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第四章 最後の戦い
悪魔降臨
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暗闇の中に絶え間なく響き続ける銃声に洋平の鼓膜はジンジンと痺れていた。銃声と同時に放たれる閃光で暁明の後ろ姿の輪郭が瞬間的に何度も縁取られる。洋平は手に拳銃を握り締めてはいるが、暁明の陰に隠れて震えているだけだった。
ライブハウスである有島ホールの窓ガラスをぶち破って内部に潜入していた。一時的にここに避難して特殊治安部隊の追撃から逃れようと思ったのである。が、すぐに見つかってしまい、二人は袋の鼠にされていた。
ホールに面して緩やかな曲線を描く通路で激しい銃撃戦が繰り広げられた。暁明は壁から突き出した柱の陰に身を隠しながら特殊治安部隊の銃撃に応戦していた。
ふいに台風の目に入ったかのような静寂が訪れた。暁明はその隙に拳銃を素早くリロードした。
「洋平、後ろを見といてくれ。裏から回り込んでくるかもしれん」
「あ、ああ、わかった」
洋平は暁明と背中を合わせて震える手で拳銃を構える。
通路の左側の壁にはホールに通じる扉があり、右側の壁にはこの有島ホールで公演予定のミュージシャンのポスターが貼られている。壁の下のほうに設置された通路灯がその空間を仄かに照らしていた。
――来るな、来るな、来ないでくれ……。
心の中でそう念じながら通路の先の暗闇をじっと睨みつけた。背中に感じる暁明の体温が少しだけ心強かった。
カラン、カラン……。
金属のようなものが床を転がる音が響いた。次の瞬間、鼓膜が破れそうになるほどの凄まじい轟音が響いた。二人いっしょに爆風で吹き飛ばされ、床の上をゴロゴロと転がった。
暁明はすぐに体勢を立て直し、通路灯の光を滲ませた煙に向かって駆けた。数発の銃声が響き、暁明と二人の特殊治安部隊の姿が閃光に照らされる。
そして再びの静寂。
いったいどちらが撃たれたのか……。煙に阻まれて状況が見えなかった。
「おい、洋平」
しばらくして煙の向こう側から暁明の声が聞こえた。洋平はふうっと安堵のため息を漏らし、煙のほうへとゆっくり歩いていった。壁にボッカリと大きな穴が開き、その周辺に破片が散らばっていた。
「こっちだ」
暁明がその穴の暗闇から手招きする。
洋平もそこに足を踏み入れた。暗闇に目が慣れてくると、段差になって並ぶ座席がぼんやりと見えてくる。いちばん下の段にフェンスが設けられ、その向こう側にホールが広がっている。その両側の壁にギリシャ様式の柱が一本ずつ填め込まれ、そのいちばん上の部分に有島のシンボルである翼を広げたアリー像が御神体のように取り付けられていた。
暁明は段差を少し下りたところで拳銃を穴に向けて構えた。
「俺はあの穴を見張る。洋平はそれ以外を頼む」
それ以外と言われてもかなり範囲は広いが……。とりあえず座席を飛び越えていちばん下の段まで下りた。フェンスの下に広がるホールの先にステージがぼんやりと見える。それをじっと見つめていると、恐怖を押しのけて込み上げてくる感情があった。
「洋平。なにを見ている?」
「あのさ、こんなときにこんな話をするのもなんだけど……」
「なんだ?」
「俺、あのステージでライブするのがずっと夢だったんだ。健吾と沙耶と三人で……。あとほんのもう少しで叶いそうだったのにな」
洋平はフェンスの向こう側に手を伸ばして暗闇をぎゅっと掴んだ。暁明からはなにも返事がなかった。
「……ごめん。こんなことを話してる場合じゃなかった」
気を取り直して拳銃を構え、ホール全体を見渡した。
しばらくして背後から足音が聞こえた。
振り向いた。
穴の入り口にひとりの特殊治安部隊のシルエットがあった。しかし、様子がおかしい。まるで病人のように体を左右にふらつかせている。次の瞬間、首からブシュッと血を噴き出し、前のめりに座席の上に倒れた。
その後ろからまら別のシルエットが現れた。スカートを履いた女である。
「うふふふ。暁明ちゃん、お久しぶりね。私のこと覚えてる?」
そう言いながら穴から入ってくる。手には刃渡りの長いナイフが握られていた。
「誰だ……?」
洋平は女に拳銃を向けていた。しかし、いくらナイフを所持しているとはいえ、特殊治安部隊でもない女を撃つことなどできなかった。
「洋平、逃げろ!」
暁明はそう叫んで彼のところに駆けてくる。そして洋平の体を掴んでフェンスの向こう側に投げ飛ばした。
暗闇の中を落下していき、硬い床に背中を強打した。
「いた……」
背中をさすりながら体を起こそうとしたとき、頭上で機関銃を連射するような音が響いた。
ライブハウスである有島ホールの窓ガラスをぶち破って内部に潜入していた。一時的にここに避難して特殊治安部隊の追撃から逃れようと思ったのである。が、すぐに見つかってしまい、二人は袋の鼠にされていた。
ホールに面して緩やかな曲線を描く通路で激しい銃撃戦が繰り広げられた。暁明は壁から突き出した柱の陰に身を隠しながら特殊治安部隊の銃撃に応戦していた。
ふいに台風の目に入ったかのような静寂が訪れた。暁明はその隙に拳銃を素早くリロードした。
「洋平、後ろを見といてくれ。裏から回り込んでくるかもしれん」
「あ、ああ、わかった」
洋平は暁明と背中を合わせて震える手で拳銃を構える。
通路の左側の壁にはホールに通じる扉があり、右側の壁にはこの有島ホールで公演予定のミュージシャンのポスターが貼られている。壁の下のほうに設置された通路灯がその空間を仄かに照らしていた。
――来るな、来るな、来ないでくれ……。
心の中でそう念じながら通路の先の暗闇をじっと睨みつけた。背中に感じる暁明の体温が少しだけ心強かった。
カラン、カラン……。
金属のようなものが床を転がる音が響いた。次の瞬間、鼓膜が破れそうになるほどの凄まじい轟音が響いた。二人いっしょに爆風で吹き飛ばされ、床の上をゴロゴロと転がった。
暁明はすぐに体勢を立て直し、通路灯の光を滲ませた煙に向かって駆けた。数発の銃声が響き、暁明と二人の特殊治安部隊の姿が閃光に照らされる。
そして再びの静寂。
いったいどちらが撃たれたのか……。煙に阻まれて状況が見えなかった。
「おい、洋平」
しばらくして煙の向こう側から暁明の声が聞こえた。洋平はふうっと安堵のため息を漏らし、煙のほうへとゆっくり歩いていった。壁にボッカリと大きな穴が開き、その周辺に破片が散らばっていた。
「こっちだ」
暁明がその穴の暗闇から手招きする。
洋平もそこに足を踏み入れた。暗闇に目が慣れてくると、段差になって並ぶ座席がぼんやりと見えてくる。いちばん下の段にフェンスが設けられ、その向こう側にホールが広がっている。その両側の壁にギリシャ様式の柱が一本ずつ填め込まれ、そのいちばん上の部分に有島のシンボルである翼を広げたアリー像が御神体のように取り付けられていた。
暁明は段差を少し下りたところで拳銃を穴に向けて構えた。
「俺はあの穴を見張る。洋平はそれ以外を頼む」
それ以外と言われてもかなり範囲は広いが……。とりあえず座席を飛び越えていちばん下の段まで下りた。フェンスの下に広がるホールの先にステージがぼんやりと見える。それをじっと見つめていると、恐怖を押しのけて込み上げてくる感情があった。
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「あのさ、こんなときにこんな話をするのもなんだけど……」
「なんだ?」
「俺、あのステージでライブするのがずっと夢だったんだ。健吾と沙耶と三人で……。あとほんのもう少しで叶いそうだったのにな」
洋平はフェンスの向こう側に手を伸ばして暗闇をぎゅっと掴んだ。暁明からはなにも返事がなかった。
「……ごめん。こんなことを話してる場合じゃなかった」
気を取り直して拳銃を構え、ホール全体を見渡した。
しばらくして背後から足音が聞こえた。
振り向いた。
穴の入り口にひとりの特殊治安部隊のシルエットがあった。しかし、様子がおかしい。まるで病人のように体を左右にふらつかせている。次の瞬間、首からブシュッと血を噴き出し、前のめりに座席の上に倒れた。
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