータも言っていたように、最初から風を受けることを想定した柱だから、丈夫で太い樹が選定されているはずだ。
「わかりました。これ以上の追及はこちらでします。調査の結果は追って伝えます。コーダさんもそれでよろしいですか?」
「あぁ、わかった」
これがまさか大変なことに巻き込まれる引き金になるとは、その時の僕は想像だにしていなかった。
――レースの次の日の放課後、マルガレータが僕の部屋を訪ねてきたのだった。
「鶏を料理するのに、牛刀を使う必要もないだろうにな」
武城は門人子游がその代官をつとめ、礼楽を盛んにして人民を善導し、治績をあげていた小さな町であった。
子游は先師にそういわれると、けげんそうな顔をして言った。
「以前私は、先生に、上に立つ者が道を学ぶとよく人を愛し、民衆が道を学ぶとよく治まる、とうけたまわりましたが……」
すると、先師は、お伴をしていたほかの門人たちをかえりみて、言われた。
「今、子游が言ったことは本当だ。私がさっき言ったのは冗談だ」
(原文)
子之武城。聞弦歌之聲。夫子莞爾而笑曰。割雞焉用牛刀。子游對曰。昔者偃也。聞諸夫子。曰。君子學道則愛人。小人學道則易使也。子曰。二三子。偃之言是也。前言戲之耳。
無限回廊書架 DDC. 142
――『論語』陽貨第十七 B.C. 400
マルガレータは僕に勝利宣言をしていたが、それでも手を抜くようなことはしないし、油断するようなこともしない。彼女は品位も身分も教養もありながら、決してそれを驕ること無く、努力を怠りもしなかったのだろう。
僕の車体の帆柱が折れたのを尻目にマルガレータが三度目の詠唱を行う。もう少し行けば岩や樹などの障害物が多い地帯になってくる。彼女も今度の詠唱では速度よりも回避を優先するはずだ。そう思って彼女がどんな魔法を使うのか見ていた。
『愛女神の司りし空気の元素よ――
我が理を此処に示せ』
透き通るように綺麗で、それでいてしっかりと力の通った声で、彼女は三度詠唱を繰り返す。
『クシフォス!』
今度は普通に風の剣を発現させたようだ。彼女の前方にある樹が根元から切られ、進行方向と平行に倒れる。続くクシフォスの第二波でその枝を切り落とす。本当に彼女は魔法の扱いがうまい。僕自身、オークスベルガにいた頃はほとんど一人で練習していたから、他の人が使う元素魔法を見る機会は無かった。彼女の扱う魔法は多彩で、見てて非常に勉強になるし、その発想や戦略も興味深い。
例えば、いま樹が進行方向と平行に倒れたのも偶然ではない。仮に筏の経路を塞ぐような向きに倒れてしまうと、結局通行の邪魔になる。だから彼女は根元に風の剣を切り込むと同時に、帆柱に使っていた時と同じ棒状の風を樹の頭にぶつけて倒れる方向を制御した。マルガレータは通常威力のクシフォスと、弱体化クシフォスを同時に使ったということだ。
さらに邪魔になる枝を切り落とすのに、倒れた幹の左右と上側の三箇所に風の剣を打ち込んだ。大胆かつ繊細なコントロールには本当に脱帽する。達人の技は見ていて引き込まれる魅力があるというが、彼女も既にその域に達しているとさえ思える。
車輪の分だけ荷台部分は車高があるので、倒れた幹の上を難なく通過できる。だがその先には大きな石がある。そのまま行ってしまうと車輪を破損するか、転倒するかといった危険性が高い。しかも風の剣では石には太刀打ちできない。それなら帆に斜めから風を当てて、方向を修正するしか無い。魔力視で彼女の方を見ると既に彼女はその石を回避するための用意をしていたようだ。彼女の後方に濃密な空気の魔力で作られた風の棒が浮かんでいるのが見える。その数――十五本。
だが、その風の棒を彼女は帆に使わず、自分の車体の下に潜り込ませた。次の瞬間、彼女の筏が車輪ごとふわっと跳ねるように浮き上がった。数十センチ浮き上がった車体はそのまま石の上を軽やかに越えていく。そして着地とともに再び何事もなかったかのように走り出す。
(まじかよ……回避するどころか越えていくなんて…)
木や石を避けるために方向転換していては、その分走行距離も長くなり、結果的に遅くなる。マルガレータは最短経路を、しかも速度を緩めることもなく、突き進むつもりのようだ。その胆力にも驚いた。もし、一撃で樹が倒れなかったり、車体が思ったよりも浮き上がらなかったりしたら、樹や石にぶつかる危険性がある。そうすると結構な速度で走っているため、彼女自身も大きな怪我を負うなど、ただでは済まなかったはずだ。
それを事も無げにやってのける彼女の胆力は、本当に開拓者に向いていると言わざるをえない。自分よりも強力な魔獣を前にしてもきっと怯まないであろうその自信と確信は、それだけの練習量の裏付けがあるからだろう。
(やってくれるじゃないか……)
本当にマルガレータの技量も発想も、そして度胸も一級品だ。身分も品格も高く、容姿も端麗で、魔法の扱いが一流であるなど、完璧超人もいいところだった。それが、彼女が人を惹き付ける理由であり、カリスマ性を生み出しているんだろう。
僕は彼女ほど戦略というものをしっかりと考えられていなかった。木や石があれば避け、速度が落ちてきたら加速する、本当にそんなことしか考えていなかった。――それが彼女はどうだ。毎回魔法を放つたびに光る才気と創意工夫、その戦略性。そこに雲泥の差を感じてしまった。
いまや既にマルガレータの方が先行している。僕はこのままだと帆柱もなく、加速することができない。いや、正確に言うと帆がないのであって、荷台から突き出た帆柱自体は麻縄の辺りまで数十センチ分残っている。
だから――僕は柱を背にして後ろ向きに座った。
「あら、もう勝負を諦めたのですの? もうちょっと骨のある方だと思ってましたのに、さすがに帆が折れては何もできないですわね! 私の雄姿にさえ目を背けて座り込むなんて、コーダ・リンドグレンもたかが知れていますわね!」
数メートル離れた先からマルガレータがそんなことを言ってくる。彼女には好きなだけ言わせておけばいい。どうせこの後には――何も言えなくなるだろうから。
僕は背にした柱と自分の体を麻縄で一緒に縛って固定した。
――そう、僕はまだ何一つ諦めていない。
彼女も僕が何かをしようとしていることに気付いて、黙り込んで様子を窺っているようだ。後ろを気にしながらも前もちゃんと見ていて、障害物はきちんと回避しているあたり、流石としか言い様がない。
ああ――認めよう。彼女の才は素晴らしい。
自分を磨き、高める努力を怠らない姿は、なんて美しいんだろうか。ただ単に彼女の容姿が端麗なだけでなく、光る才気は彼女を一層魅力的に輝かせる。彼女の側にいて、その姿を見続けたい、守りたいと思う、騎士たちの気持ちも少し分かる気がする。
僕は素直に賞賛し、賛辞を送るとともに、その姿に敬意を表して、僕は僕の全力を総動員して、彼女に立ち向かおう。
――なんだろうか、この胸の高鳴りは。
最初は面倒事など厄介だと彼女を避けていたが、
僕の魔法を見せつけてやりたいと感じた。
僕の魔法を見てほしいと思った。
僕の全力で――彼女を打ち負かしたいと思った。
自分の体を座った状態で後ろ向きに固定しているから、もう前方の障害物を確認することはできない。首だけ振り向いても柱があって前が見えないからだ。だがもはや僕にはそんなことは関係ない。
腰袋から虹孔雀の卵を取り出し殻を剥く。あらかじめ熱湯で温めてコークテッグにしてある。昨日、水と火の二重魔法を実験してみた時に、爆発するかとひやひやしていたが、結果的にはお湯ができたので、せっかくだからとそのお湯を使って作ったのだ。
帆も無い筏の上で――いま気付いたが、もう普通のただのトロリーだよな、これ――もうすぐ障害物の多い地帯に入るというのに、後ろ向きに座って縄で柱に自分をくくりつけ、呑気にコークテッグを食べようとしている姿を見て、マルガレータはさぞかし混乱していることだろう。自分でやっててもシュールに感じるくらいだ。
いいさ――そのまま見ててくれ、僕の雄姿を。
『Setjið――
Vindur fyrir þætti――』
僕は虹孔雀の卵を食べずに詠唱を始める。そして、空気の魔力を右手に集めながら、左手を使ってコークテッグを食べる。それによって体の空気属性の魔力が活性化し始める。だが――思った通り、右手に集めて固定している魔力は通常の魔力のままだ。
昨日、火山牛の燻製ファルーコルヴを食べた時に放った魔法は、火球の形を詠唱で指定したにも関わらず、放たれた火炎は牛を象っていた。もしどんな形を指定しても、牛の形になってしまうのだとしたら、詠唱の内容が反映されていないというよりは、おそらく魔力の性質自体が変化してしまっているのだろうと考えた。言うなれば<火・火山牛属性>とでも表現すべき魔力だ。
『Byrjaþu útdrátt――』
だから、先に通常状態での空気の魔力を右手に集めて固定してしまう。その後に<空気・虹孔雀属性>の魔力を左手に集めるという算段だ。どうせ形状を指定しても虹孔雀の形になるのだろう。ならば尚のこと好都合だ。
僕が彼女に勝ることができるとするならば、魔法の規模と威力だろう。魔法の元素の種類も四元素とも使えるが、今回は空気魔法勝負と言われているので、他の元素魔法について使用禁止を明言されてはいないが、空気魔法のみで戦うのが暗黙の諒解だろう。
それからもう一つ、僕には二重魔法が使えるアドバンテージがある。
『Gerðu straum――』
そう、これは空気属性と空気属性の二重魔法だ。正確に言うと、空気属性と<空気・虹孔雀属性>になるのだろうが。
魔獣の力を借りて魔法を行使するなんて少しずるい気もするが、向こうだって明らかな不正をしてきたんだ。帆が無い以上四の五の言ってられない。それに精霊の力を借りた精霊魔法なんてのもある訳だから、僕のやっていることもまるっきり不正というわけでもあるまい。
『Framkvæma forritiþ』
――そして詠唱が完成する。
僕の設定した理に従って、元素が形を変えていく。
今度は帆を壊す心配もないから全力で放つ。
右手からは、鉄槌のごとき暴風が放たれる。
左手からは、虹孔雀を象った風の鳥が飛び出した。
右手からトロリーの後方に放った暴風は、それを推進力に変えて、体ごとくくりつけた車体を、ものすごい速度で前進させる。その速度たるや、先程までのトップスピードなど比にもならない。一秒にも満たない時間でマルガレータの地点まで追いつくだろう。だがこのままでは樹や石に突っ込むだけだ。
左手から放った虹孔雀の風が、すぐさま車体の下に潜り込んで、マルガレータがやってのけたように、車体を浮かせた。いや、浮かせたなんてものではない。もはや――飛行していた。前進の速度もさることながら、そのままぐんぐんと高度を上げていく。さながら投石機で飛ばされた石のように、ものすごい速度で空へ向かった。
「ええっー!!? 何をしたんですの!?」
ℵ
「コーダさん、大丈夫でしょうか」
「うーん、大丈夫じゃねぇか? 元素魔法のことはよく分かんないが、諦めの悪さにかけてはコーダは一級品だからな。はっはっは」
「どうやら帆が折れているよう」
「えぇっ! まじかよ! っていうか、リズっちこっからで見えるの!?」
スタートしてから一分半ほど経過している。もう既にコーダとマルガレータはよく見えない。見晴らしがいいのでどこにいるかは辛うじて点のように見えるが、それももう視界のはるか先で、よほど視力が良くないと細かくは見えない。おそらくここからは五百メートルほど離れているだろう。
それにしても帆が折れているとは一体どういうことだろう。威力も考えずに帆に魔法を撃ち込んだのだろうか。コーダがそんなミスをするだろうか。
――まぁ、ありえなくもないか。
「リズ、それは本当ですか!?」
「なんだよ、コーダのやつ。勝負に熱くなりすぎて帆を壊しちまったのか?」
「そこまでは分からない」
その時、コーダの乗っている車体が空に打ち上がった。
「えっ? おい、リズっち、あれは一体どうなってんだ?」
「……飛んでる」
「ええっ! コーダさん一体何をしたんですか!?」
「あっはっは! やっぱりコーダはコーダだな! やることがおもしれぇ!」
他の生徒たちもそれに気付いて騒然とし始めた。――魔法で空を飛ぶ?――そんな魔法は無かったはずだ――空気魔法対決でそんな飛行魔法を使うなんて卑怯だ!――なんて色んな声が上がり始めた。
その時、一陣の風が丘を駆け抜けた。強い風に思わず目を瞑り、もう一度空を見上げた時には、コーダはもう見えなかった。
「今の風……」
「うん? どうしたんだ、マリっち」
「今の風はコーダさんの魔法ですわ」
「……おいおい、嘘だろ。いくらコーダでもここまで魔法が届くなんて…」
これだけ離れているにも関わらずあれだけの強風だなんて、間近では一体どんな暴風になるのか、想像もつかない。
大勢のギャラリーがいる中で、今の風をコーダの魔法だと分かったのはマリっちしか居ないようだ。むしろ言っても誰も信じないのではないかとすら思えてしまう。それに、同郷のマリっちだからこそ、コーダの魔力の残滓か何かを感じ取れたのだろう。
「筏で陸を走るなんて馬鹿げた話だと思ったもんだが、空を飛ぶなんてもっと馬鹿げてるじゃねぇか…」
「あぁ心配ですわ…コーダさんの無事をお祈りしたいところですが…」
「あっはっは、やめときなって。本職のマリっちがお祈りするとエンチャントかかるからさ」
「コーダなら大丈夫」
「えぇっ!? リズっちここからでもまだ見えるの!?」
「ううん、見えない。見えないけどそう思う」
なんだかリズっちが妙にコーダを信頼しているように見える。こういうタイプの子の信頼を得るのはもっと時間がかかるもんだと思ってたが、コーダのやつリズっちとなんかあったのかな。王都に出かけた時に、コーダもリズっちと同じものを買っていたし、そのあたりからリズっちのコーダを見る目も少し変わったように思う。大方、その道具の使い方を教えてくれとか言ってリズっちに聞きに行ったりしたんだろう。
同郷のマリーも、コーダに運気の指環をプレゼントされて喜んでいたし、ある程度気があるんだろうとは思うが…。パーティ内で変にややこしくならなきゃいいんだけど…。
それにあのお嬢さんも絡んできたりすると余計に事情がややこしくなりそうだな…。
――人知れず、頭を痛めるイェスペルだった。
ℵ
空に打ち上がってから十数秒で最高地点に達する。ウップランドの丘よりも随分と高くまで上がったが、さすがに山の高さには届かない。学院や王都がよく見えるが、今はあまりゆっくり見ている余裕はなかった。
推進力に使った右手の暴風はもう消えてしまったが、虹孔雀の風はまだ残っている。……頼むからこの高さでいきなり消えたりしないでくれよ。虹孔雀の風のおかげで落下速度はゆっくりとしている。いまはちょうどムササビが滑空するかのような状態だ。――まぁ飛んでるのはトロリーだが。やっぱりシュールだった。
今のうちに縄を解いてトロリーの前方に向かう。樹の乱立している地帯を一息に飛び越えて、目標の三角岩がぐんぐんと近づいてくる。そう言えば、ゴールの判定は誰がするんだろう?
滞空することおよそ三十秒、ゴール地点の二百メートルほど手前にふんわりと着地する。役目を終えた虹孔雀の風もふわりと消滅した。滞空していたおかげで前進する速度はそれほど減速していない。着地した衝撃で多少減速したが、もう追加で魔法を撃たなくても、このままゴールまで辿り着くだろう。
そのゴール地点となる双子の三角岩の上に、それぞれ人が立っているのが見えた。一人は学生服で、一人は白い将校服のようだ。――白い方はきっとスティーグさんだろうな。
着地してから実に五秒で目標の三角岩に辿り着いた。岩の上に立っていたのは、やはりスティーグさんと、学生服の方は眼鏡をかけたエルフの男子生徒のようだ。
「ゴール!!」
スティーグさんが掛け声とともに笑顔で親指を立ててくれるがそのまま行き過ぎてしまう。
――あ、止まらなきゃ。
止まることを考えていなかった。
今から麻縄でもう一度柱にくくりつけて、今度は前方に向かって魔法を撃とうかと考えていたところ、車体が急にガクガクと揺れだして、急激に減速して止まった。
(車輪に……矢が刺さっている?)
停止したトロリーの車輪を見てみると矢が刺さっていて、どうやらそれがブレーキの役割になって減速できたようだ。見たところ先程の男子生徒が放ったようだけれど…、この速度で動いているトロリーの、それも車輪の厚みなんて五センチぐらいしかないのに、正確に刺さっている。――しかも四輪ともだ。
三角岩から百メートルほど離れてしまったが、トロリーから降りて二人のところに向かう。
「いやぁ傑作だったな! まさか空を飛ぶとは思わなんだぞ! あれだけ二重魔法について釘を刺したのに、もう普通に使っていやがるとは大した野郎だよ、まったく!」
「えぇ!? ここから見えていたんですか?」
スティーグさんのいる方の岩の上まで上がったところで、スティーグさんがそんなふうに話しかけてくる。僕が二重魔法を使った時はゴールまでまだ 2,500 メートルぐらいあったはずだ。そんな距離でどんな魔法を使ったかなど、いくら視力が良かろうが、到底見えるはずが無い。
「いやいや、さすがに俺には見えんよ。そこのニコライに見てもらったんだ」
そう言って三メートルほど離れたもう一つの岩に乗っているニコライと呼ばれた男子生徒を見ると、まだ走っているはずのマルガレータの様子をじっと見ているようだった。そのまま視線を動かさずに彼は言った。
「まったく手を煩わせるな。止まることぐらい考えておけ」
「あ、はい…」
いきなり怒られてしまったが、彼の言っていることは正論だったので何も言い返せない。
「貴様が不正をしないか見てただけだ。妹からもそういう報告があったからな」
……もしかして、虹孔雀の卵を食べたことを何か言われるのだろうか。――ん? 妹? 話が見えない。
「なぁコーダ、エルフ族に眼鏡が必要だと思うか?」
「え? えっと…」
急に何の話だろうか。そりゃ視力が悪ければ眼鏡は必要なんじゃ…。まさか似合ってるかどうかの話を聞かれている訳でもないと思うし…。何を答えればいいんだろうか。
「知らないのか? エルフ族は普通視力なんて落ちないぞ」
「だったらどうして…」
「そうだな、お前は学院に来たばかりだから仕方ないが、これからは魔法以外のこともしっかりと知っておけよ」
「は、はい…」
視力の落ちないエルフが眼鏡をかけている理由。彼が背中に付けているのは弓だ。そして 2,500 メートルもの距離でも見通せるほどの視力。――いや、どんな魔法を使ったかまで看破されていたわけだから、魔力も視えているということだろうか。
「エルフ族は空気属性の魔力なら視ることができるんだ。中でもニコライは感知能力がもとから高い方だが、あの眼鏡は視力強化のためだな。あれを掛けていると五キロメートルぐらいは空気の魔力が見えるそうだ」
「ご、五キロメートル…」
五キロメートルといったら、ちょうど海の水平線ぐらいまでの距離だ。……そんなの、ほとんど視界に入る範囲全てじゃないか。空気属性に限った話とは言え、とんでもない能力だ。
ということは、視えていたのは空気の魔力に関してだけで、虹孔雀の卵を食べたことはバレていないようだ。そもそもゴールに対して背中を向けていたし、見えるはずもないか。よかったよかった。
「そうだ、コーダはニコライに会うのは初めてだったか。紹介が遅れたな。こいつは生徒会長のニコライ・ギルノール・ハルストレームだ」
「は、はじめまして、コーダ・リンドグレンです」
「ふん、そんなことは知っている」
「そ、そうですか…」
――ハルストレーム…妹…。そういえば白組にはエルフ族が三人いる。エルフ族の中でもさらに種族はいくつか区分される。大きくは肌の白い光エルフ族と、肌の黒い闇エルフ族に分けられる。一人は男子生徒だし、肌の黒い闇エルフ族だ。残りは二人とも肌の白い光エルフ族の女子生徒だ。二人のうち片方は魔法科のクラスでも一緒だったミルヴァ・キエロ・ペタヤだ。彼女は薬士を専攻しているとのことだった。
もう一人の光エルフ族は確か、魔法弓士を目指している……そう、マーヤ・アグラエル・ハルストレームだ。そうか、ハルストレームで魔法弓士か。
魔力を視たり、車輪への正確な射的を考えると、ニコライは恐らく魔法弓士だろう。妹もそれに憧れて同じ道を志した、というところだろうか。
しかし、その妹から不正の報告があったとは一体どういうことだろう…。特に心あたりがないのだけれど…。
「どうだ、ニコライ。面白いやつだろう?」
「そうですね、実力は分かりました。魔法の腕は多少覚えがあるようですが、圧倒的に経験が足りませんね。戦略性も無い力任せが得意なようで」
「うっ……」
非常に痛いところをついてくる。何も言い返せないのが悔しいので、妹のことに話を変えてみよう。
「妹って、マーヤですよね? 不正の報告というのは一体…」
「気にするな。いつものことだ」
「は、はぁ……」
結局何一つ分からなかった。この人と会話するの難しいなぁ…。
「ああ、入科試験のことを、ニコライの妹さんが疑ってたんだとよ。魔道具を壊したり、二重魔法を使ったりして明らかに異様だったから、何か不正してるんじゃないか――ってことらしいぞ」
「そ、そうだったんですか……。でもあれは普通に魔法を使っただけで――」
「ああ、分かってるよ。これでも開拓者ギルドの幹部をやってんだ。二重魔法を実際に見たことこそ無かったが、知識としては知っていたから、別に変とは思わんよ。試験を担当していたのはフォーゲルストレームだろ? 彼女が不正を見抜けないはずはないしな」
「フォーゲルストレーム先生はどういった方なんですか?」
「俺と同じようなもんさ。彼女は魔法教会の幹部で、学院には臨時教員として来ている。魔法教会の貴重な魔道具が壊れたと言って嘆いていたぞ。あっはっは」
そ、そういえば試験の時に水晶を壊してしまっている。虫眼鏡も調子悪くさせてしまったようだし。いま思い出した。一体それらはどんな魔道具で、
どれほど高価なものだったのだろうかと、今更ながら思い出して青ざめる。
「まぁ魔道具については心配するな。道具なんていつか壊れるもんだ。魔法教会ならどうせ予備もいくつかあるだろ」
よかった…。忘れていたとは言え、少し肩の荷が降りた気分だ。フォーゲルストレーム先生には今度会ったら謝っておこう。
「来たぞ」
ニコライがそう言うと、マルガレータが木々の間から出てきたところだった。あとゴールまで三百メートルというところだ。最初のときとあまり変わらない速度で進んでいる。ゴールまではあと一分というところだろうか。
その後、一度再加速させて、遂に彼女はゴールに到着した。
三角岩の上から覗いてみれば、僕と違って岩の間でちゃんと停止している。上から見下ろしていては悪いと思って、岩から降りて彼女のもとに向かう。
肩で息をして、息を切らしている。停車した筏の上で柱に凭れて座り込んでいる。せっかくの綺麗な女の子なのに髪やスカートなどが少々大変なことになっている。――さて、なんて声を掛けたものか。
「お、お疲れ様…」
「はぁっ、はぁっ……貴方…一体、何者なのよ…」
「そう言われても…」
天使の使いです、なんて言っても信じないだろうし、その件はオークスベルガではともかく、王都ではあまり広まっては困る。変な噂が立って処刑対象になったらシャレにならない。
「もういいわ…。今回は私の負けで」
「そ、そう。えっと…それじゃ僕はこれで――」
「待ちなさい。…まだ話は……終わっていないわ」
ようやく息も整ってきたようだ。彼女の藤色のツインロールが車体の振動を受け続けて汗を帯びたことで乱れている。品格も高く、いつも毅然としている彼女も、こうして見ると中身は普通の少女なのだと感じてしまう。
「あの食べていたのは…何なの?」
「あぁ、あれは虹孔雀の卵をコークテッグにしたものだよ」
「ふぅん…、それなら今度私にも振る舞いなさい」
「え? コークテッグなんかでいいの?」
「いいわ。貴方と同じで。――それより貴方の筏はどこに行ったのよ?」
なんだか彼女の話し方が普段より少しだけ気安くなってきているような気がする。疲れているからだろうか。
「あぁ、筏ならあっちに」
「………。ちゃんと止まりなさいよ」
「め、面目ない…」
「いいわ、あとでダニエルたちに回収させておくわ。途中で落ちた帆柱もそのまま放置できないしね」
――ダニエルか。どうしようあの件を言うべきか。
「そのことなんだけど…」
「え? どうしたの?」
「いや、それより先にスカートを直したほうが…」
「………!」
極力見ないようにしていたが、めくれて太ももまで見えているスカートが気になって仕方がなかった。だから早く切り上げて帰ろうと思ったのだが、話がまだ続きそうだから先に指摘しておかなきゃならなかった。
そもそも荷台部分の高さは地面から八十センチメートルほどある。その高さでスカートで座り込まれると、見ないようにしてても目線の高さに近くなっている分、色々見えてしまう。
荷台から降りた彼女は最初に会った時さながらに僕を睨む。ただ今のほうがちょっと顔が赤い。
「……早く言いなさいよね」
「ご、ごめん…」
そう思っても言いにくいこともあるのだ。仕方あるまい。
「それで、何の話だったかしら?」
「えっと帆柱のことなんだけど」
「あぁ、さすがに作りが甘かったかしらね? 最初はあなたの魔法のせいかと思ったけれど、そもそも帆柱なんて風を受けるためのものでしょう? それに風の強さも私より少し速いぐらいだったし、折れるなんておかしいわよね」
――さすがに頭がいいと話が早くて助かる。
「ははぁん、こりゃ刃物か何かで斬られた跡だな」
後ろを振り向くとスティーグが僕の車体を持ってきていた。――え? これを担いで持ってきたの?
荷台の上に飛び出している柱の残りは、もう麻縄も解けていて切り口が露わになっている。
「ちょっと待ちなさい。どういうことよ」
「コーダ、ここには麻縄が巻かれていたのか?」
スティーグ同様、岩から降りてきていたニコライが僕に尋ねてくる。まだ帆柱が付いているマルガレータの車体と見比べてそう思ったのだろう。僕の不正を監視する目的ではあったようだが、彼女の方の不正についても目を光らせていたようだ。
「はい…そうです」
「…貴方が麻縄を解いたのは帆柱が折れた後だったわね」
そう言えばその辺りの一部始終はマルガレータ自身が見ていた。
「こんな状態でも貴方は私に勝ったのね…。いえ、それより――ということは、切り傷が付いたのはスタートよりも前になるわね」
「職人が制作の段階で傷付けたか、その後誰かに意図的に斬られたかのどちらかだろう」
「んなもん誰かが故意にやったに決まってんだろ」
ニコライの分析に対してスティーグがすかさず指摘する。
「どうしてそう思うのですか?」
「この太さの柱が簡単に半分も斬れる訳ねぇよ。しかもこの切り口は剣だ。斧なら垂直に柱に切り込むが、剣なら振り抜くだろ。切り口の木くずを見ればそれが一目瞭然だ」
帆柱の太さは、マルガレータがレース中に倒していた樹よりもかなり太い。マルガレータも言っていたように、最初から風を受けることを想定した柱だから、丈夫で太い樹が選定されているはずだ。
「わかりました。これ以上の追及はこちらでします。調査の結果は追って伝えます。コーダさんもそれでよろしいですか?」
「あぁ、わかった」
これがまさか大変なことに巻き込まれる引き金になるとは、その時の僕は想像だにしていなかった。
――レースの次の日の放課後、マルガレータが僕の部屋を訪ねてきたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
