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14・本物の悪役令嬢

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『こ、怖い…、フロアちゃんが、怖すぎる…。』
恐ろしいお茶会となってしまった…。
ギギギ…と首の位置を戻し、再び王子の方に視線をやるマリンとマロン。
「!」
なんと、メロウ王子は鼻の下を伸ばしているではないか…!
よく見てみると、ティアはかなりのナイスバディのようだ…。
制服を着ているので気付かなかったが、王子の腕に押し付けられた胸はかなりのボリュームなようで、ティアの胸の間にメロウ王子の腕が埋まっていた…!
『わ~、メロくん、色気づいてる~。』
『そんなお年頃か~~。
わたし達の中で、胸の大きい子って、いなかったもんねー。』
微妙な空気の中、ウェイトレスがトレイに飲み物を乗せて戻って来た。
そして1人1人に飲み物を置いて行き、去って行った。
「そう言えば、もうすぐ新入生歓迎パーティが開かれますね!」
メロウ王子の腕を取ったまま、ティアが王子に顔も寄せる。
「ああ。」
簡素に返しているが、メロウ王子の耳は赤い。
ティアの色気にかなりやられているようだ。
『あれ…、もしかして、このままほっとくだけで、わたし達、候補生から勝手に外れないかな…?』
フロアがメロウ王子の腕に絡みついていた時は少し邪険に扱っていたのに、ティアに対しては一切嫌悪を見せていない。
ティアの方がフロアよりもルックスもスタイルも上だからか…?
「私達はドレスで参加して良いそうですっ。
メロウ王子、楽しみにしていて下さいねっ!
とっておきのドレスで参加しますから!」
むんぎゅっ
「とっておきの、ドレス…。」
ティアの言葉を繰り返しながら、メロウ王子の視線は腕に押し付けられた物へと向けられる。
「ですから、当日は私のエスコートをして下さいよっ!」
「!!」
なんと!
堂々と宣戦布告をして来たではないか…!
ギラリと鋭い目を向けたのはフロアだけだったが、マリンとマロンはハラハラ。
シータは我関せず、美しい姿勢で紅茶のカップを口元に運んでいる。
「エスコート…。」
その言葉で我に返ったのか、メロウ王子は伺うようにマリンとマロンをチラリと見る。
ティアに絆されつつも、まだマリン達の事を気にしているようだ。
メロウ王子は、マリンとマロンのエルフの血の入った美貌と、魔力は高いが頭が弱い所を気に入っている。
自分よりも出しゃばったり余計な事を言ったり見下したりしないからだ。
そして、連れ歩くには最高のルックス。
このメンバーの中でプラチナブロンドなのも、王子以外にはマリンとマロンだけだ。
エルフの美貌はヒューマンにとても好まれる。
メロウ王子も例外ではないようだ。
メロウ王子の視線に気付いてティアの表情が変わった。
「お、王子、そろそろ王宮に向かうお時間かと。」
それを見た側近のルイスが、懐から懐中時計を取り出し、慌てて発言する。
「む…、もうそんな時間か…。」
そう言って静かに立ち上がったので、マリン達も一斉に立ち上がる。
「呼び出したのに、ゆっくり話せなくて悪かったな。
オレはコイツらと行くが、お前達はここでゆっくり茶を楽しむと良い。」
メロウ王子はマリンとマロンに優し気な眼差しを向けた後、出口の方へ向かって行く。
それに何故かティアも付いて行く。
『え?』
『どゆこと?』
マリンとマロンは頭の上に「?」を浮かべながらも何も言わなかった。
ティアの後ろに側近のルイスとロックも続く。
ドアの前に立っていたフロアはギッとティアを睨むが、ティアは「ふふん。」と得意気な顔をしてメロウ王子の後に続いて部屋を出て行こうとした。
が。
「きゃっ!」
ガクンッ
突然体勢を崩したティアは、小さな悲鳴を上げた。
それを後ろに居たルイスが咄嗟に支える。
「どうした。」
遅れてメロウ王子が振り返る。
近くに居たフロアが苦々しい顔をしてルイスを見ている。
何故、こんな女を支えたのだと言いたげだ。
まさか…?
「メロウ王子っ!」
ティアはバッとルイスの腕から飛び出してメロウ王子の胸に飛び込むと。
「彼女がっ、私に足を掛けて、転ばせて来たのですっ…!」
泣きながらフロアを指さした。
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