恋愛短編集

真那月 凜

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ただ真っ直ぐに君の元へ・・・

3 守られなかった約束

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玲衣はいつもと違う人間の声に振り向いた
「・・・誰?」

予想は出来ていた
どこかで覚悟もしていた
でもいざ玲衣の口からその言葉を耳にしたとたん足がすくんだ

「玲・・・衣・・・?」
李砂は足の力が抜けるのが分かった
そして同時に意識が遠のいていった
「おい?」
玲衣は突然倒れた李砂を抱き上げるとベッドに寝かせた

「嵐」
ドアの外に向かって声をかけると嵐はすぐに入ってきた
「どうした?」
「この女が突然倒れた」
他人事のようにあっさり言う玲衣に嵐は耳を疑った

「・・・何か言ったのか?」
「別に。突然名前を呼ばれたから誰か聞いただけだ」
その言葉を聞いた瞬間嵐は玲衣を殴っていた

「・・・何?」
多少の不快は表したものの怒るでも攻めるでもなく玲衣は立っていた
口の端が切れたのか少し血が滲んでいるのがわかる

「本当にわかんねぇのかよ?」
「?」
「こいつは・・・李砂はお前の恋人だろ?!」
嵐は掴みかかるように言う
「誰よりも大事だって、この先ずっと李砂と一緒にいるって
 いつも嬉しそうに話してたじゃねぇか・・・!」

嵐の言葉に玲衣は横たわる李砂を見た
意識を失っているにもかかわらず涙だけが流れていた
玲衣はその涙をそっとぬぐうとじっと李砂を見ていた

「おい?」
「・・・わからない」
「玲衣・・・!頼むから・・・頼むから李砂だけでも思い出してくれ・・・!」
嵐の悲痛な言葉にも玲衣は何の反応も示さなかった

「嵐の言う通りこの女が俺の大切な人間だとしたら
 どうして今までココにこなかったんだ?」
「・・・」
「嵐?」
「・・・李砂はお前に裏切られたと思ってたんだよ」
「俺が裏切った?」
玲衣は首を傾げる

「1年前・・・お前らは何かの約束をしてた
 その約束に間に合うようにお前も家を出たけど
 李砂の待っている場所に行く事は無かった」
「・・・事故か?」
「あぁ。俺は李砂に連絡しようとしたけど
 お前の携帯は粉々で連絡先が分からないままだった
 それに約束自体どんな約束か俺たちには分からなかった」
嵐はそう言って李砂を見た

「その約束が旅行だと分かったのは3ヵ月後だ
 この部屋を掃除しようとして旅行の資料を見つけた
 色々確認しまわって連れにも聞きまわって
 何とか李砂に連絡取ろうとしたけど既に引越した後だった」
「・・・」
「それでも李砂はお前を思い続けてた。なのにお前はかけらも・・・!」
嵐は玲衣の胸倉を掴む

「・・・殴りたきゃ殴れ。それでお前の気が済むなら好きにすればいい」

「・・・!」
玲衣の感情の無い声に、突き放したような言葉に嵐は憎悪すら感じた
でもそれが玲衣のせいでない事も痛いほど分かっていた
嵐は壁を殴りつけて部屋を飛び出して行った

取り残された玲衣は李砂の横たわるベッドに腰掛けた
「・・・俺が・・・大切にしていた人間・・・」
自分なりに過去を取り戻したい気持ちはあった
でもどれだけ思い出そうとしても空白の時間は埋まる気配がない
救いだったのは仕事に支障がなかったことだけだった

「俺は・・・どんな約束をしてたんだ?」
玲衣は呟きながら李砂の頬に触れた
「・・・ん・・・玲衣・・・・」
突如触れた温もりに反応するかのように李砂は呟いた
その表情は安心しきったものへと変わる
「意識がなくても分かるほど・・・強い思いだったのか?」
玲衣は自分で言いながら胸が締め付けられるような思いがした
李砂の顔をただ見つめながら気がつくのを待った

「・・・」
「気が・・・付いたか?」
ふと掛けられた声に李砂の目は玲衣を捉えた
「玲衣・・・!」
思考よりも先に体が動く
1年間会いたいと願い続けていた玲衣が目の前にいた

「会いたかった・・・!」
首に手を回し肩に顔を埋める様にして泣き出した李砂に玲衣は何も言えずにいた
「あ・・・」
無反応な玲衣に李砂は思い出す

「ごめんなさい・・・私のこと分からないんだよね・・・」
慌てて身を離しそう言った
「悪い」
「・・・あなたのせいじゃ・・・無いでしょ?」
李砂はそう言って微笑んだ
でも声の震えは隠せない

「私は玲衣が・・・
 あなたが裏切ったんじゃ無かったって分かっただけで充分だよ・・・
 こうして生きててくれただけで・・・」

微笑み続けながらそう言った李砂を玲衣は思わず抱きしめた
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