恋愛短編集

真那月 凜

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広い世界の一つの出会い

後編

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次の日から彼は学校に来ても誰とも挨拶をしなくなった
それは彼女の中にあった『彼がBlackである』という考えに確信を持たせた
授業中はひたすら外を眺め休み時間になると教室を出て行く
声を掛けてもまるで聞こえていないかのように通り過ぎていく

そんなことが1週間続いたころ彼女は耐えられなくなった
昼休み彼の後を追うように屋上に出た
彼は一瞬彼女を見たものの何事も無かったかのように寝転がる
彼女は彼の横を通り過ぎフェンス脇のベンチに座る
彼は自分を追ってきたのではないと確認するなり目を閉じた

その時かすかにメロディーが聞こえてきた
誰よりもよく知っているメロディー
空を見上げてそれを口ずさむ彼女を訝しげに見る

暫く歌っていた彼女は突然彼を見た
『どうして不可能だなんて思うの?』

その言葉の意味が分からず首を傾げる
『弱音くらい誰だって吐くよ?』

その言葉に彼は信じられないという目を向けた
チャットで話していた相手が目の前に居る
しかも自分が相手であると確信を持って話しかけてくる
世界中のネットワークに繋がってどこの誰かも分からないはずの相手なのにである

『あなたの言葉半分は当たってる』
その言葉に思わず彼女をにらみつけた

でも彼女は続けた
『あなたが誰か分かってしまったから・・・
あそこで、チャットの画面の中で話すのは嫌になったの。
だってこうして直接話せるんだもの・・・』
そう言って微笑んだ彼女に彼は言葉を失う

『私が一番見たかったのはあなたの笑顔だから』
そんな彼女に彼はどこか心が軽くなった気がした

『答え・・・』
『え?』
彼は彼女を見る
『答え聞かせて欲しいな』
『答え?・・・あ・・・』
少し考えて彼女がチャットで投げかけてきた問いを思い出す

そしてこれまでのことを思い返した
不良というレッテルを貼られて皆に遠巻きにされるようになっても
それまでと変わらず自分に声をかけてくれたのは他でもない彼女だった

チャットでどこの誰かも分からない自分の事を
ずっと励ましてくれた彼女に全てを打ち明けてからも彼女は何も変わらなかった

愚痴を言い合ったり相談したりされたりもした

肝心な事は何も言わなかったのに
まるでずっと前から知っている友人のようにさえ感じていた

一般人としての自分も
芸能人としての自分も見つけ出してくれた彼女に
断る言葉など出てくるはずも無かった

『・・・ずっと俺の傍にいてくれるか?』
彼は逆に尋ねた

『え・・・?』
『チャットで話しながら惹かれていくのが分かった。
でなきゃ仕事のことなんて話さなかった』

『・・・』
『俺を必要としてくれるなら傍にいて欲しい。
普通の恋人みたいな事はしてやれないけど・・・』
彼は照れくさそうにそう言った

『うれしぃ・・・』
彼女の顔が明るく輝く
それに引き込まれるように彼も笑顔になる

『私その笑顔に恋したの!』
彼の笑顔を見て彼女はそう言った



最初はネットの世界で掃いて捨てる程ある出会いの1つだった
でもそれは彼らにとって何よりも大きな出会いになった
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