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十三杯目『召しませ台湾』
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それはまたしても起こった。
かつては和喫茶に変貌したそこが、今日は中華風になっている。
中国喫茶風なのか、台湾喫茶風なのか、そこは判断が付かないが、とにかくその系統の外装に変わっていた。
この劇的な変化は初めてではないとはいえ、慣れるものでもなさそうだ。
看板は相変わらず『有栖川茶房』とある。やはり店を間違えたわけではない。
外観を眺めやっていると、ざっ、と音がして、隣に長身の人が立った。
「またやったんですね……、まったく」
ジャックだ。今日もしっかりとスーツを着込んで、隙が無い印象も変わらない。
こうして立って並ぶと、目を合わせようとするにはかなり顔を上げなくてはいけない。
――背、高いなぁ。
見上げていると、目線が合った。
「今日はもう授業は終わりですか?」
「二限がないからお茶でもって思って来たらこうなってて……」
「中、入ります?」
「……そうします」
ジャックが扉を開けてくれたので、先に中に入った。
中に入った途端、ドアベルの音を聞いた宇佐木と桂が、カウンターの中から同時にこちらを向いた。それはもう凄い勢いで。
しかし、振り向いた理由は客が来たからではなく、
「ジャックう~! よかった、待ってたんだぜ!」
「待ってたとは? 来る約束はしてなかったと思うが」
「魯肉飯の材料を仕入れすぎちゃってさぁ。ジャック来るの期待してたんだよ」
「それよりも、お客さんに対する第一声が足りないぞ」
「ん? ああ、アリス。いらっしゃい」
ジャックの前に居たのにまるで目に入っていなかった様子で、大分おざなりに言われた。
有紗はわざとらしく唇を尖らせてみせ、
「ちょっともう。宇佐木くん、雑~!」
「ああ、ごめんごめん。ホントにこれどうしようかと思ってたからさ」
「何って言ってたっけ?」
「魯肉飯」
「るうろうはん?」
「そう。台湾屋台の定番で、ご飯に八角とかのスパイスで煮た豚バラ肉とか卵を載せた飯なんだよ。まかないも兼ねてって思って材料仕入れたはいいんだけど、仕込み終わってから多すぎるのに気付いてさ」
「宇佐木くんもうっかりだなぁ」
「そもそも急に改装する桂が悪いんだよ」
「また僕、悪者~?」
くねくねと動きながら、悪者は今日も無自覚の様子だ。
「というわけで、今日は問答無用で魯肉飯だから」
宇佐木はジャックに向かってそう言いながら、早くも小丼にご飯をよそっている。
「アリスも食べたかったら先に言えよ。じゃないと、ジャックが全部食べちゃうから」
「ええー。じゃあ、貰おうかなぁ。食べたことないし、その、るう……」
「魯肉飯」
「そう、それ」
慣れない言葉にまごついていると、横からすっとクリップに紙を挟んだスタンドが出てきた。桂がいつの間にか真横に居る。
紙には、『魯肉飯あり〼』の文字。
「あ。こういう字書くんだ」
「急いでてメニュー作ってないから、このくらい出さないとね~」
「っていうか桂さん。台湾風喫茶、いつまでやるつもりですか?」
「今回はお試しで開いたんだよね~。夏に本格的にやろうと思って、その予行演習なんだぁ」
「予行演習なら改装までしなくても良かったんじゃ……」
「やだなぁ。雰囲気って大事でしょ~? ねえ」
妙なしなを作りながら桂はカウンターの裏へと戻っていく。
確かに雰囲気は大事だ。窓の格子は中華風になっているし、夏っぽくすだれもかかっている。おまじないのお札も貼ってあるし、所々に現地を思わせる飾りも飾ってある。
凝っている、には違いない。
色々やりたいのだろう事も分かる。
――でも、浮気しすぎな気もするなぁ。……コンセプト、とは……。
「なあ、弥生」
考えていると、向こうから不満を含んだ声が聞こえてきた。
「こんな小さい丼で出すな。もっと大きいのはないのか」
「ねぇよ。ここ何屋だと思ってんだよ」
「何屋だと思う? 言ってみろ」
「……何屋……かな。なあ、桂。何屋かな」
「さぁ、何屋さんだろうね~。僕、わかんないや~」
やることがなくゆらゆらしている桂を見て、思うことが一つあった。
――コンセプトは……えーっと、お茶さえ出せればいいのかな……。
今回はまだお茶の注文の催促がまだないが、桂のことだ。遅かれ早かれ「お茶!」と騒ぎ出すに違いない。
またご飯の匂いがする。
唾液がじわりと口の中に広がり始めたところで、
「はい、お待たせ」
差し出された小丼を受け取ると、特徴のある香りがまずやってきた。
恐らくこれは八角の――有紗には少し薬っぽく感じられた――独特な香りだ。
白飯の上に煮込んだ細長く切られた豚肉と卵。そこに白髪ネギがそっと添えられている。至ってシンプルなつくりだ。
金属製のレンゲがついていて、これで食べるらしい。
「いただきまーす」
肉と白米を混ぜながら、毒味程度に一口。そして、もう一口。
エスニック料理は食べ付けないために馴染みのない八角の、表現しがたい不思議な香りが楽しい。豚肉にもしっかり味が染みていて、ご飯のお供に申し分の無い濃さだ。
「美味しい!」
「よかったー」
味覚に合うことが判ったので、三口目からは多めに頬張った。
噛むほどに感じる香りと豚肉の脂の甘みがたまらない。
「弥生。おかわり」
「相変わらず食うの早いな」
向こうでは既に一杯目を完食したジャックが、丼を突き出しておかわりの催促をしている。
先ほどまで丼が小さいとごねていたはずなのに、その丼の中身は消えてしまった。
いくら成人男性とはいえ、早すぎる。
「ジャックさん、やっぱりちゃんと噛んでないですよね?」
「噛んでます」
「絶対噛んでない。飲んでる」
「クオーリでも言いましたが、噛んでます」
「……飲んでる」
「噛んでます」
目を合わせないまま、ジャックはそう言って譲らなかった。
詮索されることを厭っているように見え、それ以上食い下がることはしなかった。
「ジャック。卵はいくつまで大丈夫?」
「制限なんてあるのか」
「いや、摂り過ぎも良くないからさぁ。三つくらいまでにしとこうな。な?」
「おまえがそう言うならそれでいいが、気にして食べた事なんて無いぞ」
「おまえの胃袋、異次元だから常人と同じ次元で語っちゃ駄目かもだけど、摂り過ぎは、良くないの」
「解ったから早く寄越せ」
「ホントに解ったのかぁ?」
丸ごとの卵が一個載ったおかわりがジャックの前に差し出される。
これで卵二個。最低でも三杯は食べるという計算のようだ。
すぐさま、ごはんを掻き込む為にレンゲと丼が当たる小気味いい音が聞こえてきた。この速度で食べていて、噛んでいるわけがない。真偽を確認するために有紗は観察しようかとも思ったものの、やめて自分の食事に専念することにした。
観察はかつて一度やった。
これ以上見たところで、ジャックは同じように食べるだろうし、寧ろこの小気味いい音を聞いている方が食欲が湧く。
「おかわり」
「だから早いって! 味わえよ!」
「味わってる」
同じようなやりとりを有紗は笑みを浮かべて聞きながら、丼の中身を食べ進めた。
*
最終的にジャックは五杯を平らげ、彼と有紗が丼をカウンターに置いたのはほぼ同時だった。
「はぁぁ。美味しかったぁ」
空になった丼を見やりながら、口の中に残っている味を反芻して楽しむ。
癖のある味が、病みつきになりそうだ。
「んふふ~。ちょっとこれ、食べていってよ」
奥で作業をしていた桂が、両手に一つずつガラスの器を持ってやってきた。
有紗の所に一つ、ジャックの所に一つ、注文もしていないそれが置かれた。
「これ、かき氷?」
「そ。かき氷」
ふわふわの氷の上にマンゴーのジュレと果肉、苺のジュレと果肉、そして小さく賽の目に切った杏仁豆腐がそれぞれ溢れんばかりに載っている。
「マンゴーの氷の用意が間に合わなかったから、今日はこんな感じにしてみたんだ~」
「これって、桂さんの奢り?」
「そんなぁ、まさか~」
「ええー! 勝手に持ってきたのに奢りじゃないのぉ?」
「じゃあ、ジャックの奢りね~」
「試作品に付き合ってやってるんだ。桂の奢りだろう」
「じゃあ宇佐木く――」
「俺、今月金欠」
「わぁぁあん」
そもそも、先ほど美味しく頂いた魯肉飯も半ば押しつけのようなもので、値段すら聞いていない。『魯肉飯あり〼』の紙にも、値段が書かれていなかった。後で指摘しておこう。
桂の奢りが決定したところで、溶けないうちに頂くことにする。
「いただきまーす」
本日二回目の頂きます。
まずはマンゴーの部分にスプーンを入れる。スプーンが刺さる感触もおぼつかないまま、柔らかな氷が一山取れた。ぱくり、と口に入れると、文字通り溶けてなくなってしまった。
続けて苺の部分も一山食べる。
そして、お約束の、
「うあー。キーンってしたぁ」
「どお? おいしい?」
「うん、美味しい。真夏に食べたらもっと最高かも」
「そうでしょ。そうでしょ~」
満面の笑みを浮かべた桂は、満足そうにゆるゆると揺れている。
食べ進めながらちら、とジャックを見ると、皿の上にはまだかき氷が残っていた。推し量るに、有紗と同じペースでしか食べていない。
「ジャックさん、かき氷は苦手ですか?」
「冷たいものはゆっくりとしか食べられないんです」
「へぇ。何でも一気に食べちゃうのかと思った」
――意外な弱点、発見。
彼もやはり人の子なのだ。そんな再認識をして、フルーツたっぷりのひんやりデザートを堪能した。
かつては和喫茶に変貌したそこが、今日は中華風になっている。
中国喫茶風なのか、台湾喫茶風なのか、そこは判断が付かないが、とにかくその系統の外装に変わっていた。
この劇的な変化は初めてではないとはいえ、慣れるものでもなさそうだ。
看板は相変わらず『有栖川茶房』とある。やはり店を間違えたわけではない。
外観を眺めやっていると、ざっ、と音がして、隣に長身の人が立った。
「またやったんですね……、まったく」
ジャックだ。今日もしっかりとスーツを着込んで、隙が無い印象も変わらない。
こうして立って並ぶと、目を合わせようとするにはかなり顔を上げなくてはいけない。
――背、高いなぁ。
見上げていると、目線が合った。
「今日はもう授業は終わりですか?」
「二限がないからお茶でもって思って来たらこうなってて……」
「中、入ります?」
「……そうします」
ジャックが扉を開けてくれたので、先に中に入った。
中に入った途端、ドアベルの音を聞いた宇佐木と桂が、カウンターの中から同時にこちらを向いた。それはもう凄い勢いで。
しかし、振り向いた理由は客が来たからではなく、
「ジャックう~! よかった、待ってたんだぜ!」
「待ってたとは? 来る約束はしてなかったと思うが」
「魯肉飯の材料を仕入れすぎちゃってさぁ。ジャック来るの期待してたんだよ」
「それよりも、お客さんに対する第一声が足りないぞ」
「ん? ああ、アリス。いらっしゃい」
ジャックの前に居たのにまるで目に入っていなかった様子で、大分おざなりに言われた。
有紗はわざとらしく唇を尖らせてみせ、
「ちょっともう。宇佐木くん、雑~!」
「ああ、ごめんごめん。ホントにこれどうしようかと思ってたからさ」
「何って言ってたっけ?」
「魯肉飯」
「るうろうはん?」
「そう。台湾屋台の定番で、ご飯に八角とかのスパイスで煮た豚バラ肉とか卵を載せた飯なんだよ。まかないも兼ねてって思って材料仕入れたはいいんだけど、仕込み終わってから多すぎるのに気付いてさ」
「宇佐木くんもうっかりだなぁ」
「そもそも急に改装する桂が悪いんだよ」
「また僕、悪者~?」
くねくねと動きながら、悪者は今日も無自覚の様子だ。
「というわけで、今日は問答無用で魯肉飯だから」
宇佐木はジャックに向かってそう言いながら、早くも小丼にご飯をよそっている。
「アリスも食べたかったら先に言えよ。じゃないと、ジャックが全部食べちゃうから」
「ええー。じゃあ、貰おうかなぁ。食べたことないし、その、るう……」
「魯肉飯」
「そう、それ」
慣れない言葉にまごついていると、横からすっとクリップに紙を挟んだスタンドが出てきた。桂がいつの間にか真横に居る。
紙には、『魯肉飯あり〼』の文字。
「あ。こういう字書くんだ」
「急いでてメニュー作ってないから、このくらい出さないとね~」
「っていうか桂さん。台湾風喫茶、いつまでやるつもりですか?」
「今回はお試しで開いたんだよね~。夏に本格的にやろうと思って、その予行演習なんだぁ」
「予行演習なら改装までしなくても良かったんじゃ……」
「やだなぁ。雰囲気って大事でしょ~? ねえ」
妙なしなを作りながら桂はカウンターの裏へと戻っていく。
確かに雰囲気は大事だ。窓の格子は中華風になっているし、夏っぽくすだれもかかっている。おまじないのお札も貼ってあるし、所々に現地を思わせる飾りも飾ってある。
凝っている、には違いない。
色々やりたいのだろう事も分かる。
――でも、浮気しすぎな気もするなぁ。……コンセプト、とは……。
「なあ、弥生」
考えていると、向こうから不満を含んだ声が聞こえてきた。
「こんな小さい丼で出すな。もっと大きいのはないのか」
「ねぇよ。ここ何屋だと思ってんだよ」
「何屋だと思う? 言ってみろ」
「……何屋……かな。なあ、桂。何屋かな」
「さぁ、何屋さんだろうね~。僕、わかんないや~」
やることがなくゆらゆらしている桂を見て、思うことが一つあった。
――コンセプトは……えーっと、お茶さえ出せればいいのかな……。
今回はまだお茶の注文の催促がまだないが、桂のことだ。遅かれ早かれ「お茶!」と騒ぎ出すに違いない。
またご飯の匂いがする。
唾液がじわりと口の中に広がり始めたところで、
「はい、お待たせ」
差し出された小丼を受け取ると、特徴のある香りがまずやってきた。
恐らくこれは八角の――有紗には少し薬っぽく感じられた――独特な香りだ。
白飯の上に煮込んだ細長く切られた豚肉と卵。そこに白髪ネギがそっと添えられている。至ってシンプルなつくりだ。
金属製のレンゲがついていて、これで食べるらしい。
「いただきまーす」
肉と白米を混ぜながら、毒味程度に一口。そして、もう一口。
エスニック料理は食べ付けないために馴染みのない八角の、表現しがたい不思議な香りが楽しい。豚肉にもしっかり味が染みていて、ご飯のお供に申し分の無い濃さだ。
「美味しい!」
「よかったー」
味覚に合うことが判ったので、三口目からは多めに頬張った。
噛むほどに感じる香りと豚肉の脂の甘みがたまらない。
「弥生。おかわり」
「相変わらず食うの早いな」
向こうでは既に一杯目を完食したジャックが、丼を突き出しておかわりの催促をしている。
先ほどまで丼が小さいとごねていたはずなのに、その丼の中身は消えてしまった。
いくら成人男性とはいえ、早すぎる。
「ジャックさん、やっぱりちゃんと噛んでないですよね?」
「噛んでます」
「絶対噛んでない。飲んでる」
「クオーリでも言いましたが、噛んでます」
「……飲んでる」
「噛んでます」
目を合わせないまま、ジャックはそう言って譲らなかった。
詮索されることを厭っているように見え、それ以上食い下がることはしなかった。
「ジャック。卵はいくつまで大丈夫?」
「制限なんてあるのか」
「いや、摂り過ぎも良くないからさぁ。三つくらいまでにしとこうな。な?」
「おまえがそう言うならそれでいいが、気にして食べた事なんて無いぞ」
「おまえの胃袋、異次元だから常人と同じ次元で語っちゃ駄目かもだけど、摂り過ぎは、良くないの」
「解ったから早く寄越せ」
「ホントに解ったのかぁ?」
丸ごとの卵が一個載ったおかわりがジャックの前に差し出される。
これで卵二個。最低でも三杯は食べるという計算のようだ。
すぐさま、ごはんを掻き込む為にレンゲと丼が当たる小気味いい音が聞こえてきた。この速度で食べていて、噛んでいるわけがない。真偽を確認するために有紗は観察しようかとも思ったものの、やめて自分の食事に専念することにした。
観察はかつて一度やった。
これ以上見たところで、ジャックは同じように食べるだろうし、寧ろこの小気味いい音を聞いている方が食欲が湧く。
「おかわり」
「だから早いって! 味わえよ!」
「味わってる」
同じようなやりとりを有紗は笑みを浮かべて聞きながら、丼の中身を食べ進めた。
*
最終的にジャックは五杯を平らげ、彼と有紗が丼をカウンターに置いたのはほぼ同時だった。
「はぁぁ。美味しかったぁ」
空になった丼を見やりながら、口の中に残っている味を反芻して楽しむ。
癖のある味が、病みつきになりそうだ。
「んふふ~。ちょっとこれ、食べていってよ」
奥で作業をしていた桂が、両手に一つずつガラスの器を持ってやってきた。
有紗の所に一つ、ジャックの所に一つ、注文もしていないそれが置かれた。
「これ、かき氷?」
「そ。かき氷」
ふわふわの氷の上にマンゴーのジュレと果肉、苺のジュレと果肉、そして小さく賽の目に切った杏仁豆腐がそれぞれ溢れんばかりに載っている。
「マンゴーの氷の用意が間に合わなかったから、今日はこんな感じにしてみたんだ~」
「これって、桂さんの奢り?」
「そんなぁ、まさか~」
「ええー! 勝手に持ってきたのに奢りじゃないのぉ?」
「じゃあ、ジャックの奢りね~」
「試作品に付き合ってやってるんだ。桂の奢りだろう」
「じゃあ宇佐木く――」
「俺、今月金欠」
「わぁぁあん」
そもそも、先ほど美味しく頂いた魯肉飯も半ば押しつけのようなもので、値段すら聞いていない。『魯肉飯あり〼』の紙にも、値段が書かれていなかった。後で指摘しておこう。
桂の奢りが決定したところで、溶けないうちに頂くことにする。
「いただきまーす」
本日二回目の頂きます。
まずはマンゴーの部分にスプーンを入れる。スプーンが刺さる感触もおぼつかないまま、柔らかな氷が一山取れた。ぱくり、と口に入れると、文字通り溶けてなくなってしまった。
続けて苺の部分も一山食べる。
そして、お約束の、
「うあー。キーンってしたぁ」
「どお? おいしい?」
「うん、美味しい。真夏に食べたらもっと最高かも」
「そうでしょ。そうでしょ~」
満面の笑みを浮かべた桂は、満足そうにゆるゆると揺れている。
食べ進めながらちら、とジャックを見ると、皿の上にはまだかき氷が残っていた。推し量るに、有紗と同じペースでしか食べていない。
「ジャックさん、かき氷は苦手ですか?」
「冷たいものはゆっくりとしか食べられないんです」
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