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第五章
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ホールにもマイキューが流れ込んできていた。宮殿の正面玄関が、マイキューの圧力で壊されているのだ。ほとんど雪崩のように見える。
そしてそのホールには、敵が待っていた。
大好きだった。
尊敬していた。
ぼくを助けてくれた。
ぼくにもできることがあることを、教えてくれた。
きっと味方になってくれる人だと信じていた。
——ケイ先生。
先生は武装していた。いいや、普通の鎧みたいな装備じゃない。まるでロボットの部品のようなものを全身にまとっていた。背中から生えているいくつもの腕も、前回のときより太くて強そうだ。
先生はここで戦うつもりだ。
ぼくはロッドを伸ばした。
「アザリアは下がっていて。ここは僕とジャングーとで戦う。この前のお返しだ」
「カイキさま。無理をなさらずに」
「ジャングーこそね。いざとなったら、プリンセスをまもるんだ」
「承知です」
先生のロボットアームがぼくらを狙う。ぼくはロッドを振りかざして——一歩ひいた。
マイキューの山に手をつっこみ、小さなパーツを握りしめる。もう片方の手では、バックパックのロゴスブロックを使って、小さな飛行機を作っていた。
「飛べ!」
マイキューの山から、飛行機が次々と生まれる。お父さんが作ったものと同じだ。ただ、数は今度のほうが多い。なにせ、マイキューは山程あるのだ。
作り上げた飛行機の数、128機。
128機をいっせいに先生へと突撃させた。関節を狙うみたいな細かなことは考えない。128機で全身を突く。
先生のロボットアームが目まぐるしく動き、飛行機を片っ端から落としていく。一機だけでいいんだ、最後の一機だけでも——抜けた! 落としそこなった一機が、先生の心臓を突く。金属の部品が飛ぶ。飛行機が落ちる。同時に先生の姿勢が崩れる。
「ジャングー!」
すでにジャングーは先生のふところに入っていた。手刀を水平に、心臓を狙って突く。
先生は背後に飛ばされた。……と思いきや、ロボットアームを蜘蛛の足のように使い、壁への激突をやわらげる。そしてロボットアームのひとつを取り外し、剣のように構えた。
「カイキくん。やっぱりこれで勝負をつけようじゃないか」
ぼくもロッドを構えるが、さまにならない。武器として持ってきてはいるけれど、何の訓練もしていないし、ユイナみたいに剣道の経験もない。
だけど、ぼくはにげない。
ぼくには想像力がある。イメージしろ、それを形にしろ。マイキューが力になってくれる。
ロゴスブロックで車輪を作り、マイキューを集めて自走式ローラースケートにして、足に装着する。ロッドはマイキューの山に突っ込んでグリグリと動かした。ロッドの先端にマイキューが取り付く。ハンマーのできあがりだ。
ローラースケートで地面をける。ハンマーロッドをおおきくふりかぶる。
「先生ィィィィィィィィィッ!」
ジャングーがぼくの前に出て、先陣を切ってくれる。ジャンプしてその背中を踏台にし、大きく跳んだ。先生の意識はジャングーに行っている。
上から全力でハンマーを振り下ろした。
ガキィンッ!
脳天を捉えたと思った。
しかし捕らえられたのはぼくのほうだった。10本ちかいロボットアームが、ぼくを空中にとどめていた。残りのロボットアームはジャングーの動きをとめている。
「動かないほうがいい。この剣は本当に君を切り裂くことができる。そこのロボットくんも、下手な動きはするな」
次の手を考える。ロッドをマイキューの山に放り込むか? そんなことしたらすぐに見つかるだろう。ローラースケートを飛ばす? 違う、そんなことをしている場合じゃない。そもそもの目的は先生を倒すことなんかじゃない。王様と女王様を見つけることだ。この隙にプリンセスだけでも逃がせばいい。
「ジャングー、プリンセスを連れて逃げるんだ!」
ジャングーを捕らえているロボットアームに向けて、ロッドを投げようとした。
「その必要はありません」
プリンセスの声が響く。
全員の意識がプリンセスに集まる。彼女は男の子を連れていた。背後からゆっくりと、お父さんとユイナが近づいてくる。
「パパ」
男の子は言った。ぼくらを拘束していたケイ先生の力がゆるむ。ぼくはロボットアームを蹴って、床に着地した。
男の子がケイ先生に駆け寄り、先生は男の子を抱きしめた。
「エド・アウミーノ教授。話は息子さんから聞きました。ご家族を人質にとられていたのですね」
ケイ先生の動きが止まる。男の子を抱きしめたまま、何かを考えている。苦しそうな顔をしている。これまでのケイ先生からは想像ができない。
やがて先生は大きく息を吐いて、立ち上がり、歩いてきた。
ケイ先生はプリンセスに向かい、片膝をついた。
「王女殿下には、謝罪する言葉もございません。何なりと処罰をお申し付けください」
「問います。あなたは首相と王室、どちらにつきますか?」
「現在の首相は理性の道を外しています。これまで、大学では、王室から多大な支援を頂いていました。そのご恩は忘れていません」
「ならばともに参りましょう」
「御意」
ガシャガシャという音をたてて、入口に積まれているマイキューの山が崩れた。ヒガンが立っていた。
「時間がかかっちまったけど、ドラゴン二匹、退治できたぜ」
プリンセスがうなずく。ぼくらもうなずく。最後の部屋へ向かう時だ。
ぼくとヒガンとユイナがいる。
プリンセス・アザリアとジャングーがいる。
お父さんがいる。
ケイ先生がいる。
役者は揃った。最後のひとりは、謁見の間を奪い取って、分不相応の場所にいる。
さあ、扉の先へ行こう。
そしてそのホールには、敵が待っていた。
大好きだった。
尊敬していた。
ぼくを助けてくれた。
ぼくにもできることがあることを、教えてくれた。
きっと味方になってくれる人だと信じていた。
——ケイ先生。
先生は武装していた。いいや、普通の鎧みたいな装備じゃない。まるでロボットの部品のようなものを全身にまとっていた。背中から生えているいくつもの腕も、前回のときより太くて強そうだ。
先生はここで戦うつもりだ。
ぼくはロッドを伸ばした。
「アザリアは下がっていて。ここは僕とジャングーとで戦う。この前のお返しだ」
「カイキさま。無理をなさらずに」
「ジャングーこそね。いざとなったら、プリンセスをまもるんだ」
「承知です」
先生のロボットアームがぼくらを狙う。ぼくはロッドを振りかざして——一歩ひいた。
マイキューの山に手をつっこみ、小さなパーツを握りしめる。もう片方の手では、バックパックのロゴスブロックを使って、小さな飛行機を作っていた。
「飛べ!」
マイキューの山から、飛行機が次々と生まれる。お父さんが作ったものと同じだ。ただ、数は今度のほうが多い。なにせ、マイキューは山程あるのだ。
作り上げた飛行機の数、128機。
128機をいっせいに先生へと突撃させた。関節を狙うみたいな細かなことは考えない。128機で全身を突く。
先生のロボットアームが目まぐるしく動き、飛行機を片っ端から落としていく。一機だけでいいんだ、最後の一機だけでも——抜けた! 落としそこなった一機が、先生の心臓を突く。金属の部品が飛ぶ。飛行機が落ちる。同時に先生の姿勢が崩れる。
「ジャングー!」
すでにジャングーは先生のふところに入っていた。手刀を水平に、心臓を狙って突く。
先生は背後に飛ばされた。……と思いきや、ロボットアームを蜘蛛の足のように使い、壁への激突をやわらげる。そしてロボットアームのひとつを取り外し、剣のように構えた。
「カイキくん。やっぱりこれで勝負をつけようじゃないか」
ぼくもロッドを構えるが、さまにならない。武器として持ってきてはいるけれど、何の訓練もしていないし、ユイナみたいに剣道の経験もない。
だけど、ぼくはにげない。
ぼくには想像力がある。イメージしろ、それを形にしろ。マイキューが力になってくれる。
ロゴスブロックで車輪を作り、マイキューを集めて自走式ローラースケートにして、足に装着する。ロッドはマイキューの山に突っ込んでグリグリと動かした。ロッドの先端にマイキューが取り付く。ハンマーのできあがりだ。
ローラースケートで地面をける。ハンマーロッドをおおきくふりかぶる。
「先生ィィィィィィィィィッ!」
ジャングーがぼくの前に出て、先陣を切ってくれる。ジャンプしてその背中を踏台にし、大きく跳んだ。先生の意識はジャングーに行っている。
上から全力でハンマーを振り下ろした。
ガキィンッ!
脳天を捉えたと思った。
しかし捕らえられたのはぼくのほうだった。10本ちかいロボットアームが、ぼくを空中にとどめていた。残りのロボットアームはジャングーの動きをとめている。
「動かないほうがいい。この剣は本当に君を切り裂くことができる。そこのロボットくんも、下手な動きはするな」
次の手を考える。ロッドをマイキューの山に放り込むか? そんなことしたらすぐに見つかるだろう。ローラースケートを飛ばす? 違う、そんなことをしている場合じゃない。そもそもの目的は先生を倒すことなんかじゃない。王様と女王様を見つけることだ。この隙にプリンセスだけでも逃がせばいい。
「ジャングー、プリンセスを連れて逃げるんだ!」
ジャングーを捕らえているロボットアームに向けて、ロッドを投げようとした。
「その必要はありません」
プリンセスの声が響く。
全員の意識がプリンセスに集まる。彼女は男の子を連れていた。背後からゆっくりと、お父さんとユイナが近づいてくる。
「パパ」
男の子は言った。ぼくらを拘束していたケイ先生の力がゆるむ。ぼくはロボットアームを蹴って、床に着地した。
男の子がケイ先生に駆け寄り、先生は男の子を抱きしめた。
「エド・アウミーノ教授。話は息子さんから聞きました。ご家族を人質にとられていたのですね」
ケイ先生の動きが止まる。男の子を抱きしめたまま、何かを考えている。苦しそうな顔をしている。これまでのケイ先生からは想像ができない。
やがて先生は大きく息を吐いて、立ち上がり、歩いてきた。
ケイ先生はプリンセスに向かい、片膝をついた。
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「ならばともに参りましょう」
「御意」
ガシャガシャという音をたてて、入口に積まれているマイキューの山が崩れた。ヒガンが立っていた。
「時間がかかっちまったけど、ドラゴン二匹、退治できたぜ」
プリンセスがうなずく。ぼくらもうなずく。最後の部屋へ向かう時だ。
ぼくとヒガンとユイナがいる。
プリンセス・アザリアとジャングーがいる。
お父さんがいる。
ケイ先生がいる。
役者は揃った。最後のひとりは、謁見の間を奪い取って、分不相応の場所にいる。
さあ、扉の先へ行こう。
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