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紫の瞳のアークライト
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歓迎式典後から兄とは会うことはなかった。
ヴィオラは参加していないし情報がないので分からないが、様々な階層、業種の人々を招いたり招かれたりと 様々な式典が続いていたらしく、学園も高位貴族であればあるほど式典やパーティーに参加するために学園への 欠席率は高くなっていた。
ヴィオラには全く関係はなかったけれど。
何度も兄から出席するように誘われたりもしたがドレスもなかったために断ることも簡単だった。
兄の数日の滞在は、その後訪れる国王夫妻のための地ならしのためにものだったようで、数日という短い滞在だったわりには学園内での風の噂を聞くだけでも慌ただしくも華やかな訪問だった。
兄の滞在中、兄の言葉通り侍女とお針子らしき女性が採寸にやってきた。リコリス王女の侍女と違い優しく丁寧な仕事の女性たちで感じが良かった。「素敵なドレスを作らせていただきますね」と言いながら。「一度採寸しておけば次の機会にも使えますから」と嬉しそうにお針子が言っていたが次回はないだろうとヴィオラは微笑みながら聞いていた。
採寸についてきた侍女たちとビオエラはヴィオラに似合う色や似合うドレスの形などを話していて、久しぶりにビオエラも活気ある華やいだ雰囲気になっていた。
兄が帰国した後すぐに、2枚のドレスとドレスに合わせた靴、髪飾り、そしてワンピースなどが届けられた。どれも贅を凝らしたものでヴィオラは見ただけで気後れしてしまった。置く場所も少ないので、ヴィオラの寝室にドレスのセットはギューギューに入れてしまい、人の目には触れないようにした。「寝るだけの部屋だしね」と言いながら。
ドレッサーにはワンピースを入れた。4枚の上品なワンピース。ピンクと紫と青と白。どれも今まで持っていたものと比べようのない上品さだ。刺繍もフリルもふんだんに入っている。着るのがもったいない、とヴィオラは思う。贅沢なので着る機会も少ないだろうと思っている。でも見るだけでワクワクして目が豊かになるように感じるくらいに綺麗だ。
繊細な刺繍や柔らかくて透き通るような生地のフリルも見たこともないもので何度も何度もビオエラと一緒にドレッサーの中を確かめてしまった。
今までドレスやワンピースで心沸き立ったことのなかったヴィオラにとって初めての感覚だった。
「綺麗ね。見ているだけで嬉しくなってくるわ……でも、こんなに贅をこらしたものが2~3日で作れるものなのかしら?」
「無理だと私は思います。既製品を直したとしてももう少し時間はかかります。ただ、このドレスにしてもワンピースにしても既製品ではないです。質が違いますよ。ずいぶん前から準備されていたものと思えますが、クロフト殿下がヴィオラ様のために以前から準備された……されることもあるのでしょうか?」
兄が帰国したという噂がヴィオラの耳に届いたころから、頻繁にアークライト皇太子殿下と出会うようになった。
以前はたまに出会うことがある、くらいだったのが突然1日に一回は出会うようになった。
出会うのはいつも散歩のときなど。
忙しい皇太子殿下がなぜ学園近くを歩いているのか不思議だが、後ろには警護の騎士を連れて。不思議と思いつつ話しかけられて恐れ多いと思いつつ散歩を一緒にさせてもらう。
「こちらには綺麗な花園があるのだよ」
などと言いながら王宮の奥深くにあるバラの花園や王族専用の図書館などに連れて行ってもらったりするのだ。
運がいい、と思いつつ本来なら見られない場所を何か所も案内してもらっている。
普段から「氷の貴公子」と言われている皇太子殿下。紫の瞳から冷え切った鋭い視線が放たれるなど言われているが、ヴィオラと出会うときは政務の時とは全く違う時間だからだろう、春の陽だまりのように温かい視線に変わるのだ。
話せば話すほど優しい穏やかな人、という印象を受ける。
「ヴィオラ王女に先日送ったドレスは気に入ってもらえたかな」
低いバリトンの声が耳に心地いい。ん?
「ドレス? ん……?」
贈られたドレスとは?
頭の片隅にいつも存在しているドレスを思いつく。バンパーに留学してすぐに皇太子殿下からリコリス王女にドレスを贈られた時に「一緒にヴィオラ王女の分も贈っていただいたようですよ」とリコリス王女の侍女からドレスを渡されたことを思い出した。
皇太子殿下は優しすぎてリコリス王女にドレスを送る時に、妹のヴィオラにまでパーティー用のドレスを用意してくれたりもする配慮の塊のような人だ、とその時は感動してしまった。
学園でドレスが必要なパーティーは年に2回ある。ヴィオラは参加するつもりはない。だからドレスは必要としてはいない。
その時、皇太子殿下が用意してくれたドレスはたまたま王妃様が催された貴族の子弟向けパーティーの時に届けられたものだ。
多分婚約者候補である姉のドレスの用意のついでに妹の分まで用意してくれたのだろうけれど、着るのは難しいと思った。紫のグラデーションに紫の刺繍を裾に近づくにつれ豪華に精緻に入れてあるドレスで、髪飾り類も白銀にアメジストとダイヤを配置した豪華なものだった。ドレスも近づけば近づくほど豪華さと華やかさが増すもので。
もらった時にドレスを見てヴィオラは息をのんでしまった。その美しさに。キラキラ輝いていて煌びやかな舞踏会ならば、どんなに素敵だろうと涙が出そうになった。
シャンデリアにドレスの宝石が瞬いてキラキラキラキラ。
何度も何度もキラキラしたドレスを見てため息をついて、そして諦めた。
ビオエラと相談をして、もらったことはありがたかったがドレスを身に着けることは諦めたのだ。まるで皇太子殿下の目の色や髪の色を現したドレスのようだったから。
婚約者候補のリコリス王女がどう思うのだろうか、と。
せっかくの皇太子殿下の優しさと配慮を気分の悪いものに変えてしまうかもしれないから。
ヴィオラは参加していないし情報がないので分からないが、様々な階層、業種の人々を招いたり招かれたりと 様々な式典が続いていたらしく、学園も高位貴族であればあるほど式典やパーティーに参加するために学園への 欠席率は高くなっていた。
ヴィオラには全く関係はなかったけれど。
何度も兄から出席するように誘われたりもしたがドレスもなかったために断ることも簡単だった。
兄の数日の滞在は、その後訪れる国王夫妻のための地ならしのためにものだったようで、数日という短い滞在だったわりには学園内での風の噂を聞くだけでも慌ただしくも華やかな訪問だった。
兄の滞在中、兄の言葉通り侍女とお針子らしき女性が採寸にやってきた。リコリス王女の侍女と違い優しく丁寧な仕事の女性たちで感じが良かった。「素敵なドレスを作らせていただきますね」と言いながら。「一度採寸しておけば次の機会にも使えますから」と嬉しそうにお針子が言っていたが次回はないだろうとヴィオラは微笑みながら聞いていた。
採寸についてきた侍女たちとビオエラはヴィオラに似合う色や似合うドレスの形などを話していて、久しぶりにビオエラも活気ある華やいだ雰囲気になっていた。
兄が帰国した後すぐに、2枚のドレスとドレスに合わせた靴、髪飾り、そしてワンピースなどが届けられた。どれも贅を凝らしたものでヴィオラは見ただけで気後れしてしまった。置く場所も少ないので、ヴィオラの寝室にドレスのセットはギューギューに入れてしまい、人の目には触れないようにした。「寝るだけの部屋だしね」と言いながら。
ドレッサーにはワンピースを入れた。4枚の上品なワンピース。ピンクと紫と青と白。どれも今まで持っていたものと比べようのない上品さだ。刺繍もフリルもふんだんに入っている。着るのがもったいない、とヴィオラは思う。贅沢なので着る機会も少ないだろうと思っている。でも見るだけでワクワクして目が豊かになるように感じるくらいに綺麗だ。
繊細な刺繍や柔らかくて透き通るような生地のフリルも見たこともないもので何度も何度もビオエラと一緒にドレッサーの中を確かめてしまった。
今までドレスやワンピースで心沸き立ったことのなかったヴィオラにとって初めての感覚だった。
「綺麗ね。見ているだけで嬉しくなってくるわ……でも、こんなに贅をこらしたものが2~3日で作れるものなのかしら?」
「無理だと私は思います。既製品を直したとしてももう少し時間はかかります。ただ、このドレスにしてもワンピースにしても既製品ではないです。質が違いますよ。ずいぶん前から準備されていたものと思えますが、クロフト殿下がヴィオラ様のために以前から準備された……されることもあるのでしょうか?」
兄が帰国したという噂がヴィオラの耳に届いたころから、頻繁にアークライト皇太子殿下と出会うようになった。
以前はたまに出会うことがある、くらいだったのが突然1日に一回は出会うようになった。
出会うのはいつも散歩のときなど。
忙しい皇太子殿下がなぜ学園近くを歩いているのか不思議だが、後ろには警護の騎士を連れて。不思議と思いつつ話しかけられて恐れ多いと思いつつ散歩を一緒にさせてもらう。
「こちらには綺麗な花園があるのだよ」
などと言いながら王宮の奥深くにあるバラの花園や王族専用の図書館などに連れて行ってもらったりするのだ。
運がいい、と思いつつ本来なら見られない場所を何か所も案内してもらっている。
普段から「氷の貴公子」と言われている皇太子殿下。紫の瞳から冷え切った鋭い視線が放たれるなど言われているが、ヴィオラと出会うときは政務の時とは全く違う時間だからだろう、春の陽だまりのように温かい視線に変わるのだ。
話せば話すほど優しい穏やかな人、という印象を受ける。
「ヴィオラ王女に先日送ったドレスは気に入ってもらえたかな」
低いバリトンの声が耳に心地いい。ん?
「ドレス? ん……?」
贈られたドレスとは?
頭の片隅にいつも存在しているドレスを思いつく。バンパーに留学してすぐに皇太子殿下からリコリス王女にドレスを贈られた時に「一緒にヴィオラ王女の分も贈っていただいたようですよ」とリコリス王女の侍女からドレスを渡されたことを思い出した。
皇太子殿下は優しすぎてリコリス王女にドレスを送る時に、妹のヴィオラにまでパーティー用のドレスを用意してくれたりもする配慮の塊のような人だ、とその時は感動してしまった。
学園でドレスが必要なパーティーは年に2回ある。ヴィオラは参加するつもりはない。だからドレスは必要としてはいない。
その時、皇太子殿下が用意してくれたドレスはたまたま王妃様が催された貴族の子弟向けパーティーの時に届けられたものだ。
多分婚約者候補である姉のドレスの用意のついでに妹の分まで用意してくれたのだろうけれど、着るのは難しいと思った。紫のグラデーションに紫の刺繍を裾に近づくにつれ豪華に精緻に入れてあるドレスで、髪飾り類も白銀にアメジストとダイヤを配置した豪華なものだった。ドレスも近づけば近づくほど豪華さと華やかさが増すもので。
もらった時にドレスを見てヴィオラは息をのんでしまった。その美しさに。キラキラ輝いていて煌びやかな舞踏会ならば、どんなに素敵だろうと涙が出そうになった。
シャンデリアにドレスの宝石が瞬いてキラキラキラキラ。
何度も何度もキラキラしたドレスを見てため息をついて、そして諦めた。
ビオエラと相談をして、もらったことはありがたかったがドレスを身に着けることは諦めたのだ。まるで皇太子殿下の目の色や髪の色を現したドレスのようだったから。
婚約者候補のリコリス王女がどう思うのだろうか、と。
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