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29.拡張

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「サラサちゃん、“とけい”って何かしら?」
暫く俺達のやり取りをただ眺めていたナターシャさんが突然訪ねた
そういえばこっちは時計って概念は無かったっけ
時間の概念は存在してる
でもその経過を知るのは教会が30分ごとに鳴らす鐘だけで、そこまで時間というものにこだわる人はいない
極端に言えば個人の体内時計だよりって感じかな
あとは動物の動きなんかで判断する
時告げ鳥と言う魔物がいて、そいつが8時に一斉に鳴き出すからそれを目安に動き出す人が多い
俺はそれが不便だから母さんに頼んで腕時計を作ってもらっただけに過ぎない

「時計はこれのこと」
俺は腕から外した時計をナターシャさんに見せた
それを父さんも覗き込んでいる

「この長い針が一周したら1時間、短い針が1周したら12時間、つまり半日なんだ」
「教会の鐘はこの長い針が上に来た時と下に来た時になるのよ」
俺の説明に母さんが補足する

「これはやっぱり…?」
「そ。元の世界のものね。時間の概念は同じみたいだし、時間を見るのが当たり前だった私には時計がないのは不便だったから作ったの。シアも時間が分からないのは不安だって言うしね」
「なるほどな…で、この針の動きで時間を把握するから動きが止まれば時間は経過しないし、動きを遅らせれば時間経過を送らせることが出来るって解釈か?」
流石父さん
たったこれだけでちゃんと理解してる
そしてやっぱり即実践するあたりなんて言うか…

「これは便利だな。時間遅延のイメージなんて出来るもんじゃないと思ってたけど」
「ってことはレイも部屋を区切ったのかしら?」
「当然だろ。そんな便利な方法知ったら分けないはずがない。パネルで見るより把握しやすいしな」
元々魔法のある世界で生きて来た父さんはイメージさえできれば問題ない
操作に慣れてる分操るのも早い
その点俺はどうしても遅くなる
目に見える物が全てだった時間は結構な不自由を生むということにこの世界で生きてる中で気づいた
インベントリをただの空間として当然の様に扱える父さんと比べて、俺はそこに明確なイメージがないと操作が出来なかったのがいい例だ
今回はそれがいい方に出たけど多分損してる部分も多いんだろうとは思う
こればっかりはしかたないけど…

「何というか、教えてやるつもりが教えられた気もしなくもないが…」
父さんは少し複雑そうな顔をする

「そういうのもいいんじゃない?どうせいずれは子供たちに超えて行ってもらわないといけないんだから」
「それはそうだがな…」
超えてって…母さんを超えるのも父さんを超えるのも並大抵の事じゃないと思うけど…
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