絶望ダンデリオン

小林ていじ

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第四章 最後の戦い

宣戦布告

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 暁明はセダンの助手席に座り、掌の中で一発の銃弾を転がしていた。天井の室内灯が青白い光でそれを照らして氷のように冷たい印象を与えている。ロシア軍が秘密裏に開発した特殊な銃弾であるという。

「銃弾の頭に二本の電極針が付いていて、着弾した瞬間に数十万ボルトの電気ショックが流れるようになっています。無線のテーザー銃のようなものです」

 運転席に座る浩宇が説明した。暁明は銃弾を拳銃の弾倉に込める。

「死ぬのか?」
「致命傷には至りません。ですが、全身の筋肉が麻痺してしばらく動けなくなります」
「問題はこれが特殊治安部隊の連中に効くかどうかだな」
「そうですね」

 浩宇はアクセルを踏んでクルマを発進させた。行き先は特に決めていなかったが、すぐに新加美町の繁華な通りに出た。

 通りの街路樹とその上空にはイルミネーションが施されており、夜空の星をすべて集めて地上に散りばめたかのような煌びやかな景観を作り出している。

「……いないな」

 暁明は歩道を行き交う通行人に目をやって言った。

「すでに有島のほとんどすべてのマフィアが壊滅に追いやられてしまったので、警備の特殊治安部隊の数は以前よりだいぶ少なくなっています。まあ、それでもボスのことだけは執拗に追い続けているようですがね」

 暁明はふんッと鼻を鳴らす。

 やがて少し離れたところにひとりの特殊治安部隊の隊員の姿を見つけた。

「いたぞ。止めろ」

 彼はクルマを下りた。

「この少し先でクルマを止めて待っていてくれ」

 クルマから離れて隊員に後ろから近づいていった。人混みの向こう側でパワードスーツの黒い装甲が微かに揺れている。

 すぐ背後まで迫ったところでアラブ服の内側から拳銃を取り出し、その銃口を隊員の背中に向けた。銃弾さえ弾き返してしまうような強固な装甲でも電気は通すはずである。絶縁加工がされていなければの話だが……。

 引き金を引いた。冷たい空気の中に銃声が鳴り響いた。次の瞬間に聞こえたのは隊員の悲鳴だった。彼は地面に前のめりに倒れ、体を丸めて動かなくなる。

 暁明は拳銃をアラブ服に内側にしまい、人混みを掻き分けて足早にその場を離れた。後ろから聞こえてくる人々のどよめき。彼の口元には小さく笑みが浮かんでいた。

 路肩に止められていた浩宇のクルマに素早く乗り込んだ。

「どうでした?」

 浩宇はアクセルを踏んでクルマを発進させてから訊いた。

「成功だ。悲鳴を上げて倒れたよ」
「それはよかった」
「洋平と沙耶の二人を無事に上海に送り届けたら本格的に戦闘開始だ」

 車窓を新加美町の煌きが流星のように流れていく。その光の数が徐々に減っていく。しばらくして浩宇が口を開いた。

「……ところで、ひとついいですか」
「なんだ?」
「どうしてボスはあの二人のためにそこまでするんですか?」
「さあ、なんでだろうな。俺もよくわからん」
「え?」
「ただ、洋平のことは嫌いじゃないんだ。弱っちいくせして必死になって仲間を守ろうとするあのバカみたいなツラとかな」
「……なるほど」
「悪いか?」
「いえ、しかし、彼の友達の健吾という男はもう……」
「言うな」
「すみません……」

 再び車内を沈黙が支配する。しばらくして今度は暁明がそれを破った。

「どこに向かっている?」
「決めてません」
「それなら九龍坂のデパートへ向かってくれ」

 浩宇はハンドルを切って九龍坂に向かって走った。緩やかな坂を上がっていくと、その頂上付近に八階建てのデパートが建っている。スロープで屋上駐車場に上がってクルマを止めた。

「なにか買い物でも?」
「いや、ここから見えるんだ」
「なにがです?」

 暁明はその質問に答えず、クルマを降りてから後部座席のドアを開ける。シートを持ち上げると、その下に拳銃や手榴弾などの武器がぎっしりと詰められていた。ロケットランチャーの筒型の発射機とロケット弾を取ってドアを閉めた。

 屋上のフェンス越しに夜景を眺めた。その光の絨毯は新加美町のあたりで輝きの密度を濃くしている。その先に広がる海は真っ黒な色で塗り潰されて夜空と同一化しているため、この有島が夜空に浮いているかのようにも見えた。

「ほら、あそこだ」

 暁明はそう言って夜景の中の一点を指差す。そこに四階建ての白い建物があった。

「あれは?」
「有島警察署だ」

 ロケット弾を発射機にセットしてフェンスをよじ登った。

「ボス、まさか……」
「ド派手に宣戦布告といこうじゃねえか」

 フェンスの上に上半身を出して発射機を肩に担いだ。そして有島警察署にしっかりと狙いを定めてから引き金を引いた。
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