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第五章
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しおりを挟むプリンセス・アザリアの後見人としては、エド・アウミーノ教授がつくことになった。アザリアはこれから政治家、文化人、学生、民衆、何人もの人と話をする仕事が待っている。
お父さんはアザリアに言った。
「なんとかなるし、なんとかするもんですよ」
「なんとかしてみます。そういう頑張りも案外楽しいかもしれませんから」
「それでいいんです。人生は楽しくなくちゃ」
境界遷移装置の扱いについて議論はあったが、プリンセスが厳重に管理するということで、少なくともこれまで通りに運用することになった。
シャンバラとぼくらの世界との座標設定をしていたジャングーに話しかける。
「アザリア、大丈夫かなあ」
「ご安心を。私がついています」
「ジャングー、言うようになったな」
ヒガンがからかうと、ユイナも続けた。
「せっかく4人チームになったと思ったのに、残念ね」
「3人でできることをしようよ」
「なんだ? 君らはまだ何か企んでいるのか?」
お父さんがぼくらの会話を聞きつけた。
「な、なにもしないよ。今後からは3人で遊ぼうって話していただけ」
ヒガンとユイナもブンブンと首を縦に振った。
「座標固定。準備できました」
ジャングーの声に、境界遷移装置の上にみんなが並んだ。
プリンセスとケイ先生が部屋に入ってきた。
「お別れね」
「みんなの成長を楽しみにしているよってのは、先生っぽすぎるかな」
「先生は、確かに僕の先生だったよ」
「じゃあね、アザリア。あなたとは友達になれそうだったのに、残念」
「もう友達よ。みんな友達。みんな仲間」
いくらでも話すことはあったけれど、そろそろ終わりにしなくちゃ。
「ジャングー、やって」
「さようなら、カイキどの」
ぼくらの足元にうずまきができる。やがて吸い込まれるようにうずの中に落ちていった。
……。
何度目の境界遷移になるだろう。この感覚にようやく慣れたと思ったら、これが最後とはね。
着地したのは、夜明けの市民公園だった。興奮して気づかなかったけれど、こっちの世界の時計でいえば、徹夜したことになるんだな。眠いや。
「お母さんに怒られるかもね」
「まあ、お父さんがついていたっていえばいいよ。なんとかなる」
「ぼくはそのお父さんを助けにいったんだけどね」
「ははっ、そうだった」
ぼくらは「じゃあね」と言ってそれぞれの家に帰っていった。案の定お母さんが怖い顔をしていたけれど、お父さんがうまくいってなだめてくれた。ぼくは、お母さんの目が真っ赤になっているのを見逃さなかったけど。
そして一週間がたった。何か新しいことをしていたわけでもないのに、あっという間の一週間だった。
学校というのは、時間割があって、そのスケジュールの通りに日々が過ぎていく。息苦しいといえばそうなんだけど、頭を現実に戻すには都合がいい。
ユイナとの挨拶が、帰るときにも増えたこと以外、以前と変わりない生活を送っていた。
3分遅れて教室に入ってきた先生が言った。
「それでは、転校生を紹介します。入って」
「はーい、出戻りプリンセスのアザリアでーす。もう少し勉強してきてもよいことになって、戻ってきました。仲良くしてくださいね」
教室がざわつく。ユイナが「えーっ?」と声をあげる。
「また、カイキのところで暮らすから、よろしくね?」
「ええっ、聞いてないよ」
「ちょっと、カイキどういうことよ」
ユイナに質問攻めにあう。その剣幕につられたのか、他のクラスメイトからも、質問攻めにあった。
質問攻めは何日も続き、そうこうしているうちに、朝の挨拶をする友達がひとり、ふたりと増えていったけれど、それはまた違うお話にしよう。
家に帰ったら、お父さんとお母さんがニヤニヤしていた。そしてエプロンをつけたジャングーも。
これだけお膳立てされていたら、言うことはひとつじゃないか。
おかえり、アザリア。そして、ジャングー。
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