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閑話4 産まれた(side:レイ)

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朝から家の中がバタバタしていた
「アラン!お医者様呼んで来て」
「任せとけ」
メリッサの言葉にアランは飛び出していった
サラサが産気づいたのはみんなが起き出して少しした頃だった
朝食を作ってる最中にいきなり蹲ったサラサを抱き上げ寝室に運んで今に至る

「レイ…」
「大丈夫だ。ここにいる」
伸ばされた手をしっかり握って、空いた手でサラサの頬に触れる
感じる愛おしさは薄れるどころか大きくなるばかりだ

「早く会いたい」
「そうだな。シアたちがいないのは残念だが…」
「大丈夫。あの子たちは離れた場所にいてもちゃんと祝ってくれるわ」
優しい笑みを浮かべるサラサに頷いて返す

「男の子と女の子、どっちだと思う?」
「さぁな。元気に生まれて来てくれれば性別なんてどっちでもいいさ」
サラサの元いた世界では出産はそれほど危険なものではなかったという
でもこの世界は違う
妊娠しても無事に出産できるのはその半数ほどで、五体満足で生まれるのはその6割くらいだ
生れてもその半数のうち3割ほどが親を亡くし孤児になる
現にサラサも4年前に流産してるし、アランのところの3人目は死産だった
アランの一番下の弟は片腕が無いまま生まれた
だからこそ生まれてきた子供は大切にされる
勿論バルドのようにそうでない子供がいるのも事実だが…

たとえ五体満足でなくてもいい
生れて、育ってくれればそれだけで十分だ
そう思いながらサラサの腹に触れる
「ちゃんと生まれて来い。その後のことは心配しなくていいから」
「ふふ…そうね。きっとみんなが愛してくれるわ」
子を産むことを怖れていたサラサも、自分の血を引く子を残すことを怖れていた俺も、もうここにはいない
大切な人を、大切なモノを増やすことを怖れることもない
そう思えるようになったのはシアが生まれてからだったが…

「産まれた!」
陣痛が始まって部屋を追い出されてから1時間
ナターシャの言葉と子の泣き声が響いた
リビングで待機していた俺達は寝室に駆け込んだ

「サラサ」
「女の子よ。でも…」
「でも?」
「左目に光が無いの」
心臓が脈打った

「それは…」
「ひょっとしたら見えないかもしれないって」
「おそらくですが…」
サラサに視線を向けられた医者が頷いた

「そうか。でも他は問題ないんだろう?」
「それ以外は何の問題もございません。健康な赤子ですよ」
「なら充分だ。目の事はゆっくり考えればいい。もしこのまま見えないとしても、愛さない理由にはならないからな」
その言うとサラサの強張っていた表情が緩んだ
これは前世の記憶が関係してるんだろう

「ありがとな。サラサ」
サラサに口づけ、赤子を抱き上げる

「シエラ、これから元気に育てよ」
「もう名前を決めてたのか?」
カルムが呆れたように言う

「ああ、男ならカイン、女ならシエラと決めてた」
皆からも歓迎されたシエラの事をシアたちに知らせるとその日の夜に3人と1匹の寄せ書きが届いた

目が見えなくても大事な妹には変わりない
家に帰って会うのを楽しみにしてる

当たり前のように書かれたその言葉にサラサも嬉しそうに笑う
守るべき者が増えた分、守れるだけの力を身に着けておかないとな
産まれて来てくれた6人目の我が子を抱きしめながら改めてそう思った
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