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大嫌い
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この胸をいっぱいにするものは、幸せなのか、苦しさなのか。
1年前、初めて行った時から沢山この道を歩いたからか、コンビニを曲がればもう目の前に出てくる"彼"のアパートを目にしても心が踊ることはない。
いや、寧ろモヤモヤを心音に変えて足取りが重くさせているような気もする。
いつも通りインターフォンを鳴らし、それに応じて彼が出てくれば「いらっしゃい、早かったね。」と、もう扉に背を向けながらいつも通りの言葉を投げかけ、すぐに部屋に戻る。私は「夜ご飯買ってきたよ。」なんて返して、一緒に食べて、ダラダラテレビ見たり他愛も無い会話をしていれば、あっという間に時は流れ、彼にベッドへ誘導されカラダを重ねる。終わったら支度をして、もうとっくに終電も終わっているけど家を出て帰宅する。
なんて事ない私の日常。
だけど、もう終わらせようと思う。
彼がくれる言葉に気持ちは無い。
彼が見つめる視線に私は写っていない。
彼の耳に届く私の声は、私では無い。
最初から分かっていた、分かった上でこの関係に足を踏み入れたはずなのに、もう限界だった。
彼にとって私は"あの子"の代わりで、私の一挙手一投足は、彼の中であの子に変換される。
こんなに辛い事だなんて知らなかった。
彼が私をあの子に変えてかけてくる言葉を、あの子から私に変換する事が出来なかった。
「私って不器用なんだ…。」
とにかく、もう傷つきたくない。
だから彼とお別れする。
簡単なことだ、私から連絡しなければいい。
だって今まで1度も、彼から連絡が来た事なんて無かったから。
そんな事を振り返れば、簡単に彼のことを嫌いになれた。
酷い人、クズだ。私の人生をなんだと思っているのか。
周りの友達たちは自分のことのように怒り、慰めてくれた。
日常に戻り、それなりに仕事をして、それなりに友達と遊んで、何も予定がない日はテキトーに過ごしてれば時間なんてあっという間に過ぎていった。
今日もそんな日常の中の一コマを過ごして1日も終わる頃だったのに、スマホが光り、確認してみれば彼からのメッセージ。
『今日家来れない?』
彼との日常で感じたモヤモヤとは全く違う感情が胸を占めて心音を大きくする。
どうせ気まぐれで送ってきただけだ。今日は相手がいないだけで、誰でもいいんだ。彼は酷い人だから。自分勝手だから。
けど、1年も一緒にいたんだ。付き合ってなくても、都合良く使われてても、1年だ。
ちゃんともう会わないって伝えて、あなたの事はもう嫌いなんだって伝えてお別れしなきゃダメだ。
大丈夫、もう夢も見てない。もう嫌いなんだ。
彼から初めて来たメッセージを握りしめて、家を飛び出した。
経った数ヶ月しか時は流れてないのに、彼の家までの道は懐かしくて、でも懐かしいという気持ちに気づけないくらい必死に歩いた。
インターフォンを鳴らした。
扉の奥から、トン、トンと歩く音が聞こえる。
ガチャっと扉が開き、数ヶ月ぶりの彼が「久しぶり、上がって。」と声をかけてくる。
心臓がうるさい。
言わなきゃ、ちゃんとお分かれを伝えなきゃ。
苦しくない幸せが欲しいから、ちゃんと嫌わなきゃ。
彼と一緒にご飯を食べ、借りてきたDVDを見て、ゴロゴロ過ごして、飽きるほどカラダを重ねたこの部屋で、私は最後の言葉を口にしようとした。
「あのね……わたし…。」
言葉を続けようとした時、話始めようとした時から私の顔をジッと見ていた彼が近づいてきた。
そして、抱きしめられた。
「ねぇ、まって。」
「待たない。」
どうして。
「お願い、離して。」
「離さない。」
なんでよ、今まで1度だって貴方から触れてきた事なんてないのに。ヤリたい時だけくっ付いて来たのに。
「もう辛いから。貴方と一緒に居るの辛いから。お願い、もう離して。」
「嫌だ。」
きっと、私の涙を彼が見たのは初めてだろう。
「誰でもいいクセに、泣いてるから抱きしめなきゃって思ってるだけのクセに。」
「ごめんね」
1度出てしまった涙はもう止まることが無くて、涙と一緒に色々な言葉が口から出てしまう。
「大っ嫌い」 「こんなに好きなのに」 「もう会いたくなかったのに」 「ちゃんと忘れようって思ってたのに」 「お願い、もっと強く抱きしめて」 「泣いてなんかない」 「もう私に構わないで。」 「嫌だったのに、好きになりたくなかったのに。」 「もうやめて、辛くなるから優しくしないで。」
「大好きなの。貴方が思ってるよりずっとずっと好きなの。」
私の言葉に彼は「ごめんね、そんな思いさせちゃって。」と抱きしめながら耳元で囁いた。
仕事が終わり、私は家に帰らずいつも通り彼の家へ向かう。
歩き慣れたこの道を進めばあのコンビニが出てきて、曲がればもうアパートが見えてくる。
この胸をいっぱいにするものは、幸せなのか、苦しさなのか。
おわり
1年前、初めて行った時から沢山この道を歩いたからか、コンビニを曲がればもう目の前に出てくる"彼"のアパートを目にしても心が踊ることはない。
いや、寧ろモヤモヤを心音に変えて足取りが重くさせているような気もする。
いつも通りインターフォンを鳴らし、それに応じて彼が出てくれば「いらっしゃい、早かったね。」と、もう扉に背を向けながらいつも通りの言葉を投げかけ、すぐに部屋に戻る。私は「夜ご飯買ってきたよ。」なんて返して、一緒に食べて、ダラダラテレビ見たり他愛も無い会話をしていれば、あっという間に時は流れ、彼にベッドへ誘導されカラダを重ねる。終わったら支度をして、もうとっくに終電も終わっているけど家を出て帰宅する。
なんて事ない私の日常。
だけど、もう終わらせようと思う。
彼がくれる言葉に気持ちは無い。
彼が見つめる視線に私は写っていない。
彼の耳に届く私の声は、私では無い。
最初から分かっていた、分かった上でこの関係に足を踏み入れたはずなのに、もう限界だった。
彼にとって私は"あの子"の代わりで、私の一挙手一投足は、彼の中であの子に変換される。
こんなに辛い事だなんて知らなかった。
彼が私をあの子に変えてかけてくる言葉を、あの子から私に変換する事が出来なかった。
「私って不器用なんだ…。」
とにかく、もう傷つきたくない。
だから彼とお別れする。
簡単なことだ、私から連絡しなければいい。
だって今まで1度も、彼から連絡が来た事なんて無かったから。
そんな事を振り返れば、簡単に彼のことを嫌いになれた。
酷い人、クズだ。私の人生をなんだと思っているのか。
周りの友達たちは自分のことのように怒り、慰めてくれた。
日常に戻り、それなりに仕事をして、それなりに友達と遊んで、何も予定がない日はテキトーに過ごしてれば時間なんてあっという間に過ぎていった。
今日もそんな日常の中の一コマを過ごして1日も終わる頃だったのに、スマホが光り、確認してみれば彼からのメッセージ。
『今日家来れない?』
彼との日常で感じたモヤモヤとは全く違う感情が胸を占めて心音を大きくする。
どうせ気まぐれで送ってきただけだ。今日は相手がいないだけで、誰でもいいんだ。彼は酷い人だから。自分勝手だから。
けど、1年も一緒にいたんだ。付き合ってなくても、都合良く使われてても、1年だ。
ちゃんともう会わないって伝えて、あなたの事はもう嫌いなんだって伝えてお別れしなきゃダメだ。
大丈夫、もう夢も見てない。もう嫌いなんだ。
彼から初めて来たメッセージを握りしめて、家を飛び出した。
経った数ヶ月しか時は流れてないのに、彼の家までの道は懐かしくて、でも懐かしいという気持ちに気づけないくらい必死に歩いた。
インターフォンを鳴らした。
扉の奥から、トン、トンと歩く音が聞こえる。
ガチャっと扉が開き、数ヶ月ぶりの彼が「久しぶり、上がって。」と声をかけてくる。
心臓がうるさい。
言わなきゃ、ちゃんとお分かれを伝えなきゃ。
苦しくない幸せが欲しいから、ちゃんと嫌わなきゃ。
彼と一緒にご飯を食べ、借りてきたDVDを見て、ゴロゴロ過ごして、飽きるほどカラダを重ねたこの部屋で、私は最後の言葉を口にしようとした。
「あのね……わたし…。」
言葉を続けようとした時、話始めようとした時から私の顔をジッと見ていた彼が近づいてきた。
そして、抱きしめられた。
「ねぇ、まって。」
「待たない。」
どうして。
「お願い、離して。」
「離さない。」
なんでよ、今まで1度だって貴方から触れてきた事なんてないのに。ヤリたい時だけくっ付いて来たのに。
「もう辛いから。貴方と一緒に居るの辛いから。お願い、もう離して。」
「嫌だ。」
きっと、私の涙を彼が見たのは初めてだろう。
「誰でもいいクセに、泣いてるから抱きしめなきゃって思ってるだけのクセに。」
「ごめんね」
1度出てしまった涙はもう止まることが無くて、涙と一緒に色々な言葉が口から出てしまう。
「大っ嫌い」 「こんなに好きなのに」 「もう会いたくなかったのに」 「ちゃんと忘れようって思ってたのに」 「お願い、もっと強く抱きしめて」 「泣いてなんかない」 「もう私に構わないで。」 「嫌だったのに、好きになりたくなかったのに。」 「もうやめて、辛くなるから優しくしないで。」
「大好きなの。貴方が思ってるよりずっとずっと好きなの。」
私の言葉に彼は「ごめんね、そんな思いさせちゃって。」と抱きしめながら耳元で囁いた。
仕事が終わり、私は家に帰らずいつも通り彼の家へ向かう。
歩き慣れたこの道を進めばあのコンビニが出てきて、曲がればもうアパートが見えてくる。
この胸をいっぱいにするものは、幸せなのか、苦しさなのか。
おわり
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