[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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12.不穏な動き

3

「ばか…みたい…」
「サラサ…」
トータさんは何も言わなかった
おそらくこの場で言える言葉など持ち合わせていないだろう

「トータさんも知ってるんだね…」
「…」
黙っているのが答えだと嫌でもわかる
オルドさんの反応を考えれば町の人もかなり見かけているのかもしれない
適当に流していた労わる様な、憐れむ様な沢山の視線を思い出す
あれは全てレイの横を嬉しそうに歩いていた私に向けられていたものなのだろう

そこまで考えて自覚する
4日前、私は望んだとおり記憶を消せたらしい
改めてステータスを確認すれば『忘却』が追加されていた

そのことに気付かずに、今日までレイとはこれまでと変わらぬ日々を過ごしていると思い込んでいた
でもそこにレイの心はなかったのかもしれない
そう思った瞬間全身を寒気が襲う

自分の周りにあったはずのものが全て音を立てて崩れていくような感じがした
でもなぜか、レイの何かを訴えるような目だけが脳裏に焼き付いていた
それが自分の中のわずかな希望によるものなのか、本当にレイが何かを訴えようとしていたのかはわからない

痛みが和らいできたタイミングでトータさんから離れ立ち上がる
「今の事…みんなには言わないで」
「けど…」
「お願い。言ったらレイは…」
トータさんの手を掴んで頼み込む
これはカルムさんが最も嫌う状況だ
カルムさんが知ってしまえばレイとの関係がどうなるかわからない
大切な仲間である弾丸と、親友だというカルムさんをレイから奪うことなどできない

「カルムさんは私の事も大事にしてくれてる。だから…」
「…わかった」
トータさんは私の恐れていることを察したらしく同意してくれた

「お前ちゃんと帰れるのか?」
「大丈夫。トータさんは依頼に…」
何とか笑みを作って返す

「…もし帰りたくなければメリッサを頼るといい。理由なんてなんとでもなるだろ?」
「そ…だね。ありがと」
今はその優しさが痛い

「じゃぁ俺は忘れもんだけ取って戻るから…」
「うん。気をつけて」
「ああ…」
トータさんは何度も振り返りながら去っていった

トータさんと別れてから町を出て一人で歩いていた
でも家に帰っていいのだろうか

「ど…しよ…」
そばにあった木にもたれかかりしゃがみ込む
疑い様のない状況だった
現に町の人はそう思っているようだった

でも最後のレイの目が頭から離れない
あの時確かに、レイは気づいた瞬間こっちに向かおうとしていた

「…信じたいよ…」
歩く気力もなくなった私は家に転移した
恐れを感じながら、それでも信じたくて、ソファの上で膝を抱えたまま顔を埋める
長い時間考えることを放棄してただそうしていた

「サラサ!」
夕方になってレイが家に飛び込んできた

「体は?大丈夫なのか?」
私の前にしゃがみ込み真っ先にそう尋ねてきた
心配そうな目に迷いはなくレイが裏切っているとは思えなかった

「…大丈夫…説明…してくれる?」
少しほっとしたようなレイの顔がそこにあった
疑われることを恐れていたのだとわかる

「あれはギルドマスターからの依頼だったんだ。もちろん相手も一緒に依頼を受けた冒険者で特別な関係はない」

レイは初めから話し始めた
発端は連れ込み宿で毎日ではないが、昼間に通う客たちが殺されるという事件が続いたことだった
殺されるのは決まって3回目
そして男側にはみな、宿に連れこむ女性とは別の決まった女性がいた
男たちの情報が把握されていることから、町中でも何かを探られている可能性が高いため、ギルドマスターはレイを選んだ
私との関係は町中のかなりの人が知っているからだ
相手の女性は最近王都に来たAランクの冒険者で彼女を知る者が限られていて都合がよかったため選ばれたらしい

「…解決は…したの?」
一通り聞いてから私は尋ねた

「ああ。旦那に浮気された貴族の女が犯人だった。かなり剣の腕があったから普通の奴なら簡単にやられたのも無理はない。今回の事情はギルドから周りの人間にも説明される」
「…そっか…」
「信じてくれてありがとな」
レイが私の頬に触れる
暖かいと、ただそう思った

「…最初は疑ってたんだと思う」
「…思う?」
「4日前に見かけて…信じたくなくて…記憶を消してたみたい」
「…!」
振れているレイの手がかすかに震え出す

「今日見たショックで思い出したの…でもあの時のレイの目は信じてくれって訴えてるみたいだった」
そう言って私はレイの目をまっすぐ見た

「だから…信じたいって思ったの」
「不安にさせて悪かった」
レイはそう言って私の手を引き抱き寄せた

「もう我慢しなくていい」
その言葉に涙があふれる

「…レイがそばにいるって感じさせて」
何も言わずにしっかりと抱きしめてくれる
まっすぐ自分に向けられるレイの全てが不安を少しずつ消していく
優しいぬくもりに包まれたまま私は意識を手放した
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