上 下
17 / 27

16・不穏な新入生歓迎パーティー

しおりを挟む

今日は新入生歓迎パーティー。

「えっと…、開始時間は…。
ああ、どうしようっ、間に合わないっ!」
「寝坊しちゃった…!」
ベッドから飛び起きたマリンとマロン。
その下には壊れた目覚まし時計が転がっている。
新入生歓迎パーティーは、生徒会主催で開かれ、新入生達は全クラス合同でホールに集まる。
貴族のパーティーのようなダンスなどは行われず、立食式で談笑メインの、親睦を深める為のパーティーだ。
ダンスはないが、入場時には婚約者や恋人にエスコートされて入場する事がステイタスとされる伝統が残っている。
そして噂では、成人している王子の誰かが訪れて祝辞を述べてくれるのだとか…?
「ほ、本当に制服で行っても大丈夫だったよねっ?」
「ほ、ほら、歓迎会のお手紙にもそう書いてあるし、大丈夫だよねっ?」
机の上に置いていた手紙をもう一度確認し、マリンは振り返りマロンを見る。
マロンはすでに制服を着始めている。
マリンも慌ててハンガーに手を伸ばし、制服を着た。

そろり・・そろり・・
『祝辞を述べて下さる王子って、もう来ちゃってるのかな…?』
『わ、わかんない…、あ、あそこ、受付かな…、マロン、行こうっ。』
ホールの入口には白いクロスの敷かれたテーブルの前に2人の男女が居た。
テーブルの上には名簿のような物が置いてある。
「ああ、君達新入生だよね?」
「何クラスが教えて貰えるかな?」
先に話しかけられ、マリンとマロンは慌てて駆け寄る。
「お、遅れてすみませんっ!」
「Sクラスのマロン・グラッセと白魔導科のマリン・グラッセですっ。」
「君達が…!」
「噂の通り…!」
受付の上級生と思われる制服を着た男女は、マリンとマロンを見て目を大きくする。
マリン達は第5王子の婚約者でエルフハーフの為、目立つのだろう。
グロッシュラーの国民は黒髪が多いので、金髪と言うだけでも目立つのだ。
「あ、あの…。」
「あ、ゴメンゴメン。
大丈夫だよ、もうパーティーは始まっているけれど、王子の祝辞はまだだから。」
名簿に出席のチェックを付けながら笑顔を向けてくれたので。
「ほっ、良かった。」
「では、失礼します。」
胸を撫で降ろした後、マリンとマロンは一礼しホールのドアを開けようとドアに近付く。
すると。
バアンッ!
「!!?」
ホール側からドアが勢いよく開き、マリンとマロンは驚いて一歩飛び退いた。
受付の上級生達も何事かと驚き固まっている。
そこからバイオレットのドレスを着たフロアが飛び出して来た。
「「え!?」」
『フロアちゃんっ!?』
フロアはマリン達には目もくれず、そのままロビーを走り去って出て行ってしまった。
「な、何事っ…?」
受付の上級生もオロオロしながら会場を覗き込むと、人だかりがパッカリと割れ、その先に誰かがいた。
「あっ…!」
『メロウ王子!』
『と、ティア…!』
黒のタキシードを着たメロウ王子と、胸元が大きく空いた真っ赤なドレスを着たティアが王子の腕に絡みついている。
マリン達が驚愕に固まったままでいると、大きな扉は静かに閉められた。
その扉を閉めたのはシータだった。
シータは扉の外に出て来た。
「え。」
「あ。」
呆然としながらシータに視線を向けるマリンとマロン。
シータはネイビーのシックで落ち着いたドレスを着ている。
いつもと雰囲気が違い、思わず息を呑む。
「まさか、制服で来るとは…。」
マリンとマロンの前で足を止めたシータの開口一番の台詞はそれだった。
「え、だって、手紙には。」
ちらり…と受付の上級生を見る。
上級生達は制服を着ているが…?
「伝統を知らない生徒はそうやって制服で着てしまう事もあるようですが…。
ここで婚活をする男女もたくさんいます。
ですから、私服参加OKの催し物での制服参加者は、趣旨を理解していない者と見られてしまいますよ。」
「婚活!」
「え、じゃあ、シータちゃん………?」
王子の婚約者候補なのに…?
「はぁ…、私が婚活する筈ないでしょう…。
王子の顔に泥を塗らない為に着て来ただけです。」
「あ…。」
「そう、だよね…。」
「……。」
シータの視線が厳しい…。
以前よりはまともになったと思ったが、まだまだマリンとマロンは抜けているようだ…。
「と、所で、フロアちゃん、どうしたのっ?」
やっと先程の事を思い出し、マリンはシータに顔を近付け尋ねる。
「……、あちらで話します。」
シータは目線を向けた後に歩き出したので、マリンとマロンもシータの後に続いた。
しおりを挟む

処理中です...