大きな安らぎを求め

れあちあ

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大きな安らぎを求め

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私が、この決断を下したキッカケに付いて、ここに綴ろうと思う。

この当時、青龍出身である私は、朱雀の諸侯達による定例会に衛兵として潜り込むという所謂スパイ任務をこなしていた。

もう何年も衛兵として潜入しているからか、中級階級の貴族に養子として迎えられ育てられてきた私には似合わない身体や、能力を身につけていたのだが、その期間、国のために得れた情報など微々たるものであった。

これは、王から司令された極秘任務。

元々、私を養子に迎えてくれたオトママィ家は、代々第2王子のお目付けや乳母を担う家柄であった為、この私も今の国王であるオチフラン様と小さい頃からの間柄だ。

そんな彼から受け取った司令はこうであった。

「朱雀に潜入して欲しいんだが、これは青龍の諸侯にも通さずに進めて欲しい。誰にもバレてはいけない。それに…お前には悪いんだが、私の判断で切り上げてもらう事になるから、長い潜入になる可能性もある。」

王の切羽詰まった表情が、やけに自分の恐怖を煽った。

潜入が始まってから、これまで仕入れた情報に大したものは無く、王が何故こんな事を頼んできたのか分からずにいたが、この日私は知ってしまった。

それは、朱雀の諸侯の中でもより力を持った諸侯達で行われた"非公式"の会議での出来事だった。

「諸君、始めたまえ。」

朱雀王の号令で、始まったこの会議は、ある諸侯が発した一言から私を困惑させた。

「このままでは、白虎に先を越されてしまう。」

朱雀は、玄武との戦を休戦中な事以外に目立った争いは起こしていないはずで、勿論青龍とも友好とはいかないが関係を保っているし、白虎のような大国とは争う事など無いと思ったのだが。

「現状を報告したまえ。」

「現在、我々朱雀が行っているメディア進出は大きな成果を発揮し、民衆達の中で朱雀信仰は劇的に進んでいると考えられます。」

初耳だ、国政でメディアを抑えているなんて話、この数年間潜入してきて耳にしたことはなかった。

「このまま進めていけば、玄武との戦いにこれまで以上の戦力を投入する事が出来ると考えていますが、先程言った通り白虎の動きがかなり邪魔になっています。」

おかしな話だ

朱雀は徴兵制だ

いざ戦争がまた始まれば、やろうとさえ思えば国民全員を戦地に送り込むことだって出来るだろうに。

「白虎の進行状況を報告したまえ。」

「白虎は現在、大きく3つのミッションを掲げています。土地買収、議席確保、そして移民。そのどれもが、彼らの目標には達して居ませんが、癒着をどんどん進めているようで、達成するのは時間の問題かと思われます。」

「国王、決断の時ですぞ。金を吸い取るなんて甘い考えのまま動いていれば、いつか先に白虎に取られてしまいます。玄武が軍事侵攻をしないとも限らない。」

「しかしだな、そんな事をすれば途端に我々と白虎との国交に亀裂が入る。」

「殿下、弱気な事を仰らずに。この計画が成功すれば、我々の国土も、国の財源も、国民だって倍どころの話では無い。白虎とも肩を並べられよう。」

どうにも話が読めない。

金を吸い取る?税収を増やそうと考えているのだろうが、何故税収を増やすよりもでかい事をしたら、白虎との関係に亀裂が入るんだ?

そもそも、朱雀はこれまでどこに何をしててこれから何がしたいのか、全く話が読めない。

ただ、これはとんでもない何かを話している事だけは理解ができた。

「何とかして、白虎の動きを妨害することは出来ないのか?それこそ、メディアを使って世論を煽るのは如何か。」

「いえ、今はまだ白虎を刺激する時では無いでしょう。」

「ええい、煩わしい。国王陛下、今すぐ軍事侵攻を行うべきです。あの国に正式な軍隊はもう無い。奴らは平和ボケしているから乗っ取るのなんてわけないですよ。」

1人の気性の荒そうな男が立ち上がりそう言うと、今度は如何にもインテリ風な男が言った。

「ふっ、論ずるに値しないな。」

「貴様は黙っていろ。私は閣下に進言しているのだ。」

「ばら撒かれてるお金や、操られてる島の民を有効的に使うのが得策だ。軍事侵攻?そんな事すればこれまで積み上げてきた者が台無しじゃあないか。」

まだ確信は無いが、段々と話が見えてきた。これはとんでもない出来事だ。

「陛下、私からもひとつ」

白虎の進行状況を応えていた貴族が立ち上がり発言をした。私はここで確信を持った。

「白虎と国土を分け合うというのはどうでしょうか。」

背筋が凍った。

国土を分け合う?操られてる島の民?平和ボケ?今まで話していた内容は、全て青龍についての事だったのかと。

「何をバカな事を言うか。奴らに追いつけ追い越せを前提に話していると言うのに、国土を分け合うだと?それになんの意味があると言う。」

「我々の国が、朱雀と玄武に分かれてから100年以上経ちましたが、最初の頃を思い返して見て欲しい。何故、我々の方が経済的に発展し、玄武は軍事力だけが伸びて行ったかを。」

「それは、奴ら玄武の地域は工業、我々朱雀領は農業が盛んだったから。」

「そうです、青龍は、どの地域でも農業が盛んではありますが、工業に関しては、西地方に行くにつれて発達しております。そちらを得れば、強大な力になる事に変わりはありません。」

参加している諸侯達が、「おぉ」と感嘆の声を漏らした。

冗談では無い、ただの戯言だったとしても、私の愛した青龍という国を取り合う話など聞いては居られない。

「いや、だとしても今動くのは時期尚早だ。いまは、何とかしてメディア進出を進め、奴らの文化を徹底的に破壊することを進めるべき。」

「それについては大方話は進んでいる。まず、彼らの娯楽である芸能に関しては、今ではもう我々朱雀の物と言っても過言では無い。報道に関しても、正直朱雀を上げる報道が流れていない日は無い。それに何より、そんな状況に対して奴ら島の民達は疑問を持つことも無く、喜んで受け入れてる。」

話を聞いていけば行く程、私にも身に覚えがあった。
我々青龍が、象徴君主制になってから、青龍の民たちの中での愛国心なるものはどんどんと薄れていってしまっていた。

話によると、愛国心が薄れ、国教に対する信仰心も失われつつあり、年々陰陽部隊の神力がどんどんと弱まっているとも言う。

「問題は、奴らの政治だな。メディア隊達に、白虎と政治家達の癒着を手加減無く報道するように伝えなさい。我々としては、このまま金の成る木にしとくのが1番楽に利益を上げれるが、白虎や玄武の動きによっては、青龍の完全なる乗っ取りも辞さない。次の会議は1年後だ。散れ。」

独特な合図と共に閉幕したこの会議。
帰国の意を伝えるために王に便りを送ると共に、国に帰り、王にこの事を伝えれば、他の者共に朱雀へ潜入していた事を公にすることになる。

そうなれば、朱雀側に付く売国奴に闇討ちを食らうのは必須だ。

私は、王から言われていた「私の判断」という言葉を既に忘れていた。今思えば、王は今回の事をもう何年も前から分かっていて、それを気づかれる事無く対処するために、私を送り込んだのだろう。

そんな事を考えもせずに、便りを送り、とある国に亡命し潜伏をした私に………

いや、世界中に「オチフラン王崩御」の一報が流れたのは、それからたったの3日後の事だった。




バロン・オトママィ・イハサ【大きな和を求め】<3章 真実>
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