恋愛短編集

真那月 凜

文字の大きさ
24 / 28
最後の願い

第4話

しおりを挟む
「…主治医?」
彗耶の目が渡辺先生に釘付けになる

「まぁ、とりあえず中に」
先生はソファーに座るように進めるとコーヒーを出してくれた

「あの、主治医ってどういうことですか?」
彗耶は少し興奮していた

「落ち着きなさい。今日はそれを全て話すために私が君を待っていたんだから」
先生はそういうとコーヒーを一口飲んだ

「私が始めて亜紗美ちゃんと会ったのはもう20年も前になる」
先生は静かに言った

「担当直入言おう。彼女は心臓が悪い」
「え…?」
彗耶が私の方を見た

「この部屋に来るまでに沢山の患者さんと話をしていなかったかな?」
「あぁ。はい」
「彼女はもう20年ここに通っている。そのうち何年かは入院もしていた。
 本当なら今も入院しているべきなんだが…」
「そんなに悪いんですか?」
「悪いも何も…」
先生は言葉を濁した

「彗耶。20年前…私が生まれたときに宣言された命の期限は18歳まで生きられるかどうかだったの」
「え…?」
「もう2年過ぎてる。だから私はいつ死んでしまってもおかしくないのよ」
私は目をそらした

「うそ…だろ?」
「だといいんだけどね。…高2の時彗耶と出会って好きになるのに時間なんて要らなかった。
 でもそのときですでに私に残された時間はどれだけ長く見積もってもたった1年もなかった」
私は話し続けた

「彗耶の気持ちも気づいてた。だけどこんな私が付き合えるはず無いからごまかしてきた」
「…」
「最初は離れちゃえば…って思ってたの。
 でも彗耶を好きなことが私の生きてきた中で一番大きな意味を持ってたから
 せめてそばにいたいって思って同じ大学を受けたの」
私は話しながら自分の声が震えているのがわかった

「昨日すごく嬉しかった。だけど…」
「勝手に結論出すなよ」
「え…?」
彗耶の言葉に驚いたのは私だけじゃない

「人間なんていつか死ぬもんだろ?
 俺はどこも悪くないけどもしかしたら明日事故で死ぬかもしれない。
 そんなこと考えてたら何も出来ないだろ」
「彗耶?」
「命の期限が過ぎてたって現にお前はここにいるだろ。
 たとえ後数日の命だったとしても俺はお前といたい」
彗耶は私の目を見て言った

その言葉に同情や嘘は無かった

「彗耶…」
「入院しなきゃいけないのに俺のせいで学校来るくらいなら俺のそばにいろよ。
 入院したら少しでもよくなるんなら毎日病院に来るから無理だけはしないでくれ」
「彗…」
私は涙をこらえきれなくなった

病気のことを言えばみんな離れていくと思っていた
だからこそ彗耶にはずっとごまかしてきたのだ
なのに当の彗耶はそばにいろと言ってくれる
そんなことを言われたらもう私は気持ちを抑えることが出来なかった

「先生私…生きたいよ。彗耶とずっと生きたい…」
思わずもらしていた

「…一つだけ可能性があるんだ」
「え?」
先生の言葉に私と彗耶は顔を見合わせた

「成功する確率は15%だけど今の亜紗美ちゃんなら大丈夫かもしれない」
「今の私?」
「あぁ。生きたいという意志が強い今の亜紗美ちゃんならね」
先生は言う

「手術は技術だけじゃない。患者の生きる意志の強さも必要なんだ」
「成功率15%…でもいつ死んでもおかしくないなら…」

私はその15%にかけてみたいと思った
もうすでに期限が過ぎている今の状態でいるよりはよっぽど生きる可能性があるように思えたのだ

「どうしたらその手術受けれるの?」
「少し時間がかかるよ。日本では無理なんだ」
「じゃぁどこで?」
「カナダだ。そうすれば彼とも離れなきゃいけないだろ?それでも君は生きる望みを…?」
「カナダのどこですか?」
そう尋ねたのは彗耶だった

「Vancouverだよ」
先生の言葉に彗耶の表情が和らいだ

「だったらなおさらだ亜紗美。一緒に行こう」
「彗耶君?」
おどろいたのは先生だ

「俺、この春からCoquitlamに住むんですよ」
「本当に?」
「はい」
彗耶は大きくうなづいた

「そういうことなら出来るだけ早く準備を進めよう。それでいいのかな?」

「…お願いします」
私は頭を下げた

信じられない展開だった
まだ私に望みがあるのだから
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

その愛は

芙月みひろ
恋愛
ニセモノの愛だってかまわない

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...