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第五章
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しおりを挟む謁見の間の扉は重く、鍵はかかっていなかったものの、ゆっくりと左右に開いていった。
マイキューが、砂山が崩れるように部屋に流れ込んでいく。
扉から部屋の奥まで、赤色の絨毯が敷かれていた。その左右には、ダムソルジャーがずらりと並んでいる。奥には2つの玉座が並んでいたが、いまは左側の椅子しか使われていない。
そこに座っているのが、首相ザルダントだ。
「俺とユイナが左右を行く。カイキたちは中央突破しろ」
ヒガンが言った。
「ぼくは後方支援とするよ。マイキューの鳥をたくさん飛ばしてやろう」
お父さんが言った。
「私が先頭に立とう」
ケイ先生が言った。
「私はプリンセスを守ります。プリンセス、どうぞ肩に」
ジャングーが言った。
配置が決まる。僕はバックパックからロゴスブロックを出す。階段。そして橋。
「マイキューよ集まれ! 長く伸びる、橋となれ!」
ぼくたちは駆け出した。マイキューで作った階段をのぼり、中央を伸びていく橋の上を走る。地上ではヒガンとユイナがダムソルジャーと戦う。お父さんはマイキューの鳥を次々に飛ばし、ダムソルジャーへとダメージを与える。
前へ、前へ。
橋に取り付こうとするダムソルジャーは、先生がロボットアームで叩き落とす。
階段をのぼって背後から襲ってくるダムソルジャーは、ジャングーが殴り飛ばす。
「カイキ、上!」
ぼくはハンマーを構え、上からジャンプしてきたダムソルジャー目がけて振った。ハンマーは命中。ダムソルジャーは橋の下に落下した。
あとちょっと。あと数歩。
「飛んで!」
全員橋の端から玉座へジャンプ。ぼくはマイキューで長い槍を作り玉座の周りに何十本も打ちこんだ。即席の牢屋のできあがりだ。
首相はもう逃げられない。
「よく来ましたね」
ザルダントが冷めた目で言った。ダムソルジャーたちの動きが一斉に止まった。
アザリアが一歩前に出る。
「ザルダント首相。お父様とお母様はどこに」
「逃げましたよ。逃したわけじゃない、まんまと逃げられました。我々も追跡に失敗しています」
「それでは」
「居場所はわかりません。むしろ、姫様のほうがご存知なのでは」
アザリアは首を振った。思い当たる場所はないようだ。
ザルダントが続ける。
「姫様は私を憎んでいるでしょうね。この国をめちゃくちゃにしたと思われているかもしれない」
「違うのですか」
「私はこの世界を愛しています。より良き世界にしたいと考えています。そして理性を信じています。あるべき姿を理性で考え、知性で統治する。そんな世界であってほしいと考えています。最初から今まで、そのことは変わっていません」
「ならどうして国王に逆らうような真似をしたのですか」
「境界遷移装置です」
「どういうこと?」
「別の世界のことを知ってしまいました。そこはシャンバラよりも混沌としているものの、権力で統治されているのではなく、自由意志によって国が作られていました。無論、うまくいっていない部分、いびつな部分はたくさんありましたが、それでも人々は生きようとしていました。王がいなくても、民衆は生きていける。そのことを私は知ってしまったのです」
「それが、カイキたちの世界ということですね」
「そういうことです」
「しかしあなたはやりすぎた」
「もはや、私の力では止められなかったのです。国王陛下を捕縛するのは、本意ではありませんでした。しかし若者たちは国王陛下を敵と認識してしまいました」
「いまさら本意ではないと言っても、国はもとにもどりません!」
「私にはどちらの力もありませんよ。若者を止める力も、国を作り変える力も。もうどうにもならないのです」
「ちょっといいですかね」
お父さんが割り込んだ。みんなの目がお父さんに集まった。
「ザルダントさんは、僕達の世界を誤解しているようだ。たまたまトンネルをつなげたのが、しばらく戦争をしていない国だったというだけです。他の国行けばしょっちゅう争い事をしていたり、暴力や権力が支配していたりする国もあります。それでもみんな生きているというのはその通りですが、生きる意欲すらない人も、どの国にもいます。がんばっている人もいればがんばっていない人もいる。がんばっても幸せになれない人も、たいしてがんばってないのに幸せになっている人も。——これは僕の考えですが、平等なんか、どの世界、どの宇宙を探してもきっと存在しないんです」
「このシャンバラにも」
「僕らの地球にも。……だけど、僕らには希望があります」
「希望?」
「この子どもたちです。彼らは僕やアザリアさんを助けようとした。そういう勇気がある。だから僕はこの子どもたちに希望を感じ、この子どもたちも同じように希望を持てるような世界をバトンタッチしたいという気持ちになれます」
「シャンバラは……」
「アザリアさんは希望になりうると思いませんか?」
「お父さま……?」
突然名前を出されて、アザリアがうろたえているのがわかる。
「2つの世界のことを知ってしまったアザリアさんなら、違う視点でシャンバラのことを見れるでしょう」
「託せ……と?」
「託しましょう」
ふたりの言葉を聞いて、プリンセスが腹を決めたようだ。
「ザルダント首相、私に力を貸してください。民衆を納得させるためには、あなたと私が協力する必要があります」
「……姫様、ご配慮ありがとうございます。しかし私には、姫様が持つものが欠けているようです」
「え?」
「それは、勇気です。自らの罪を認める、勇気がありません」
ザルダントが玉座の肘おきを操作した。その瞬間、玉座は床の中に吸い込まれていった。
「アザリア! これは!」
「知りません! こんな仕掛けがあるなんて、お父様からも聞いていません!」
「ジャングー、追跡できる?」
「不可能です。落下した穴の途中で、すべての信号を遮断する装置がつけられているようです」
こうして、ザルダント首相は、姿を消した。
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