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第一章 勇者かと思いきや魔王でした
#1 落ちて堕ちた
しおりを挟む死にゆく体。既に意識はなかった。
救急からは死亡が確認され、親や兄弟にも自分から伝える事もなく死亡の事実が伝わる。
親は悲しみ、兄は泣いた。
後に刺した犯人も捕まり、事件は収集を向かえた。
暗闇に一人置いていかれたような感覚。感覚なんて等の前に死んだはずなのに。
走馬灯など見ることもなく速攻で死んだ俺がいる場所は何もない闇の世界。
肉体もない精神だけといえるその意識に光が向けられる。
なんだ?眩しい………
死んだはずの五感がその光をキャッチする。
どうしてしまったのか。死んだはずなのに意識があり光も感じる。
まだ死んではないのでは?
そんなことが頭を過ったときだった。
『ようこそ、こちらがわの世界へ!』
歓迎の声が頭を響かせる。脳に直接伝って来ているようで感じるに近い。
しかし確かなものだった。と、同時に人間ではないと悟った。
神様か、はたまた………………
『私は貴方を〝導く声〟です』
え?なんて?
中学生の頭なのに妙にここまで冷静だったがとうとう限界を迎えた。
何で俺はここに?ほんとに死んだのか?まだやるべき事が沢山あるのに?
どれも声に出そうとしても声にはならない。しゃべれないのだ。
『今は話せませんが、ご安心を!』
いや、できない。助けて!
全力で叫んだ、つもりだった。これも当然の如く声にはならず音すら出ない。
『貴方は残念ながら亡くなってしまいました。それも殺されて。刺されたのが運悪く致命傷を免れぬところで、本当に残念です!』
最後の!はわからないが本当に死んでしまったらしい。その事にはショックだった。
このあとに自分が死んでからを伝えられよくわかった。
ああ、本当に…………死んでしまったのか
ため息すら出ない。涙も勿論、そして本当に妙に冷静なのだ。
『先ほど申し上げた通り、貴方はこちらがわの世界へやって来ました』
こちらがわの……………世界………
出ない声で復唱する。
『齢十いくつで亡くなってしまった貴方にもう一度別の世界で歩んでいただきます』
つまり転生ってやつだろうか?
そんなのはよく読んだものだ。まさか自分がその本人になってしまうとは思いもしなかった。
夢には見るがそれよりはやはり勇者に憧れていたから。
まだ声は続く。
『貴方にぴったりな人物として転生させることを約束します』
え?勇者?いやでもピッタリかぁ……なんだろな?
少し期待するも自分にぴったりと言われると自信がない。何せ今まで目立たずまるで何処にでもいる平凡な人生だった。
『さぁ、貴方にぴったりな魔王の人生を与えます』
おや?聞き間違いだろうか?それともあちらの世界では魔王というのが勇者の名前なのだろうか?
これを後にさっぱりと消え去る声。体にはとてつもない違和感を覚える。
転生が始まっているようだ。
微妙な事を言い残し、転生が完了する。
………………不安しかねぇ。
心ではそう思っていてもやはり最後の最後まで言葉が出なかった。
※
「………………めよ、…………………よ。わが………。」
遠くから微かな声が聞こえる。ただあの導きの声とかいう変な声ではなかった。
ドスの効いたかなり低い声。
(転生とやらが完了志多のだろうか?)
今度は体の重さを感じられた。
体の部位もしっかりあるようで目もあることがわかる。
閉じられていた目をうっすらと開いていく。
視界がはっきりとしない。そんな俺にまた声がかかる。
「目覚めよ、我が息子よ!」
はっきりと聞こえた声。どうやらずっと呼び掛けていたらしい。
その声によってはっ、と目を覚ました。開かれた自分の目。そこに映るのは鬼と閻魔を足して二で割ったような顔を持つ人?ではない何か。
「うむ、覚めたようだな?急に起こしてすまなかったな」
何がなにやら
わからない、と思ったがそれ以上にこの状況が恐ろしかった。
鬼形相とも言えるその鬼+閻魔÷二は人間である俺からすれば恐怖心をあおる何者でもなかった。
兎に角怖い。
「悪いが産まれたてのお前を急成長させた。理由はあとで説明するが、どうだ?違和感はあるか?」
どうやら俺は息子ということらしい。
急成長という言葉に耳を疑いながら自分の手足を見る。
驚きなのが息子と言うぐらいなので鬼か閻魔のような外見かと思いきや人間と変わらない手足。
そして何か物凄い力を感じる。
俺は中二病にでもなったのだろうか?
あれやこれや考えていると父である鬼+閻魔÷二が急に語りだした。
「聞くがよい、我が偉大なる息子よ!私はお前の父であり、この悪魔全てを従える魔王にして大魔王二代目、そしてお前が三代目になるのだ。」
…………………!
「目的は人間を滅ぼすことよ!そんなお前の名前は『エルメナード・フォカロス』だ!」
どうやら完全に俺はこっち側らしい。勇者とは縁遠いかけ離れた存在だ。
エルメナードが名前、フォカロスが姓らしいがどうでもいい。
異世界まできて主役を得られない人生にひどくショックを受けた。
「さぁこれから………うむ、………ほう?」
何か言うかと思えば一人でぶつぶつとしゃべり始めた父。
てか、俺の両親はどうなった?
とか
元の世界は?
や
これからどうなるの?
なんて事を思いながら次の父の行動を待っていると急に駆け出した。
「すまんな、我が息子よ。これから用ができた。少し待っていてくれ」
その一言だけ置いて去っていく父。
部屋は真っ白な壁と天井、床。引き戸がひとつにそれ以外は何もない。
あるとすれば床一面に書かれた魔法陣のみ。
(……………………どうしよう…………)
部屋からでて現状を知りたいが出たらその後が怖い。
かといってこのままでは不安で死にそうだった。
(そういえばこれは何なんだ?)
着目したのは床の魔法陣。見たこともない文字で描かれ淡い光を放っていた。
(異世界ってくらいだし、魔法とかあるのかな?)
そこのところはちょっとそそられる。
「魔法なぁ、どうやって作ったんだろ?」
初めて発した声がこれだった。声の質は元とあまり変わってないようで残念さも感じつつも少し安堵。
作る、いつもそのを本読むたびに思っていた。発動条件や仕方はあってもその歴史や作り方などはあまり記された事はない。
「魔法どうやってつくってんのかなぁ、作ってみたいなぁ」
独り言、無意識に発していた。
『〈固有最上級スキル:魔法創造作成能力〉を獲得』
急に聞こえた機械質な声。
「え?何?俺なにした?」
しかしその後は聞こえない。完全無意識だったため聞き逃した。
(危険なこと、じゃないよな?)
嫌な汗が全身をめぐる。
知らない世界でただ一人。怖すぎる。
そんなところに………
バタンッ
「ただいまぁー」
ドアを吹き飛ばすほどの威力と共に現れるのは父。
しかも怒号に近い声で。
その音にびっくりする。恐怖と混ざりあっていたため心臓があり得ないほど速まっていた。
「……!?!?!?」
正直死ぬかと思った。
「さて、待たせたな。産まれたばかりだし固有能力を………………………」
と、その父は絶句していた。
こっちを見てそのまま固まっていた。
え?何?怖いんだけど
「もう、固有能力を得たのか!?」
驚きの声をあげる。
固有能力?なんのこと?
見てわかるものなのだろうか?
「まぁ流石だな、よしこれからこの国と魔法について知ってもらうぞ」
部屋から強引に連れ出され他の部屋、本の多い所で図書のような所だ。
「さぁ、私を継ぐ為に頑張りたまえ!」
強制的に始まる勉強。受験で勉強に入り浸っていたのにここまできて勉強となるとそれは恐怖の他でもない。
い、嫌だやりたくない。
そんな心情も虚しく、かといって鬼+閻魔みたいな父に歯向かうことも出来ず渋々やるしかなかった。
一分後の俺よ、無事であれ。
数分後に祈るのだった。
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