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第49話○決着!!

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 『トリックオアトリート』?
 いや……
 絶対にそんな可愛らしい言葉ではない。

 お菓子あげないとイタズラしちゃうぞのイタズラが立派な犯罪レベルというのは……

 むしろ俺にとっては『デッド』or『アライブ』といった感じがする。

 生か死か……
 肉体的な生を選べば精神的死が……
 肉体的死を選べば精神的な生が……
 待っているのか?

 ん?
 なんか救助が決してくるはずがない山奥での延命処置のような気持ちがするのだが……
 
 とりあえず

 ヤツは『イエス』or『ノー』以外の答えは許さないつもりだろう。

 ん?ちょっと待てよ……
 『イエス』or『ノー』だと?
 あれっ……?

 『ノー』なんて選択があるのか?
 と口走った瞬間、下から一気に上まで貫通するようなドリル攻撃を受ける予感しかしないのだが……

 今の俺には目の前の対象が、どうみても『イエス』以外の答えを許すほど器量があるとは思えない。

 ヤバイ……
 一言も下手なことを喋れないと言うことなのか?

 そう考えた俺は誰に言われたわけでもないのだが、咄嗟に自分の両手で自らの唇を塞いでしまった。
 まるで『最後の穴だけは絶対に俺の手で死守します』と言うように……

 でも本当に攻撃を受けた際は、そちらの方は貫通する方の穴だから塞いでも意味はないんですけどね。

 もちろん、その行動は彼女の目の前で行っていることだけに彼女の方でも気づく。

 そして気づいた彼女は……
 
「それとも…もしかして信ちゃんって爆発したいのぉ~?いつもみたいにフゴフゴ言いながらぁ~」

 何て言う言葉をぶちこんできたのだが……

 それも
 笑いながら自らの首を上下に振り……
 なんだぁ?
 その動作はぁ~。
 こう!こう!なんて言ってもなぁ……
 面白おかしく俺を表現しているつもりなのだろうが、全くもって不快でしかないぞ!

 今の俺の表情や行動をどう見たら、どうしてそんな理解になると言うのだろうか。

 いや、ヤツのことだ。
 俺の気持ちなどはとっくに気づいていて、更には自分の中で次なる算段もついていると言うことだろうか?

 彼女が一体、どんな理由で爆発なんて言葉を使ってきたのかはわからないが、もちろん俺の方で爆発なんてことを望むわけがない。

 だって考えてみてもくださいよ。
 ここで爆発なんてしちゃったら俺は何をぶちまけると言うんですか?

 そしたら貴方、目の前の生物はその時の光景を月曜日に会社でところ構わず何てことは確実だといえるでしょう。
 それでなくてもヤツのスマホには俺の知らない感じで彼女のウェーイ!!な感じの様子が写っているんですから、それ見せられたら誰だって彼女の言葉を信じちゃうと思うんですよね。

 それに仮に爆発したとしてですよ。
 その爆発で俺が何かできるとでも言うんですか?
 もしも自分の起こした爆発で月の彼方まで飛ぶことができ、そのまま目の前の歩く不道徳から逃げ出せるというのであれば、それは喜んで爆発しますけどね。

 でも、そんなのってアニメや漫画の世界でしかあり得ないですよ!
 それも、後に全くふれられなくなるようなスルー前提のお約束ネタくらいのものです。

 なので俺は全力で首を左右に振り彼女の言葉を否定する。

 さすがに議論を挟まないぞと言う雰囲気を全身から溢れ出させて首を前後に振るのだが…
 そんな俺を見て彼女は

 あっ……
 ヤバかった?
 今、彼女が一瞬、俺を睨んだ。
 えっ?
 なんかしてくるの??

 一瞬、自らの人生を振り返らなくてはいけないのかと思ったのだが……

 良かった……
 何もない。

 そしてまだ耐えられた。

 アイムハッピー!!
 
 ん?
 何故こんなことで幸せを感じなくてはいけないのだ?

 いやいやいや。
 俺の幸せは彼女の討伐が成功して初めて訪れるものである。
 目的を見あやまってはいけない。
 
 今まで自分が言葉を発すると、彼女によって妨害を受けていた俺は、彼女から今回何もせずに自分の意思を伝えることができたことに胸を撫で下ろした。

 だが、そんな一息つけたのも僅か一瞬にすぎないと考えを修正させる。
 
 何故なら今はモンスターとの戦闘中だからだ。

「じゃー、敗けを認めてよ」

 腹を空かせた肉食動物を思わせるほどの鋭い眼光を見せつつ、彼女は俺に詰め寄ってきた。
 分かっていたことではあるが一切、引く気はないのだろう。
 彼女の喋り終わりに目線があってしまった俺は、恐怖と戦慄と言うものをこの時の彼女の視線から植え付けられてしまう。

 恐らく次の俺の言葉は『イエス』以外には許されるものはないはずだ。
 それも素早く……

 カチ……
 カチカチ……
 カチカチカチ……

 いつの間にやら頭の中では何か得たいの知れないものが不気味な音を告げている。

 これはリミットなのかもしれない。
 そう思った俺は脳が感じるよりも早く、彼女に対して無意識のうちに何度も縦に自分の首を振っていた。

 その瞬間、自分と周囲がスローとなり、俺は力が抜けその場に倒れ込んでしまう。
 
 『ユールーズ!』

 そして、なぜか中学校の頃さんざん熱中した格闘ゲームで負けたときに流れるあの言葉が俺の頭の中を何度も往復していた。

 あのー…
 質問なんですけど~

 ゲームって普通は難易度設定ってついてないでかねぇ?

 彼女の場合どこにそれがあったんですか?

 『professional』の文字しか見えなかったんですよ。
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