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第一章 王国動乱篇
第九話 王国
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「────ここは……?」
「おお、目覚めたか。今の状況はわかるかの?」
「……確か俺は事故にあって死んだ、と思う」
「その通りじゃ。お主は一度死んでおる。そこで一つチャンスをやろう」
「チャンス……?」
「そうじゃ。運良くお主は選ばれた。条件を飲むと言うのであれば別の世界で再び生を謳歌させてやろう」
「…………! そ、そうか……まさか俺が異世界転生出来るなんて思ってもみなかった……! と言うことは当然──」
「嗚呼、強大な力も与えてやろう」
「うおっしゃあ! 行く行く! こんなの行くしかないでしょ! 実際日本での生活は楽しくないし、未練とか後悔とか何一つないしな」
「良い返事が聞けて嬉しいぞ。条件はただ一つ。三千年前に悪逆の限りを尽くした強大な魔王が復活した。そやつを倒して欲しい。後は当然、何をしても良い」
「魔王討伐か、定番だな。勿論、俺に任せてくれ! 魔王の一人や二人、ちょちょいのちょいだぜ!」
「うむ、うむ。では身体能力や魔術適正、あとはしばらくは過ごせるだけの金銭、そして言語翻訳─────」
♦♦
魔大国を出てふらふらと、飛ぶこと数刻。視界に広がっていた森や山脈は遥か後方、現在目下に広がるは城を中心として広がる巨大な街。上空からでもわかる賑わい具合とその大きさ、全体を囲う外壁は相当な高さだろうと伺える。
グランダール王国、王都リテラス。
魔大国に隣接している────山脈や森林を挟んでいるが────国である。地図で見た。
国についてはスラヴィアから少しだけ教えてもらった。
曰く、「人間の国として、最も順当に繁栄している」らしい。
適応力、加えて弱者ゆえの協力性。亜人も魔族も分け隔てなく受け入れる姿勢だと言う。
そして何より、神を信仰していない。
嗚呼なんと素晴らしきかな王国民。それでこそ人間というものだ。私の身で言って良い事かは定かではないが、くそったれな信仰心などそこいらの馬にでも食わせていればよい。
だが袂を分かった訳では無いらしい。自らの人生は自らで決めるとでも考えているのだろう。
まあいい、素晴らしい事には変わりないし実際に見てみれば分かることだ。
外壁を超える訳にもいかないため、少し離れた人気のない場所へと降り立つ。森と平原の、丁度境目の辺りだ。
音も無く着地すればそのまま王都の方へと足を進める。丁寧に舗装された道で、横幅も広い。荷台が二つ三つはすれ違える程だろうか。この道一つを見ても繁栄具合がよく分かる。
しばらく歩いていると、反対側からこちらに向かってくる三人の姿が見えてきた。男が二人に女が一人か。
「ん? こんな所でどうしたんだい、お嬢ちゃん」
腰に剣を携えた男が話し掛けてきた。穏やかな物腰に切り揃えられた髪、顔立ちこそ平凡ではあるが人に好かれやすそうな人物だ。
「ちょっとやる事があって。魔大国の方から旅をして来たの」
「魔大国か、じゃあ魔族の子なのかな? ならここまで一人で来られたのも納得するよ」
「見た目通りの年齢って訳じゃないかもしれないのね」
話には聞いていたが、やはり魔族に対する風当たりが悪いと言うわけではない。むしろ興味深そうな眼差しを向けられている気がする。
確かに、魔大国から外に出るものはそう多くないと聞く。であれば実際に見るのも珍しいということだろう。
「その辺りは想像にお任せするわ」
よく考えれば、三千年封印されていたとはいえそれは殆ど生きてる内に入らない。経験も成長も何一つしてはいないのだ。
と言うことは、だ。実際に生を謳歌していたのは数年、精々十年と言ったところか。厳密には加えて幾らかあるのだが。
しかしそれすら他の魔族の者と比べれば微々たる差。実の所子供と言っても全く差し支えないのだが、そんな事は言うだけ野暮である。
ついでとばかりに、質問をなげかける。
「そういえば、あなた達迷宮って知ってる?」
「そりゃあ勿論! 迷宮の踏破は冒険者達の指標って言われているくらいだからね。僕たちも一応一介の冒険者らしく、迷宮を踏破したいと思っているんだ」
聞いてもいない事まで答えてくれたが、まあ良い。
知ってるのであれば話は早い。根こそぎ聞くことにしよう。人の良さを利用している、というわけではない。断じて。
「なるほど。私の旅の目的も一応迷宮に関係しているの。だから少し聞いておきたくて。あまり外の情報に詳しくないから、教えて貰えると嬉しいんだけど……」
自らの容姿が優れている事は理解している。そもそも、「そう在れ」と生まれたのだから当然だが。
で在れば活かさぬ理由などあるはずもない。多少なりとも恥の感情がないとは言えないが、情報の重要性は嫌という程に理解している。成功率を高める事に私の感情など捨て置くのだ。
いかにも困りきってる、という様子で眉根を下げ、上目遣いで人の良さそうな男へと視線を向けてみる。
「僕達で分かることなら喜んで。あ、でも今任務の途中なんだ。終わった後の方がゆっくり時間が取れると思うんだけど、どうかな?」
意にも介さないというか、通用してないというか。恥を忍んだのが馬鹿みたいではないか。人の好さが如実に表れている。
そういえば冒険者とか言っていたな。話を聞くにクラスというわけでは無さそうだ。
魔大国にもそんな組織があったようななかったような。
では、冒険者とは国に囚われない戦力組織?武装団体?といったものである可能性が高いようにも見える。様子を見るに団体行動というより、個人個人がそれぞれ気の赴くままに動いてるようにも感じるが。
では任務とは、冒険者に課せられるノルマということになるのか。流石にそれを後回しにするわけにもいかんな。
「そうね、なら私もその任務に付いていくわ。冒険者の規則として、冒険者以外の者と一緒に行動してはならない、なんてのはあるかしら?」
「えっ!? い、いや。別にそういうのはないけど、結構危ない任務で……」
「それは野暮ってもんだぜ、ノルド。この嬢ちゃんは魔族、それ以前に魔大国からここまで一人で来てんだ。最低限の実力は保証されてるようなもんだろ」
「それはそうだけど……」
このお人よしはノルド、というのか。頭の片隅に置いておこう。
そして初めて口を開いたな、この男。大柄な体格に見合った声の大きさだ。
言い淀むノルドへの後押し、ナイスである大柄。
「足を引っ張るほど能無しではないとは思うけど。色々話を聞かせてもらうのだし、相応の働きはするわ」
ついでにこの時代の戦う者達の実力も知れる、図らずも良い機会となってくれた。後はノルドが肯定するだけだ。
「……分かった。何かあっても僕たちは責任が取れないことだけ、覚えておいて」
「勿論。自分の事は自分でどうにかできるわ、心配は無用よ」
少なくとも、ある程度まともに戦えることはグラトリアやライラとの腕試しで証明済みだ。ならばこのあたりの有象無象などに後れを取る理由はない。この者達がどんな任務を受けているのかは知らんがな。
「さて、まとまった所で自己紹介でも。僕らはパーティ『スコールド』。僕は一応リーダーのノルド・バーグ。見ての通り剣士さ」
「私はエルザ・ルクート。魔術師よ、よろしくねお嬢ちゃん」
「サージェス・オーグルド、拳闘士だ。魔族の力、見てみたいもんだな」
皆丁寧にクラスまで説明をしてくれる。自分の情報というのは余り晒すようなものではないと思うが。これも時代の流れの影響か、単に人が良いだけなのか。ならば私も倣うのが筋だろうか。
「ノア・エストラヴァーナ。魔術が得意だけど、近接戦もそこそこやれる。しばらくの間宜しく頼むわ」
「おお、目覚めたか。今の状況はわかるかの?」
「……確か俺は事故にあって死んだ、と思う」
「その通りじゃ。お主は一度死んでおる。そこで一つチャンスをやろう」
「チャンス……?」
「そうじゃ。運良くお主は選ばれた。条件を飲むと言うのであれば別の世界で再び生を謳歌させてやろう」
「…………! そ、そうか……まさか俺が異世界転生出来るなんて思ってもみなかった……! と言うことは当然──」
「嗚呼、強大な力も与えてやろう」
「うおっしゃあ! 行く行く! こんなの行くしかないでしょ! 実際日本での生活は楽しくないし、未練とか後悔とか何一つないしな」
「良い返事が聞けて嬉しいぞ。条件はただ一つ。三千年前に悪逆の限りを尽くした強大な魔王が復活した。そやつを倒して欲しい。後は当然、何をしても良い」
「魔王討伐か、定番だな。勿論、俺に任せてくれ! 魔王の一人や二人、ちょちょいのちょいだぜ!」
「うむ、うむ。では身体能力や魔術適正、あとはしばらくは過ごせるだけの金銭、そして言語翻訳─────」
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魔大国を出てふらふらと、飛ぶこと数刻。視界に広がっていた森や山脈は遥か後方、現在目下に広がるは城を中心として広がる巨大な街。上空からでもわかる賑わい具合とその大きさ、全体を囲う外壁は相当な高さだろうと伺える。
グランダール王国、王都リテラス。
魔大国に隣接している────山脈や森林を挟んでいるが────国である。地図で見た。
国についてはスラヴィアから少しだけ教えてもらった。
曰く、「人間の国として、最も順当に繁栄している」らしい。
適応力、加えて弱者ゆえの協力性。亜人も魔族も分け隔てなく受け入れる姿勢だと言う。
そして何より、神を信仰していない。
嗚呼なんと素晴らしきかな王国民。それでこそ人間というものだ。私の身で言って良い事かは定かではないが、くそったれな信仰心などそこいらの馬にでも食わせていればよい。
だが袂を分かった訳では無いらしい。自らの人生は自らで決めるとでも考えているのだろう。
まあいい、素晴らしい事には変わりないし実際に見てみれば分かることだ。
外壁を超える訳にもいかないため、少し離れた人気のない場所へと降り立つ。森と平原の、丁度境目の辺りだ。
音も無く着地すればそのまま王都の方へと足を進める。丁寧に舗装された道で、横幅も広い。荷台が二つ三つはすれ違える程だろうか。この道一つを見ても繁栄具合がよく分かる。
しばらく歩いていると、反対側からこちらに向かってくる三人の姿が見えてきた。男が二人に女が一人か。
「ん? こんな所でどうしたんだい、お嬢ちゃん」
腰に剣を携えた男が話し掛けてきた。穏やかな物腰に切り揃えられた髪、顔立ちこそ平凡ではあるが人に好かれやすそうな人物だ。
「ちょっとやる事があって。魔大国の方から旅をして来たの」
「魔大国か、じゃあ魔族の子なのかな? ならここまで一人で来られたのも納得するよ」
「見た目通りの年齢って訳じゃないかもしれないのね」
話には聞いていたが、やはり魔族に対する風当たりが悪いと言うわけではない。むしろ興味深そうな眼差しを向けられている気がする。
確かに、魔大国から外に出るものはそう多くないと聞く。であれば実際に見るのも珍しいということだろう。
「その辺りは想像にお任せするわ」
よく考えれば、三千年封印されていたとはいえそれは殆ど生きてる内に入らない。経験も成長も何一つしてはいないのだ。
と言うことは、だ。実際に生を謳歌していたのは数年、精々十年と言ったところか。厳密には加えて幾らかあるのだが。
しかしそれすら他の魔族の者と比べれば微々たる差。実の所子供と言っても全く差し支えないのだが、そんな事は言うだけ野暮である。
ついでとばかりに、質問をなげかける。
「そういえば、あなた達迷宮って知ってる?」
「そりゃあ勿論! 迷宮の踏破は冒険者達の指標って言われているくらいだからね。僕たちも一応一介の冒険者らしく、迷宮を踏破したいと思っているんだ」
聞いてもいない事まで答えてくれたが、まあ良い。
知ってるのであれば話は早い。根こそぎ聞くことにしよう。人の良さを利用している、というわけではない。断じて。
「なるほど。私の旅の目的も一応迷宮に関係しているの。だから少し聞いておきたくて。あまり外の情報に詳しくないから、教えて貰えると嬉しいんだけど……」
自らの容姿が優れている事は理解している。そもそも、「そう在れ」と生まれたのだから当然だが。
で在れば活かさぬ理由などあるはずもない。多少なりとも恥の感情がないとは言えないが、情報の重要性は嫌という程に理解している。成功率を高める事に私の感情など捨て置くのだ。
いかにも困りきってる、という様子で眉根を下げ、上目遣いで人の良さそうな男へと視線を向けてみる。
「僕達で分かることなら喜んで。あ、でも今任務の途中なんだ。終わった後の方がゆっくり時間が取れると思うんだけど、どうかな?」
意にも介さないというか、通用してないというか。恥を忍んだのが馬鹿みたいではないか。人の好さが如実に表れている。
そういえば冒険者とか言っていたな。話を聞くにクラスというわけでは無さそうだ。
魔大国にもそんな組織があったようななかったような。
では、冒険者とは国に囚われない戦力組織?武装団体?といったものである可能性が高いようにも見える。様子を見るに団体行動というより、個人個人がそれぞれ気の赴くままに動いてるようにも感じるが。
では任務とは、冒険者に課せられるノルマということになるのか。流石にそれを後回しにするわけにもいかんな。
「そうね、なら私もその任務に付いていくわ。冒険者の規則として、冒険者以外の者と一緒に行動してはならない、なんてのはあるかしら?」
「えっ!? い、いや。別にそういうのはないけど、結構危ない任務で……」
「それは野暮ってもんだぜ、ノルド。この嬢ちゃんは魔族、それ以前に魔大国からここまで一人で来てんだ。最低限の実力は保証されてるようなもんだろ」
「それはそうだけど……」
このお人よしはノルド、というのか。頭の片隅に置いておこう。
そして初めて口を開いたな、この男。大柄な体格に見合った声の大きさだ。
言い淀むノルドへの後押し、ナイスである大柄。
「足を引っ張るほど能無しではないとは思うけど。色々話を聞かせてもらうのだし、相応の働きはするわ」
ついでにこの時代の戦う者達の実力も知れる、図らずも良い機会となってくれた。後はノルドが肯定するだけだ。
「……分かった。何かあっても僕たちは責任が取れないことだけ、覚えておいて」
「勿論。自分の事は自分でどうにかできるわ、心配は無用よ」
少なくとも、ある程度まともに戦えることはグラトリアやライラとの腕試しで証明済みだ。ならばこのあたりの有象無象などに後れを取る理由はない。この者達がどんな任務を受けているのかは知らんがな。
「さて、まとまった所で自己紹介でも。僕らはパーティ『スコールド』。僕は一応リーダーのノルド・バーグ。見ての通り剣士さ」
「私はエルザ・ルクート。魔術師よ、よろしくねお嬢ちゃん」
「サージェス・オーグルド、拳闘士だ。魔族の力、見てみたいもんだな」
皆丁寧にクラスまで説明をしてくれる。自分の情報というのは余り晒すようなものではないと思うが。これも時代の流れの影響か、単に人が良いだけなのか。ならば私も倣うのが筋だろうか。
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