ファンタジー短編集

真那月 凜

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前世からの約束

第4話 信じられない光景

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玲衣が何とか冴那弥を押さえているところに斗希と実津杞も駆け寄ってきた

「冴那弥!」
何とか腕から逃れようとする冴那弥を玲衣は強く抱きしめた

「・・・」
「頼むから落ち着いてくれ冴那弥」」
「・・・玲衣?」
突然冴那弥の抵抗がなくなった

「よかった冴那弥・・・」
実津杞がほっとしたようにほほ笑んだ

「一体・・・?」
「あんたあの人たちみたいに大木に向かって行こうとしてたのよ」
「何か心当たりでもあんのか?」

「心当たり・・・?」
斗希の言葉に記憶をたどるが何もない

「ただ・・・『早くここへ』ってずっと呼ばれて・・・た・・・?」
それすら確信がもてないようだ

「ねぇ、あれ・・・やばくない?」
実津杞が大木の方を指さして顔をひきつらせた

大木の前で10人近くの者が跪いている
片膝をつき大木に向かって敬意を払う
どう考えても普通の行動とは思えない

「何か言ってる?」
斗希が玲衣の背中に手を添えながら言った
その手からうっすらと光が出ていた

斗希の力
それは触れた相手の病気やけがを治せるもの

ファンタジーの世界では魔法で治すなどごく普通にある力
でも現代の斗希達の住む世界では未知の力でしかない

好意で治療しても気味悪がられ
頼まれて断ると逆切れされる
力につられて近寄ってきたのはネタにしようとしたマスコミと、利用しようとした権力者のみ
いつからか斗希はこの力を仲間の3人にしか使わなくなり、それ以外の人間には隠すようになっていた

「サンキュー斗希。もう大丈夫だ」
心配そうにそばで見ていた冴那弥に微笑んでから玲衣は立ち上がる

「何を言ってるのか気になるからそばに行ってみよう」
「ああ。このままじゃ状況が分からないもんな」
玲衣と斗希の後を実津杞と冴那弥がついていく

「どうかお許しを・・・」
「あの時代の事はもう・・・」
「何とか命だけは・・・」
そばに寄って聞こえたのはそんな言葉だった

「あの時代?」
「命だけは・・・?」
聞き捨てならない言葉がやけに耳に残る
それは4人共同じようだった

『生きたい。そう思っていた我らを切り捨てたのは他でもなそなた達だ』

「「「「え・・・?」」」」
突然聞こえてきた声に4人は顔を見合わせる

『我らはそなた達の愚行によって海の藻屑となった』

「分かっています。全て私たちが悪かったのです」
「でも、あの時はそれが正しいと思っていた」
「他に方法を見つけることができなかったのです」

跪く人たちと大木の会話だった

「一体何がどうなって・・・?」
実津杞は気味悪さに後ずさる

『我らの心は決まっている』

「神木様!」
「どうかお助け下さい・・・どうか・・・!」

彼らは大木に向かって『神木様』と呼びかける

「神木って・・・何の冗談?」
「あの人たちが神を信じるとか…・どう考えてもあり得ないんだけど?」
「そうだな。それに会話の内容が変だ。まるで遠い過去の事を話してるみたいだ」
「・・・でも1人や2人じゃないんだよ?それが同時に遠い過去の話しなんてする?」
4人は首をかしげながら、それでも立ち去ることも出来ずに見守っていた

『これを見ても同じことが言えるのか?』

大木がそう発した直後空中に10人弱の子供の姿が浮かんだ
「真弓!明彦!・・・直哉まで・・・」
「美紀?どうしてお前がここに?」
「助けてお父さん・・・気づいたらここに・・・怖いよ・・・助けて・・・!」
「パパ、ママ・・・!助けて!」
大人たちの声も子供たちの声も入り乱れて誰が何を言っているのかわからくなりそうな混乱が生じていた
それでも今目の前で宙に浮かんでいる子供たちが大木の前で跪く彼らの子供たちなのであろことだけは分かる

「どうして子供たちを・・・!?」

『どうして・・・?』

大木のその言葉と共に強い風が吹いた
その途端子供たちの悲鳴が響き渡る
大人たちの目の前で刃となった風に子供の体が傷つけられていた

「やめてくれ!この子たちには何の罪もない・・・!」
「頼むから子供を傷つけないで・・・」

『我らの子供たちはあの日無残に焼き殺された。あの子たちに罪はあったのか?』

「それは・・・!」
答えられるはずがなかった
そもそも罪などなかった
でも無いといえば今目の前で子供たちを傷つけるのをやめる理由はなくなる

『何度生を繰り返しても自分本位な生き方は変わらぬということか』

その声には諦めが滲んでいるように感じた

『ならばその輪廻を断ち切るまでの事』

次の瞬間大人たちが立ち上がり大木に向かって再び足を進めだす
「何だ・・・?やめてくれ・・・!」
「いやだ!これ以上進んだら・・・」
「イヤ・・・お願いだから・・・」

その言葉の意味が分からず4人はただ立ち尽くす
そして次の瞬間絶句した
「「「「!!」」」」

4人の目の前で彼らは悲鳴を上げながら崖から落ちていったのだ
とっさに崖に駆け寄って下を覗き込む
でもそこには真っ白な砂浜が広がっているだけだった

「一体何が?あの人たちはどこに・・・」
「それに浮いてた子供たちもいないわ」
信じられないことが立て続けに起こったことだけは分かる

そんな4人の周りにはただ美しい景色が広がっているだけだった
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