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第二章 世界と魔族と人間
#3 最初の仕事
しおりを挟む「お前を魔王とする!」
嫌です、とは言えず
「承知しました」
と、反論のはの文字も見せず肯定してしまったチキンな俺は今日、いや今からをもって魔王へと緊急昇格してしまったのだ。
これは非常によろしくない事態である。
アリーナが正式に助手として任命させるであろうし、攻めてくるであろう勇者の標的が俺へと変わってしまったのだ。あのニートの元魔王、父に代わって。
そんなくそみたいな父を見て、もう勇者側にどうにかして付こうと考えた。
こんなろくでもない奴がいる魔族たちより人間が勝った方がいい世界へとなるに決まっている。
どうしようか、本当に魔王側から寝返ってしまおうか。
そこで悩んでいる脳にまるで答えを思い出すかのようにスッと出てきた。
少し悲しくもあるが、このまま魔王として生きて最終的に勇者に殺られてしまおうか?
苦戦を装って倒されるように仕向ければこちらもわりかし安全かつ勇者と出会え、よくわからん生活から脱出できる!
これ程にない名案だと自分で自分を称える自画自賛に浸かった。
散々自分を飽きるまで褒め称えた俺はその後とても虚しくなるが名案であることは事実。早速そのための行動へと移る。
まずは勇者の現在の状態の確認である。
(さて、どうやって聞き出すか?)
何となく自分の中のプランは決まっているが魔王である自分がこんな事を謀っていると知られないように注意しなければならない。
つまり、出来るだけ隠密に行動することが鉄則。
恐らく人間との不意な接触は避けた方がいい。
動くなら自分一人の単独行動で最短で済まさなければならないのに加え、こちらの状況をいち早く理解してもらうのが一番の近道となる。
一人で悩んでいるととうとう訪れた。喧しいあの声と共に現れる優秀?な助手のアリーナ。
「どうもお疲れ様です。聞きましたよ。魔王へと昇格なさったのですね?これで今日から私は正規雇用ですね」
ここまではまだ、よかった。
「そう言えば魔王様、これから昇格を祝って講演ですよ?私が勝手にスケジュールぶち込んでおきました!」
早速やらかしてくれるアリーナ。
「え、これから?大勢の前で?しかも講演?」
「はい、そうですとも」
悪びれもなくニコニコと言うアリーナを正直ぶっ殺してやりたい。
しかし、魔王になってしまったからにはこのような事にも慣れておかなければならないだろう。これから何があるかはわからない。
「もう皆集まっていますよ?急ぎましょう」
アリーナの後を早足でついていく。半ば強引に連れていかれた所はとても大きな会場。
この建物はどんだけデケーんだ、と思わせる程に広い会場ではアリーナの言う通り多くの悪魔たちがわらわらと集まっていた。
(え?、俺があの群集の目の前に立つの?それで演説?殺されるちゃう?)
悪魔と言うだけあって見た目も様々だが見た印象がよくおとぎ話に出てくるような者が多い。
「……………」
恐怖の舞台へと上がらせられ、硬直する。まだ幕の裏にいるがこれが開けばその光景を目の当たりにするだろう。
台の上に置かれたマイク。背後には魔王を象徴する旗。ここら辺は人間と変わらない。
「そろそろ開きますよ」
こそこそと小さな声で俺に言うアリーナは群集からは見えない死角の所で待機していた。
「な、なに言えばいいんだ?」
ほぼパニック状態な俺はアリーナに助けを求めてしまった。
「……………そうですねぇ、だじゃれでも言えばいいんじゃないですかね?」
完全に助けを求めるやつを間違えた。
とうとう幕が開き始め自分の姿が群集の目にはいる。
ざわざわと静まりかえっていた会場が徐々にうるさくなる。
あっちこっちでは「あれが魔王様か」や「落ち着いた姿だな」「いや、しかし既に人間の数百はなぶり殺しにしているとか」などなどなど。
尾ひれに噂に色々つき放題だった。
耐えきれなくなった俺は「オッホン」と咳払い。
んなことしてねーよ
と、思いながら本題へ。
「……………えー皆の集。よくぞ今日は集まってくれた。私がこの時をもって魔王となった。生まれて間もないがよろしく頼む。そしてひとつ、ある目標を聞いていただきたい」
その言葉に会場は再度静まりかえる。
「私は………人間との戦いに終止符を打ちたい」
あ、勝つとは言ってません。
そんな俺の企みは知らずに周りの群集で聞いていた悪魔たちはポカーンとした顔をしたのち、
「オオオオオオオオオオー」
と、会場がぶっ壊れそうな程の雄叫びと歓声が上がった。
「諸君、本日から尽力したまえ」
「殺ったるぜー」
「ぶっ○してやるぜぇ」
「ふぉぉぉアチャー」
「*▼△●¥○@○」
物騒な言葉の後に何言ってるのかわからない言葉?が聞こえたがやる気になってくれたのでスルー。
こうして無事にやり過ごした。
正直チョー怖かった。
ぐったりとした表情で会場から抜け、元の部屋まで帰ってきた。
そこに待っていたのはアリーナ。
「あ、お疲れ様ですー」
他人事の言葉が聞こえた。片手にはアイス。
「お前、何してたんだ?」
だいたいやっていたことなど察していたが念のため聞いてみた。
「アイス買ってました☆」
ウインクしながらアイスを舐める。
「俺にお前を殺す権利はあるよな?」
握る拳にはアリーナにしか見えないであろう炎が燃えていた。
こっちももう色々と怒りが限界だった。
「え、えー……と、ご、ごめんなさい」
涙目で謝る。フルフルと恐ろしげに震えていた。しかし
無理です。許しません
「嫌でーす」
「ギャーーっ」
怒りの拳を諸に喰らったアリーナの断末魔が響き渡った。
(魔王、大変だなぁ)
しみじみと感じた俺だった。
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