【完結】僕は番を探してる。〜放浪妊夫は愛に惑う〜

愛早さくら

文字の大きさ
17 / 58

17・大領主邸

しおりを挟む

 フォルが告げる通り、目的地とされていた大領主邸とやらにはすぐに着いた。
 とは言え数刻ばかりは見慣れない景色に心を奪われ続けていたとは思うが、それは決して飽きるようなものではなく。
 少なくともあのまま砂漠を進んでいては、到底かなわなかっただろう短い時間であったことは間違いない。
 加えてどのような仕掛けであったのか、暑いだとか寒いだとか感じることもなく、僕はただ見惚れるような美しさを堪能しながら過ごすことが出来たのだった。
 多分僕を包み込むようなにおいに、いつの間にか心を解されていたというのもあるとは思う。

「着いたぞ」

 そう聞かされると同時にぐんぐんと地面が近づいてきたかと思うと、ほんの瞬きする瞬間に、僕はいつの間にか少年の腕の中、抱えられるようにして地面に降り立っていたようなのだった。
 否、足がついたわけではないので、降り立ったとは言わないのだろうか。わからない。
 ただ。

「え? あ? あの……」

 明らかに僕よりも小柄な、見目麗しい少年に抱えられている。
 それをいったいどうとらえればいいのか戸惑った。
 ひとまず、まさかこのままは流石に抵抗を覚えないはずもなくて。

「うん? どうした?」
「いや、あの、その……お、ろして、頂ければ……」

 僕の戸惑いなどまるで何もわからないというようににっこり微笑んで首を傾げられたけれど、なんとか小さくそう返す。
 そうしたらフォルは、見た目にそぐわない堂々とした雰囲気で、ははと快活に笑って。

「いや、このまま運ぼう。長旅で貴方も疲れているはずだ。無理はしない方がいい」

 どうやら降ろしてくれる気がないらしいと悟って、僕はしんなりと眉根を下げることしかできなかった。
 そのまま、フォルは迷いない足取りでどんどんと先へと進んでいく。
 降り立ったのはおそらく、大領主邸だと思われる大きな建物の、中庭のようになっている所であったようで、周囲を見渡すと、どこもかしこもに微か、建物の屋根らしきものが見えた。
 もっともそれなりに背の高い樹々が植えられているので、はっきりと建物に囲まれている、とまでは感じないのだけれど。
 フォルが向かっているのはそんな建物らしきものの内の一つ。
 時折行き会った使用人らしき者たちが皆、フォルに気付くと首を垂れて脇に避け、道を空けていく。
 フォルは彼らにほとんど構わずにどんどんと建物へ近づいたかと思うと、廊下のような所から足を踏み入れ、更に奥へと進んでいった。
 どこに向かっているのだろう。
 全くわからず、僕はただ成すがまま。

「着いたぞ、神人殿」

 そう言ってフォルが僕を連れて入ったのは、何とも開放的な、陽の光がふんだんに取り入れられた、呆れるほど非常に広々とした、何処もかしこも華美ではなくとも質のいいもので取り囲まれているらしい、居心地の良さそうな部屋の一つなのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ
BL
この世界の最強種である【バイパー】の青年ファイは、番から逃げるために自らに封印魔術を施した。 時は流れ、生きているうちに封印が解けたことを知ったファイは愕然とする間もなく番の存在に気が付くのだ。番を守るためにファイがとった行動は「どうか、貴方様の僕にしてください。ご主人様!!」という、とんでもないものだったが、何故かファイは僕として受け入れられてしまう。更には、番であるクロスにキスやそれ以上を求められてしまって? ※独自バース設定あり 全17話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

処理中です...