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1・戸惑い
しおりを挟む「えと、えと、あの、ちょっと待って頂けませんか?」
俺は正直戸惑っていた。
状況にちっともついていけなくて。
でも目の前……否、俺を押し倒した美丈夫は俺の上でにっこりと笑うだけ。
「何を待てと言うのです? 先程ご説明させて頂いたではありませんか。これは必要な行為なのです、と」
澄んだ青色の目は、今ばかりはギラギラと輝いて、まるで獲物を前にした獣のよう。
俺はそんな眼差しにおびえながら、必死になって口を開いた。
「それは確かに聞きました! 聞きました、けど、だからと言って何もこんな、急に……」
確かに先程、聞いた。
今の自分の状況と、今後必要となってくる行為については。
だからと言って、では、はい、すぐに、なんて。まさかそんなこと思うはずがないじゃないか。
「レシア様」
名を……否、名だと教えられたそれで呼びかけられて俺は思わずびくりと肩を竦ませる。
声に叱責の気配が混じっていたからだった。
今のこの状況が、すでに充分恐ろしいのに、その上、叱られでもしたら。
「あまり聞き分けのないことをおっしゃらないでください」
だが、次いでかけられたのは宥めるようなそれで。思わずいつの間にかぎゅっと瞑ってしまっていた目蓋を押し開いて、そろそろと男を見上げた。
情けない顔で俺を見下ろす男は、しかし俺を逃がすつもりなど欠片もなさそうな様子で、俺の上からは退いていない。
俺の意見など、何も通らないのだと絶望的な気分になった。
青くなる俺を、男は慈しみをこめて見つめてくる。
「えっと、あの、でも、」
「レシア様」
戸惑う俺の言葉は、もう一度。ぴしゃりと呼ばれた名によって遮られ、男は次いで鮮やかに笑った。
「私の名前はグローディです。先程お教えしたでしょう? 貴方の伴侶なのだと。だからこの行為にも、何の問題もありません」
ああ、そうだ、聞いた。聞いたとも。
今からほんの数時間前。はたと俺が気付いた時、横に座ていたこの男が、俺の伴侶なのだと。
俺のこの、膨らんだ腹には今、この男の子供がいて、子供の養分として、この男の精と魔力を俺の中へと注がなければならないのだと。
そんな、わけのわからない説明を先程、受けた。
そうであるならば俺だって、いつかは、とは思っていた。かといって、こんなにすぐだなんて思わないじゃないか。
だってさっきの今だ。
出会ってまだ、数時間。
俺にとっては初対面にも等しい相手。どうしてこんな行為を許容できるというのだろう。
俺は怯えながら男を見上げた。
とんでもない美貌の男は。ギラついた目を隠さないまま。やはりにっこりと笑んでいた。
ああ。この男はきっと、逃がしてくれないのだろう。
俺に、逃げるすべなどなさそうだった。
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