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26・意識の共有

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冬季休暇が明けて高等科に戻ったマリンとマロン。
マリンはあれからずっと考えていた。
皆本当に、グロッシュラー国民で魔導師である事に誇りと喜びを感じているのか、と。
周りを見回しても、ガツガツしてそうな生徒は一人もいない。
だが、それも当たり前…。
マリンは白魔導師、グロッシュラーでは少数派のクラスなのだから。
(そう言えば最近、マロンの見た記憶がほとんど流れて来なくなった…。
心の声も、かなり集中しないと聞こえない…。
テスト期間は終わったけど、まだ弱い結界でも張られてるのかな…?)
『マロン、聞こえる?』
マリンは心の声を意識して、マロンに飛ばしてみる。
『聞こえるよ、どうしたの?』
返事はすぐに返って来た。
『あ、良かった、最近声とかあまり聞こえなくなった気がしたから。
ちゃんと会話出来るか心配になっただけなの。』
『あ、確かに…!』
『別に今話したい訳じゃないから、後で寮に戻ったらゆっくり話そう~。
聞こえるか、確認したかっただけなんだ。』
『分かったよ~、また後で~。』
テレパシーでの会話はここまで。
この後はまた聞こえなくなった。

「わたしはチューブさんが言ってる事、分かる気がするよ~。」
ゴロンと寮のベッドに仰向けに転がり天井を眺める。
久し振りに寮に戻って来た気がする。
そして、マロンが驚くような事を…!
チューブの言ってる事が分かる…?
グロッシュラーの国民は魔導師である事に誇りと喜びを感じている…?
マリンは時間差あってから驚き、顔を起こしてマロンを見た。
そんなマリンを見てマロンは苦笑しながら口を開く。
「あのね、みんな魔法の授業とかもそうなんだけどさ。
なんて言うか…、ガツガツしてるって言うか…。
言われた魔法を打てなかったり、火力が足りなかったりするだけで、すっごく悔しそうにするんだよね。
それをわたしが簡単に出来ちゃったりすると、睨まれたりしてさぁ…。
なんか、みんな怖いんだよね。」
「・・・。」
なるほど…。
やはり、黒魔導師のSクラスともなれば皆、自分の魔力や知識にプライドがある。
だから、誰よりも出世したい、強い魔導師になりたいと望んでいると言う事か。
「やっぱりさ、わたし、向いてないよ…。」
「…マロン…。」
以前は弱気にならないよう気持ちを上向きに保とうと頑張っていたのに…?
「だって…、わたし、魔法の授業は簡単過ぎなのに出来ると周りに睨まれるし、でも学科は全然分からないし…。
だから、通う意味あるのかなぁ…って…。」
「・・・。」
確かに。

マロンは頭は…アレだが、魔力は誓の儀式でジョブ固定をしたせいか、格段にアップした。
だから、思いのままに魔法を繰り出す事が出来るようだ。
だが、それに比例するように頭は……、一時は今のマリンくらい考えられるようになったかと思ったが、また以前のように戻ってしまった…。

マリンの方は、マロンのような格段な魔力アップなどはなかった代わりのように、頭が弱くなる事もなかった。
2人の性格や特性が離れると共に、互いの意識共有も薄れて来たのではないだろうか。

「まだ初年度だけど、卒業までやってく自信ない…。
フロアちゃんは、まだ登校して来ないし…。」
ボフリと枕に顔を埋め、声も埋もれて小さくなっていくマロン。

フロア…、今思えば、彼女はそんなに良い性格ではなかった。
マリンとマロンには、いつもアタリがキツかった。
意地悪な事ばかり言われていたのだと、今のマリンならば分かる。
だが、それも仕方のない事だ。
フロアは一番メロウ王子を好いていたのだから…。
王子はそれを分かっているのに、マリンとマロンだけを呼んで毎日のように校長室に入り浸っていた。

そんな意地悪な存在でも、マロンには昔からの顔なじみで一緒に居て安心出来る存在なのだろう…。
Sクラス側にはシータも居るが、シータはクールな性格だから、ほとんど絡む事もない。
マリンの方は、性格の良いミシーユとユラに囲まれ、学園生活に不安はない。

(そっか…、そういう面でもマロンは辛かったよなぁ…。)

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