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08・候補者2人脱落

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「王子、カンカンだったよ。」
「……、そっかぁ…。」
マロンとマリンの寮は同室だ。
王子の婚約者候補で父親が宰相と言う事で、かなり良い部屋が割り当てられているが、寮内には侍女などはおけず身支度は自分でしなければならない。
ただし、寮には食堂があるので、食事はそこで取ったり、部屋に持ち帰ったりして食べる事が出来る。
2人は制服姿のまま、並んで置かれているベッドにゴロンと仰向けに寝転んでいた。
「あのさぁ…、わたし、今日ずっと考えてたんだけどさぁ…。」
「うん…。」
マロンが何を考えていたか、マリンには分かっている。
2人は離れていても、意思の疎通が出来るから。
互いに見た事、考えた事が、互いに流れ込んで来る。
生まれた時から持っていた、不思議な能力。

今までのマリンとマロンはずっと一緒に居た。
初等科のクラスは一緒で、王子に呼ばれる時も一緒。
だから、意識が流れて来る事は、口に出さないで会話が出来る程度に思っていた。
だが今日は、別々の事を学び、別々のクラスメイトと交流し、別々に過ごした。
その為、大量の情報が互いに流れて来て、少しだけ混乱していた。
「ミシーユちゃんと、ユラちゃんが、白魔導師の道選んだのってさ…。」
「…うん…。」
「王子の婚約者候補から抜けたいって意味も、あったんじゃないかなぁ…って。」
「………、うん…。」
「………。」
マリンとマロンは今まで何も考えずに生きて来た。
だから疑問に思わなかったが、今のマリン達ならば分かる。
まともに知識を持った者であれば、グロッシュラーの王族とは結婚したいとは思わないだろう。
グロッシュラーは世界5大王国のうちの1つ。
5大王国は、定期的に魔王への捧げものとして王女を献上している。
王族と結婚し娘を生んでしまったら、魔王への捧げものになってしまうかもしれないのだ…!
それは、王妃の娘だけに限らず、王弟などの娘達も候補とされてしまう。
候補者を増やす為に。
だから、王子が王にならなくとも、娘が生贄に選ばれてしまう可能性はある。
そして、もう1つ。
もしも戦争などが起きた場合、王子達は真っ先に戦火の中へと飛び込まねばならない。
その妻や婚約者も同様にだ。
グロッシュラーの戦争は女性も男性と同様に参加しなくてはならない。
騎士はほぼ男性で構成されているが、魔力は女性の方が高い傾向がある為、黒魔導師の男女比は男6女4と女性の率も高い。
グロッシュラーの王族と結婚する事は、ステイタスや裕福さを得られる以上のメリットがほぼないのだ。
だが、候補者は王命などで選出されてしまう為、拒否も出来ない。

だから、ミシーユとユラは、王子の方から候補者から外すと言う方向に持って行かせた。

いや、純粋に白魔導師になりたかっただけだ…!
2人は確かに黒魔導師向きではなかった。
だから、そんな計算高い事をした訳ではない…!

「うううっ。」
2人の優しさは嘘ではない。
それは分かる。
だけど、邪推してしまうのは、それをズルイと思ってしまう心が生まれてしまったからだ。
マリン達も王子の婚約者候補でなくなれば、あの断罪劇は行われずに済むだろう。
「わたし達も、早く王子の婚約者候補から抜けたいねっ…。」
「うん…。」
「本当は高等科に進むのやめちゃえば、もっと早くに候補から抜けられたかもだけど…。」
「今の無知で子供のまま、国を出るのは厳しいだろうから……。」
しんみり・・
「断罪の日は多分、卒業記念パーティーの時…。
あの時の映像のわたし達は制服を着てなくてドレスを着てた。」
「背も伸びてたし、顔も大人っぽかったから、間違いないよ。」
「高等科は卒業しときたいから、断罪劇を回避したのちに、すぐに旅立つって方向で…!」
ガバリとベッドから起き上がり、ベッドの淵に座り合うと、互いの顔を近付けた。
「それまでにお金を貯めてっ!」
「ライちゃんにも会いに行きたい!」
「うんっうんっ。」
「魔法の腕も上げて、最悪冒険者としても生きて行けるようになっとこうっ!」
「そうだねっ、ガラス細工だけの売り上げじゃ、食べて行くの厳しそうだし。」
「とりあえずは、今まで通り、おバカなフリして過ごして様子見よう…。」
「そうしよう…。」
はぁー…
深いため息をハモらせながら、山積みの問題を思い返し頭を抱えるのだった。
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